山水

 AU-α907i MOS LIMITED

 

サンスイ40周年記念の1000台限定モデルであるα907i MOS LIMITEDです。

現在のサンスイは既に末期状態ですが、当時は素晴らしい製品を次々と世に送り出していました。このモデルはその中でも限定モデルという事もあり造りも音質も申し分ない憧れの逸品でした。

発売当時はまだ学生で、26万円もするこのアンプを手にする事は銀行強盗でもしない限り無理でしたので、下位 機種であるα707iを購入し、それにこのサイドウッドを後から取り寄せて付けてお茶を濁していました(α707iでも私には十分な音質で、現在も現役で頑張ってくれています)。

さて、今回のブツですが、珍しくジャンクではありません。なので価格もそれなり、(私にとっては)結構なお値段で、ボーナスで思いきって購入しました。でなきゃ、所帯持ちの我々一般 庶民には今でもこんなの買えないですよ (涙)

某オクでの価格も高値安定が続いており、一般的なジャンク品でも7万円程度になってしまいます。よく「完動品!」 なんてのが高値で取引きされておりますが、17年前のこのアンプが何も不具合を抱えずに動作している完動品などまずあり得ません。メンテ済みなら話は別 ですが、ノーメンテで動作しているものは完動品ではなく「かろうじて動いているジャンク品」と表現した方が正しいです。その程度のブツしか出ていないと見て間違いは無いでしょう。

そんな考えから今回のブツは「美品!」や「完動品!」といった全くアテにならんうたい文句よりも価格にこだわりました(^^;入手方法は某オクの出品物ですが「引き取り限定」という事でしたので動作品でしたが入札も渋く狙い目でした。出品者さんと連絡を取り、直接伺って現物確認後に現金取引きノークレームノーリターンという事で了解頂きまして出撃しました。

しかし、実際に伺ってみたところ、動作に問題が出てしまっているとのこと。とても申し訳なさそうに説明してくれました。

過去に出力リレーが動作せず音が出なくなるトラブルが発生し、それをミスターなんとかと云う電源プラグの差し込み口みたいな名前の修理専門チェーン店へ修理に出して戻ってきたばかりとのことですが、結局カネだけ取られて直っていなかったとの事です。なんのこっちゃ?!

現状では、スピーカーAは使えますがBが動作しません。なんともおかしな症状ですが、私としてはジャンク品を入手して徹底オーバーホールを施す予定でしたので、そんなささいな事はどうでも良いわけで(^^;「最初の条件&価格でOKです」と言いましたが値引きしてくれました。ラッキー!!

自宅に持ち帰りとりあえずは使っていましたが、ついにスピーカーAも動作しなくなりました。遂にやるべき日が来たようですので覚悟を決めて開始です!

今回のブツは重量が31キロほどあり、屋根裏作業部屋のハシゴ階段を使って持ち込む事は不可能です。無理して登ってアンプ共々転落して31キロの下敷きになるのだけはご免ですので、客間に臨時作業場を仮設しての作業となりました。

それにしても、とても腰に悪いアンプです(^^;

 

それではまず内部調査&部品書き出しのためバラしはじめます。

 

 

 

 

 

 

 

パワーアンプ基板に激しく怪しい箇所を発見!

なんとまぁ、雑なマーキングなんでしょ!その他の部分もレベルがわかってしまうような仕事内容であります。

っつーか、こんな所(電源の+と−)はマーキングなんかしなくても電気の基本がわかっていれば必要無いだろうに...。

この時点で既に、かな〜りイヤな予感.....!!

 

 

 

一通 り必要な部品を書き出して、秋葉で買ってきました。

電解コンに関しては高級アンプですのでちょっとふんぱつして音響用のMUSEと更にその上のグレードであるMUSE-KZを適材適所でそれぞれ使ってみる事にしました。

ざっと書き出したはずなのですが、作業が進むにつれて足りなくなったりで(汗)部品がそろうまでに結局3ヶ月ほどかかってしまいました。

ざっと電解コンだけでも80個、半固定抵抗やFET、絶縁シート、細かなCRパーツなどなど部品代だけで2万円程度...小遣いが一気に終了です。

 

 

不具合をかかえていると思われるプロテクター基板です。

リレーは一度外して何かやってあるようですが、そこまでやるなら新品に交換しておけよってね。いくらもしないんだから。

 

 

 

 

 

 

リレーが動作しなかった原因はハンダクラックでした。

ったくねぇ、ここまでバラしたのなら再ハンダ処理くらいしておけよって。再ハンダ処理は修理の基本だと思うのですが...

その他、作業の1つ1つが雑でいい加減な所を見ると、仕事だからイヤイヤやっているという気持ちが強く伝わってきます。

 

 

 

 

 

この基板で最も怪しい箇所を発見!!

何と過電流検出保護回路を殺して、意図的にプロテクターが動作しないようにしてありました。

リレーが動作しないのをプロテクターが動作しているのだと勘違いして、保護回路を殺してゴマかそうとしたようです。アホか?

これは客から銭取って行うプロの修理ではないですね(怒)

 

 

 

今回出力リレーは接点研摩で再利用するつもりでしたが、この劣悪作業者が既に接点研摩してくれたようでピカピカでした。

しかし、にわかプロのド素人野郎がイジくった部品ってのは精神衛生上よろしくないので新品交換する事にしました。

純正リレーは容量7Aですが、色々調べてこれの10Aタイプを見つけまして、仕事でお世話になっている機工屋さんに無理言って取り寄せてもらいました(写 真下段の方)。ちぎちゃん感謝!!

 

 

 

リレー、電解コン、念のためプロテクターICを交換し、殺された回路を修正、全再ハンダ処理を行いこの基板は完了です。

 

 

 

 

 

 

さて、次は電源基板に着手します。

 

 

 

 

 

 

 

電源基板を外すと巨大なブロックコンデンサの端子が現れました。

配線もキレイにねじってあって、こういう見えない所も手抜きなく作られているのが嬉しいですね(^^)

 

 

 

 

 

電源基板です。

極めてシンプルです。シンプルだから良いのでしょうね。

 

 

 

 

 

 

電解コンをMUSE-KZに交換しました。

 

 

 

 

 

 

 

次は作業しにくいサイドのフォノイコ関係に着手します。

 

 

 

 

 

 

 

こちらも電解コン全数交換、全ハンダ再処理を行い、スイッチには接点復活処理を行いました。

 

 

 

 

 

 

次はコントロール回路です。

これ、外すの結構面倒です(^^;

 

 

 

 

 

 

これはアンバランス/バランス変換回路を採用したフラットアンプ基板です。

α707まではフラットアンプのNFBにひと工夫する事でトーンコントロール機能を持たせておりますが、α907クラスになるとトーンコントロールとフラットアンプが完全に独立ブロック化されています。

707までのアンプと907クラスのアンプとの差が最も出る部分だと思います。それだけ大切な部分ですので電解コンだけでなく初段FETやDCオフセットVRも交換しておきました。

 

 

 

コントロール系の作業がすべて終了しました。

内容は電解コン交換、初段FET交換、半固定抵抗交換、全箇所再ハンダ処理、接点関係のリフレッシュ...などです。

これだけやっておけばしばらくは大丈夫でしょう!

ついでにLEDも青色とかにしちゃおうかと思いましたがやめときました。時々こんなオチャメな自分を可愛く思います(^^???

 

 

 

さぁて、いよいよ今回のメインイベント、パワーアンプ基板の登場です。

今となっては入手が極めて困難なπMOSがふんだんに使われています。

 

 

 

 

 

 

またまた怪しい箇所を発見!

ダイオードの雑音吸収用コンデンサに違うのが使われています!

もう片方のアンプも同じ箇所がイジられている所を見ると、プロテクターが動作する原因をさかのぼって、ここまで辿りついたようです。で、手当たり次第パーツ交換を行ったようです。

もうね、見れば見るほどガッカリです。

 

 

 

他に怪しい箇所が無いか念入りにチェックして、仕上げました。

飛ばすと取りかえしのつかない貴重なπMOS搭載ですから、そりゃぁもう慎重に慎重を重ねての作業です!

πMOSに塗られているシリコンも17年の年月を経て硬化していましたので全て拭き取った後、絶縁シートも交換して再塗布して取り付けました。

 

 

 

 

両チャンネル作業が終了しました。

こう書くとすぐに終わったように思えるかもしれませんが、実は部品待ちなどで3ヶ月程度かかっています(^^;

やはり終段のπMOSを交換すべきかどうかは最後の最後まで悩みました。

 

 

 

このアンプは使い潰す目的で入手しましたので、徹底的に納得のいくメンテナンスをするつもりでした。長く安心して使うのであれば終段のπMOSも交換すべきですが、生産が終了している現在では極めて入手難でして、有ってもプレミア価格...とても16個も揃えられません。

そこで修理/チューンUP専門業者さんがよく利用する方法として「代替えMOSFET」を使う方法があります。現在では2SK1530あたりでしょうか。

終段が逝けば、スピーカーも逝きます。高価なスピーカーが逝ってしまうのは非常に痛いです。そうならないようにするためには終段を新品の代替え品に交換するという手段は現在最良の方法です。

しかし、交換してしまうと「安心感」と引き換えに、オリジナルのπMOS搭載α907i MOSLIMITEDの音ではなくなってしまいます。安全性を取るか、危険を覚悟してオリジナルサウンドを取るか...悩みました。

3ヶ月ほど悩んだあげく出した私の答えは「オリジナルのπMOSサウンドで逝く所まで行く」でした。よ〜く考えたら我が家には何十万円もする高価なスピーカーなんてものは存在せず、メインのほとんどは自作の8センチフルレンジ(1本3000円弱)なので、仮に逝ったとしてもそれほど痛くはないんですよね(^^;それなら、壊れるまでオリジナルのMOS LIMITEDサウンドを満喫して、壊れたら代替えFETで修理すればいいじゃないかって事でやっと気持ちを整理する事が出来ました。

 

 

それからの作業進行は速かったです(^^;

一気に組み上げていよいよ調整です。

 

いつもそうですが、電源を入れる瞬間ってのは緊張するもんですね。

 

 

 

 

テスターを繋いでDCオフセット及びバイアス電流を調整します。この調整はパワーアンプだけでなくフラットアンプも行います。

このアンプはバランスアンプですので、やはりテスター1台では厳しかったです(^^;2台以上使った方が作業性がグっと良くなりますね。

初段の差動バランス調整VRでHOTとCOLDのバランスを取って、次段の動作電流調整VRで最終的に調整し、その後バイアス電流を調整します。

 

 

 

いよいよ音出しです。

念のため、逝っても良いスピーカーを接続してエージングを行います。

この状態で1時間ほど鳴らしまして、動作がビシっと安定している事を確認しました。いやぁ、気持ちいいです!

ヒートシンクもほんのり熱くなって、イイ感じです(^^;

 

 

 

引き続きエージングを行い問題ない事を確認して、いよいよ外装の組み付けです。

バラバラの状態で5ヶ月程度ほったらかしだったので、ネジが余らない事を祈ります(^^;

 

 

 

 

 

完成です!

作業開始が5月のGW、完了が10月 ですから長かったなぁ(^^;

作業よりも部品入手や作業内容でずいぶんと悩んだり苦労したりしましたが、その苦労が報われます。

 

 

 

試聴...

やっぱπMOSっていいですねぇってのが第一印象。質の高い音とでもいいますか、とても丁寧な表現だと思います。ヌケが良く粒立ちの良いサンスイトーンはそのままに、濃密な情報量 と圧倒的な低音がさりげなくフワっと押し寄せて来る感覚は707iには無いものです。

女性ボーカルなど声がとても柔らかいというか温かいというか、とても優しい感じに表現してくれるのでなんとも心地よいものです。その反対のスピード感や切れ込みの鋭さもある程度持っているというのも凄いです。優しさと力強さを兼ね備え、コクのある音が楽しめる趣味性の高い音といったところでしょうか。スピード感という点ではα707iの方が上かな?気のせいかもしれませんが。

これからエージングが進むにつれて音がどう変わっていくか楽しみであります。オーディオが減退している現代に、このような製品はまず無いです。まぁ上を見れば(聴けば?)キリがありませんが私はとても気に入りました。これはもう家宝ですね(^^;手放す事は無いでしょう!