オムニ今そこにある危機3 第26話 「戦い終わって」

「待っていたわよ」
エクトールがガンを構えた

「待ち伏せか・・誰が警備に当っていた?」
「フレデリカがC559の警備に当っています」
「リサ、機は大丈夫か?」
「問題ありません」
「判った」
禾人が大きく深呼吸した
「強行突破か」
禾人がホバーを発進させようとした瞬間、船体が大きく沈んだ
「何だ?」
「マークが乗ったようです」
「出力がギリギリだぞ」
「マーク降りろ!」
「行ってください、絶対中将を機までお送りします」
張りのあるマークの声が自信を示した
「よし突っ込む、マークに任せたぞ」
「イエッサー」
ホバーのタービンオンが更に甲高くなるとマックスパワーでホバーを発進させた
やがてスモークが晴れるとエクトールが姿を表す

「サムライは流行らないわよ」
正面切ってホバーが接近するとポジトロンガンの射撃が始まった
禾人の視線はエクトールのトリガーを見つめ、トリガーが引かれる瞬間ホバーのサイドスラスターを使って横滑りさせる
「やるわね」

ホバーが全速でエクトールに突き進む
「中将!」
「任せておけ!」
連射されるポジトロンガンをかわし接近、まだマークの反撃は始まらない
「マーク!」
「重量を減らすのに長物は放棄しました」
「おもいっきりが良いな」
アリスが射撃を始めた

「当る物ですか!」
エクトールが避ける
ホバーが横滑りしながらエクトールに砲火を浴びせ掛ける
マークのP226が火を噴いた、エクトールが射撃範囲に入ったのだ

マークは更に禾人の度肝を抜く
「そのまま直進してください飛び掛ってスタンポッドを使用します」
「無理するな、大きさを認識しろ!」
「それよりも中将はライフルを持って基地に急いで戻ってください!」
「マーク死ぬなよ!次の俺のサポートはマークお前だからな!」
「イエッサー」
アリスの砲撃が敵を怯ませる
禾人もマークもハーディもアリスも判っている、巨大な敵に対しては懐に飛び込めば敵は射撃がやりにくい
ビルに隠れたギアの真横を擦れ擦れに通る瞬間マークが飛び降りP226をぶっ放なす
「舐めないでよね」
ギアの蹴りがローダーを捕らえ吹き飛ばした
6m対16mでは大人と子供ほどの違いがある
「寝むちゃいなさい永遠に」
ポジトロンガンが火を噴く、マークは慌てて避けた
「X4の反応限界!」
ビームが機体をかすめる
マークの操縦速度にX4の動きに遅れが出始めた
「格闘戦が出来ないなら、危ないかな私・・」
P226で応戦するがギアはバーニヤで飛び回り軽々かわす、射程もP229では届かない
「ビームの方が50m長いてっか・・参ったなぁ・・あれは!」
マークがX4を駆けさせる、と言ってもマークの思ったような動きではない
目指す先にはP−9が落ちていた『なぜ』と言う考えよりも早く拾うと射撃を始める
「チィ!」
P−9はマークが飛び降りた後禾人がホバーの銃座にセットした物をマークのために放出して行ったのだった

「フレデリカ!ライフルとジェネレーターを早く下ろせ!」
C559に乗り込んだホバーからライフルとジェネレーターを下ろし始めた
「このまま飛んだ方が早いです!」
「リサ!俺はもう一度出るマークの援護だ!」
「では待ちます!」
「ダメだ!お前はマークや俺たちが命がけで奪取したライフルを早く基地に持って帰る事が任務だ、早く行かないと敵の追撃隊が来るぞ戦闘機と輸送機では勝負に成るまい」
禾人の予測は当っていた、CCRからの連絡で敵の本隊が其処まで来ている事がわかった
「敵航空戦力は10分で到達予定!」
禾人がホバーを貨物から出すとリサは飛び立っていった
「ミノル!リサの護衛に付け!」
「イエッサー」
ホバーの重みがなくなり禾人の補助でアリスが砲座に残った
「さあ行くぞ!」
「こちらジャッカル1、シルバーフォックス全機へ撤退命令発令です3分後に空港へ集結してください」
マークの目に禾人のホバーが入った
「乗れ!マーク」
「サー!」
「派手にやられたようだな」
「P−9が無かったらもっと酷かったです、P−9は中将が置いて行ったのですか」
「軽くするのに除装しただけだ」
「そう言うことにしておきます」
「さあ空港に戻るぞ」
「ファン中佐たちの援護には行かないのですか?」
「輸送機の護衛だ輸送機が破壊されては逃げ道が無いからな、しかしエクトールの行方が判らんとどうしようもないが」
2機の戦闘機が禾人の上空を通り過ぎた
「チィ!もう着やがったか!」
戦闘機の放ったバルカン砲がホバーをかすめビルの陰に居たエクトールにヒット
「オムニ軍?」
「F−321ですね」
「A321のファイタータイプか」
F−16ファイティングファルコンに似た形の奴である
「こちらエンジェルウィング、ジャッカル応答願います」
「こちらジャッカル、セシルか!」
「メリサも居ます」
「どこから来たんだ、早いじゃないか」
「C559に積んできたのです」
「そうか、助かったよお前たちは空から総員撤退までエクトールを威嚇していてくれ」
「判りました、総員乗り込み次第機を放棄、輸送機を離陸させます」
ローダーを回収して積めなくなったF321を放棄するのだ
「戦闘機の燃料はどの位ある」
「2500ガロンです」
「オムニシティまでは持つな」
「持ちますけど?」
「輸送機はこちらで飛ばす、エスコートしてくれ」
「一機捨てるんですか?」
「2機とも飛ばす、気にしないで敵の威嚇に専念しろ」
「ラジャ!」
禾人が笑いながらアリスに言った
「お嬢様が空軍だったのを完全に忘れられているな」
「陸戦が長かったですから」
「シミュレータ訓練は受けているだろ」
「もちろんです」
「アリス2番機を頼む、俺は3番機を飛ばす」
「イエッサー」
空港警備にあたっていたフレデリカにマークが合流、ホバーを2番機に付けるとアリスが乗り移り機体のチェックを始めやがてエージングに移っていった、禾人もホバーを格納しチェックを終わらせ離陸準備にかかった
「マーク、アイクお前たちは俺の機に乗れ、ファンチームが2番機に乗り込むまで援護だ」
「イエッサー!」
2分30秒フェイルンが2番機に滑り込んだ、続いてジュリィ、ミチコ、ミリー、アニタが乗り込むと同時に後部ドアが閉まり離陸体制に入った。
「中将、2番機発進します」
「了解!こちらもファンを収納した離陸にかかる」
アリスの横にジュリィがコパイで着いた、禾人の横にはマークである
「離陸ブースターを使う何でもいいから捕まれ!」
アリスの離陸がが終わると空かさず禾人は滑走路へ機体を出しブースターを噴射させ離陸に移った
「行かせるか!」
ポジトロンガンを撃ちながらエクトールが迫り来る
輸送機は既に160ノットを越えローテーションに入る高度600mエクトールの射程外に達すると禾人の顔から険がとれた
「上がったか・・エンジェルウィング、エスコートを頼む」
「イエッサー、中将ところで2番機は誰が操縦しているんですか?」
「アリス大尉だ、エリオラより上手いならエリオラ陸戦に廻してエンジェルウイングにアリス乗せるか」
「それもいいかもしれませんね」
「メリサが相槌を打ったとエリオラに言っておこう」
「それは勘弁してください」
後方警戒レーダーに機影が入ってくる、8機の敵である
「さあ来たぞ、こちらは回避運動に入る、メリサ、セシル頼むぞ」
禾人がマークに指示を出す
「チャフ放出管チェック」
「1番から6番オールグリーン」
「デゴイ放出管チェック」
「1番から6番オールグリーン」
「ジャミングユニットチェック」
「オールグリーン」
「戦域を高速で脱出する、フルスロットルアフターバーナーオン」
「エアフォースベース1、こちら独立軍ジャッカル給油を要請する」
「こちらオムニ空軍管制ジャッカル了解した、なお15分前にメテオストライクが援軍に出た到着は15分後」
「ラジャ」
「15分か・・長いな」
「上昇します」
マークが操縦桿を引き高度を上げる、高度30000フィート通常の高高度降下の高さである
「超高高度降下の位置が取れれば戦闘機も上がって来られなくて良いんだがな」
「C559で高度90000フィートは無理ですよ」
「だが70000フィートなら可能だろ」
「実用限界ですね、ファン中佐、アイク気密室に移ってください」
気密室にロックが掛かると機が急上昇を始めた
「70000フィート敵機の限界が65600フィートか」
「4400フィート気休めですね」
「やる事はやらないとな」
「敵機こちらを追跡中、アリス機には追跡は無い模様」
「此れに俺が乗ったのでライフルが積んであると思ったか?」
「そうかも知れませんね」
「だったら都合がいい、リサとアリスを逃がす囮になる」
「乗せた責任ですか」
「アリスは最近実戦で乗っていない、乗せてしまった以上責任があるからな」
「普通一兵士に責任を考える将軍は居ないですよ」
「俺も戦場に出ている以上一般兵士だよ、兵士が兵士の事を考えるのは当たり前だ、ただマークとファンとアイクを巻き込んだのは心苦しいが」
「そう思って頂けるだけで嬉しいです」
「そうか、しかし助かったなマークが訓練で輸送機飛ばしていてシャトルの訓練って難しいのか?」
「興味あるのですか?」
「一度は上がってみたい俺の飛んでいる空と違う宇宙を」
「この戦争が終わったら私が連れて行ってあげます」
「ホントか約束だぞ」
「ファーガーソン少将が会いたがっていましたから許可は直ぐに下りますよ」
「ファーガーソンが・・そうか」
マークの目にレッドランプが映った
「後部警戒レーダーに感2距離3000、ロックされましたジャミング開始、チャフ放出準備、デゴイ発射準備完了」
「さてミサイルのタイプはどれで来るかな」
「レーダーロック、スパローです」
「チャフ散布開始」
「一番解放チャフ放散中」
「マーク、ファンの所へ行ってパラシュートを着けておけ」
「なぜ?」
「この機で木の葉落しを一か八かやらねばならんかもしれん、脱出できる準備をしておけ」
「判りました」
マークが席を立ち後部気密室へと入って行く、
「何だマーク」
「中将がパラシュートを着けろと」
「何をやる気なんだ?」
「機体を落とすようです」
「落とすって?」
「失速させて機体を落下させるのですが、輸送機では翼に荷重が掛かりすぎて折れる可能性があるので私たちだけに脱出の準備をと」
「中将を残してマークはそれで納得できるのか?」
「射出装置が付いていますので中将なら大丈夫です、心配する必要はありませんもし中将が気にする事が有るならばそれは、私たちの脱出タイミングそれをクリアーする為協力しなければ」
「判った」
3人はパラシュートを装着する
「準備完了しました」
「もしもの時は指示に従え安全に降下させる」
「サー」
高度70000フィート敵機は後方斜め下に付けている機数一機、メリサとセシルが健闘して輸送機に到達したのは1機
サイドワインダータイプのミサイルを確認した禾人は、発熱デゴイを射出
「後残り2発か、スパローにサイドワインダーどちらが来るか」
どちらでもなかった両方同時さらにアフターバーナーを噴かして迫り来る
「ミサイルだけなら良いがバルカンの射程に入れる気か!」
禾人の出が全てのチャフを一気に放散
「マグネシウムチャフ放出」
通常のアルミニウムチャフに加え特殊マグネシウムを放出した
「さあ来いファイヤーウォールの餌食にしてやる」
禾人が発熱デゴイを放出した瞬間機体後方で炎が渦巻いた、発熱体がマグネシウムに引火さらにアルミニウムに燃え広がりファイヤーウォールを形成しミサイルを粉砕、敵の目をくらました
「落とすぞ!掴まれ!」
ギヤダウン一気に失速40000フィートを落とす無重力状態になった3人、マークを除いて必死に浮いた体を押えようとしがみ付いている
「流石、宇宙軍何でもないのか」
「此れくらいは、でももうソロソロ終りですね」
一気に重力を感じる、アイクは床に叩きつけられた
敵機はファイヤーウォールを抜け輸送機を探し回るが其処には居ない遥か低空を飛んでいる
「ジャッカル、こちらメテオストライク其方を確認した後は任せてくれ」
「後は頼む」
「良い旅を」
「ありがとう」
禾人がジャケットを緩め首を手で摩った
「中将どうぞ」
マークがミネラルウォーターを差し出してくれている
「悪いな」
「操縦代わりますから休んでください」
「ああ頼む」
操縦桿を離し椅子を倒した
禾人の体は疲労困憊、顔にもその疲れが表れていた
「マーク、コイツを一人で基地まで持って行けるな」
「ご要望と有ればグライダー飛行で着陸させて見せます」
「そうか、ではエアベース1に着陸させてくれ俺はSRF−2をもって帰る」
「判りました」
今日はカーゴバードを操縦ローダーで戦いホバーで援護、最後は輸送機で木の葉落しまでさらにSRF−2の操縦めまぐるしい一日
禾人がマークの横顔を見つめているノエル以外の女性を見つめたのは久々だった
「何かついていますか?」
「目と鼻と口」
「耳もあるはずですけど」
「そうだな・・」
「あと10分で空軍基地に到着です」
「さて忙しい時間の始まりだ」
禾人は椅子を起すと操縦桿を握る
「フルフラップ」
「ギアダウン」
「ビーコンに乗るぞ」
「フレアー通過」
「タッチダウン」
「お見事」
「給油を済ませてホーリーウィングまで操縦を頼む」
「イエッサー」
禾人は降機するとSRF−2へと向かって行った
「禾人!」
「指令!」
禾人が敬礼した、戦時中親も子もない、穏な時ならふざけた態度も取るが今は規律を重んじ指揮系統を明確にする
「失敗したか」
「仕方ありません、フェイルン中佐の躊躇いわかります」
「厳しくなったな・・」
「ただ敵の新兵器と素粒子対消滅リアクターの現物を奪取してきましたので、ある程度力の差は詰められましょう」
「軍の開発部には伝えんのか?すぐに応援部隊を送ってもらえるが」
「そして、SRF−2のステルスシステムの様に情報が敵に伝わる」
「スパイの心配か・・」
「今回は腹心のみで分解、システムの解析しオムニ軍用に開発します」
「間に合うか?」
「無理だと思います」
「言い切るか」
「はい、材料の問題が山積しています此れを何とかしなければならないのですがアスクル陥落が更に響きそうです」
「お前の事だアスクルと判っていたんだろう、だったら軍総省に報告すべきだっただろ」
「雪人との決着の場所として判っていました、内通者からの情報で目標を変えられたら元も個も無くなります」
「だが決着もみず、アスクルを占領させては話に成らんな」
「それについては言葉もありません」
セシルたちが帰ってきた、それを見届けるかのようにC559が飛び立つ
「二人を連れて帰るか、土田空軍総指令援軍ありがとう御座いました」
「土田独立軍中将気を付けて帰りたまえ」
「ハッ!」
SRF−2に乗り込みセシルとメリサの乗り込みを待つ
「お待たせしました」
「今回は大活躍だったな」
「空軍指令がF321を積んで置いてくれたので助かりましたね」
「流石に禾人パパだけあるわ」
「フ・・そうか・・では家へ帰ろう、帰ってからやらねばならない事も有るしな」
爆音を響かせSRFは飛びたった
「レーダー前方にC559の機影確認」
「マークだな」
前方に出て気体を降り合図すると更に加速、空中給油を済ませて先を飛んでいたアリス機を追い越す
「お嬢様は安定した飛行で良いじゃないか」
「アリス大尉が空軍だという事忘れていました」
「アリスは良い腕していたと言うか、今から鍛え直せば2週間で最前線に投入できるな」
「ウィングに編入させる気ですか?」
「其処までしたら幾らなんでもハーディが黙っていないだろう」
リサ機が見えてきた追随してSRFファイヤーバードことミノル機が就いていた
「早いなぁこの機」
「偵察戦闘機ではオムニで一番だからな」
「先に帰って風呂入って待っているか」
アフターバーナーを吹かしてどの機よりも早く基地へと着いたのだった
基地に着いた禾人は報告もせず、バイクで基地を出て街のサウナへと走っていった

「あと1時間で基地です、2番3番機は30分遅れで到着予定」
「中将は既に着いているんだろ」
「そうですね、中将また町に出て行っているんじゃないのですか」
「何でそう思う」
「サウナでしょ、硝煙の匂い落とすのに垢擦れられているんじゃないですか」
「硝煙のにおいか」
「血の匂い、硝煙の匂い、中将の一番嫌いな物です」
「嫌いで中将まで伸し上がるとは」
「嫌いだから早く無くしたいのでしょ」

ザブ〜ン水音が響いた、水風呂に禾人が飛び込んだのだ
星空を見上げ水風呂に浮く、この寒い中外の水風呂に飛び込むのは禾人ぐらいである
水に浮びながら今回の負け戦ある敗因の処分を考えていた
「示しを着けなくては成らないか」
水風呂から上がった禾人の体から湯気が上がる
武術の形を行なうと風呂から出て行った

基地に着いた輸送機からライフルが降ろされる
「無事着いたようだな」
「中将、またサウナですか?」
「ああ」
「禾人、また凄い物を持って帰ってきたな」
「ハッ、大将!」
「相変わらず良い仕事をする」
「いえこれは私の仕事ではなく、ハーディ大佐のチームの仕事です」
「そうか、よくやった」
「ありがとう御座います」
「ところでフェイルンの処分私に任せてもらえるかね」
「いえ私が直接処分いたします後任はマーク中佐、フェイルンは少将付きにする積りです」
「それで済ますか・・」
「今は私の部下です」
「総隊指令は私だ」
「今回だけは大目に見てください」
「そう言えばお前の件もあるな、ただし一度だけだ良いな」
「ハッ!」
禾人とフェイロンの会話の間に2番機が到着しファンたちが降りてきた
フェイルンが禾人の前に立った途端禾人の平手打ちが頬を捉えた、フェイルンの体が浮くぐらいの強打である、更に往復手の甲で逆の頬を打ったフェイルンの顔が見る見る腫れ上がって行く
「ヤオフェイルン中佐!命令不服従により2週間の営倉行き、中将付きを解任、ノエル少将付きとする、MP!」
禾人の合図でMPがフェイルンを連れて行った
「中将!・・」
セルマ達の抗議をハーディが遮った
「大佐!なぜ!」
「私たちが抗議しておく、お前たちはやる事が有るだろう」
「イエッサー!」
禾人がフェイルンの機から戦闘データーチップを抜き取った
「さてどうした物か・・」
「中将!」
「何だエリオラ!」
「お話があります」
「お前がドールズを代表して抗議か」
「そんな所です」
「コンテナで話を聞こう」
禾人の後についてエリオラがコンテナに入った
「まあ架けてくれ」
「リサ悪いがショットグラスを出してくれ」
「エリオラ中佐珍しいですね」
エリオラが紙袋をテーブルの上に置く
「民族の酒です」
「ウォッカか!」
「フェイルンを庇っていただいたお礼です」
「庇ってなんかいない」
「第一級国家反逆者の逃亡幇助、営倉行きだけでは済まなかったはず記録チップも中将が抜き取ったのもその為でしょ、ヤオ大将なら娘であっても軍刑務所送りは間違い無いとおもいますが」
「良くてな、銃殺も中にあったぞあの顔は・・」
「其処までは幾らなんでも・・」
「いやあの人なら必ずする、俺に念を押しやがった今回だけだと」
「そうですか」
リサがグラスを置きながらキムチも差し出した
「キムチ?リサがつけたのか?」
「お嫌いですか?」
「大好物、辛いのが好きだって知らなかったっけ」
「中将は昔から辛い物良く食べていましたよね、悪戯してカレーにタバスコ大量に入れて出しても平気で食べて涼しい顔しているし」
「あれお前達だっがのか」
「そうですよ、悪戯しても女性陣だと笑って許してくれるから」
「そう言えばこんな酒もあるぞ」
禾人が出してきた酒はテキーラの唐辛子入り
「辛い物はストレス発散になるらしいから結構飲んだりっ喰ったりしている、どうだこれ」
「いいですね、ではドールズ中佐以上の幹部から感謝とお詫びをこめてお酌いたします」
「お詫びって?」
「セルマ達の抗議です、ハーディが甘やかし過ぎたと言っておりました」
「まあ良い、ただ戦時中に置いては軍規を重んじるように言っておいてくれと伝えてくれ」
「判りました」
扉が開きマークが入ってくる
「今日からお世話になります」
「ああよろしく頼む」
「派手にやったようですね、腫れ上がりが尋常で無かったですよ」
「見てきたのか?」
「引き継ぐ事だけ話してまいりました」
「そうか・・」
「生きているから腫れ上がるのです、死体よりは良いと思います」
「クールだな」
「友人が作業中宇宙空間に投げ出されて戻らぬことがしばしば有りました油断は死に繋がります、教訓は常に冷静であれ」
「雪人を今度こそ仕留められそうだ」
「中将に栄光を必ずお届けします」
「マーク、栄光はお前が持てれば良い、私が欲しいのは日々の平穏だ余計な栄光は喧騒しか呼ばん」
「ノーゲットですか・・中将逃げられませんよ此れだけの人望がある以上もっと集まって来るでしょう」
「そうかね」
「そうですよ、大体私まで虜にしたのですから」
「エリオラ中佐そんな事言って大丈夫ですか」
「中将なら抱かれても問題ない」
「エリオラなら私も許しましょう」
エリオラの顔が青ざめたノエルが何時の間にか立っているのだ
「少将!」
「あなた、エリオラ中佐なら許しますよ」
「やけにあっさりしているな」
「リサは可愛いタイプ、エリオラは美人それも超の付く位、貴方の場合可愛いイコール愛しいに成りかね無いですから美人なら大丈夫でしょ」
「よく判ってらっしゃる」
ノエルがテーブルの上を見回しながら
「あら、キムチですか?ウォッカにテキーラ良いですね」
「飲む気か!」
「フェイちゃんの事で落ち込んでると思って大将が一緒に飲んで来いと此れを戴きました」
「マオタイか・・きついのがまた揃ったな・・」
ノエルが現れて飲むと言ったときからリサの目は扉を見ている
隙があれば逃げる事を考えているのだ、だが次の瞬間
「この前話が出来なかったのでリサ私の横に座ってください」
禾人たちの宴が始まるころ営倉で顔を冷やしながら涙を流すフェイルンであった

オムニ今そこにある危機3 第27話 「真夜中の来訪者」

マークの横に禾人が寝ている
ジッと空を見上げるマーク焚き火が二人の寝袋を暖めている
禾人は部隊の撤退援護にマークとのコンビネーション合わせの為出撃してきたのだ
「眠れないのか」
「ひさしぶりにノンビリと星空を眺めていました」
「砂漠の真ん中に取り残されてリサの救援を待たなくては行かないとは」
「作戦は成功しましたし遅れた兵の脱出に協力してしんがりは上手く行きましたから」
「良しとするか」
「そうですね」
「眠れないのならコーヒーでも入れるがどうだ?」
「いただきます」 
ポットに水を入れコーヒーを豆のまま打ち込む
「此れで煮出せばアラビアンコーヒーだ」
禾人が目を向けるとマークが星を見上げている
「どうした?」
「人工衛星の動きがおかしいのです」
「よく判るな・・」
瞬く星の中にゆっくり動く光を指差してマークが説明する
「静止衛星だと思うのですが軌道修正が始まっているのです」
禾人はコンピューターを取り出しマークに渡すと
「マグナフォンを繋げば偵察衛星軌道、静止衛星位置がわかるだろう」
「宇宙軍データーバンクから引き出せます」
「何かいやな予感がする」

ジアス東部方面軍司令室では
「やめた方が良いと思うが」
杖をついた雪人がカルツォーネを話している
「なぜ?兄が怖いのか?」
「心臓を打ち抜いても飛び掛ってくる様な人間に恐怖を感じて悪いか」
「ならば眉間を打ち抜いて止めを刺せばいい」
「アイツは狼か・・狼と見ているならば狩をするのが上手い事も忘れない方が良い」
「中佐あと30分で衛星は奴らの頭上に達します」
「強襲部隊はどうなっている」
「奴らから20分の位置に達しています」
「そうか、雪人見ているといい我々の戦術を」
「・・」
「雪人、ジアスのことはほって置いていいお前は今後のオムニの事を考えていればいい」
「ワイストマイヤー少将」
「禾人の恐怖は対峙した者でしか判らない経験すればいい」
「10人を見捨てろと」
「禾人の言いそうな言葉だぞ」
「兄弟である事は一生変えられません」

「こちらの衛星ではないようですね」
「あと何分で頭上に来そうだ?」
「20から30分で到達すると思います」
「忙しくなるぞ、お客さんが来る」
「?」
「特殊部隊が暗殺に来るのさ」
「どうします?」
「あいつらどうせ此方が気付いているのが解かっていないだろう、ワナを張ろう」
「ワナ?」
「石を暖めてくれ、銃を用意する」
「どの位暖めるのですか?」
「出来るだけ多く」
マークが石を集めて焚き火にくべる
禾人が対人バルカンとモーゼルを出してきた
「マーク、モーゼルは使えるな?」
「自分の銃がローダーに積んでありますのでそれを使います」
「そうか」
「シート二枚用意しました」
「解かっているじゃないか」
「スタングレネードを焚き火の燃えかすに仕込みます」
焚き火の両脇に人形に盛り上げられた砂其処に暖めた石を仕込みシートをかける
「さて砂に潜るか、マーク今日のはエグイぞミンチ・・」
禾人が目を疑う銃身の詰められたその姿に覚えがあったH&Hのダムダム弾を打ち出す銃、殺傷力重視である
「確実ですから」
眉一つ動かさぬマークに禾人が笑って言った
「非人道兵器だぞ」
「寝込みを襲う者に人道的もないでしょ」
「それはそうだが」
「撃てるかどうかが心配なのですか?」
「ああ、反動デカイから一寸不安だ」
「訓練していますから大丈夫です」
「そうか・・では砂に潜ろう」
耐熱テントの上に砂を被せ間に入る
「そろそろ上空に来ます」
「音響探査のスイッチを入れる」
やがて足音が聞こえてきた、指で人数をマークに知らせる
『ローダーに二人、焚き火に八人』

「此れで全てが終わる、雪人見ておけ」
「兄貴に全てが破壊される瞬間をか?」
「そうだ全てを破壊した報いで全てが破壊されるのだ」
「?」
「中佐、計算が終わりました48時間です」
「48時間、今から24時間で全てに形が着く」
「何のことだ?」
「カシアス統治区提督殿の知らなくていい事だ」

「行くぞ」
マークが号砲一発ローダーに近寄った敵を吹き飛ばす
同時に燃えかすに仕込んだスタングレネードが発光、敵の暗視装置を襲った
禾人の対人バルカンが敵を打ち倒していく、強力な貫通弾は敵を打ち砕き血しぶきが砂を赤く染めあげる
「一人逃げました!」
禾人が背負っていたバルカンを外し手にはモーゼルを握り走り出す
「何で早いの?」
禾人は砂に足を取られる事も無く走っていく、逃げ出した敵は砂に足を取られて走れない
「このやろー!」
禾人が飛び掛り押さえ込む反撃に身構えたが震えている若い兵士だった
「手を頭に組んで立て」
禾人がモーゼルを構え指示を出す
マークの所へ連れて行くとマークは位置を変えて焚き火をしている
「座れ!靴と靴下を脱げ!」
兵士は震えながら指示に従う
兵士の背中に乗って押さえつけると後ろ手にして親指同士を糸で縛り上げる更に足の指にも同じ事をした
「大丈夫なんですか?」
「試してやろうか、此れがどんなに凄い拘束力があるか」
「いえ、中将が言うのなら間違いないですから遠慮しておきます」
マークがカップにコーヒーを注ぐ
「ポットは大丈夫だったか」
「はい」
差し出されたカップを受け取ると捕虜を眺めた
「?」
怯え方が尋常ではないのだ
「何を隠している!」
「!」
口から血を流している、猿轡をかませているので舌を噛む事は無いはずである
「青酸?・・」
轡を外して口を覗き込む
「歯に舌で開く仕掛けか」
「相手がルシファーと判っているから死ぬほうが楽と考えてのでしょうか」
「そんな事は無いだろう、自白は催眠法を使って苦痛も痛みもない」
禾人が死体から指紋を撮りだした全てで10体
「マーク、マフィルに送って調べさせろプロなのかアマなのかで推測が変わってくる」
「判りました」
禾人は更に死体の持ち物を調べ出した
「中将、宇宙軍が頭上の衛星を掃討するそうです」
「そうか」
ポケットから荷物全てを調べる
「キャメル式の水筒か・・随分水ばかり持ってきているな」
「砂漠だと水は貴重ですから」
「いや、この時間帯に済ませて帰れば水は然程いらないだろう、それに戦闘時に背負っている事は無い」
「化学兵器?」
「だったら既に我々は死んでいる」
「何かいやな予感がする・・リサに迎えに来ない様にまたCDCから移動隔離ユニットを借りて迎えに来るようスコルピオン対生化学部隊に連絡してくれ」
「汚染ですか?」
「確率は低くない、汚染されたまま生かして返し隊中にばら撒かせる、悪くない作戦だ」
「彼らは一体どうして?」
「死兵、特攻部隊だろうそれにしても若い奴らばかりとは・・」
「宇宙軍から衛星の処理を終わったと報告が入りました」
「一つ減ったか」
「CCRからCDCが直接迎えに来ると連絡がありました、護衛にスコルピオンが付くそうです」
禾人が大きめの錠剤を飲み込んでいる
「なんですか?」
「特殊抗生物質だ」
「私にも・・」
マークが言いかけたとき禾人が先に言い出した
「条件がある、実は実験段階の未認可薬品だ、現状確認されているオムニの全ての細菌ウィルスに効力がある・・ただ・・」
「ただ?」
「サルの実験では10匹中3匹に異常が出たと聞いている」
「でもなんでそのような物を持っているのですか?」
「緊急用にとジャンが渡してくれたものだ」
「サルの異常の内容は聞いているのですか?」
「聞いていたら飲めないよ、ただ一言死んではいないと解かっているぐらいだ」
「だったら私にも下さい」
「臨床実験は済んでいないんだ、保障は出来ないが良いかね?」
「構いません」
禾人が抗生物質をマークに渡した
「効果は16時間だ、時計を合わせておけ」
「判りました」
「CCRよりジャッカルへ」
「此方ジャッカル」
「CDC本部よりDrマリアノルンが向かいました、また軍総省より対生化学部隊研究班が出動」
「モルモットかよ・・」
「仕方ありません、検査で何も無ければ問題はないのですよ」
「わかった我慢するよ」
「ところで私たちは何処に連れられていくのでしょうか?」
「レベル6の施設と大将の方へ連絡があったようです」
「オムニ伝染性疾病隔離研究センターか!」
「アルカトラズ!」
「あそこしかバイオハザードレベル6の設備はありませんね」
レベル6設備オムニにおける原因不明の疾病に対する隔離施設でオムニの病原菌にて多くの人命を失った苦い経験の上で作られた設備である
「ただ、助かったのは軍の設備ではない事だなCDC主導なら安心できる」
「強制的に主導権を取られたら・・」
「Drマリアノルン、俺の姉さんだもし強制を受けたらすぐさまノエルの部隊が制圧する」
「でしたら安心して行けますね」
「行くのは良いが出てくるときは、ちゃんと二本の足で出てくる事を約束してくれよ」
「中将も小さな箱で出て来ない様にしてくださいね」
「ああ、」

「全滅か・・」
「まあ予定通りだ」
「ウイルスを使ったのか?」
「勘が良いな、土田総督」
「馬鹿な事を、新型のウイルスなら直ぐに解析される」
「汚染されたのが気が付けばな」
「土田禾人を舐めすぎだ、アイツは危険を感じればどの様な事をしても回避する」
「過大評価もいいところだ」
「兵だけでなく偵察衛星も失った事を考えてみればよく判る事だ」
話を割って一人の兵士が雪人に報告をする
「土田大佐、偵察衛星の映像からCDCに動きがありました」
「言わない事はない」
「しかし、あの新型ウィルスは発病すれば命は無い少なくとも土田禾人を始末できる」
「ならば良いが、カシアス地球連合がB兵器を使った事が宣伝に使われないように気を付けろよ」
「あの核と同じようにか?」
「そうだ」
「まあ気をつけよう」

日も高くなった頃マリアの部隊が到着した
軍の対生化学部隊研究班も同時に到着
「禾人お待たせ」
マリアである、特殊密閉保護スーツに身を包み禾人の前に現れた
「早かったですね」
「生物兵器なら早急な対処が必要だからね」
軍の部隊が死んだ兵士の回収を始めた
「ねえさんこれを」
禾人が軍に見つからないようにパッケージをマリアに渡した
「あいつらに渡したくは無いか」
「命の綱だからね」
「教えたとおりに保存していたようだね」
「熱でやられないように対処はしておきました」
キャメル式の水筒である、のみ口は堅く閉められたままの状態で確保していた物だ
「其れではパックに入ってアルカトラズへ連れて行くわ」
「お手柔らかに」
「マークさんだっけ?乗ってね」
「はい」
「ドクター一寸待ってください、中将に聞きたい事が有るのです」
軍の部隊である
「早急な搬送が必要と考えています、聞く事が有るのならばオムニ伝染性疾病隔離研究センターで」
マリアが二人を隔離ユニットに乗せるとエアロックが掛かる、オムニ伝染性疾病隔離研究センターに着かなければ開く事は無い棺おけである
「アルファよりイレブンへ」
「此方イレブン」
「アルファは離陸する、空中機体消毒の準備に入れ」
「了解」
ジェットヘリが離陸すると二機のヘリが近寄り機体に消毒液によるジェット洗浄が開始されると同時に後部マリアに対しても消毒が行なわれる、操縦席は完全密閉型のためパイロットには行なわれないのだ
消毒液が満遍なく掛かったのをマリアは確認する
やがて乾燥した頃スーツを脱ぐと禾人達をモニター越しに問診を始めた
「熱や痛みは?」
「有りません」
「吐き気腹痛は?」
「有りません」
「頭痛、皮膚の異常は」
「有りません」
「視力の低下、見難いと言ったこは」
「ありません」
「喉を見せて」
禾人がカメラに向かい口を開くとマークがクスクス笑った
「はい良いわよでは次の人、禾人は血圧計ね」
「なるほどな笑うわけだ」
禾人は自動血圧計に腕を差し込みながらマークを見ている
「今のところ異常は無いようだけど・・ところで何か飲んだ」
「CXP33を念のため飲んだ」
「CXP33?」
「姉さんも知らないのか」
「軍で開発した物なの?」
「いやジャンの組織というかコルリオ−ネG傘下の製薬会社が開発中のものだ」
「その薬品を調べないと対処の医薬品が投与できないわね」
「あと7時間で効力は無くなる筈だが」
「血液とる・・誰か連れてくるんだったわね」
「俺やるよ」
「出来るの?」
「死にかけた奴を楽にしてやるのにモルヒネの静脈注射覚えたよ」
「そう、注射器はそっちの引き出しね」
「マーク腕捲れ」
マークが腕をまくるとゴムバンドで縛り血管を浮き出させる
「一寸痛いぞ、でどの位抜くんだ」
「3本抜いて」
試験管を次から次へと差し替えサンプルを取った
「中将の番です」
マークが見よう見まねで採取を始める
「血管が太いから素人でも出来る、落ち着いてやれ、そうだ一本が入ったら次だ」
マークの落ち着いた仕事振りは相変わらずである
「針に残ったサンプルを顕微鏡にセットして」
「俺がやるのか?」
「操作は此方からするから」
禾人とマークの血がセットされると遠隔操作でマリアが調べ始めた
「異常はないようだけど・・ん?」
何がおかしい・・
「禾人、電子顕微鏡にもセットするからサンプル作って」
「人使いが荒いな」
「発病するまで扱使うから」
「ああ良いとも」
「凄いお姉さんですね」
「ノエルの姉さんだからなぁ、ノエルの十分の一も女らしさがあれば結婚もしていたろうに」
「なんだって禾人!誰が男にしてやったと思っているんだ」
マークがクスクス笑う
「中将は怖い物なしと思っていましたがお姉さんには敵わないんですね」
サンプルをマリアの指示通り作りながら苦笑いをした
CXP33効力の限界まで2時間と言う所でオムニ伝染性疾病隔離研究センターに到着
「レベル6エリアまで荷物を一気に降ろすわよ」
搬送エレベーターに隔離コンテナごと乗せられて地下100mのレベル6エリアへと降ろされる
「禾人エアロック開けるから隔離室に移って、食事もベッドも用意してあるから」
「ああ、マーク大丈夫か?顔が赤くなったぞ」
「一寸熱っぽいんですが・・」
「禾人どうしたの」
「マークがおかしい」
マークを抱きかかえベッドへ運ぶ
「服を脱がして水冷ユニットを腿の付け根と首、脇の下にセットして」
「俺が脱がすのかよ!」
「得意でしょ!」
「ばか!ノエルだってやっとコルセット取ったんだぞ!」
「ぐずぐず言わない!急ぐのよ!」
禾人はぐったりしたマークを見て慌ててセットを始めた
「直ぐに看護士入れるから、ところで禾人は大丈夫なの?」
「今のところは異常無い」
センサーをマークの体に取り付けていく
体温40.5、血圧170−115、脈拍160脳波の乱れ、呼吸数50
「体力の差かしら?」
「Drマリア、それらしいウィルスが電顕で出てきました」
マリアの姿が消えて禾人が不安になるマークが心配なのだ
シューター形のスーツに保護された看護士がマークに点滴を始めた
「何の注射だ?」
「栄養とビタミン、水分補給だけです」
「打つ手なしか・・」
「中将大丈夫ですよ中佐はいつも不可能を可能にしてきた人ですから」
ヘルメット越しで声が変わって判らなかったが禾人の良く知る人物だ
「リサ!」
「不明病原菌の治療は志願制なので志願しました」
「ありがとう・・知っている顔がいると心強いリサは看護士が夢だっけ」
「はい」
「患者が俺たちじゃなぁ」
「いい練習台ですよ、肉親に近い人間に適切に冷静に対応できたならば一流です」
「そう・・」
禾人の足元がくずれ倒れこんだ
「中将!」
「慌てるな・・ベッドまで自分でいける・・」
禾人が這い上がりベッドで横になった
「参った・・」
リサが禾人に冷却ユニット、センサーを取り付けた
「禾人解かった・・!」
マリアが驚く禾人が虚ろな目になっている
「聞こえる」
禾人が手を振った
「正体が胞芽熱の改良型ではないかと推測が付いたの」
「胞芽熱は・・昔かかった事があるが・・」
「抗体は出来ていてもこの改良型には効果ないわ」
「・・」
意識が朦朧としている
「冷却を上げて!」
リサが機械の調整を始める
「点滴を開始します」
「禾人!あの水筒に新胞芽熱ウィルスが入っていたわ、直ぐに血清の製造に入るから頑張るのよ!リサ、いざと成ったら人工透析器に繋いで途中のチューブを冷却して温度は30度まで下げて良いから」
「解かりました」

「禾人の状態は判ったか」
フェイロンが先程からCCR内をうろつく落ち着かないのだ
「CDCから連絡がありました新種の胞芽熱ウィルスに侵されたようです」
「新種か・・」
「症状は思わしくないとキリカ技官と少将がDrマリアに呼ばれていきました」
「そんなに危ないのか・・凍結中のオムニ麻疹を解凍しておけ報復に使用する」
「しかし・・」
「禾人が嫌うと言うのだろ判っているしかし、もしもの時は使用する」
「イエッサー」

発病から3時間が経過した
「ねえさん、あの人の状態は!」
「覚悟はしておいて思わしくないわ」
「そんな・・」
「血清の培養は始まっているのでも二人分作るにはあと4時間かかるわ」
「一人分なら直ぐできるの」
「1時間で出来るわ」
「そう・・」
マークが優先で投与される事は間違えない、妻としてノエルは禾人への投与を優先させたいがそれをすれば隊から反感を買ういや、禾人が怒り狂うだろう
「Drマリア、ジャンコルリーオーネ氏からCXP36Aが送られてきました」
「新型の抗生物質ね、禾人が言っていたのは33だったけど、臨床データーはある?」
「データーだそうです」
ROMをコンピュ−ターにセット内容の確認を始める
「姉さん早く投与を・・」
「臨床データーがないの、臨床データを禾人で取ろうと言っているのと同じよ」
「可能性があるならば使ってみた方が・・」
「人体実験を此処でやれと」
ノエルが涙目で訴える
「中佐、血清を投与します頑張ってくださいね」
「わ・たしより・・ちゅう・じょう・・」
「心配しないで下さい、中将には別の良く効く薬を用意していますから」
「・・そ・う・」
酸素マスク越しにマークの口元が僅かだが笑った
「直ぐに元気になりますから」
点滴に血清を繋ぎながら横目で禾人のベッドをみる、既に重篤な状態に陥っていた
「リサ!特殊な抗生物質を使うわ、禾人に人工透析と人工肝臓を繋いで、血液を25度まで冷却、今度の抗生物質は劇的な作用があるの高熱を伴うから1分間に1CC以上の投与はしないで80CCを二時間かけて行なうのよ」
「判りました」
禾人に太い針が打ち込まれ白い液体がチューブを流れ出した
「フルオロカーボン循環開始、分間0.7CC投与開始します」
「姉さん彼の傍にいけないの?」
「禾人に触らない、周りの機器に触れないよう注意する出来る?」
ノエルがリサの動きを見て考える宇宙服に蛇腹がついているような服、後ろの蛇腹が周囲の機器に触れぬように動く
「無理かもしれません・・」
リサが機器をべッドの周りを整理し始めた、ノエルとマリアの会話をインカムで聞いたのだ、ガラス越しから下の禾人を見るノエルにリサは手招きした
「サポートしますから近くに来てください、兄さまも喜びます」
「行っておいで、リサ!サポートに気を囚われすぎて二人の容態確認怠らないで!」
「判りました」
ノエルはスーツハッチの前で講習を受けていた
「このスーツに入ったらハッチを閉めて内圧を上げます、もしスーツに穴が開いた場合は直ぐにハッチから退去してください大きな穴で無ければ内圧によって漏れこみはありません」
「判りました」
「もし、外圧が内圧を上回った時はハッチは自動ロックされ出る事は出来ません、では御安全に」
ノエルが禾人の横に立つ頃には冷却が効いたのか禾人がうっすらと目をあけ始めていた
「俺・・死んだ・・か・・め・がみがみ・える・・」
「ばか・・」
リサがノエルにタオルを渡すとノエルが禾人の汗をぬぐった
「わ・・るい・・」
「あなたが寝たっきりになったときの練習ですよ」
「そ・うか・」
一言言うと再び意識を失う
「少将、そのスーツでは座る事出来ないので疲れますから戻られた方がいいと思います」
「もう少しだけ・・」
言っても無駄である、リサはマークの様子を見始める
「リサ・・」
投薬から30分マークの意識が戻り始めた、熱はまだ有るが意識の回復は快方へと向かっている事を示していた
「中佐、何か要ります?」
「水を頂戴・・喉が・渇いたわ・・」
リサから差し出されたストローを刺したパッケージに口をつけると
「中将は・・」
「まだ判りません・・」
「中佐、だいぶ良い様ね」
「は・い・・」
「貴女の回復結果を元に血清の大量生産に入るわ、血液サンプルを時間ごとに採らせて貰いますよ」
「構・いま・・せん」
禾人に取り付けれれたセンサーに目をやる
「安定してきたわねリサ、二人の全身をX線スキャンするから下がっていてノエルもよ」
天井から降りてきたセンサーが一瞬の内に3DのX線写真をマリアのコンピューター上に映し出す
「若干の肺炎ね、マーク中佐の肝臓腎機能は正常に成りつつあるわ」
マリアはガラス越しに立つと親指を立ててマークとリサに合図を送った
「中佐、良かったみたいですね」
「中・将は・・まだ」
「結果が出るまであと1時間です」
「そ・・う・・」
「寝られた方が良いですよまだ完全回復ではないのですから」
「わかった・・」
それから30分が経ち禾人が目を覚ました
「喉・が・・渇・いた」
禾人はノエルが差し出したストローを刺したパッケージに口をつけると一口飲んで
「大分良い・・あいつら・よくなったら・・必ずけりつけてやる・・」
「それだけ元気があればもう大丈夫ですね」
「ああ・・」
「禾人大丈夫のようね、熱以外は正常値に戻りつつあるわ」
「おれ・・生きられるのか・」
「大丈夫、唯一週間は入院よ、もう少し寝なさい起きた時はノエルとキス出来るようになっているから」
禾人が窓越しのマリアに手を挙げて挨拶をした・・ありがとう・・
それから一週間後、後遺症も無く禾人とマークは隊に復帰したのであった

オムニ今そこにある危機3 第28話 「OVER THE TOP」

SDS大隊総員第一種正装で滑走路に整列した、やがて輸送機が回頭、後部扉が開く
「土田独立軍元帥殿!到着!」
総員が身を正した、9時間前リサの連絡で準備は始まっていた

「ノーベンバー、オスカー、ゴルフ、インディア、タンゴ、オスカー、リマ、オスカー、シエラ、タンゴ・・」

マークが先頭を切って降りてくる
リサがその後ろから両手でトレイを抱えて降りてきた
マークはキリカの前で立ち止まると敬礼をして言葉を発した
「このたびは、キリカノルン土田様の兄上で有らせられる土田禾人殿の戦死を心より痛み報告させていただきます」
リサからの連絡・NOGITO LOST・・
銀のトレイをリサから受け取るとキリカに差し出して
「土田中将殿が最後に着られていたジャケット、軍よりの栄誉勲章並びにお見舞金でありますお受け取りください」
キリカはトレイを受け取ると深々とお辞儀をした
本来なら禾人の肉親である父親が受け取るのだが基地に居た血の繋がった妹キリカが受け取る事と成った、正妻ではないノエルは受け取る事が出来なかったのだ
一通りの儀礼が済むとマークとリサは列に並んだ
「土田元帥殿!降機!総員敬礼!」
礼砲が撃ち鳴らされ、四人の屈強な兵士によって中央通路を禾人の横たわった真っ白な担架が運ばれていく
皆が思った、銃殺も逃れ、ウイルスにも負けなかったスーパーマンが今此処に動かぬ姿となって進んで行く、此れは夢ではないか・・しかし、此れは現実

今を遡る事12時間前に話は戻る

「マーク調子は戻ったか?」
「だいたい戻りました、中将はどうなのですか」
「戻っているが久々に利いたなぁリサには散々世話になってしまったし」
「そうですね、少佐には何か御礼をしないと」
「リサの喜びそうな物か・・」
等と話をしているところへリサがバインダーを抱えてコンテナに入ってきた
「中将、X32ですがナキスト陥落の為部品が入らず現在は修復不能だそうです」
「ついにX4Sに機種転換か・・」
「適正のやり直しですか?」
「いや戦闘機と違ってローダーは無し、X4のほうが操縦楽になっているしな」
「ファランクスはご注文通りに88速射砲に取り付けてX4に搭載を完了しました」
「マークの注文は済んだか?」
「OSの見直しは難しいと言っていました」
「エクトールがあれだけの動きをするのにX4Sがついて行けないのは問題があります」
「其処はエンジンの問題が大きいだろう、人口筋肉とリニア関節の違いもな」
「機体が大きいだけに好きな事が出来ますね」
「ちまちま部品作らなくても済むしな」
「OSの書き換えは無理でもコンピューター2台の並列使用である程度カバーできそうだと言っていました」
「それでいつ頃出来るといっていた」
「完了しているそうです」
「早いな」
「入院中には作業が始まっていましたから」
「あとIFFは取り付けたか?あれが無いとファランクスが狙っちまうからな」
「それも済んでいます」
「そうか」
禾人が視線をパネルに移すとほぼ同時にアラートが点灯した
「お声がかかった様だな」
作戦ボードに状況が映し出された
「どうして此処なのだ?」
戦略拠点としてはなにも意味の無い場所に思える
「出撃になりますか?」
「偵察衛星の画像を映し出してくれ、相手があいつならば出なくては成らないだろう」
リサが出撃の準備を始めた
「CCR、スーパーカーゴバードの射出準備願います」
「カーゴの射出準備要請きました」
「01、02、03の射出準備15分でできます」
「ジャッカル01,02、03射出まで15分です」
「ラジャ」
超望遠映像で敵の機体が映し出される
「雪人だ・・なんでこんな所をアイツだって廃坑って事を知っているだろうに」
「何かを隠していたとか?」
「我々の知らない鉱石があるとかな」
「さて15分で出撃だ準備を済まして置け」
「判りました」
マークは化粧室へと向かっていく
「緊張したか?」
「初めて対峙する相手ですからね、強いて言えば中将を相手するのと同じですから」
「アイツは空を飛ばんって」
「飛んだら中将と同じですね」
「そうか、させ搭乗するかリサまた迎え頼むぞ」
「判りました」
禾人がX4Sに搭乗するとカーゴのドアが閉鎖される
「マーク待ちか・・燃料もあと20%・・時間どおりだな」

「エクタス、5機配置につきました」
「了解」
「雪人さんどうしてもお兄さんを討たなければならないのですか」
「はい」
「どうして?」
「狼が法衣を着たような男を生かせては置けないのです」
「狼が?」
「そう善人のようで悪人・・そして今オムニに置いて大統領に一番近くなった男」
「大統領?」
「この前の件で地球移民の人心も掌握したに近いですし、軍部にも民衆にも受入れやすい人物」
「でもマフィアの件は・・」
「地球移民を助ける為に資金供与はどうしても必要だったという理由をつければ、正当化できるでしょう、地球移民並びに地球軍戦傷軍人支援特別法が出来たのも奴の功績だ」
「シンボルとして祭り上げられるのが怖いのですか?」
「そうです、カシアス地球連合にとって脅威となるでしょう」
「それだけで・・」
「それとどちらが勝っても一方を死刑台に送らねばなりません、国家反逆罪、エラン虐殺罪どちらも生き残れない、だったら自分たちでケリを付けるしかないのです」
雪人は一呼吸すると
「くだらない事にナギサさんを付き合わせてすみません」
「最後まで付いていきますから」
「ありがとう」

「カーゴバード01,02,03シュートまで10秒カウントダウン開始」
「時間合わせ」
ディスプレイのストップウォッチがオール0になった
「5・4・3・2・1・シュート!」
カーゴバードが噴射するとストップウォッチが動き出す
「奴の息の根を今度こそ止めてやる」
マークは答えない息を殺しているかのようだった
「硬くなるなお前なら出来る」
やがてカーゴバードからX4が切り離され戦闘状態に入る
「CCRホバーの誘導頼む」
「ラジャ」
ホバーが禾人とマーク機の元へとやって来る
「さて全部で7機だ3機は任せた」
マーク機が動き出す
「さて俺は!」
禾人が周囲に殺気を感じたVPに感知された敵5機

「さてと中将たちの迎えの用意をしないと・・」
化粧室で身だしなみを整えるリサも女性である
「何の音」
トイレのドアが異状に揺れている、開けようとしても開かないよじ登って中の確認をする

「この五機はまるで雪人だな・・まさかアイツが開発していたAI搭載機、カシアスの技術で可能になったのか?」
禾人に考える暇を与えず攻撃が始まった
「マークに中将の援護に回るよう指示を出して」
「判りました」
「マーク中佐中将の方へ回ってください、残り2機は此方でトレースします、マーク中佐?」
「どうした?」
「応答がありません」
「呼び続けてください」

「中佐酷いこぶですよ」
「あの馬鹿!思いっきり殴りやがった」
「中佐らしからぬ言葉づかいですね」
「リサ中将が危ないってわからないの?」
「でも誰ですかあの馬鹿って?」
「ヤオフェイルン中佐に決まっているでしょ!」
慌てて二人は整備に連絡指示を出し出撃の準備に入った
「AC17強襲機にホバーとX4を搭載してハードポイントにブースターを付けて下さい」
「CCRから指示は来ていないが・・」
「緊急ですCCRには許可を入れさせます10分でやってください」
「判った7分で済ます」
「CCR出撃許可をお願いします」
「リサ少佐、回収は30分後です」
「いえマーク中佐の搬送と援護です」
「今マーク中佐って言った?」
「マークです、ヤオ中佐に暴行を受けたうえトイレに監禁されました」
「なんてことを・・」
「中将!現在マーク機に搭乗しているのはヤオ中佐です」
「そうか・・」
既に3機を沈め後2機である

「今の通信傍受できました」
「フェイルンか・・」
「計画を実行に移します」
「ああ・・これで予定通りだ・・」

フェイルンが雪人の前に現れるとすぐさま雪人はIFFアンテナを打ち壊した
「雪兄ィ!」
「フェイルンか」
「雪兄ィ帰ってきてお願い」
「私に幾ら言っても無駄だフェイ」
「なんで・・」
「投降すれば国家反逆の罪しかないのだ、生きて事を全うするにはカシアス地球連合しかないのだ」
「でも・・」
「英雄は二人要らない、兄貴に引いてもらうか私が引くかだが、お互いに此ればかりは引かないだろう」
「二人が協力すればいいじゃない!」
「遅い遅かったんだ」
「修復すればいいじゃない!」
「無理だ今更、フェイルンそれよりお前がこちらに来い!」
「それは、無理・・仲間がいるもの・・」
「俺がいる来い!」
「何をじゃれている!フェイルン!邪魔はするな!」
「禾兄ィ!」
禾人が残り二機を片付けたのだフェイルンの位置を衛星から特定近づいてくると
「ガルバルディよりナギサ機へ」
「こちらナギサ」
「敵右翼より接近中計画可能な位置へ」
「ラジャ」
ナギサが廃屋の中に隠れ銃の狙いをフェイルンに定めた
「フェイ!いつまでじゃれて・・!」
禾人のスクリーンに映し出された光景、フェイルンを狙う銃口引き金を今にも引く
禾人が慌てた、ホバーをMAXスピードで走らせフェイルンの前に立つそれを予感していたかのように、ナギサはトリガーを引いた
放ったビームが禾人のX4Sコックピット寸前で消滅距離が足りなかったのだ
「しまった!X4だったなこれ・・」
禾人が周囲を確認し、フェイルン機IFFアンテナの損傷を見るとP9の照準をフェイルン機の足に定め破壊した
「禾兄ィ!何するの!」
フェイルン機が折れ込むと禾人はファランクスのスイッチを入れる
「その手があったか!」
雪人はIFFを破壊しフェイルン機を楯にファランクスを使えないようしたのだが、禾人はフェイルン機を破壊してファランクスの単独レーダー照準外に機体を出したのだ 
88mmが火を噴いた乱射である
「ナギサ!危ない!」
ナギサのエクトールを直撃した、手足が吹飛び攻撃不能それを助けに走った雪人も餌食となった
「飛べますか?」
「大丈夫です」
「では引きます」
雪人機とナギサ機がお互いをサポートしながら撤退した。

88が自動停止、禾人機が膝をつく形で座り込む
「禾兄ィ!」
フェイルンが呼んでも答えない
「私が悪かったわ怒っていないで出てきてよぉ」
フェイルンが思い切って外部からハッチの開放を行なう、暗証番号は緊急用の小隊別共通コード、ハッチが解放されると中から煙が噴出した
「お兄ちゃん!」
慌てたフェイルンがコントロールパネルに塞ぎこんでいる禾人の両脇に手を差し込み持ち上げた瞬間、行き成り軽くなってフェイルンは勢い余りX4から落ちたのだ
フェイルンは這い上がって禾人に文句を言う
「兄ィ!気が付いたなら言ってよ!行き成り立つなん・・!!!!」
コックピットを覗き込んだフェイルンは再び声も無く機から落ちて気を失ったのだった
やがて30分立ちリサたちが到着した
「12時の方向ジュディ」
「ラジャ」
「3時にタリホー」
「ジャッカル2よりCCR、ジャッカル1を発見ヤオ中佐が倒れています救護班の出場を要請します」
「CCR了解、ジャッカル2早急に中将の確認報告を求む」
「了解した」
「ハーディ大佐、マーク中佐降下準備願います」
「ハーディよりリサ、ホバー降下準備完了」
「マークよりリサ、X4降下準備完了」
「ペイロード解放します」
格納ドアが開くとハーディとマークが飛び出し禾人の500m離れた場所に降下した
「さて私も・・」
リサが手ごろな滑走路となる道路を検索
「中将の真横まで行けそう一寸距離が足りない・・かな?」
リサが禾人仕込みの腕でエアブレーキ、ドラックシュート、リバースする
「ああああ!・・とまった・・中将ビックリするわよねぇこの距離は・・」
それ以上にハーディが怒っているのは間違えない、禾人の機体まで10m無茶であった
降機したリサは禾人の機に手を突き下を向いているハーディを見つけた、上を見るとマークがコックピットを凝視し動かない、いや動けないようであった
「ハーディ大佐!」
いきなりハーディが吐き戻し出したのだ
「ウ・ウ・ウォ〜ォ〜」
「大丈夫ですか・・」
「だ・大丈夫だ・・」
機から降りてきたマークは、地面に気を失い倒れこんでいるフェイルンを蹴り始めた、脇腹、腰、蹴れる場所全て目掛けて容赦が無いドスドスと音が響く
「この馬鹿女!!この馬鹿女!!この馬鹿女!!」
禾人曰くオムニ1の沈着冷静な人間のマークが感情を露にする
「中佐辞めてください!」
リサが押さえ込むがマークは思ったより力が強くリサは引きずられる
ハーディがマークを投げ飛ばし押さえ込む流石海兵隊、格闘は慣れたものである
押さえ込まれてもマークはフェイルンを罵詈罵倒して今にも飛び掛らんとしている
「リサ!鎮静剤ないのか!」
「あります!」
リサが鎮静剤のアンプルををポケットから取り出し圧入注射器にセットするとマークの首筋に打ち込んだ
ハーディがナイロンベルトでマークを拘束、更に猿轡をする
「落ち着くまでそうしていろ」
リサがヤオの介護につく
「外傷は中佐の暴行跡だけです、心拍は正常です・・でもあれだけ蹴飛ばされて起きないなんて・・」
「あれを見ればそうかもしれないな・・」
「?」
リサはまだ禾人のコックピットを覗いていない、X4によじ登って覗こうとした
「リサ覗くな!」
ハーディが制止したがリサは、覗き込んでしまった
声にならない、悲鳴を上げればいいのだろうがそれすら出ないのだ
禾人の下半身は焼け焦げ座席に座ったまま、上半身はフェイルンが持ち上げた時に切断されコンソールの上に投げ出されていた
更に悲惨な光景が展開している、腹部で切断された為禾人の内臓がコックピット内に飛散しているのだ、見たくないのだが目が離れない
「リサ!」
ハーディの呼び声でハッと我に帰ると約束を思い出した
『万が一にも私が戦死した場合この指輪を処分して欲しい』
リサは禾人が被っているヘルメットを脱がすと見開かれた両目と目が合った
「兄さまお疲れ様です、約束果たします」
リサは禾人の瞼をゆっくり閉じるとジャケットのファスナーを開きネックレスを外す
そしてハーディに気付かれないように胸のポケットにしまった
「リサ降りて来い!」
リサは素直に従ったやらなければならない事がある
「私はCCR・・いやSDSの統合司令室に連絡するからリサは二人を見ていてくれ」
リサが一寸考え込んだ
「待ってください、中将の戦死ですから統合司令室に直接報告するのは当たり前だと思いますが、少将がいらっしゃいますので上手くやらなければ行き成り卒倒って事もあります」
「それがあったか・・」
「ファン中佐待機室でしたよね、ファン中佐の携帯に連絡を入れて大将に報告してもらいましょう、大将に少将を統合司令室から出してもらうんです」
「大将が説明した方がいいかも知れんな」
ハーディはリサの提案を受け入れ早速ファンに連絡を執り始めた
「そうだ、間違いではない!」
ファンが信用しない
「では此処に転がっている人物は誰なんだ!そうだ、フェイルンが原因だと言うのは間違いない、ファン重要な役目だが頼んだぞ」

「大佐からですか?」
「え!ええ・・そうよ・・」
ファンの様子がおかしい
「向こうフェイルン中佐の命令違反で大変なんじゃないですか」
「た・大変みたいよ・とっても、私大将の所に行ってくるからセルマは、ドールズ総員に集合しておくっように伝えてね」
「わかりました?」

「さて・・」
ハーディーがふと見るとリサがコーヒーを入れ始めていた
「この状況でお茶か?」
「中将好きでした時間があればいつもコーヒーそれもアラビアンで」
「私にも貰えるか・・」
「はい」
リサは不思議に落ち着き払っている
「リサ、何でそんなに落ち着いていられる」
「何ででしょう?自分でもわからないんですただ、いま泣いてはいけないような気がして」

「ヤオ大将」
ファンがフェイロンに耳打ちをするとみるみるフェイロンの表情が変わっていく
「5分後にリサに正式に報告を入れさせろ少将の件は了解したと伝えてくれ」
「判りました」
「それとは別にフェイルンの父として三人には辛い思いをさせてすまなかったと」
「はい・・」
ファンが離れると椅子から立ち上がりノエルを呼んだ
指で統合司令室上の自室へ来るよう示した
「なんでしょう?」
ノエルが昔の禾人のオフィスに向かった
部屋に入ると統合司令室が見渡せるガラス越しにソファーが置いてある
以前と何処も変わっていない、禾人が使っていたときのままだ
「まあ座れ・・」
「なんでしょうか?」
「どうだこの部屋、奴が戻ってきていつでも指揮官を交代できるようにしてあった」
「はい?」
なぜ過去形なのかノエルの心に不安がよぎった
「此れだけは馴れないし慣れたくもないが・・私は回りくどいのは苦手だ」
フェイロンは大きく息を吸うと
「禾人が戦死した」
「え?」
ノエルが頭の中でフェイロンの言葉を考える、戦死の意味が思い出せないのだ

「統合司令室へ連絡します」
「お前に任せる」
ハーディがマークを見つめた
「落ち着いたようだな今自由にしてやる」
「此方ジャッカル2統合指令室」
「此方統合司令室、感度良好、ジャッカル2CCRではなく此方に何か要請か?」
「ノーベンバー、オスカー、ゴルフ、インディア、タンゴ、オスカー、リマ、オスカー、シエラ、タンゴ、繰り返すノーベンバー、オスカー、ゴルフ、インディア、タンゴ、オスカー、リマ、オスカー、シエラ、タンゴ」
「!」
「損傷状態酷く処置必要、特殊処理班出場を要請する」

独立軍基地内に一斉放送が入った
「ノーベンバー、オスカー、ゴルフ、インディア、タンゴ、オスカー、リマ、オスカー、シエラ、タンゴ」
「ノーベンバー、オスカー、ゴルフ、インディア、タンゴ、オスカー、リマ、オスカー、シエラ、タンゴ」
数回繰り返された、ノエルの耳にも届く戦死の意味がようやく鮮明になった
NOGITOLOST
気が遠くなり自分を呼ぶフェイロンの声を最後にノエルは気を失ったのだった

「お・お・にいちゃん・・??」
フェイルンの目がさめた
「いーやーー!!!」
フェイルンが取り乱しだした、半狂乱である
「拙いな」
ハーディとマークがフェイルンを取り押さえる
「お兄ちゃん!!お兄ちゃん!」
「リサ!鎮静剤!」
リサがマークの時と同じように首筋に打ち込むと気を失う
「何を打ったんだ?」
「麻酔薬です」
「まあこの方が楽だが」
「コーヒーでもどうですか?出来ましたよ」
「戴くか・・」

「いま、無線を傍受したNOGITOLOST」
「フェイルンをおとりに楯になった禾人を討つとは」
「一番効率がいい作戦でしょ」
「雪人さん」
「奴は身内がいると兵士ではなく一人の人間として動いてしまうから」
「しかし良くヤオフェイルンが出てくると思ったな」
「賭けですよ、新AIシステムのテストもしなければならなかったですし、禾人の戦闘データーも欲しかった」
「これからは禾人の戦闘データーを積んだAI機を投入して戦略を進めるか?」
「そうです、少数精鋭で更に進撃スピードを上がられるでしょう」
「雪人今後部隊をまかせる准将に昇格だ」
「ハッ!」
「土田兄弟がオムニを制圧するか・・」
雪人が敬礼しカワサキを元とする面々が司令室を後にした時雪人が叫んだ
「OVER THE TOP!」
兄を越えた、大統領候補を倒したのだ
カシアス統治区総督として兄の意思も持って向かって行く決意も出来た
ベルとの約束を果たして進む決意の現われであった

「そろそろフェイルンを簡易空港に運んでくる」
「大佐は先に戻られて準備を終わらせておいてください」
「いいのか?」
「ジャッカルは3人だけの部隊ですから・・」
「わかった」
ハ−ディがホバーで空港に向かうとリサは膝抱えて据わって、声を押し殺して泣き始めた
マークはリサにかける言葉を捜したが出てこない
「中将って言うよりはお兄さんてタイプで付き合っていたから辛いわ」
「つ・きあいが・・」
「リサ他の人には連絡しなくて良いの?」
「ジャン兄さまにしなくては・・」
リサが泣きながら携帯電話でジャンに禾人の事を話し始めた
「そうか・・俺は埋葬の時しか顔を出せない・・リサ辛いと思うがノエルの事頼むぞ」
「ハ・イ・・兄さま・・」

「土田指令・・」
「聞いた、あそこの制空権はこちら側だったな」
「そうですが?」
「一番近い基地から護衛機をまわしてやれ、禾人中将を仕留める為だけに作戦を行なったと思うが万が一がある」
「イエッサー」
「のぎと・・」
広人は拳を握り締めて立ち尽くした

リサはコックピットを見上げた、流石にもう覗く気にはなれない
「お待たせしました」
数人の男がリサ立ちに敬礼をした
「まだコックピットの中です」
「判りました、遺体を出して処理しますので離れられていた方が良いと思います」
「あの・・」
「なんでしょうか?」
リサは禾人の損傷状態を見て知っている、そして禾人の言葉をお思い出した
『コックピットを打ち抜いてケーブルから人間の損傷状態まで手に入れないと無理だ』
意を決したようにリサが処理班に言った
「中将の下半身はそのままコックピットに残して機体ごと独立軍の開発室に送ります」
リサの行動はマークの予想通りであった
「リサ、中将はきっと喜ぶわよ、此れでデーターが揃って死者が減るって」
「でも自分が死んでしまっているのに・・」
「中将は死んでも意思は残る私たちが残していけば良い、リサの指示は中将の意思ときっと同じよ」
「ありがとう御座います中佐・・」
「では、X4Sの搬送はマーク中佐にお任せします」
「判りました」
「コックピット内部はある程度正視できる状態にしておきます」
「血痕以外拭き取らないようお願いします」
「かしこまりました、遺体の処理は20分で終わらせますそれまでゆっくりしていて下さい」
上空に戦闘機部隊が到着した広人の送り込んだ部隊だ
「友軍機ですね」
「そう」
約30分が経って白い担架に禾人の遺体が手を組んで乗せられた
「完了しました、体内から出ていた物はあるべき位置に戻しました、下半身はダミーをつけてあります」
「ご苦労様でした」
「遺体は此方で空軍基地に一度搬送いたします」
小型輸送機だX4を積む余裕はない
「お願いいたします」
マークは強襲機に禾人の機体を積み込み、自機も搭乗させる
「さて、発進しますよ」
ハードポイントに装着したブースターが短距離離陸を可能にしてくれる
上空に上がると無線が入ってくる、ビットであった
「理沙少佐の機を先頭に土田禾人中将殿の追悼編隊を組みます」
輸送機を囲むようにVの字で編隊を組んだ、途中禾人の人望を示すが如く戦闘から帰到する部隊が次から次へと合流その数は50機を越えた
空軍基地に着くとC559に遺体とX4を積み替える
マークとリサにも正装に着替えて禾人の遺体の両横に座った
「さあ帰りましょう中将・・奥様が待っておられます・・」

ノエルが壇上の遺体の前に立った
「土田禾人中将の言葉を伝えます、我が葬式は、軍葬で行なうべからず埋葬に立ち会えるのは近親者10名のみ、総員は各作戦にあたれ」
ノエルが付け加えた
「作戦から帰到してない方がおられますので遺体は霊安所に3日間安置します、その間に挨拶をされる方は済ませてください、以上!」
ノエルが壇上を降りると総員が禾人に敬礼をした。

オムニ今そこにある危機3 第29話 「死してなお・・」

先に運ばれたフェイルンは暴れないよう体をベッドに固定されていた
見開かれた目には生気がない精神破綻をきたし廃人同様である
「ファン中佐様子はどうですか?」
ノエルが部屋に入ってきた
「最後までご面倒をおかけします、治まったのですがごらんの通りです」
ノエルがフェイルンの両肩に手をかけて話し出した
「良いフェイルン良く聞きなさい、禾人さんは死んだのあなたを守って」
それを聞いたフェイルンがまた暴れ出した、喚けない舌を噛まないように猿轡を噛まされているのだ
「貴女がこんな状態では彼は浮ばれないわ、いい彼がこの基地を出るのは三日後それまでに自分を取り戻しなさいそれがあなたの義務」
ノエルの話が済むと軍医が首筋に睡眠薬を打ち込む
「ドクター」
「心配する事はない、禾人が何とかしてくれる」
「死んだ彼がどうして?」
「心配するなと其処に立っているよ」
「まさか」
「ノエル少将は信じない方だったか、見える人間もいる人の思いは形をなすからな」
「思いは形をなす・・」
「信じなくても良い、私だって今だに自分自身の事ながら信じられんから」
ドクターは苦笑いを浮かべ部屋を去っていった
「ファン中佐フェイルンの事よろしくお願いします」
ファンが思いつめたようにノエルに尋ねた
「少将、ハッキリお聞きしますフェイルンのこと憎くはないのですか?」
「フェイちゃんを庇った私のお腹の傷も一歩間違えば死んでいたでしょう、もしそうなっていたら彼はフェイちゃんを恨んだでしょうか?恨みませんよね、敵は憎んでも守るべき者を恨む事はしません、今回フェイちゃんは囮に使われただけそれに乗った禾人さんのミスです」
「でも」
「司令官としてはけじめは必要ですがヤオ大将にお任せいたしましょう」
ノエルは一言言って禾人の元へと向かって行った
霊安室の前は交代で歩哨が付いている、中に入るとリサとマークが椅子に腰掛けてジッと禾人を見つめていた
「ご苦労様です」
ノエルが二人の労をねぎらう
「二人には任せっきりですみませんでした、遺体の処理から搬送本当にありがとう」
「いえ任務ですから」
「大将からお聞きしました、冷静に私の事まで気遣っていただいたそうで」
「中将が倒れて少将まで司令室で倒れたらまた大騒ぎになりますから」
ノエルが二人の横に座った
「お二人で食事にいかれたら如何ですか?」
「輸送機の中で済ませました」
「そうですか」

「水圧カッターによるコックピットの切断完了します」
禾人のコックピットを真っ二つに切断して断面を調べるのだ
「さて、此処が骨盤ね性器は焼けて判別不能、骨盤の状態はボロボロ良く焼けているわ」
「ケーブルは炭化している」
マギーとエリーが電子パネルの溶解状況を調べる
「検死報告があったわよね」
「あるわよ」
ナミが差し出した
「キリカ良く平気でいられるわね?」
「此処まで綺麗に焼けていたら兄さんだと思えなくて・・それに兄さんの事だものシッカリ調べて結果を出した方が喜ぶから」
「中将の性格から言えばその通りよね」
ナミが言いたくなかったが思い切っていった
「損傷状態だけど気になる事があるのよ」
「なに?」
「放射線障害が皮膚に発生しているみたいなの」
写真を差し出して変色している部分を指差した
「直接見ないとよく判らないわね」
「電子がターゲットに当れば放射線は出るしその影響を調べないと」
「判っているわ、皮膚組織と眼球、骨髄液を採取しましょう」
「誰がやるの?」
「ドクターに頼むしかないわね」
「でもノエル少将はOKするかしら」
「姉さん正妻ではないから、事実上妹の私が許可します」
「ではドクターに連絡するから」
「私は立会いに行きます」
キリカが研究室から出るとマギーがナミに喋り出した
「あそこまで非情に成れるものですかね?」
「非情、違うわ土田禾人の意思を継いだのよ、中将もきっと誰が犠牲になっても同じ事をしている、でもまさか自分がなると思わなかったでしょうけど」

ドアが開き叫び声に近い呼び声が聞こえてくる
「禾人!!!!」
「神少将戻られましたか・・」
「ばかな!何でコイツが!」
冷静な神が大声を出して喚きまわった
「神少将落ち着いてください、まだ誰も最後の祈りを捧げてないのでお願いできるでしょうか」
「ああ・・」
やや震えた声で答えた
ドアが開き今度は半田が入ってきた
「おお、禾人しっかり死んでやがんな」
「なに!」
冗談を言っている時ではない神が怒りを表す
「コイツとの付き合いはいつもこんな感じだ知っているか、こいつノエルとオムニ大聖堂で結婚式を挙げるだけの為に改宗したんだぜ本人お経をそらで唱えられるのによ」
半田が涙を流し始めている
「夢のまた夢か、なあ禾人・・」
「秀吉か」
再びドアが開くとドクターとキリカが入ってきた
「なんでしょう?」
「兄さんの体の一部を戴くの」
シーツを剥がすとメスで切り刻み出した
「なにをする気なの!」
ノエルが慌てて止めに入るがキリカが立ち憚った
「眼球と骨髄液、放射線で爛れた皮膚の一部、眼球は抜いたら義眼を入れておきます」
「誰が許可したんですか!」
「私がしました、土田禾人の正式な妹の私が!」
「妻の私の許しも無くですか!」
「妻?冗談でしょ、式も籍もちゃんとしていないのに姉さん、兄さんなら誰が犠牲になっても皆を守る為に解剖したでしょう、一人は皆の為に皆は一人の為と言った兄さんの思いが判るからそれを実行するだけ」
ノエルはキリカの言っている事は理解できるが納得は出来なかった
だが正式な家族でない以上それを止める手立ては持っていない
「兄さん・・」
キリカが手を合わせて拝むとドクターがサンプルを採取再会した
「なかなかキツイ妹だな」
「本当は優しい子です、彼の思いがそうさせているだけ・・」
サンプルを取り終わるとキリカは一礼して部屋を出て行った
「私が彼の思いを受け止め結婚していれば死んでからも傷つけるような事は・・」
「していたんじゃないか、禾人の思いは君が一番わかっている」
「確かにそうです・・」
半田が席を外す
「タバコ吸って来る・・」
一番落ち込んでいるのは半田のようであった
「ノエル少将、前に中将から受精卵の話をお聞きしたんですが・・」
「あの事も無くなってしまいますね、正式な夫婦でしか代理母を頼めませんから・・」
リサが一枚の写真を取り出した
「神少将、この日付で婚姻証明書を出せませんか」
写真に写っているものは、マムの店で酔っぱらったノエルに迫られ結婚式の真似ごとをした時の禾人とレースのハンカチをかけたノエルである
「俺が確かにしたがな、死んだ人間と今更籍を入れるのはどうかと思う以上に無理だろう」
「役所の方は私が何とかします」
「出来るのか?」
「はい」
マフィアを使うつもりである
「ノエルがそれでいいのなら書くが禾人は喜ばないぞ」
「判っています、でももう子供が出来ない体ですし、せめて彼との子供だけでも・・」
「いいよ、ノエルの気持ちが固まっているなら」
神がリサを一睨みすると、霊安室を出て行った
「神さん少将の事好きだった見たい余計な事したかしら」
「気付いていました、その気があれば落ち着いた頃言ってくるでしょう」
ノエルがポケットからカギを取り出した
「今彼を感じられるのは此れだけ・・」
バンビーンOCR1000のキーである
「其れ頂けませんか?」
リサの無理な願いである
「此れだけはダメです」
「兄さまを感じられる物を私にも下さい」
リサの真剣な眼差しに圧倒されてノエルがカギをリサに差し出した
「仕方ありません貴女にも形見分けで此れを渡しましょう」
「ありがとうございます」
リサがカギを握りしめて涙を流した
「お返しに私からお渡しする物があります目を瞑ってください」
目を瞑ったノエルの手を取るとポケットから指輪を取り出した
そう禾人との約束を破るつもりなのだ
リサの中で禾人の思いとノエルの思いが交差して渡すと言う答えが出た
「これから渡す物は兄さまの力の源、この力の籠った物を捨てる旅に出なければならなかったのですが姉さまにお預けいたします」
指輪をノエルの手のひらに載せると握らせた
「兄さまの思いは姉さまに俺の事は忘れて幸せに暮らして欲しいですが、私は忘れさせたくない、他の人のお嫁さんに成って欲しくないだからお渡しします」
ノエルがゆっくりと目を開き握っていた手を恐る恐る開けて行くと
銀色に輝く二つのリング、小さいリングの裏に刻まれた文字を目にしたノエルが涙をこぼした『ノエルに永遠の愛を誓う、禾人』禾人の思いエンゲージリング
「彼から貰ったプレゼントには指輪は無かったんですよ」
「兄さまが言っていました、この戦争が終わって生きていたら渡す死んでまで縛りたくは無いからと・・」
「そんな事を言っていましたか・・」
「それでは指輪を兄さまに嵌めて上げて下さい」
胸の上に組まれた手を蒸しタオルで温めると死後硬直が緩んでくる
「姉さま兄さまの指に」
ノエルは禾人の緩んだ左手を取り薬指を伸ばし指輪をつける
リサが禾人の右手指を伸ばして指輪を持たせノエルの指に付けた
「禾人さん・・ごめんなさい死んでからでしか受け取れなかった・・」

暗い部屋の隅に蹲る女性、手で顔を隠すが指の間から在る物を見ている
ガタガタ震えるフェイルンを見つめる禾人の恨めしさを滲ませた目
禾人の内臓を引きずった上半身である、目を覆いたくとも覆えないのだ
フェイのリアル過ぎる夢である
『フェイなにを見ている』
フェイルンの視線が声の方向に移っていく、声によって呪縛が解けたのだ
『の・・のぎ・・兄ィ』
健全な姿の禾人がフェイルンの横に座った
『また迷子になったのか』
禾人の問い掛けに答えられない視線が上半身の禾人に移ったのだ
『こんな姿の私に縛られていてどうする』
禾人が禾人を持ち上げてフェイルンに突きつけた
『私がお前にこんな恨みがましい目をすると思うのか、此れはお前の作り出した幻影に過ぎん』
持ち上げた禾人を暗闇に投げやる
『フェイルンしっかりしてくれ、こんな時に寝ているのはお前だけだ死者は寝ている者にしか最後の挨拶が出来ないから』
『本当にお兄ちゃんなの・・』
『ああフェイ』
禾人の笑顔を見たフェイルンは思った小さい頃見ていた本当の禾人の笑顔、軍の上官で有った時は笑っていても何処か憂いがあった
『ごめんなさい・・私が規律を守らなかったばっかりに・・』
『良いさ、でも俺でよかったと思えドールズだったら後悔しきれんし俺にもお前の心を助ける事は出来なかった』
『でも』
『でもは無しだ、後悔はしない前に進め良いな、ノエルの腹の傷も一歩間違えば死んでいた、俺はフェイを恨んだと思うか恨まんね、敵は憎んでも守るべき者を恨む事はせん、今回フェイは囮に使われただけそれに乗った俺のミス』
『お兄ちゃん・・』
『実はフェイに頼みがある、こうしてきたのも化けて出たんじゃなくな』
『良いわなんでも聞いてあげる』
『ノエルを守って欲しい、アイツは弱いから』
『お姉ちゃんが弱い?』
『強がっているが本当は弱い崩れれば粉々になるお前が支えになってくれ』
『私が支え』
『そうだ、常に明るく場を和ませ右腕となれ良いな』
『判ったわ・・でも都合の良い夢・・私が悪くないって思いたいからこんな話』
『フェイそうこれは夢だしかし現実でもある、お前を俺が恨んでいない証にこれから言う事を覚えて皆に伝えてくれ、先ずリサだ』
『リサになにを?』
『アイツは約束を破ってノエルにエンゲージリングを渡した捨てる約束だったんだ、俺が怒っていたと、そしてありがとうとも、其れとノエルから取り上げたバンビーンのキーをノエルに返すよう伝えてくれ、代わりに俺の夢をリサにやると机の中に木箱に入ったカギがあるアクロバット専用の複葉機のカギだ、戦争が終わったらノエルと二人アクロバットで稼ぎながらオムニを一周の旅を考えていた』
『お姉ちゃんもアクロバット?』
『透き通ったあいつの声で演目アナウンス、そして俺が飛ぶんだ・・』
『判ったわ渡しておく・・』
『エリオラに俺のダマスカスナイフをいつも尻を触った礼だと、あとマークにシルバーカードをノエルにゴールドカードを渡すようにリサに言っておいてくれプラチナカードはリサにやると』
『私には無いの?』
『今、言わなかった者には俺のコンテナからほしい物を持って行って良いと伝えてくれ』
『うん』
馬車の音が聞こえてきた
『お迎えのようだ・・』
『行ってしまうの』
『体もないしな行かなきゃならん』
『私あの時の・・叩かれた時の・痛さ絶対忘れない!誰も死なせはしない!』
禾人が声にはせず親指を立たせて頑張れと合図を送ってきたと同時にフェイルンの目がさめた
眩いばかりの朝日の中に消えて行く人影
「ほ・に・いひゃん・・」
猿轡を噛まされていて上手くしゃべれない、その声でうたた寝をしていたファンが起きた
「フェイルン大丈夫?」
「ハ・ン・」
「大丈夫そうね、何が有ったか覚えている?」
「ほ・に・いひゃん、ひんだぁ・・」
フェイルンは取り乱しもしないで答えた
其れを見たファンはフェイルンの拘束を解き水を差し出した
「ありがとうファン」
「貴女これからどうするき、大佐も庇いきれないわよ!」
「大きな声出さないで、後始末は総司令がつけてくれる軍法会議でね」
「周りは敵ばかりでかなうと思うの?」
「さあ、でも逃げも隠れもしないの・・おにいちゃんが来てくれたから・・」
ファンが怪訝な顔をした
「お兄ちゃん?」
「夢だから気にしないで」
「そう」
フェイルンは壁に掛かっていた制服を着る
「お兄ちゃん霊安室?」
「特別に霊安所を設けたわ、行く気?」
「もちろん!」
「ノエル少将、マーク、リサ敵が多いわよ」
「ファン貴女はどうなの」
「味方はしないわ」
「敵じゃなきゃいいわ」
やがてフェイルンは部屋を出て禾人の眠る会議室へと向かって行った

その頃陸軍司令部では
「厄介払いが出来ましたな」
「ああ軍部には禾人のような思想は必要ないからな」
「軍は此れで軍らしくなる」
「まあ、我々の栄光の為に兵には頑張らせろ」
「独立軍はそのうち全滅と言う事で片付いてもらう」
「しかし鼻の利く奴は早々に判っているな」
「いや待てほって置いても禾人の報復で死に絶える無駄に動くな」
「そうだな」

フェイルンが会議室のドアを開け一礼をして部屋に入るとマークが行く手を阻んだ
「何をしにきた!」
「中将の弔いに来ました」
「誰のせいで死んだと思っているの!!」
「マーク中佐やめなさい!」
ノエルが一括する
「良く立ち直って来てくれました彼も喜ぶでしょう、さあ顔を見てあげてください」
「挨拶は先程済みました」
三人が怪訝な顔をするとファンが
「夢の話でしょ」
「夢に中将が出てきてフェイルン中佐に都合の良い事言って消えた訳だ」
マークがやけに突っかかるがノエルはドクターのあの話が気になった
「どんな内容だったのですか?」
「いえ自分に都合の良い夢ですから・・」
「それでも聞きたいのです」
フェイルンは馬鹿にされるのを覚悟のうえ四人の前で話し出した
「話の三分の二はリサに託を頼まれました」
「私に?」
「ええ、夢だから聞き流してくれても良いわ」
一言言って本題を話し出した
「リサが約束を破ってエンゲージリングを渡した事を怒っているとそして感謝もしていると、取り上げたバイクのキーは返還しろとその代わりアクロバット複葉機をやるとキーは机の中の木箱にあると」
此処まで話した所で三人の顔色が変わった
「ファン中佐!フェイルン中佐は此処にくるまで何処かによりましたか!」
「いえ何処にも寄っていないわ、ベッドから私が解放して連れてきたのよどうかしたの?」
ノエルがゆっくり左手を二人の前に出して指輪を見せた
「先程リサさんが彼が捨てるように言っていたんでけど渡しますと・・」
リサはポケットからキーを取り出して
「指輪と交換しました・・」
ファンの背筋が寒くなった二度目であるあのチェスの時を思い出したのだ
「お兄ちゃん本当に来てくれたんだ・・」
フェイルンが涙を滲ませた
「まだ続きがあります、マークにシルバーカードをノエルにゴールドカードを渡すようにプラチナカードはリサにやると」
マークはまだ信じていないが次のリサの言葉で「もしかして」と言う感じを受けた
「あのカードの存在は絶対他の人は知らないマフィアのカードなぜフェイルン中佐!」
「お兄ちゃんが言っていたから・・」
「後は何か言っていましたか」
「エリオラにダマスカスナイフを其れと言わなかった人には部屋のものをやると」
「判りました、ヤオ中佐お役目ご苦労様でした」
ノエルが頭を下げた其れに合わせてフェイルンも下げる
フェイルンは禾人に手を合わせると部屋を去っていった
「起きていて合いそびれましたね」
マークが青い顔をしている
「私この手の話苦手なんです・・」
「中将なら出てきても良いと思いますが」
「居てもらえるなら傍にいて欲しいですがもう行ってしまったでしょう」
「後2日あるじゃないですか」
「彼の魂は既に向こうに行ってしまったんじゃないでしょうか・・」
「少将そろそろ一旦お休みになったほうが良いですよ」
「そうですね貴女方も休んでください」
「はい」
ノエルが部屋を去っていった
「リサ少佐先に休んで、私が中将に付いているから」
「良いのですか?」
「宇宙軍の体質抜けなくって48時間ぐらいは大丈夫だから」
「ではよろしくお願いします」
リサも部屋を出て行った
マークは禾人の枕もとに座ると腕を組んで眠り出した
皆疲れていたのだ、唯ひとり良く眠ったフェイルンは
「ファン世話になったわ、貴女ならきっと良い隊長になる」
「なに言っているのフェイ」
「言ったでしょ逃げも隠れもしない、父さんが判断を下すから・・」
「フェイ!」
「仁義礼知忠心考悌・・忘れた者は人にして人に在らず悪鬼羅刹と化した私を父さんは許さないでしょう」
「・・」
「じゃあ・・」
フェイルンは司令官室のドアをノックした
「入って良し」
「失礼します」
閉まったドアをジッとファンは見つめた
「とんでもない事をしてくれた」
「覚悟は出来ております」
「そうか、30分後に軍法会議を第一会議室で行なう弁護人を選んでおけ」
弁護を出来る者はいない形式だけをフェイロンはフェイルンに要求した
「判りました」
「下がって良し」
「ハッ」
親子の会話は其処には無かった軍人としての会話だけであった
フェイルンは部屋を出るとハーディの元へ向かった
「ハーディ・・」
「今、指令から指示が入ったわ」
「お願いできるかな立っているだけで良いから」
「長い付き合いだから最後まで付き合うわ」
「大佐!私も付いていきます」
セルマである銀髪のコンピューターが弁度人として立つのである
「セル、気持ちはありがたいけど勝ち目の無い裁判に立つ事は無いよ経歴に汚点を残すわ」
「中佐!」
「言い合っている時間はないわ、そろそろ行かないと」
フェイルンとハーディは揃って会議室へと行った
「ファン中佐!」
「ハァ・・ノエル少将に頼んで見ましょう」
「お願いします」
ファンはノエルの自室へと向かって行った
会議室に入ると控え室から各隊の大佐以上の指揮官が入ってくるがその中にノエルの姿はなかった
「此れより今回の土田禾人中将戦死の件に関して会議を始める・・」
ハーディとファイルンが着席した
「土田禾人中将戦死の状況における事実からヤオフェイルン中佐の無謀な命令違反による所が大きい、ヤオ中佐君の罪状は命令違反、マーク中佐に対する暴行監禁、兵器無断使用そして第一級国家反逆者逃亡幇助である」
フェイロンが罪状を読み上げた瞬間周囲の人間が横目でフェイロンを見た
第一級国家反逆者逃亡幇助をつけるとは思わなかったのだ、反逆者逃亡幇助を付けた事によってフェイルンの刑は確定している
フェイロンは娘に死刑を言い渡したのだ
此れにはハーディが黙っていなかった、ハーディの予想は悪くて軍刑務所終身刑
「異議あります!」

ノエルの部屋のドアをノックするファン
深い眠りに付いたノエルはその音に気付かず眠り続けた
『ノエル・・』
『まさか貴方なの・・』
『おきて軍法会議に出ろフェイルンの銃殺が決まってしまう前に・・』
『フェイちゃんが!』
『俺の命を引継いだ者を味方によって奪う事は許さない』
『判りました即刻やめさせましょう』
『悪いな』
『ところであっちへ行ったんじゃなかったんですか?』
『フェイが第一級国家反逆者逃亡幇助で軍法会議に架けられるとは思わなかったから引き帰してきた』
『私の傍に居てもらえますかこれからも・・』
『悪いが行かなきゃハイドリッヒがチェス並べて待っている』
『そうですか・・お気を付けて・・』
『君に言うべき最後の言葉が見つからない・・願わくば僕と君の子供を育てて貰える事を』
夢の中でノエルは禾人と別れのキスをした
次の瞬間けたたましい打音によって目が覚めた
「もう少し見て居たかったですね・・彼の夢・・」
ドアを開けるとファンが立っていた
「お休み中すみません」
深深頭を下げて現在の状況を話し出した
「私を抜きに軍法会議を行なっているんですか!」
「はい、ハーディ大佐が付いていますが・・」
「彼本当に来てくれたんですね・・」
「なんですか?」
「いえ何でもありません、大将が銃殺刑を宣告する前に行きましょう」
「まさか」
ファンはこの時点で何も知らない軍法会議で何が起こっているかを
ハーディがフェイロンに食って掛かっている
フェイロンは動ぜず冷静に事を進める
「ヤオ中佐君の行為は自己満足でしかなく戦場においても敵を射殺もしくは確保せず逃亡させた、前回の出撃時に敵を討ていればまた、君を囮に使うと言う行為に冷静な判断で対処先に射殺できていれば禾人中将の死は無かった」
フェイロンは目を閉じて判決をフェイルンに言い渡す
「今回の重大なる命令違反、土田雪人逃亡に対して此れを幇助したものと同様の行為と認定以上のことからヤオフェイルンを準第一級国家反逆罪にて死刑を言い渡す・・」
「異議あります!!」
ノエルの声が会議室全体に渡った
「ノエル少将休んでいたのではなかったのかね」
「わたくし抜きの軍法会議はおかしいのではないのですか、スパイダー隊から一人も出席してはいないではないですか」
「確かにそうだが」
フェイロンがノエルの気迫に押され始めた
「おねえ・・ノエル少将判決はわかっています受入れますのでこれ以上は・・」
フェイルンは死を覚悟したそれをノエルが一括した
「何を言っているのですか!貴女は土田禾人の命を引き継いだ者、簡単に銃殺刑では死ねません!戦場に出て苦しんで悩み土田禾人の代わりを果たすのです!」
「ノエル少将、君の意見はわかったしかし、軍規と言う物がある」
「土田禾人が守った命を奪うのが軍規ならば、スパイダー隊は離反いたします!」
「ノエル少将!」
フェイロンが激怒した
「ヤオ大将、スコルピオン隊も離反いたします」
ハルゼーはノエルが妻たちの艦に移るのを予想したそうなれば完全にオムニを二分する
「貴様ら!勝手にせい!この会議は全て白紙にする!ただし!ヤオフェイルンは二等兵まで階級を落とす!以上!散会!」
「少将・・」
「彼、慌てていましたよまさか銃殺刑にするとは思わなかったようで、そのうえ貴女が受け入れるとは」
「死んでしまったほうが楽と考えました、禾人おにいちゃんにおねえちゃんの支えと・・」
フェイルンが言いかけてハッとした
「支えてもらえますか、彼言っていました願わくは僕と君の子供を育てて貰える事をと、代理母の貴女がいなくなってしまったらそれはかなわないことです」
「お姉ちゃん・・」
フェイルンが涙を滲ませた
「明後日彼を送る時も一緒に付いて来て下さい、この隊から出られるのは貴女と私とキリカだけです」
「判りましたお供させていただきます」
フェイルンは頭を下げた。

オムニ今そこにある危機3 第30話 「陰謀と策略そして和平」

「こんなのできっこないわ」
半田が机の上に投げ出したスケッチとスペックを見たナミが言った
「身長16mのX4ストライクケンタウロ、レコード、セイントこの三機何に使うの?」
キリカの疑問である
「ナキストの城門は厚さ7.5mの特殊合金、タウンアスクルの城門も厚ささえ違えども同じだ」
「ナキスト攻略にケンタウロに積んだポジトロンキャノンを使うの?」
「そうだナキストは外敵から守るのにオムニ最高の技術を集めた、その城門を粉砕する為だけにこの三機を作る」
「まさにストライクね」
一撃の為だけに特注のX4を作らせる、スケッチの下には禾人のサインが入っていた
「遺言かぁ・・」
「禾人は言っていたあの二人には、できっこないそれだけの技術は無いだろうと」
「兄さんの言う通り今は技術ない、でもこれからナキスト攻略作戦が始まるまでに作ればいいのでしょ」
「それでこそ禾人の妹だ、攻略は2年か3年後だ」
「2年から三年後って!」
「禾人はオムニ陥落が起きる事を予測している、軍の再編成や建て直し小規模でオムニ国家の存続と防衛に2年はかかる」
「でも!」
「あの兵力をどう受け止める気だ、一将功成りて万骨枯るか?禾人は望まんぞ」
「時には引く事も必要ですか?」
「そうだ」
「軍人とは思えない発言ですね」
「私は軍人ではないし、エリィ軍曹を別にすれば元は民間だろ」
「確かに・・」
「陸軍は良かったか?海軍空軍の方が話がわかると思うが」
「陸軍は頭が固いんですか?」
「禾人の調査報告書、ヘイグマンファイルを見れば判るだろう、空軍も海軍も陸の中を行く訳ではないおっと、海兵隊は別だが海軍と精神は近いから別とするが陸は色々と欲望が多いからな」
「陸軍主導の作戦ではドールズも良い思い有りませんでした」
「でヤオ大将に司令になってもらったんでしょうか?」
「それしか考えられんな、ヤオ大将の実力は信じられん階層まで行き渡っている」
「そう言えば兄さんが昔こんな話をした事が有ったは、オムニには四天王が居てオムニを守っている四天王の一人がヤオ大将だと」
「オムニ4か?第一陣強制移住責任者コルリオーネ、ヤオ、ノックス、ケイネン、政治・軍事・経済そしてマフィア」
「強制移住指導者ねぇ」
「まあ結局みんなつるんでいるってことだ」
時計を見上げた半田が言った
「整列の時間だ、キリカは当然行くんだろ」
「はい」
「エンジェルパーク直ぐ脇の岡に広い土地が買ってあったって」
「ええ、兄さん用意してあったみたいで」
「アイツの事だ何処かに辞世の句が有るんじゃないか?探してみるか・・」
「そうですね・・」
5人は正装で開発室を出て行った

「リサそろそろ時間だけど、なに読んでいるの?」
「中将のガンケースに入っていた漫画」
「モーゼルのフルセットの中に?」
「そう、モーゼルを使った主人公の漫画なの」
「どんな?」
「ええっと」
リサがあらすじを話始めた
モーゼルを駆使して組織と戦う少女の話、モーゼルを分解ロングバレルに切り替えるシーンは禾人のその姿と同じだった事、日本から夢見て大陸に渡り恋人に裏切られ悪夢にうなされる主人公やがてツウォンランパ(馬賊総頭目)となった青年の話
「中将が好きそうな話ね」
「ボスは総指令目指していたのかな?」
「男ですからヤッパリ目指していたんではないでしょうか?」
「ノーゲットだったのに何かいやじゃない?」
「夢も欲も無い男に魅力感じますか」
「それもそうだな・・そろそろ時間だが、リサ例の書類は司令に渡したか?」
「はい」
「それでは行くか」

「総員整列!土田元帥殿に敬礼!」
総員によるアーメンコーラスが始まった、その間をストレッチャーの上に乗せらた禾人が進みやがて中央で止まると神父服姿の神が聖書を読み上げ始めた
埋葬に立ち会えない人たちへの最後の手向けである
「中将ご苦労様でした・・」
アリスが一輪のバラをストレッチャーに載せると交代で次から次へと花が置かれていく
禾人に棺は無い本人の希望で土に返されるのだ
神の祈りが終わるこるには禾人は花で埋め尽くされていた
再びストレッチャーが進み輸送機に乗せられる、ゆっくりとドア閉まると徐々に輸送機は進み加速していく輸送機の姿が見えなくなるまで総員は敬礼を続けた。
リサがヤオの前に立つと敬礼をして
「ヤオ大将此れよりドールズウィング特別訓練に発進いたします」
「うむ、空域はオムニシティでよいな」
「はい!」
リサ、ミノル、マリー、メリサ、セシルの五人のアクロバットに加えて指令機でエリオラが発進した
「相変わらずリサは根回しが良い、訓練に名を借りた葬送アクロバットとはな」
「ハルゼー大佐申請して置くのでしたね」
「いや中将の事だ男より女性のほうが良いだろう」
「其れもそうですね」
「今日は酒が出ているまあ飲んで中将の昔話でもするか」
「ええネタは付きませんから・・」
その頃オムニシティは禾人の到着を待つ群衆で溢れ帰っていた
「大統領演説の用意ができました」
フィア大統領が壇上にあがり民衆に喋り出す
「みなさん、この度の戦いにおいてオムニの巨星とも言うべき土田禾人中将を失ったことは・・」
禾人の死が宣伝に使われ葬送パレードが行なわれるのだ
やがて輸送機は空軍基地に到着、禾人の降機が始まった
「禾人ご苦労だった・・」
広人はこの時初めて禾人の死顔を見たのだしかし、涙は流さない
流さないのではなく怒りの為流れないのだ
『あの遺書時がきたらノエルに見せるもし私が死んだら墓に持っていくつもりだ、禾人それで良いな』
ノエルの指に広人の眼が行った
「最後に受け取ってもらったか、禾人も果報者よ」
「いえ、リサに捨てるように言っていたらしいのですが・・」
「そうか、禾人最後の最高の教え子がそうしたのならアイツは感謝しているだろう」
「そうですね」
「さて禾人を神輿に乗せて神にするか」
「どう言う事ですか?」
「葬送行進だ大統領が宣伝の為に禾人の経歴や地球軍戦傷軍人に対する支援、孤児院への寄付等を上げなぜあいつが死ななければならなかったのかと声を荒げて叫んでいるよ」
「兄さんは好みません」
「其れを許さないのが国家だ」
「こんな国家だから・・」
「禾人は壊したかったんだな」
「そうかもしれません」
「では行くか・・」
禾人の遺体が四頭立ての馬車にに載せられた
その後ろの座席が作られていて未亡人のノエルと妹のキリカ、広人が乗り込むとゆっくりと滑走路を進み空軍基地を後にするのであった
空軍基地は待機人員全てが整列して禾人の見送りに出ている、もう二度とあの姿に出会えることは無い事が判っているがシャロームを歌い出した者がいた其れに康応して総員が歌い出す
「又会おうか・・」
「会える事は無くとも思い出せば直ぐ傍に居てくれるという事を判ってほしいです」
「禾人の精神は空軍、海軍、独立軍、宇宙軍が引き継いでくれる」
「陸軍は?」
「ヘイグマンの事も有る此方が潰される前に潰す、禾人の意思でもある」
「そうですか・・」
「そこでだ禾人の未亡人として大統領が演説を求めると思うが・・」
「私の思っていること禾人さんの思っている事を話す積りです、それで私に非が及ぶとしても・・」
「非は及ばんよいや、及ばせないオムニ4が阻止する」
「?」
「禾人の信者は君たちだけではないのだよ」
などとの会話をするうちにオムニ大統領府の前の広場へ着いた、多くの民衆の花束を受けながら
「此処で土田禾人中将の未亡人であらせられるノエルノルン少将に挨拶を頂きたいと思います」
馬車から降りたノエルが壇上へと上がった
ノエルは頭を下げ一通りの集まった人々にお礼を述べると
「此処からは彼と私からのお願いです、彼も私も戦いを望みません、まして大統領が先程述べられました報復のような戦いは尚の事・・」
フィアが止められるはずが無い思惑がずれたのだ
「彼は皆さんを守る為最前線に立つ事は有っても自分の為に立たせるようなことは望みません、彼の望んだ事は早く終わらせること出来るならば戦争無く話し合いにより解決する事だったのです、実際開戦前エアーズマンにてカシアス土田雪人少将、ブバイ河原大佐と会談を持っています、何故なら彼の試算から2万人の戦死予想が出てた為平和的解決を模索しました、彼の口癖だった『人無くして国家なし国家の為に人有らず』人こそ国家の根源たとえオムニ国家が縮小されても残っていれば人によって再建できる、願わくば彼の目指していたどんな形であっても平和的解決をお願いいたします」
夫を失ってもその思いを正しく伝えるノエルの姿に群集から拍手が上がった。
ノエルは言い終えると再び頭を下げて馬車へと乗り込んだ
「此れで宜しかったのでしょうか?」
「兄さんも言いそうな事ね」
「夫婦ですから、気持ちが同じでなくては長く一緒に住めませんよ」
「そうか、フィアは今ごろ泥地団駄を踏んでいるだろう」

「どう言う事だ!」
「どうにもこうにも・・」
「ノエルには話を通してあったんだろうな!」
「いえ、夫の報復を願う物と思っていたので・・」
「馬鹿が!」

「雪人、兄の葬式か」
ディスプレイを見ながらブバイに答えた
「はい、此れでオムニが降伏してくれればよいのですが」
「無理だろう」
「そうですね」
「地球軍のほうは今日も兵を進めているようだが」
「Nシステム搭載機がもうすぐ出来上がります、其れから此方の本格的攻略作戦に移ります」
「後一息か」
「そうですね」
しかし雪人の思いは別にあるのか遠い目で空を見上げた

エンジェルパーク入口まで並んだ人の列に別れを告げて埋葬場所へと馬車は進む
此処からは近親者のみとなった
「あいつの希望か・・」
墓石は無い、土に埋め桜の木を載せるその横にベンチを置く
『惚れた女だけに埋まっている所を知ってもらえていれば良い』
神父の服を着たフェルナンデス、まだ見習いながらシスターに頼み込んで禾人の葬送をすることになった
「禾人・・」
黒服が取り囲む中ジャンとジョルジュが最後の別れにたった
ファミリーNo3が逝った、キスをして最後の別れを惜しむ
「お前たちはなんて言う事を決断したんだ・・」
ジョルジュが呟くように言う
「ファーザー?」
「何でもない・・」
そして、次から次と別れが進んで行く途中で轟音と共にジェット機が禾人の遺体目掛けて急降下してきたリサである
「スモークナウ」
レインフォールであるがリサの機のパイロンから花束の投下が加わりまさかと思ったが、禾人の上には乗らずキリカが受け取る嵌めとなった
「姉さんこれ・・」
手紙である、禾人の愛人一同から感謝と敬意をこめて
しかし、ノエルに見る余裕は無かったのだ音で判らなかったが禾人の遺体にしがみ付いて泣いていた、皆がリサ達に気が行っていて気が付いていなかったのだ
「こうなると手が着けられんな」
広人が集まった人にお礼を述べると一人一人と去っていく、リサ達の演技が最後を迎える頃にはノエルとキリカ、マリアに広人、エリカノルンの家族だけになっていた
「エリカすまないが会議がある、ノエルの気が住んだら禾人を土に返してやってくれ」
「このような時くらい何とかならないのですか?」
「禾人の遺言・・いや遺志を引き継ぐ為の話だ私が出なければな」
「そうですか」
広人は禾人のムスタングで走り去った
夕暮れが近づく中ゆっくりノエルが立ち上がると
「気が済んだ?」
「おかあさん・・」
ノエルがエリカにしがみ付くと禾人を乗せた担架が地中へと下ろされ、その上にクレーンで吊られた桜の木が降ろされた
墓守によって土がかけられ芝が乗せられ最後にベンチの配置が終わった
「ノエルあなた専用のベンチですよ、禾人を思い出したら来て座れば良い」
「はい・・」

また空軍の中に禾人の噂が広まった、フェイルンの話が誇張されて伝わったのだ
ミノルは禾人を祭る祠を基地の片隅に建てた、禾人の神格化が密かに日系軍人の中に始まったのだ

「遅くなった」
広人がコルリオーネの邸宅に現れたのだ
「済んだか」
フェイロンである
「ノエルが離さなかったので長引いている」
「娘も出たかった様だが遠慮させた、最後くらいは少人数がいいだろう」
ノックスである
「禾人もえらい物を残した物だな」
ケイネンである
「私も彼らがあのような形を成すとは思わなかった」
コルリオーネである
「オムニ4と呼ばれた我々をも手玉に取るとはな」
「禾人たちの思いだ、この計画を引き継がねば」
「陸軍の消滅は最優先」
「禾人の神格化も同時進行だ」
「クライスト計画とは考えた物だな」
「禾人の軍人としてではなく戦士の面」
「国より妻を選んだ男として」
「子供たちの事を第一に考え思ったことを」
「オムニに降り立った者全てに公平であったこと」
「編集してビジョンを流し禾人を植え付ける」
「そしてオムニの統一だ」
「しかし、そんなに甘くないぞ」
「雪人の侵攻次第だな」
「雪人だがAI搭載機の投入を始めるようだ」
「其れはそれで進行して貰わねば計画が狂う」
「ベースセレネのマスドライバー強化は」
「既に始まっているが2年はかかる」
「2年と言うのは禾人の計算だ」
「それとフリーダム建造は進んでいるのか?」
「ホーリーウィングにあるアストレスの軍港に移動させた、更にピッチを上げて建造を進める」
「ジャスダムは?」
「高重力場発生装置に手間取っているようだ」
「そうか早くできるも出来ないもどちらにしろ2年間は必要ないものだがな」
「では、ノエルには消えてもらうか」
「休戦には必要か」
「ああ、あの部隊の犠牲で停戦とする」
「ノエルの部隊を内密にメガフロート移送する手立てはあるのか?」
「エイプリルが我が手に入っている」
「ではノエル隊の頭上に地球軍機で燃料気化爆弾を投下させよう」
「地球軍のほうは大丈夫なのか?」
「草に投下させる場所を教えれば全てやってくれる」
「わかったそのように勧めよう」
「首都はホーリーウィングに遷都する事にしよう」
「オムニシティは地球カシアス軍に進呈するか」
「それではこれで進めることにしよう」
「ところでフィアはどうする」
「役に立たん地球カシアス軍が始末するだろうほうっておけ」

そして2ヶ月が過ぎた頃担架で運ばれるノエルの姿がニュースで流された
「地球軍にも困った物だな」
「我がカシアスが同じとは思われたくは無い者だ」
「こうもハッキリ投下映像が放映されると反論の余地もない」
「それも犠牲者はあのノエルだ」
「大統領の報復演説を公衆の面前で完全否定した人間が犠牲者になるとは困った物だ」
「地球カシアス連合がオムニシティを落とした時点で停戦協議をしよう」
「オムニの財界をこのまま利用するならこれ以上の余計な反感を買うような犠牲者は、出さないようにしなければな」
「カシアス全権大使の名でノエル少将の負傷にお見舞いを出すか?」
「其れも手でしょう」
「Nシステム機は既にオムニシティに突入準備が済んでいる」
「フィア大統領が逃げたのを地球軍が殺ってしまったと報告が入りました」
映像が映し出されると
「オーシャン1を沈めるとは・・」
「問題か?」
「オムニ人の誇りですよ、速い内の講和が得策のようだ」
「地球の馬鹿どもは移民の誇りを考えん、カシアス軍に非が及ぶ前に停戦を進言しよう」
「雪人大統領の死んだあとは誰が交渉相手となりうるのか?」
「ヤオ大将がいいでしょう」
「そうか、では早速和議に入る地球全権大使には私から連絡を入れよう」
「納得するでしょうか?」
「納得させる、オムニを統べるためと言えばなんとでもなるそれに現状のオムニ軍はホーリーウィングを中心として半径1500Kしか統治する能力もないしな」
「ただ宇宙軍には困ったのだが」
「宇宙で戦えば此方の犠牲が多大だ」
「宇宙軍はほって置きましょう、地上干渉はしてこない隕石潰しが最重要ですから其れに宇宙港を押えています降りる場所が無ければ降りれない」
「其れもそうだな」

この数日後オムニシティ陥落、数ヵ月後には講和会談が持たれ停戦へと進んでいったのだった

今そこにある危機・・完・・

次回から「パワーゲーム(仮題)」へ移ります2年後のオムニが舞台の予定