西域・辺塞の防人 征蓬の歌
構成 関西LG
中国の歴史は古来、異民族との攻防の歴史でもある。
長安を西に出で、渭水を渡り、シルクロードを西に向かえば楼蘭に到る西域である。
漢民族と西域異民族の攻防は永きに渡った。
さまざまな西域異民族の侵入を防ぐため、玉門関や陽関などが築かれ、古くから国境の防衛のため、多くの将兵が赴いたのである。
玉門関を遥かに臨む前線へ出征した兵士の意気を、王昌齢は次のように詠んでいる。
従軍行 王昌齢 独吟T (濱田)伴奏 四本
青海長運 雪山暗し 青海長運暗雪山
孤城遥かに望む 玉門関 孤城遥望玉門関
黄沙百戦 金甲を穿つも 黄沙百戦穿金甲
楼蘭を破らずんば終に還らじ 不破楼蘭終不還
しかし、荒涼として見渡す限り人間の立入りを拒絶する砂漠、灼熱の火の山。
兵士達は限りない孤独と絶望に向き合うのである。
磧中の作 岑参 独吟U(松浦)伴奏 八本
馬を走らせて西来 天に到らんと欲す 走馬西来欲到天
家を辞してより月の両回円なるを見る 辞家見月両回円
今夜は知らず何処にか宿せん 今夜不知何処宿
平沙万里 人煙絶ゆ 平沙万里絶人煙
火山を経たり 岑参 独吟V(高橋)伴奏 四本
火山 今始めて見る 火山今始見
突兀たり蒲昌の東 突兀蒲昌東(とつこつ、ほしょうのひがし)
赤焔は虜雲を焼き 赤焔焼虜雲(せきえん、りょうんをやき)
炎氛は塞空を蒸す 炎氛蒸塞空(えんぷん、さいくうをむす)
岑参もまた、書家として名高く、安禄山の乱でも活躍した友、顔真卿が、遠く西域に赴く惜別に際し、まだ見ぬ辺境への厳しい道のりを思いやるのであった。
[朗読]
君聞かずや胡笳の聲 最も悲しきを
紫髯緑眼の胡人吹く
之を吹いて一曲猶未だ了わらざるに
秋殺す樓蘭征戍の兒
涼秋八月蕭関の道
北風吹断す天山の草
崑崙山南月斜めならんと欲す
胡人月に向かって胡笳を吹く
胡笳の怨み将に君を送らんとす
泰山遥かに望む隴山の雲
邊城夜夜愁夢多し
月に向かって胡笳誰か聞くを喜ばん
[吟] 独吟W(上島)伴奏 三本
君聞かずや胡笳の聲 最も悲しきを 君不聞胡笳聲最悲
紫髯緑眼の胡人吹く 紫髯緑眼胡人吹
之を吹いて一曲猶未だ了わらざるに 吹之一曲猶猶未了
秋殺す樓蘭征戍の兒 秋殺樓蘭征戍兒
独吟X(西村)伴奏 三本
涼秋八月蕭関の道
涼秋八月蕭関道
北風吹断す天山の草 北風吹断天山草
崑崙山南月斜めならんと欲す 崑崙山南月欲斜
胡人月に向かって胡笳を吹く 胡人向月吹胡笳
独吟Y (上田)伴奏 三本
胡笳の怨み将に君を送らんとす 胡笳怨兮将送君
泰山遥かに望む隴山の雲 泰山遥望隴山雲
邊城夜夜愁夢多し 邊城夜夜多愁夢
月に向かって胡笳誰か聞くを喜ばん 向月胡笳誰喜聞
厳しい辺境の守備に赴く若い兵士達の思いは、故郷に残してきた妻子のことであろうか?
兵士たちは、異民族の吹く笛の音に、望郷の思いを巡らせ、明日をもしれぬ運命に涙を流すのであった。
遠く長安の都で留守を守る妻もまた、一片の月の下、家々から響くきぬたの音に、遠く玉門関で国境の守備に当る夫を案ずるのである。
子夜呉歌 其の三 李白 独吟Z(田辺 山根)伴奏 三本
長安 一片の月 長安一片月
万戸 衣を擣つの声 万戸擣衣声
秋風 吹いて尽きず 秋風吹不尽
総べて是れ玉関の情 総是玉関情
何れの日か胡虜を平らげて 何日平胡慮
良人 遠征を罷めん 良人罷遠征
しかし、出征の兵士のうち故郷に帰ることができたのは幾人であろうか?
無残にも砂漠で髑髏となった夫のことを、若妻は戦死も知らず、
毎夜夢に見るのであった。
隴西行 陳陶 連合吟[( 全員)伴奏 三本
誓いて匈奴を掃わんとして身を顧みず 誓掃匈奴不顧身
五千の貂錦 胡塵を喪う 五千貂錦喪胡塵
憐れむべし 無定河辺の骨 可憐無定河辺骨(むていかへん)
猶お是れ春閨 夢裏の人 猶是春閨夢裏(むりのひと)
完