2003年1月11日読売新聞

MMR接種の有用性 国、中止3年半前に「懸念」 薬事審議事録で判明

◆原告が書証 大阪地裁・賠償訴訟

 新3種混合(MMR)ワクチンの接種後に死亡した子供の遺族らが国などに損害賠償を求めた「MMR訴訟」で、厚生省(現厚生労働省)が、副作用の多発で接種が中止された約3年半前に、MMRワクチンの有用性について“懸念”を持っていたことが11日、中央薬事審議会生物学的製剤調査会(当時)の議事録で明らかになった。同省は、副作用のリスクなどを考慮したうえで医薬品としての有用性に疑問を表明し、調査会も「積極的に接種を推進するのは困難」と指摘していた。原告側は「国が早期に危険性を認識しながら対策を先送りしたことを示す新事実」と評価、大阪地裁に書証として提出した。

 議事録は、1989年9、10、12月の3回分で、阿部知子衆院議員(社民)に対して昨年9、12月に開示された。

 MMRワクチンは89年4月に予防接種が始まり、93年4月に中止された。原告の子供3人は89年10月から91年6月にかけて接種を受け、2人が死亡、1人が重度障害になっており、国側がワクチンの危険性を認識した時期が、訴訟の争点になっている。

 議事録などによると、調査会は、副作用の無菌性髄膜炎の発生頻度について、9月には「10万―20万人に1人」としていたのを、12月には「数千人に1人」と認識を改めていた。

 さらに、同月の会議で厚生省薬務局生物製剤課が「医薬品の有用性が認められる限界に近い」と報告。これを受け、調査会は「おたふくかぜに自然感染した場合の無菌性髄膜炎の発生頻度はMMRワクチン接種(の副作用による発生頻度)の数十―数百倍に上り、医薬品としては容認できる範囲だが、国として積極的に接種を推進するのは困難」との見解を示していた。

 このほか、同省が89年7月に福島県で死亡例を、同10月には東京都で重度の聴力障害になった重症例の報告を受けながら、開示された議事録では、調査会でこれらの事例が審議された形跡はなかった。

 これについても、原告側は「国は無菌性髄膜炎だけの情報を小出しにし、被害の全体像を明らかにしなかった」と批判している。

 訴訟は、昨年5月にいったん結審したが、原告側の申し立てで同11月に審理再開が決まり、今月30日に改めて結審する予定。

 厚生労働省医薬局審査管理課の話「副作用の発生頻度が低いとは言えなかったので、『有用性の限界近く』という表現になった。しかし、接種は任意でもあり、使用を中止するほどではなかった」

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 <MMR訴訟> はしか、おたふくかぜ、風疹(しん)の3種類を1度に予防できる「MMRワクチン」の接種後に死亡したり、重度障害が残ったりした大阪、兵庫、岩手各府県の子供3人の家族らが、国とワクチン製造元の財団法人「阪大微生物病研究会」に計3億5000万円の損害賠償を求め、1993年12月と96年4月に提訴。被告側は、因果関係などをめぐり全面的に争っている。

 (2003年1月11日読売新聞