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環境特別委員会

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1992/04/22

 

国務大臣(中村正三郎君) よろしくお願いします。
 今の御質問でありますけれども、裁判所が水俣病問題の早期解決に向けて国には解決責任があるとし、あるいは政治的責任があるとしているわけでありますけれども、また一方、発生及び拡大に関しては賠償の責任はない、こうしているわけでありますのでありますから、損害賠償責任とは異なって、国、県がそれぞれの立場で本件の解決のための最大限の努力をする責務があるという趣旨に解しております。
 環境庁といたしましては、その判決の趣旨に従って、総合対策というようなことも四年度から始めさせていただくということで、適切な行政施策の推進に努力することによってその責務を果たしていく、こういうふうに受けとめさせていただいているわけであります。
久保田真苗君
 厚生省に伺いたいんですが、新三種混合ワクチンの被害認定。
 新聞報道ですけれども、これによりますと公衆衛生審議会予防接種健康被害認定部会が、MMR、つまり新三種混合ワクチンの接種から子供が十八日後に発熱とけいれん症状を起こして意識不明となり入院。脳に節ができるらい症候群と診断されて四十八日後に死亡した。この例について、この部会はMMRとの因果関係ははっきりしないが全く関係がないとの証明もできないため、幅広
く救済するとの建前から認定することに決めたというふうに報ぜられています。
 私、実はこれを少し調べたいと思って資料をお願いしたんですけれども、個人情報だからお出しできないと言われました。それで、この部会決定の概略、特にMMRと死亡との因果関係、それをどう取り扱ったかということについて御説明をお願いします。
説明員(堺宣道君)
 MMR死亡事故の認定ということに関しまして、因果関係に至る事実関係ということでございます。
 三月二十五日に開催された公衆衛生審議会の予防接種健康被害認定部会におきまして、平成三年三月に、麻疹・おたふく風邪・風疹混合ワクチン、MMRワクチンの予防接種を受けて、その副反応によって死亡した事例が予防接種の健康被害として認定されたわけでございます。予防接種を受けた者の中には、医師などに過失がない場合においても、極めてまれではございますが不可避的に重篤な副反応が見られます。死亡等の重大な健康被害を生ずる場合がございます。このような予防接種による健康被害を受けた者に対しまして、国家補償的精神に基づきまして救済を行うために予防接種健康被害救済制度に基づいて医療手当等を支給することとなっておるわけでございます。
 本制度におきます因果関係の立証の程度につきましてでございますが、予防接種の副反応の態様は予防接種の種類によって多種多様であり、当該予防接種との因果関係について完全な医学的証明を求めることは事実的に不可能な場合があるので、因果関係の判定は特定の事実が特定の結果を予測し得る蓋然性を証明することによって足りるというような伝染病予防調査会の答申がございまして、今回のケースにつきましてもこのような本制度の趣旨にのっとり認定を行ったものでございます。
 以上でございます。
久保田真苗君 環境庁長官、同じ政府のやることでございますから、やっぱり相当程度の蓋然性が認められるということで今までおとりになってきたこの認定制度、これが非常に厳しい。今までは当初の四十六年の事務次官通達、これでは要するに四肢の感覚の麻痺のある者というふうなことで認められるという通達であったんですけれども、その後のいろいろな認定が、一つの感覚障害と他の症状との組み合わせを重視するということで非常に厳しくなったんですね。
 そういうことが今続いているわけなので、私としてはこの認定制度についてやはり相当程度の蓋然性を認めるというふうに、幅広く救済するという行政のあり方、当初のやり方にひとつ戻っていただきたい、そういう整合性のある認定をしていただきたいと思うんですけれども、長官はどういうふうにお考えになりますか。
政府委員(柳沢健一郎君) 今、先生御指摘の件は、昭和四十六年の次官通知と昭和五十二年の部長通知を比較して、昭和五十二年の部長通知が厳しくなったんではないか、そういう御指摘だろうと存じます。
 昭和五十二年の部長通知というのは、医学的に水俣病と認められる範囲をその後の医学的な知見の進展も踏まえまして具体的に明らかにしたものでございまして、次官通知を厳しくしたというものではございません。現にこれにつきましては、先ほどお話ございました先般の東京地裁の判決におきましても、裁判所の理解をいただいているということでございます。
 現在の判断条件、これは医学的に水俣病と診断できるものを幅広く水俣病として認定する基準ということで私ども運用いたしておりますけれども、これは再々申し上げるところでございますが、ほかの疾患と区別できるかできないかのぎりぎりのところまで水俣病として認定している。現に今まで二千九百四十二名の方々の水俣病認定を行ってきたわけでございますけれども、水俣病であるとかあるいは水俣病の可能性があるという方々はその中の四割弱でございまして、六割の方は水俣病の可能性が否定し切れない。そういう方々を水俣病であるというふうに認定しているところでございます。その辺のところにつきまして、よろしく御理解を賜りたいと存じます。
久保田真苗君 裁判所の判決はいろいろございますけれども、認定制度の厳しさというものに批判的な見解が多いと私は思います。
 あと二つ三つ具体的なことを伺いたいんです。
 今回総合対策が新しくなったんですが、この中で総合対策に若干の前進があるということは私も認めるんですけれども、その中でやはり根本的な解決にはまだまだ遠いと思う点がございます。総合対策の中心に医療事業というのがあるんですね。それで、これは療養費と療養手当から成り立っているわけです。療養費は現在行われている特別医療制度、つまり社会保険の自己負担分を肩がわりしようという制度と同じものなんで、現在こっちの方の侍医制度では二千五百八十二人が適用を受けているそうなんですけれども、この制度の運用について、水俣病の認定の再申請をする、そういう方があるわけです。そうすると、この侍医の適用を外すということなんですね。これはなぜなんでしょうか。
政府委員(柳沢健一郎君) ただいまお話ございました特別医療事業でございますけれども、これは水俣病とは認められないものの一定の神経症状を有する方々につきましてその症状の原因解明を図る、そういう目的でもって、さらにまた認定制度の円滑な運用にも資するということをも目的といたします事業でございます。
 こういうようなところから、みずから水俣病と考える方々はこれは公健法の認定申請の方を選択するというそういう仕組みになっているわけでございますので、この原因者負担を基礎とする公健法と、それから公健法の円滑な施行や一定の症状の原因解明という公的目的に立つ公費負担医療との関係、この辺につきまして整理を行ったということでございます。
久保田真苗君 だから、結局再申請をするとこの侍医の適用が打ち切られるわけですね。大臣、この点なんです。結局環境庁の態度は、健保の自己負担分を出してやるから認定の再申請をするなと言っているのと同じなんです。これはすごいプレッシャーです。そして、もし再申請をするんだったらじゃこっちは打ち切りますと。これはもう患者にとっては、再申請はしだい、自分は本当に水俣病だと思う。侍医事業を受けて、療養を受けながら再申請をしたっていいじゃありませんか。その結論も出ないうちにどうしてこれを打ち切るんですか。
 大臣、これは私は非常に不当だと思います。行政のとるべき態度じゃないんじゃないかと思いますけれども、どうですか。
政府委員(柳沢健一郎君) 再々申し上げる形になりますけれども、公健法とそれから公健法の円滑な施行のために一定の症状の方々の原因解明をするという、そういう目的がそれぞれ異なるということでもって関係の整理を行ったということで御理解をいただきたいと存じます。
久保田真苗君 何度おっしゃっても一般国民にはこれは通用しない理屈です。つまり療養を、医療ですよ、これは。医療を受ければ再申請をするなと。おかしな話です。その再申請で原因を求めている患者の状況は、医療が必要でないというふうな状況じゃないんです。私はこんなことは官僚の勝手だと思います。私は、これは大臣がこういうことをお聞きになっていたんじゃ大臣の名前はとても上がらないと思います。
 新しい医療事業ではどうなんですか。今度の総合対策の方の認定再申請者にもこれを適用すべきだと思いますけれども、どうですか。
政府委員(柳沢健一郎君) これから実施いたそうとしております総合対策におきましては医療事業があるわけでございますけれども、これにつきましては、関係県、具体的には熊本県、鹿児島県、新潟県等々と具体的な実施方法等を現在協議中でございます。早急に結論を得て実施できるように努力してまいりたいと存じます。
久保田真苗君 もし今度も再申請者に医療事業
を及ぼさないというのであれば、一体何のために総合医療対策ということで地域一般の人を対象にして健康管理をしていく、それから医療のための事業もやっていくという意味があるんでしょうか。大臣、どうお思いになりますか。また再申請をすると医療の対象から外すんでしょうか、本当に。大臣にお願いしているんです。大臣に答えていただきます。
国務大臣(中村正三郎君) 今部長がお答えしたとおりでございます。
久保田真苗君 大臣、水俣病はやっぱり国にいろんな責任があるということなんだと思うんです。それでこういう中公審の答申の中にも認定再申請者を外せなどとは書いていないわけですよ。今回の総合対策は地域における健康上の問題の軽減、解消を図る、そういう目的なんです。それなら、認定再申請者にも適用をしていくということが目的に沿うとはお考えになりませんか。
政府委員(柳沢健一郎君) 今回の総合対策につきましては、現在最終的な段階に来つつあるのでございますけれども、関係県との協議を進めてまいっているところでございますので、その協議を経て実施してまいりたいと考えております。
久保田真苗君 どういうふうに協議をしていらっしゃるわけですか。
政府委員(柳沢健一郎君) 関係県の意向等も踏まえて、円滑な総合対策を実施いたしたいということでもって協議を進めているところでございます。
久保田真苗君 この再申請者について、医療を適用するかしないかというようなことも協議の事項に入っているわけですか。
政府委員(柳沢健一郎君) 入ってございます。
久保田真苗君 そして、それは今回の新しい総合対策に沿っでどのような方向に持っていくというふうに中公審は考えているとお思いになりますか。
政府委員(柳沢健一郎君) 中公審の意向というところにつきましては具体的に述べられていないところでございますけれども、関係県が実施主体になるわけでございますので、私どもは関係県と十分にすり合わせをして詰めたいというふうに考えているところでございます。
久保田真苗君 今後、環境庁の環境行政がいろいろな面で対象になり、法制整備ということもあるんでしょうけれども、こういう足元の、これで三十四年目ですけれども、なおかつ四十年もかかるというような状態に持っていかれるのでは私は環境行政そのものを疑わざるを得ません。
 もう一つ伺います。この侍医制度ですけれども、熊本、鹿児島両県にのみ適用され、新潟県に適用されていない。これは不当だと思います。今回の新しい総合対策は新潟県の人々も適用してほしいと思いますけれども、新潟県の人への適用は考えていますか。
政府委員(柳沢健一郎君) 新潟県におきましても、基本的には仰せのとおり事業の実施を予定しているところでございます。
 ただし、中公審答申でも指摘されているところでございますけれども、阿賀野川流域におきましては、メチル水銀暴露の状況等水俣湾周辺とはさまざまな状況の違いがあるということも事実でございます。実情に合った取り扱いをしていく必要があるというふうにも考えており、これらの点を踏まえた具体的な取り扱いを現在新潟県と協議中でございます。
久保田真苗君 ちょっと御答弁がわかりにくかったんですけれども、新潟県の人々に適用することを検討しているというお返事と見てよろしいですか。
政府委員(柳沢健一郎君) 基本的には事業の実施を予定しているところでございます。
久保田真苗君 大臣、これは実施していただけるらしいんですが、大臣もそのようにお考えでしょうか。
国務大臣(中村正三郎君) そのとおりでございます。今部長が答弁したとおりでございます。
久保田真苗君 済みません、アレンジが悪くてちょっと残ってしまったんですけれども、大臣、さっきの和解の問題で必ずしも最後まで御答弁いただいていないんですけれども、ぼつぼつこれは考えていただきたい、もうこれだけ裁判所の勧告的な意見が出ておりますので。どうでしょう。こういうものをいつまでも引きずっていくということでなく、やっぱり世界の環境問題にこれから取り組もうという環境庁ですから、自分の国の国民を大事にしてほしい。まず自分の国民の一番苦しんでいるところを早く解決してあげよう、そういうお気持ちでこの問題はぜひお考えいただきたいと思いますけれども、いかがでしょうか。
国務大臣(中村正三郎君) 和解ということになりますと、私は法律の専門家ではございませんけれども、ちょっと考えてみましても、国民に害を与える何らかの原因があって害を与えられた人がいたという場合に、その害を受けた人に国が補償する。すなわち、国民全体で補償する、どこまでやるかという大変基本的な行政のあり方の問題が出てくると思います。
 ですから、そういう中でどこまでできるのかということで、昨年来、私就任いたしましてから財政当局に必死で交渉いたしまして、限界ぎりぎりを踏み出すぐらいのことをやらないといかぬということで総合対策の予算獲得の交渉に当たりました。そして御理解をいただいて一歩踏み出したという格好で総合対策をやらせていただいているわけであります。なかなか行政の取り組み方としては限界があろうかと思います、先生も行政御出身でございますが。というような素人なりに考えを持っております。
 そのような中で、私どもとしては許された範囲内で最善の努力をして、解決に向けて努力をするのが我々の責務であろうというふうに考えております。
久保田真苗君 考え方としては今回の総合対策で一歩を踏み出していただいていると思います。思いますから、やっぱりここはもう国民も国会議員も、それからいろいろな言論界も、このことについては早く解決をと。そうしないと、本当に後ろめたくて地球環境どころの話じゃないんです。そこのところをひとつぜひお考えいただきまして、一歩踏み出したものは二歩、三歩と踏み出していただくことを切にお願いしまして、私の質問を終わります。