6月1日の住民集会における、小泉教授の話、まとめ


「開けてよ!どーもん・安全と風致風情の維持両立を願い 通行止めの早期解除を協議する住民集会」における、小泉教授(早稲田大学大学院・理工)の話をまとめました。 

【通行禁止に対して】
5月8日に、観た結果をまず言うと、今すぐあんなふうに閉じなくてはいけないという状況ではなかった。

【安定性】
私が見た限りでは、それほど傷んではいない。今解放して、私は安全だろうと思うが、でも解放したときに地震が来るかどうかは分からない。我々理学工学をやるものとして、絶対というものはない。どんな地震が来るか分からない。絶対安全というのは言い切れない。地震というのは不確定な現象なので、何らかの手は入れなければいけないとは思う。
少なくともあのまま放置しておいたら、いつかは崩れる。それが「いつか」、何が起こるか、は分からない。マグニチュード9の地震が仮にも来た時に、そこを通っている人が埋まるということは、あり得る訳ではある。ただあんな短いトンネルで、ぐらっと来たらさっと逃げるというので、大きな問題はないと思うが。
市の方の考えは完全に切って壁にするというのがあるが、切るにしても道路の幅を確保するということになると、かなり垂直に近い切り方なる。自然勾配(砂岩のようなものが崩れない勾配)で切るのは上のお墓が狭くなるから止めろという話になると思う。従って、どうしても急勾配をボルトを打って止めるようなことになる。(図を示し)ここにボルト、ここは植生ができるが、全体はやはりコンクリート。こんなものなら、どこにでもある。わざわざお金をかけて北鎌倉に作ることはないだろう。

【景観と安全】
皆さん方が慣れ親しんできて、小さいお子さん、たぶん小さかった皆さん方も遊んだかもしれないあそこを、残したいという気持ちはよく分かる。ただ、今のまま何もせずに残すというのは、かなり難しい。一番簡単なのは、役所が言っているように切ってしまうことでしょうが、それでは残らない。何とか残したい、とすれば、少しは手を入れないといけない。
(残す工法は)切るのとそうお金は変わらない。その点は、どこまでやるかということによる。(崩して法面を)全部覆ってしまえば安全だと考えても、それは安全だろうとは思うが、しかし、きちんと覆ったとしても、ボルトを打ったとしても、全て絶対安全だというものでもない、地震が来れば。自然現象に対しては、これは絶対だとか絶対安全だとかいうことはあり得ない。我々の世界は確率論だけで動いているわけではない。確率的に理屈から言えばそうでも、「だけど、これは嫌だ」というのもある。そういうところも我々は現場に即して、希望に即して、判断をしていくということになる。だから、景観を保持しながらという話なら、その中でどうしようというような話になると思う。
景観は重要だ。我々も反省している。当時何しろお金がない中で、沢山の橋をトンネルを構造物を作らなくてはならなかった。全くみっともないものを沢山作ってきた。これからは、構造物の機能だけでなく景観も重要である。

【樹根・ひび割れ】
何年か前の調査の結果の、資料写真等を見せてもらった。一番進んでいるのは木の根。前の調査の段階で木の根を切るなり、もうすでに出ていたひび割れを、例えば薬液注入をするなりして固めておけば、こんな状態にはなってなかった、という感じはした。樹木の根が縦横に入って、ひび割れしている。出来ればセメント系のものを注入する。水ガラス系で殆ど色が出ないものもあるが、コンクリートに少し色を付けることができる。コンクリートで壁を作るというのではなく、割れ目から出でくる部分に少し色を付けるということ。かなり綺麗な山が見えているので、切り崩してしまうのは勿体ない。
まず、上の伐採は必要。特に藤の木はどんどん太るので切って、割れ目は固める。表土は残して、紫陽花やツツジ、あまり根が深く入らない植物で植栽をする。潅木であれば問題ない。高木になると根も太り、太い木は自分を支える為に根を張る。竹は下の砂岩の中には入らず、表土の部分を地下茎が伸びていて、割れ目には関与していない。低木のものでなくても、花でも何でも良い。高木が困る。一日でも早く木を切るというのが大切。木は一日一日僅かずつでも太っていく。

【アーチの脚】
ちょうど(安定的な形の)アーチになっているが、駅側が薄い。役所が言うような壊れ方はまずしないと言えるが、あそこを少し補強する必要がある。外からすればよい。アーチは脚が重要なので、駅側に下にアンカーをして、1メートルくらいコンクリートの壁にする。見栄えは良くないが、化粧はしても良いと思う。それから、山側に向かって掘ってこれを綺麗なアーチにするのはできる。こちらを掘れば新鮮な山が出てくる、これはしっかりしているだろうと思う。山側の脚はしっかりしているので、殆ど問題ない。

【アーチの形】
トンネルを上から見ると台形になっている。駅側の坑口(トンネルの入り口)を矩形に補強すると非常に良い。あの形で残らないかというと、そんなことはないが、できれば駅側のところは坑口を少し付けた方が良いかも知れない。今はかなりひしゃげた形の坑口になっている。出来るだけ整形して、平面にした方が歪な力が掛からない。ただそうするとここの景観が(劣る)、化粧は色々するとして。
一方、役所の方をよく見てみると、あそこに道路を通したいということのようだ。それを通すのは不可能ではない。薄い方でなく厚い方だとまだ削れる。今はかなり波型になっているその出っ張りは、少なくとも取っても何の問題もない。もう少し車を通したいということであれば、より奥側に削って、今はひしゃげているそのアーチの形を綺麗な形にすることが必要。そうすれば、盤下げをして、車道と歩道と作ることも可能。下げで溜まる水は、JRのホームの下へ流れて行くようにさせてもらう。

【肌落ち防止】
内側はやはりできるだけ今の状態で、地山(壁)が見える状態でおきたい。コンクリートで覆ってしまったら、何のトンネルか分からない「ただのトンネル」になってしまう。今現在、見た時も、水が漏れるという状態ではない。雨が浸透してきているというようなのが、山は一番壊れやすい。そんな状態にはなっていない。従って、肌落ちが問題。たぶん小さい子が削ったらしい穴があったが、その辺のところを防止するのに、透明な塗料を吹き付ける。高いけれどしっかりしているのはアクリル。そうすれば、中から地山がそのまま見える。
上を削って加重が掛からないようにすることはできる。どこが見たいか、坑口を残したいか、内部を残したいかだ。トンネルの内部を残す方法も、一か所だけというのではなく、出来れば全部残したい。そうすると、肌落ちを防止するような材料を吹き付けるというようなことになる。

【日本トンネル技術協会への委託について】
市が日本トンネル技術協会へ委託したことについて。役人というのは決めたらその通りに進むものだ。その方向に合致する意見、合致する調査結果だけを持ってくる。調査依頼も結論ありきというのが我々の経験では非常に多い。しかし、トンネル技術協会は技術屋の集まりなので、第三者的なきちんとした結論を出す。ただ、情報が与えられていないで「どうだ」と言われたら、強度その他を見て「壊したほうが良い、危ない」という結論になるかも知れない。そこで重要なのは、「景観を保持しながらこのトンネルを維持する、その二つの点が両立するような形で考えるべきだ」というようなことが諮問の内容にあるかだ。ならばそれに沿った形が出てくるだろう。公正中立な結論が出るということは確かだ。だた「このトンネルが危ないか危なくないか」と言われれば「危ない」という結論が出るだろう、何にもしなければ。だから「何かして遺せるか、この景観を保持しながら遺せるか」と、そういう諮問であれば、それに沿った答えが出てくるだろう。

【緊急対策など】
あんなことをして閉じてしまうなら、とりあえず、ライナープレートなどあるので、それを付けて下を通ることができる。何らかの工夫で開通できる。
もし道路を本当に作りたいのであれば、ここでないところを通す。なければ、拡幅するという可能性はあるが、4メートルの道路は難しい。人が通るのは十分。今のサイズを守った安全対策は可能。一番良いのは、人が通って、車はもっと違うところを通すということだ。