「ロングテール」、直訳すると「長い尾」ということで、一説にはブロントザウルスやディプロドクス等の竜脚類(恐竜)の長い尾っぽの部分を表しているとも言われ、この長い尾っぽの形状が市場に於ける人気商品とそれ以外の商品との購買状況を示すグラフに似ていることから「ロングテール」呼ばれているらしいです。
本書はアマゾン・iTMS・イーベイ等に代表されるビジネス戦略である「ロングテール・ビジネス」について詳しい内容で書かれています。というかこの本の著者クリス・アンダーソン氏こそが「ロングテール」という言葉・概念を生み出し、その考え方を世に知らしめた方であります。
今までのリアル店に於いては、店舗のスペースが限られていることから商品の入れ替え等を常に考えなければならず、物理的・時間的に限定された状態での商品の販売を余儀なくされていました。
その様な商品販売の形態では、売れ筋の人気商品の占有率が自ずと多くなり、人気の無い商品...いわゆるニッチ商品といわれるものは店頭には置かれる事無く、消費者もそれらの品々を手に入れる機会は極めて少ないという状況が続いていました。
しかし、パソコンとインターネット(特にブロードバンド)の普及により、先に挙げたアマゾン・iTMS・イーベイ等の企業が勢力を伸ばし市場占有率を高めていく中で、人気商品だけが売れるというかつての市場原理から、売れ筋でないニッチな商品も売れそれが市場に大きな影響を与えるようになってきた...。
というのが「ロングテール・マーケット」の簡単な流れでしょう。
何よりリアルな店舗に比べて、パソコン〜インターネット内のバーチャル店舗の場合、商品を置くスペースは無限大なので売れ筋に限らずニッチ商品を置いても経営上のマイナス要素にはならないわけです。更にはリアル店舗では何も利益を生み出さなかったニッチ商品(店に置いていないので利益を生まないのは当然)がネット店舗では、消費者の目にとまり売れることで新たな利益を生み出してくれるのです。
本書では以上の様な内容の「ロングテール」に於ける歴史や、「ロングテール理論」を活かした企業ががどんな戦略をもって経営に臨んでいるか等の説明が詳しく記されています。
紹介しているのはアマゾン・iTMS・イーベイ・グーグル等のアメリカの企業ですが、最近の日本のネットベンチャー等の動向を見ると、日本でもこの「ロングテール」を意識した企業が続々と増えてきていることが分かります。
インターネットの普及のおかげで商品に対する情報量も以前とは比較にならない程増え、それに伴い消費者ニーズも多様化し、かつては誰も買わないだろうと思われていたものが今では売れるようになった事、またそれらを集積してみると売れ筋商品にもひけを取らない程の売上げをたたき出しているという現象は、既に過去の市場原理が通用しなくなってきているのかも知れません。
この本は約300ページとかなり読み応えがあり専門的な部分もそこそこあるので、普段あまり本を読まない方にとっては全部読み切るのは結構シンドイです。
が、今後の市場の変化等を始めとした「ロングテール」を取り巻く環境を解説している本書は、よくある精神論で片付けられているビジネス本とは違って、多くの企業のビジネスモデルを事例にして話を進めているので理解しやすく「ロングテール」というものの本質を見事に捉えています(なんせこの言葉を世に知らしめた方の著書ですから)。
ネットビジネスに携わっている方だけでなく、一般のビジネスに従事されている方にとっても今後のマーケットを考える上で非常に参考になる本であると思います。
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