厚生労働大臣

坂口   力様

大阪府  木下大輔の両親より

 

残暑の候、坂口大臣様におかれましては、益々ご健勝のこととお慶び申し上げます。

私達は、息子・大輔をMMRワクチン接種により亡くした被害者です。現在、国とワクチンメーカーである阪大微研を相手に係争中です。

1993年12月24日に起こした私達のMMRワクチンの裁判が、9年と言う長い年月を経てようやく本年11月28日、大阪地裁での判決を迎えようとしています。

私達の息子、大輔が亡くなって今月8日、10年目の夏を迎えました。

息子は1991年6月25日にMMRワクチンを接種し、2日後に意識不明となって小児科の集中治療室に入院する事態になり、2度と意識を回復することなく、1年1ヶ月後の1992年8月8日にこの世を去りました。

 

MMRワクチンの被害の実態について、ご理解を戴きたくこの手紙を書きました。どうかお受け取り下さいますよう、よろしくお願い申し上げます。

 

<MMRワクチンについて>

MMRワクチンは、1989年(平成元年)に市町村単位で導入され、その年の9月に息子は産まれました。1歳を過ぎた頃にMMRワクチンを接種したらいいんだな、と思っていた矢先、副作用が沢山起こって翌1990年初め頃MMRは一旦中止になりました。

それから何ヶ月か経った時、MMRワクチンがまた再開されたことを知りました。ワクチンや予防接種行政について何の情報も知らない私達は、「中止されていた何ヶ月かの間にきっとワクチンは改善されたんだろう」と思い、3種類の病気を1本のワクチンで防げるのであれば、そして当時読んでいた育児書のほとんど全てに『予防接種を受けさせてあげるのが親の愛情ですよ』、という主旨の事が書かれており逆にその危険性を書いたものは一般の育児用の書籍では全く見ることが出来ませんし、当時住んでいた高槻市の市報においてもMMRを勧めることしか書いてありませんでした。接種開始当時の市報には「はしかワクチンは4月からMMRワクチンに切り替わります」と書かれており、もうはしか単独のワクチンはないものと思い、ワクチンではしかを予防したければMMRを接種するしかないんだと思わされ、接種していい年齢を待ちながら成長を見守りました。また私達自身予防接種は安全なものと疑わず、全て受けさせてあげるのが親としての務めだと思い、MMRワクチンを接種させたところ、突然「急性脳症」と言う病気にかかって呼吸すら自分だけでは出来ない体になってしまい、1年後に亡くなりました。

また、息子の入院とほぼ同時進行で、私達は市役所を窓口に、行政との交渉を始めました。

 

<被害者の立場となって…行政との交渉>

息子が入院中から高槻市を通じて大阪府・国に「予防接種によって起こった健康被害と認めて欲しい」と、健康被害である事の認定と補償を求めて来ました。実はこれらの申請制度があるという事は、国や大阪府、市役所つまり行政サイドに教えて貰ったのではなかったのです。たまたま接種した病院の先生が「こんな制度があるので申請してみて下さい」と、言って下さったからこそ申請に漕ぎつけられ、その先生が紹介してくれた弁護士さんと出会えたお陰で…やっとの思いで裁判を起こす事が出来、沢山の方々のお力添えで私達は今日こうやって厚生労働省に来る事が出来、直接自分の思いをお話する事が出来たのでした。

「息子さんに対してはお気の毒ですが、これはMMRワクチンによる事故とは無関係です」…大輔が亡くなった翌年6月25日。丁度あのMMRを接種して2年後、国からの「認定しない」旨の通知がありました。

21世紀を担って希望を持って生きるはずだった人が一人亡くなったのです。

それに対しての回答は、B5サイズの紙数枚で、文面も1枚あたり数行足らず、読んでみてもさっぱり「なぜ不認定なのか」が解りませんでした。私達に対し、国や行政は何の手も差し伸べてくれませんでした。それどころか、私達の事例を予防接種事故と認めず、あまりにも冷たい、人間味のない薄い書類と、後は何の納得もいかない説明の繰り返しを担当職員がするだけで、私達は更に絶望的な気持ちになったものでした。書類を見ても「何らかのウイルスの感染による脳脊髄炎」という簡単すぎる説明だけで、「これで納得しなさい」といわれても出来る訳はありませんでした。

現在少子化が問題になっているこの国で、それに対応すべき厚生労働省の仕事は一人一人の子供たちを体も心も元気に、豊かに育てていく事であるはずです。私達の息子もその精神のもと、「怖い伝染病をワクチンで予防して、健やかに育っていく」はずでした。しかし実際に事故の被害者になってしまってから、国や行政の「副作用の事実を隠したり、出来るだけ被害者の数を少なく見せたりして何も教えてくれようとしない」姿勢を知り、接種率を上げる事だけに懸命になり、被害者になってから被害を認めてもらう為の申請をしても「違いますよ。ワクチンのせいにしないで下さい」とごまかす事と事故を隠す事に一生懸命になるだけでした。力のない一般市民の抵抗など、ふみつぶしてしまえばいいんだと言う精神を嫌と言うほど知りました。もしもMMRワクチン導入がなければ、また導入されたとしても1990年の初め頃、MMRワクチンが一旦中止となったまま、つまりMMR導入後のサーベイランス体制がしっかりとなされていていれば、遅くとも数ヶ月後の再開がなければ被害者を増やす事はなかったし、私達の息子もMMRを接種する事はなかったのです。また何度か市役所や大阪府庁などに交渉に行きましたが、その対応はとてもひどいもので、高槻市、大阪府、国と責任転嫁し、たらい回しにしているだけで、現在起こしている訴訟の経過を見ても誠意ある、私達が納得できる説明のかけらもなく、むしろ自分たちの身を守る事とこちらの主張にすこしでも隙間があろうものならすぐそこに突っ込んでやろうと言ういやらしい姿勢、国は被害者数や副作用情報など全ての情報を持ちながらただ隠すだけで全く公開せず、「この原告は何も知らない一般市民なんだから片手で握りつぶしてしまえるんだ、都合の悪いもの、少数の弱いものは切り捨ててしまえばいいんだ」と言う姿勢しかみる事が出来ませんでした。

私達親は、ただ「風疹・はしか・おたふく風邪で高い熱にうなされるよりも、予防接種で防いで健康に育てよう、そして平凡だけど穏やかに息子の成長を見守って行こう」と思っていただけです。「子供さんを怖い病気から守り、元気に育てるために予防接種を」と、お役所からの通知や予防接種手帳、育児書・育児雑誌の中の予防接種関連の記事からの情報を信じ、その通達や情報に従って「スケジュール通りに」予防接種を受け続け、「3つの病気を1回の注射で防げるんだったら」と、MMRワクチンを受けたのでした。接種して2日後に脳に壊滅的な打撃を受け、亡くなったことに対して、今までの裁判の経過を見ても何にもこちら側の納得がいくような誠意ある説明、態度、回答は全くありません。この重大な症状とMMRワクチンに因果関係がないと言うのであれば、家族である私達に対して誠意を持って解りやすい言葉で、納得がいくまで充分な説明が私達は欲しいのです。充分すぎても「過ぎる」ことなんて決してありません。

また、「審査請求」から4年半経った1997年12月25日に、国の回答が覆り、当初の「認定せず」の回答が突然一転して「認定」になった事がありました。

この時の回答も、「不認定」の時と同様に、書類2枚に簡単な文章が書かれているだけでなぜ国の回答が覆ったのかは私達には全く判りませんでした。

高槻市は「大阪府に聞いて下さい」、大阪府は「国に聞いて下さい」、それで国に聞けば「大阪府に伝えています」と言うだけで、私達はたらい回し状態を再び味わうことになり、ここでも納得のいく回答は得られませんでした。もし認定の時の書類に詳しいことを書くと、被告側にとって「この裁判に不利になるから」詳しいことを書くのをやめておこうとでも思っているのでしょうか。

 

<「だれの為の」予防接種なのか>

それから私達が息子の予防接種を受けさせる時、先に延べましたが全くと言っていいほど副作用の情報はいわゆる「権威ある先生方」が書いた育児関係の書籍、市報などのお知らせ、予防接種手帳には載せられていません。それらに載せられているのはわずかに発熱や腕が腫れる、などの軽い症状だけで、脳障害や死亡例などの事はまるで隠されているかのように私達は知る事も出来ません。知る事ができたのは、皮肉にも実際に事故に遭ってからでした。

繰り返しますが、予防接種は安全で、みんなが受けていて、そして自分たちの子供の健康と、周りの子供さんに伝染病が流行しないためにも打たなければならない義務があるのだと思っていました。MMRワクチンは任意接種なんだそうですが、義務接種・任意接種などと言う言葉も私達は知りませんでした。私達だけでなく、ほかの親御さん達もほとんどみんなこれらの言葉も恐ろしい副作用が起こりうる事も知らず、「予防接種は子供の命を守ってくれるもの。子供の為にすべて受けさせてあげよう」と思っておられる事でしょう。

育児書や市報・また予防接種を受ける時の医療の現場で十分な言葉の説明がなされていないのに、訴訟になってから国側の準備書面で義務接種・任意接種・また後に勧奨接種についての記述がなされていましたが、それらの記述はただ、私達に怒りと失望感を与えるだけのものでした。最初から市町村広報、育児情報誌などあらゆる「現場」で副作用のことや「予防接種は決して全て打たなくていい」と、周知・徹底してもらえていればという思いでいっぱいです。「誰のための」予防接種であり、予防接種行政なのでしょうか。ワクチンメーカーの研究技術も、行政関係者の文章能力も、またたとえワクチン研究者として「権威ある先生」だったとしても、《何のため》・・・つまりここでは子供のためを念頭におかず、ただ自分たちの利益や名誉を優先し、私達普通の市民を利益のために利用したり、弱い立場のものをごまかしておとしめるのであれば、何の意味もありません。

 

<大輔のMMRとの闘い>

息子・大輔はMMRワクチンを接種して突然重い被害を背負わされ、1日数時間の面会のほかには、たった一人で病気と闘い続けました。他の人達よりずっと短く“させられた”人生であったけれども、私達両親や家族を決して悲しませまいとするように…面会に行った時はいつもすごくいい顔色で待っていてくれ、一生懸命頑張ってくれてるんだなって思っていました。そうして闘って行った息子に対して私達が今、出来る事は予防接種の現場や予防接種行政のあり方、矛盾に警鐘を鳴らし、「おかしい事はおかしい」と訴えて行く事で子供の方を向いた予防接種行政・情報のシステムを構築してもらい、1人1人の子供が体も心も健康に、安心して育って行ける環境を作って行ってもらう事です。

また、息子が何故亡くならなければならなかったのか、ワクチンとの因果関係は、また「何故最初認定されなかったのか、逆に後から認定されたのは何故か」を知りたいと思います。提訴をした最大の理由は息子の死亡とMMRワクチンの因果関係をきっちりと形にする事、そして全ての責任を認め、息子の前で謝罪する事。そうでなければ親としてとうてい納得できません。また「子供の立場に立った予防接種」の実現にもつながりません。

 

<私達子供を持つ親からのお願い>

私達はかけがえのない息子を亡くし、肉体的にもまた精神的にも甚大な被害をこうむりました。

私達は息子が入院してから今まで、自分達なりに予防接種の被害について勉強し、色々な方達との出会いがあり、また裁判を通じて沢山の事を考えました。

私達が現在行っている裁判に関してのお願い、また今後、全ての子供を持つ親御さん方が予防接種についての正しい情報を得られた上で、安心して接種を受けられるシステムが出来るよう、切望するものです。以下に私達のお願いを申し上げます。

 

・全ての資料を包み隠さず出して下さい。

・息子の死亡とワクチンの因果関係を認め、謝罪をして下さい。

・MMRワクチン訴訟を国の責任を全面的に認めた上で和解の方向に導いて下さい。

・ワクチンは決して100%安全なものではない事を都道府県・市町村の広報や育児情報    

誌などで周知徹底して下さい。

親御さんに「受けるか受けないか」を決める充分な判断材料を与えてあげて下さい。

もし被害に遭った場合どこに相談をすればいいのかという情報を教えてあげて                                   下さい。

接種当日に細心の注意を払って医療機関に向かうよう勧めて下さい。

決してMMRワクチンを再開させないで下さい。

現在の日本で不必要だと思うワクチンは勇気を持って中止にしてあげて下さい。

被害が起こった時はすみやかに誰でもが簡単な手続きで、被害者の負担が少ないような、行政機関が救済の手を差し伸べるシステムを作って下さい。今のままでは「裁判」か「泣き寝入り」かの二者択一しかありません。

・長い訴訟をして辛い思いをするのは私達で止めて下さい。

ワクチンメーカーの利益、経済優先でなく、子供のためを思い、子供の事を第一に思いやった予防接種行政を作って下さい。

速やかに被害者全員を救済して下さい。

 

これが私達の願いであり、坂口大臣にお聞き入れ戴きたく、真摯に受け止めて戴きたい事です。どうかよろしくお願い申し上げます。

先般、薬害ヤコブ病の裁判やハンセン病の問題が全面解決し、一連のニュースを見て、坂口大臣が、人道的な見地に立ち、ご判断をされたものと拝察致し、自分の事のように嬉しく、胸のすく思いで一連の報道を見ておりました。

 

最後になりましたが、坂口大臣の益々のご活躍とご健勝をお祈り申し上げ、私達のご意見とさせて戴きたく存じます。

敬具

2002年8月23日  厚生労働省交渉の日に