ヤマハの比較的新しい本格カセットデッキKX-640です。
発売は1990年頃でしたのでカセットデッキとしては末期のもので、デザインも伝統のシーリングパネルを排してオーソドックスなものに変更されています。
機能面に関しても必要最低限装備されており、特に過去のライブラリ再生において高域特性を補正できる「プレイトリム」機能を搭載するなど、時代の流れに対応したコンセプトとなっています。
音質面に関しては、3ヘッドでデュアルキャプスタン方式を採用し、ヘッドはパーマロイで捲線はPC-OCCを採用。ヘッドホン端子も装備されているのはもちろん、レベル調整まで付いて発売時の定価は破格の54800円!私的には的を得たコンセプトの元に生まれたデッキに、見えました。
そんなわけで、その真相を確かめるべくオクでジャンクをポチってみました。
再生するけどすぐに停止するというジャンク品で、送料のほうが高かったです(^^;
このくらいの価格なら、気軽に遊べますね!
内部の様子です。
まず、その天板ですが、ちょー薄かったです。ペナペナ!
シャーシは基本的には鉄板ですが、板厚不足気味なのが気になります。
全体的にコスト重視で作ったとういう印象が強いです。
しかし、この機能でこの価格ですから、このくらいしないと採算が合わないのも事実。それ以前にカセットが売れる時代は終わってましたからね。
この時代に本格装備の3ヘッドデッキをこの価格で世に送り出しただけでも偉いと思います。
再生イコライザです。
素晴らしい!音響用パーツがしっかり使われています。
この価格でも、やるべき事をしっかりやっているなんて、見ていて嬉しくなっちゃいますね!
オペアンプはNJM2043SDという、これまた歴史の長い定番デバイスで、ノイズ選別されたものが使われています。
再生イコライザの真上に配置されているのはドルビーNR回路。
デバイスはCXA1330S。CX20188の後継となる新しい石ですね。
外付け部品点数も少なくシンプルです。
録音アンプ部です。
定電流駆動という事もあり、オペアンプは高出力電流のNJM4556SAが2個使われています。
信号経路には当たり前のように音響用コンデンサが使われています。
ドルビーHX-PROです。
ヤマハというと、アイワ同様に専用ICを使わず贅沢にもディスクリートで組んでいましたが、さすがにこれは専用チップuPC1297Cで済ませてあります。
ロジックコントロール専用と思われるチップです。
ヤマハの、このへんのモデル専用のようですね。
電源トランスです。
まぁ普通ですね。
当然ですが、ダイキャストケースに入れて樹脂を流し込んでガッチガチにするような事はしていません(^^;
電源スイッチは基板直付けで、フランジはビス固定ではなくカチっと挟むだけです。
合理的というかなんというか・・・
良く考えられていますね。
電源部です。
オーディオ系のコンデンサは、音響用が使われています。
地味に、お金かかっていますね。
不具合のあるメカの後姿。
さて、バラし始めましょうかね!
どうもシャーシの表面処理が甘いようで、腐食だらけです。
あまり見える所ではないですが・・・
フロントパネルを取り外してメカを取り出します。
生産性重視の製品は、バラすのもラクです。
初めて見るメカのようですが・・・見た事あるような・・・(^^;
この機構はsankyoメカですね。
取り外したカセットホルダーです。
板バネが、樹脂製です。
極力樹脂で済ませて安く作っているようです。
で、余った予算はメカや回路へ回すといったところでしょうか。
それはそれで大賛成ですが、チョット寂しいです(^^;
バックテンションベルトが、見当たりません。
経年で解けて切れたようで、ベタベタとくっついています。
この手のメカのデッキは多数ありますが、動作状態にあってもベルト切れでバックテンションが機能していない状態になっていると思われます。
再生しても、完動品ではないという事です。
入手時はもちろん、出品時も注意が必要ですよ。
ばらし始めたらメカが真っ二つに!
このメカはアカイGX-Z6100やケンウッドKX-4520あたりとほぼ同じ物ですね。
どんどんバラします!
モードコントロール機構部です。
この部分も接点復活処理を行っておきます。
アカイやケンウッドはモードコントロールをリールモーター併用で行っていますが、このKX-640はモードコントロール用に専用モーターを搭載しています。
よって、リールモーターの動作にとらわれず即モード移行が可能な高速メカになっています。
リールモーター併用だと、動作が遅くテープ停止時に一瞬捲き戻したりと要らぬ動作をするので気分台無しですからね。
いいですね。地味にしっかりカネかけています。
そのギアに、解けたベルトが絡んでしまったようです。
ベトベトがギアの谷間に・・・・・
あああぁぁ・・・面倒だぁ〜!
解けたベルトがリールセンサにまで付着していました。
そのたセンサがリールの回転を検出できず再生停止に陥ったようです。
sankyoメカとはいえ、安く作った物らしく、全体的に剛性は高くない印象です。
ヘッドブロックが従来のヤマハと同じダイキャストベース製なのが唯一の救いでしょうか。
ヘッドはPC-OCC捲き線のパーマロイGF-45です。
この頃は各社アモルファスヘッドというものを見かけなくなって来た頃ですから、まぁ普通でしょうかね。
捲き線をPC-OCCにする事で、音よりも宣伝効果を狙ったのかもしれません!?
ベルト類は同サイズの代用品を使いました。
解けたバックテンションベルトがあちこちで悪さしていたので、その処理が大変でした。
軽く清掃&グリスアップ程度で直るかと思っていたのにぃ・・・!
メカの整備が完了しました。
終わってみれば、ベルトの問題さえなければ整備製は良好なほうだと思います。
メイン基板も調査します。
ヤマハは昔からパターン設計がイマイチで、ハンダ割れし易いですから入念にチェックが必要です。
端子部はお約束ですね。
しっかりやっておきましょう。
表示部です。
蛍光管ではなく液晶です。
バックライトはLEDではなく電球という所がイイ味出してます!
生産コスト削減でしょうか。
ビスではなくワンタッチの固定具が多用されています。
固定する時はラクなんですけどね。外すのはちょいと面倒です。
組み立て完了です。
まるでプラモデル(笑
オーディオ機器を組み立てているとは思えないほど簡単に出来ます。
走行系及び電気系の調整をします。
フロントパネルとカセットホルダーはアルミ製なので高級感がありますね。
もちろん、洗浄してピッカピカにしました。
外装を組み付けて完成です!
天板はキズだらけですが、フロントパネルはけっこうキレイでした。
ジャンク品にしては程度は良いほうですね。
ヘタな「完動美品!」よりはずっっっと良い状態です。
こう見ると適度な高級感があって低価格デッキには見えないですね。
操作部も必要十分で配置もスッキリしていて良いですね。
調整機能も必要にして十分でしょう。
これからカセットライブラリを増やそうとする時代では無かったですから。
メカの動作は静かで高速、快適ですね。先代の歴史的モデルと比較しても見劣りするところは無いと思います。
まずは再生音質をチェック。
う〜ん・・・・・・なんといいますか、足りないです。
高音が低音がというのではなく、ココロに全然響いて来てくれないんです。
スッキリしててキレイっぽい音なのですが、遠くが全く見えないような・・・・。
疲れはしないけど、眠くなっちゃう感じです。
これ本当にPC-OCCなの?って。
ヤマハだけど、楽器ではないのですね。
PLAYTRIM機能はなかなか良いと思います。
古くて高域劣化したテープは世の中には山ほどあるでしょうから。
でもこの音では楽しさ半減ですね。
この価格、このコンセプト、確かな回路にこのメカ・・・そう考えると実に惜しい!
自己録再でも同じ傾向なので、多分ヘッドの出来が・・・なのかな??
そう考えるとなおのこと惜しい!!
でも、PLAYTRIM等の時代にマッチした機能の搭載を企画したヤマハの姿勢は高く評価されても良いと思いますし、何よりジャンク相場は捨て値ですので遊ぶには丁度良いオモチャではないでしょうか。
そう考えれば、良いデッキという事になるのかな(^^;