風に立つライオン

〜僕は風に向かって立つライオンでありたい〜


収録アルバム:夢回帰線
発売日:1987年7月25日
シングル:風に立つライオン/道/遠い祭
発売日:1987年11月10日
場所:東京都千代田区北の丸公園千鳥が淵
最寄り駅:営団地下鉄「九段下」駅


「風に立つライオン」のモデルについては、すでにご存知の方が多いでしょう。ご存じない方のために説明しますと、柴田紘一郎さんという、宮崎医科大学の外科医の方がモデルです。(「ライオン先生」と呼ばれたりします。)まさしさんが宮崎へコンサート等で行くとき、よく一緒にお酒を飲まれるそうで、お二人が行きつけの「かすみ」というお店はファンの間では有名です。
柴田 紘一郎さんは、昭和15年生まれ、長崎大学医学部卒業、昭和46年から2年間ほどアフリカ・ケニアに医療協力のため派遣されるという立派な経歴の持ち主で、まさしさんとはアマチュア時代からのお知り合いだそうです。


千鳥が淵は、東京都千代田区・・・皇居をぐるりと囲むお濠の一部といえば、ピンとくるでしょうか。ライブコンサートなどで有名な日本武道館がある北の丸公園の西側に、千鳥が淵はあります。ボートハウスにはたくさんのボートが置かれていて、お濠の中でも特に憩いの場所であることがわかります。
さてここの桜ですが、千鳥が淵にそってたくさん植えられていました。対岸(北の丸公園側)の桜との相乗効果で、花見どきはため息が出るほど美しいだろうと想像に難くないです。夜桜は、えもいわれぬほどの妖艶な美しさでしょうね。この「夜桜」の写真をとったときは、また4、5分咲きでした。

突然の手紙には驚いたけど嬉しかった 
何より君が僕を怨んでいなかったということが
これから此処で過ごす僕の毎日の大切な
よりどころになります ありがとう ありがとう
ナイロビで迎える三度目の四月が来て今更
千鳥が淵で昔君と見た夜桜が恋しくて
故郷ではなく東京の桜が恋しいということが
自分でもおかしい位です おかしい位です


そんな美しい夜桜と君との思い出が重なって、故郷の桜より愛しいというのはよくわかりますね。仕事に夢中で、日本にほっぽり放し状態になってしまっていた恋人から来た手紙は、他の人と結婚するという内容のものだったのでしょうか。きっとうらみつらみはいっさい書かれていない、逆に日本から遠い国で頑張っている人を思いやる気持ちがあふれた手紙だったかもしれませんね。そう考えると、がぜんこの女性の魅力が際立ちます。男性から見て、理想の女性像かもしれませんね。

三年の間あちらこちらを廻り
その感動を君と分けたいと思ったことが沢山ありました
ビクトリア湖の朝焼け 百万羽のフラミンゴが
一斉に翔び発つ時 暗くなる空や
キリマンジャロの白い雪 草原の象のシルエット
なにより僕の患者たちの 瞳の美しさ


まるで絵葉書そのままじゃないかという意見もありますが、それまで訥々と語ったいたのが、ここで感情が高まるサビの部分です。この歌を聴くと、パーカッションがアフリカ音楽を連想させるように効果的に使われていると思います。途中やエンディングに使われている“アメイジング・グレイス”のメロディが、壮大さを感じさせます。
歌詩からもアフリカの大自然が彷彿とさせられます。彼がアフリカで何をし、何を見てきたかを想像できます。「100万羽のフラミンゴが一斉に翔び発つ時 暗くなる空」などの表現は、実際その場面を見たことがないとなかなか書けないと思いますが、きっと、まさしさんと柴田先生が親しく語り合ってこられたことが下敷きになっているのですね。主人公はアフリカで医師として勤務し、日本に残してきた恋人がいるという設定になっていますが、これは柴田先生からヒントをいただいたと以前まさしさんは、なにかで言っておられたように思います。

この偉大な自然の中で病と向き合えば
神様について ヒトについて 考えるものですね
やはり僕たちの国は残念だけれど何か
大切な処で道を間違えたようですね


大自然の中の営みのひとつとして繰返される生と死。彼は、医者としてそれを目の当たりにして、何を思っていたのでしょう。優秀で誠実な医者であればあるほど、命の重みを痛いほどに感じるのでしょう。 この歌が発表されたころは、バブル経済が始まったころでしょうか。人々が好景気に浮かれ出し、物質優先の生活になっていく一方で、いじめや犯罪なのの命に関わる精神面は負の方向へ進んでいく。彼がすでに日本に対して憂いていたから、「やはり」という言葉が出てきたのでしょうか。

僕はやはり来てよかったと思っています
辛くないと言えば嘘になるけど しあわせです
あなたや日本を捨てた訳ではなく
僕は「現在」を生きることに思い上がりたくないのです。


辛いけれど「やはり来てよかった」と感じる充実が、彼の置かれた状況を表わしていますね。「風に向かって立つライオンでありたい」という言葉に、アフリカの大自然の中で命の重さまでも受け止めていこうとする決心が感じられます。歌詩から受けるスケールの大きさと、一人の青年のさわやかな生きざま、強さが、この曲の根強い人気になっているのでしょう。

空を切り裂いて落下する滝のように
僕はよどみのない命を生きたい
キリマンジャロの雪 それを支える紺碧の空
僕は風に向かって立つライオンでありたい
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