■03.12.26 読売新聞「MMR接種訴訟 国に過失安全性へ一石」(大阪朝刊)

 ◆“副作用”情報 広く開示を
 はしかとおたふく風邪、風しんを予防する新三種混合(MMR)ワクチンの接種を巡る訴訟の判決で、地裁は三月、「副作用を予見できた」として国などの過失を認定し、予防接種のありかたに一石を投じた。今冬、各地でインフルエンザのワクチンが不足するなど、予防接種に対する国民の関心が高まっているが、副作用への警戒を忘れてはいけないだろう。
 十一年前、当時二歳だった長男の大輔ちゃんを失った原告の会社員木下正美さん(45)(吹田市)は、小学一年の長女(7)には一度も予防接種を受けさせたことがない。「確実に安全とは言えないし、接種の効果と、副作用の危険性を考えたうえで、必要ないと判断している」と言い切る。
 木下さん夫婦にとって、大輔ちゃんは初めての子どもだった。育児雑誌には、おたふく風邪などの怖さとともに、「子どもさんのために予防接種を受けましょう」と書かれていた。当時住んでいた自治体の広報誌にも目を通し、疑うことなく接種を受けた。大輔ちゃんが発熱とけいれん発作を起こしたのは二日後。一年以上の闘病の末、一九九二年八月に短い生涯を閉じた。
 「予防接種は悪魔のくじ引きと言われる。重い被害者は必ず出るのに、行政からは切り捨てられる」。木下さんは提訴に至った思いを語る。
 九年を超える裁判の結果、判決は、国などに対し、木下さんら二家族への賠償を命じ、「予防接種は一定の危険性を内包している。実施主体の国の責任は相当重い」と述べた。
 国と、因果関係を否定された一家族の双方が控訴して、現在は高裁で審理中だ。一審判決後、原告弁護団は、世界中の医学文献などを集めているイギリスMMR訴訟の弁護チームと連携、原告全員の救済を目指して、情報収集の網を海外にも広げている。
 予防接種には、伝染病の流行を防ぐという目的がある。副作用の恐れがあっても、国は伝染病発生の危険性と比較したうえで接種の有効性を検討する。
 だが判決は、「国民には判断材料となる情報や専門知識がない」と指摘した。接種を受けるかどうか、場合によっては命にもかかわりかねない選択だけに、国はその責任の重さを受け止め、副作用の恐れを含めたあらゆる情報が国民に広く伝わるようにすべきだろう。 

(犬伏 一人)

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 二〇〇三年も、あとわずか。大阪では今年も、さまざまな出来事があった。記者たちが一年を振り返り、その後を報告する。

 写真=MMR接種訴訟の一審判決後に開かれた原告らの会見(3月13日、大阪司法記者クラブで)