オムニ今そこにある危機3 第16話  「黒翼の天使&暗黒の女神」

「ノエル少将たとえ地球軍側に金が流れていなくても禾人の処刑は変わらん、もっと決め手は無いのか禾人の行為と相殺できる物だ」
「それでしたら情報部が麻薬の売買に関係していることは・・」
「それは情報部の事だ、それはそれで型を付けるが禾人の国家反逆罪には関係が無い」
「それでは・・」
「ノエル少将すまないがこれ以上禾人の処刑を伸ばしても減刑処置に成り得るものは無理のようだな、処刑決定をさせてもらわなければ成らないでは」
「大統領!」
呼べども空しく電話の音が響くだけだった
「どうでした」
横に首を振るノエル
「何で!シスターも証言したし!情報部が仕組んだってことも!」
フェイルンが叫んだ
「だが中将は自分で援助を行なっていた、それを正当化する理由なくして反逆罪を覆せないと言う事だ」
「ハーディ!あんたは構わないだろうが!」
「フェイ!私だって我慢成らんのだ、少将も中将もお前も知らないと思うが私もあのパレードを同じ場所から見ていて、中将に助けられた一人だ!だから私だって助けたい!」
画面を見つめながらノエルが呟く
「もうそれも敵わぬ事になりましたね・・」
再び神の率いる狙撃隊が位置に着いた

「大統領、そろそろ」
「わかった」
既に大統領も法務長官もサインを済ませている、広人にホットラインで連絡するだけなのだ、大統領がゆっくりと受話器に手をかけ持ち上げると同時に広人の手元でコールが始まった
「来たか・・土田です」
「土田禾人を第一級国家反逆罪にて処刑せよ、コード確認ABLLW1573KART」
「コード確認」
コードの入ったアクリルケースを二つに割ると中のコードを読み上げた
「ABLLW1573KARTコードを確認、此れより銃殺刑を執行いたします」
窓の外に向かって合図を送り出すと神が指揮を取り出した
「位置に付け!」
10人の狙撃手の内5人が膝をつき5人が立ち位置で準備に入る
次の合図が来た
「装填!」

画面を見つめる一同を脅かすかのごとく行き成り扉が開き国務長官が飛び込んできた
「大統領!直ぐに停止命令を!」
「どうした」
「話している暇はありません!兎も角停止命令を」
既に射撃体勢である
大統領今度は慌ててホットラインを取り上げた、当然の如く直ぐに広人が対応に出た
「処刑停止だ」
「それだけですか?」
「それだけだ!」
「それでは停止できません」
大統領は焦った自分の息子の処刑を停止しないのだ、忘れている物作戦コード
「大統領此れを」
ヤオがアクリルケースを割ってコード表を渡した
「停止命令 コードを確認せよLLSDA9617WWSE」
「コードLLSDA9617WWSEを確認、銃殺刑の停止命令を発令いたします」
広人はマイクを取り処刑停止命令を神に伝える、それを受けて神が狙撃隊に引き上げ命令を出した
「何があった」
「これを」
国務長官がチャンネルを切り替えた先は、雪人の件から警戒を強めていたN―COTV当然の如く禾人の処刑を放送していたが同時に画面下にテロップで緊急ニュースを流している
『オムニ軍上層部に計画的略奪の疑い・・エラン無差別空爆後金融機関から金品の紛失・・エラン爆撃指揮官土田中将の身代わり処刑・・情報部が地球移民一世等に麻薬の製造を依頼・・土田中将の地球軍戦傷軍人への個人支援行為をオムニ認めず・・』
「なんだこれは!」
大統領が激怒した

「中止ですか・・?」
「思いが通じた!」
「そんなに生温い大統領ではありません何か合ったのでしょうか?」
「父さんが・・いえヤオ指令が現在大統領官邸に行っております、連絡を取って聞き出しましょうか」
「そうしてください」
フェイルンがフェイロンに連絡を取り始めた
「何ですって!」
驚きを隠せない
「直ぐにN―COTVにして!」
N―COTVに変えるとテロップが流れている、その画面を見ていたノエルの顔が段々変わっていくのであった

ソファーに座った広人、その両横にゼン防空司令官と呂戦略司令官が座り禾人と神も椅子に腰掛けてディスプレイを見つめていた、禾人は手錠を掛けたままだがコーヒーカップを握り締めて一言呟く
「雪人が再び表に出てくるとは・・」
画面には雪人が映し出されていた、雪人は先日の核件についての全容を話し謝罪を行っている
「ではあの核については総て貴方が計画したと認めるのですね」
「そうです」
「なぜ今ですが」
「真実を話さなければこれから話す海軍情報部時代に知ってしまった、事実を信じてもらえないと思ったからです」
「事実とはエラン空爆に対してですか?」
「そのとおりです」
「エランには核兵器とその司令部があったと言う事でしたが」
「いえ核兵器も司令部も無かったのです」

禾人が広人に視線を送った、それに答えるように広人は命令を出す
「呂、直ぐに当時の資料を再検証しろ」
「判りました」

「ではなぜ攻撃に至ったのですか」
「オムニ情報部の安泰と資金調達」
「それだけの為に!」
「現在オムニには国家直属の情報部SICと各軍の情報部がありますが、当時情報収集はSICのみでした、最前線に兵をSICの情報に基づいて送っても失敗、兵を失い続け軍部はSICの情報に信頼性なしと判断、独自の情報部を築き上げたのです」
水を一口含み更に話しを続ける
「当時最高レベルだったのは海軍の保有する偵察衛星ホルス、偵察・監視を主に行いピンスポットで無線傍受も可能な衛星でした、それの操作及び情報解析は私が担当していたのです、先ず此れを聞いていただきたい」
『ヴァリトラ01より司令部、此れよりエラン空爆に向かう』
『ヴァリトラ離陸許可する、御幸運を』
『ラジャ』
『全機の告ぐ回線閉鎖、部隊回線に切り替え』
『イエッサ』
『御幸運をか・・けったクソ悪い!』
『少将ホントにやるんですか・・』
『ハルゼーやるから飛んだんだ』
『しかし民間人をも巻き込むんですよ』
『核攻撃の恐れがある以上、オムニとしてほっては置けないと言う事だ』
『だからと言って!』
『ハルゼー少佐、軍人として今回は命令に従え』
『イエッサ』
『此れより私からの命令を伝える、エラン空爆空域到達後は全機、ヴァリトラ01よりの遠隔同調操縦及び爆撃操作とする、今回の縦断爆撃全責任はこの私土田禾人が負う空爆の間全搭乗者エランの為に祈っている事以上』
『それでは少将!』
『ルシファーの仕事だお前たちは民間人に攻撃をしたと言う汚点を残すな、良いな』
『・・』
『此れは私からの頼みだ、非常に危険が伴うものなので強制はしないがエラン到着までの1時間に出来るだけ搭載爆弾の信管を取り外してほしいのだ、2000発の内10発でも良い頼む・・』
「この会話はエラン空爆開始前の空軍閉鎖回線を傍受した物です、このあと空爆が行われ制圧隊の降下、不発弾の回収そして陸軍と情報部の核爆弾回収チームとの交代が行われたのですが、続きを聞いてください」
『スコルピオン制圧隊へこちら陸軍第18師団17大隊司令官ヘイグマン少将だ』
あのヘイグマン?ノエルもマフィルも敵の正体がわかった、情報部部長ヘイグマン
『こちらスコルピオン司令官土田』
『この作戦における君達の作戦は、終了した撤収してくれ』
『支援は必要ないのか』
『必要ない』
『了解した』
『ハルゼー引き上げだ』
『了解』
『ヘイグマン少将、完全に奴らは引き上げました』
『ガン、物はエラン銀行にある何時も通りに事を進めろ』
『判った、空になった金庫は空爆に見せかけて破壊しておく』
『任せた』
『あとこちらで用意した核爆弾は情報通りの場所から発見した様に見せかけろ』
『何時も通りにやっておくよ』
何時も通り?これ以外にも何かある、ノエルの顔つきが変わった
「そしてこの後銀行から金塊の略奪が陸軍と情報部によって行なわれたのです、ダミー核爆弾の存在が情報部の存在価値を上げ、金塊が運営資金と幹部の私腹を肥やした」
「その証拠はあるのですか、前の事も有って皆さんが信じないと思いますが」
「この書類と後は情報部の取引に使うエイハブ商会の倉庫に証拠はあります」
「エイハブ商会にある証拠とは?」
「職の無い地球移民一世達に作らせたヘロイン、大麻樹脂と禾人の・・いえ土田オムニ空軍中将の銃殺刑執行の原因となる教会のシスターが現在囚われています、あの新聞情報だと情報部はシスターの居所を知らない事に成っていますが実際は、彼らが教会を襲撃し捉えているのです」
「しかし、何で今更・・」
「土田禾人を合法的に抹殺するチャンスだったのです、奴らは何時禾人の持つ情報網にエラン空爆の真実を突き止められ処刑されるのを恐れていたのですしかし、逆に寝た子を起す羽目になった、禾人自身エラン攻撃を恥じて詮索するつもりも無かったが、シスターたちが囚われた為救出に部隊を送り込んだ、あのままほって置けば間違えなくあいつは、処刑を受け入れていたでしょう」
「ではあの爆撃は単なる虐殺に過ぎなかったのですか」
「・・まさに・・」
雪人が言葉を濁した

「うおおおおお!!!」
ガシャ――――ン巨大な木のデスクが真っ二つに叩き割られた、禾人が渾身の力をこめて手錠の付いた腕のまま振り下ろしたのである、其のまま膝を落として土下座をするような形で肩を震わして立ち上がろうとしない
神が禾人に触れようとしたが禾人の発するドス黒い気に手を引っ込めてしまった
次の瞬間、顔を上げた禾人を見た全員がその形相と流す涙を見て息を飲んだ、血の涙が筋となって白い服を赤く染め上げ始めている。

「そして此れがエランの空爆を仕組んだ情報部員の顔写真です、総てがエイハブに居るでしょう」
「でその確認ですが今エイハブに取材ヘリを送っていまして数十分後には判明します」

拙い・・ノエルは腹が決まった、コルトを抜くとサイレンサーを付けて捕まえてある情報部員の元へとゆっくりと向かう、一歩一歩あるく毎にノエルの顔が変わっていく目は細められ口元はやや微笑んだ雰囲気を醸し出す、古佛の微笑みアルカイックスマイル・・
縛り上げた諜報員の前に立つと銃を構えた
「どんな事をしてもお前たちに話す事は無いぞ」
ノエルは何も答えず、引き金を引く鈍いと音と共に一人目が倒れた
次の人間に照準を合わすと喋る隙を与えず射殺を始めた
「お姉ちゃん!何をするの!」
押さえつけに入ったフェイルンの顔目掛けて肘を打ちつける
避けたフェイルンをマフィルが取り押さえ口を塞ぐ
ガンは、やっと気付いた
「そうか・・ノエルノルン緊急事態省隠蔽工作員か・・暗黒の女・・」
一言言う暇もなく射殺された、残った諜報部員も射殺
「少将、一号倉庫にも数人が負傷した状態で捕らえてあります」
ノエルは黙って駆け出した始末するために、やがて戻ってきたノエルは緊急事態省長官用のDC(ダイレクトコール)を取り出しボタンを押す
「わたしだ」
「Zより報告エイハブコードE完了、ヘイグマンは発見できずオメガの工作開始を願う以上」

「どうした?」
大統領が猪に尋ねると
「ZがEを完了、オメガにヘイグマンEを発動せよと」
「お前の考えはどうなのだ」
「オメガだけでしょう短時間でヘイグマンを探し出し始末できるのは」
「アイクマン総司令、土田中将の再審を大統領命令として発令する」
「わかりました閣下」
「アイクマン、禾人の休職を解いて緊急事態省に復職させる、広人に命令を出してくれ」
「判った」
血の涙を流しながら立ち尽くす禾人の傍らで広人がアイクからの電話に出ている
「禾人、今日の17時から再審が決定した、仮釈放要求が猪から求められてそれも認められた」
その決定を聞くと神が禾人の手錠を外す
「此れより緊急事態省へ出頭いたします」
「判った」
禾人が部屋を出るときテレビではハーディがインタビューを受け始めていた。
「ヴァンビーンがない」
ガレージで禾人はOCR1000が無くなっている事に気がついた
「ノエルか・・ギアはリサが乗っていったということか」
ギア・・ムスタングギア改、禾人のオープンカーである、
禾人はZIIに跨るとフルスロットで走って行った

「少将!なぜ無抵抗の者を!」
ノエルはフェイルンの抗議に何も言わずヴァンビーンに跨ると緊急事態省へと向かった
「ハイハイ皆さん!皆さんの着替えと食事の用意がエアーズマンに用意してあります」
「へぇ〜気が利くじゃないリサ」
「迎えは兵員輸送車じゃなくてリムジンです!」
「凄いな、それでは直ぐに片付けて行くか」
「イエッサー」
ノエルの走り去った方向を拳を握り締めてフェイルンは見つめたまま動こうとしなかった

空軍基地より出た禾人は前方に金髪を靡かせ走っていくバイクを見つけた、間違えなくノエルである、禾人はノエルのスリップストリームに潜り込んだ行く先が同じ処と判ったのだ、ノエルは答えるようにスピードを上げる
オムニの除雪装置は最高である路面は凍結せず、積雪もない
直ぐ後ろを走るフォーサイクルの振動がノエルに伝わって来る、更に禾人は前輪をノエルの後輪に接触させてくるのである
「荒れていますね・・」
バックミラーで禾人を見るとそれが違う事がわかった泣いていて前が見えないのである
ノエルのスリップストリームを感じ接触して距離を図り後を付いていこうとしているのである
「なんて言う走り方を・・」
ノエルはスピードを段々と下げていく、禾人も答える
減速が早くなる禾人は緊急事態省に着いた事を知った
バイクから降りたノエルは建物に入ろうとする禾人を引き止める
「そのまま入りますと皆さんが逃げますよ」
怪訝な顔をした禾人に、ノエルはポケットからウェットティッシュを取り出し既にカサブタ状態になった涙のあとを拭く
「此れで良いです」
何も言わず自分のオフィスに向かっていく部屋に入り本棚を動かすとリニアエレベーターが姿を表した
「行くぞ」
「はい」
オムニ非常事態分析指揮管制センターへと降りていく
「司令は、オムニ非常事態分析指揮管制センターに入る!」
何時もの掛け声である、現在中将階級は剥奪の為衛兵が言葉を選んだ
「司令、奴はセスナでゴールドレークに向かっています」
「ゼルナ中佐奴は一人か?」
「いえ家族で」
「むごい事を・・自分の責任を一人で取るつもりは無い様だな」
「はい」
「ハルゼーは?」
「既にゴールドレークに強襲をかけている途中であります」
「コードEを守る様に言ってくれ火災とがけ崩れだ」
「ハ!」
「ゴールドレークには何が有る?」
「傭兵部隊がいるようです」
「そうか何か隠してあるようだな、俺はヘイグマンの始末に出る」
「既に工作戦闘機シャークは、準備を済ませております」
「わかった」
「サポートに入ります」
「頼む」
「第六作戦指揮管制室にて本作戦をサポート、コードEの為シークレットランクA以上の者のみ集合せよ、指揮はノエルが執る」
「イエッサー!!」
禾人はシューターを使い工作戦闘機シャークの元へと向かった
「さあ始めますよ」
「イエスジェネラル」
ノエルが指令席に着くとスパイダ−部隊がデーター収集状況と作戦進行状況を刻々と伝えてくる。
「Xよりオムニデン、ターゲットGに到達強襲を開始する」
「ラジャ」
VTOLの搭載兵器を禾人が選び乗り込む
「ゲートオープン、シャーク スタンバイ レディ」
「ラジャ」
ゆっくりとゲートの下へと移動すると一気に垂直上昇、地上へ出る頃にはその機体をステルス機能により完全に消していた
「ターゲット捕捉完了、解析データーシャークへ」
「オメガよりオムニデン」
「こちらデン」
「捕捉まで15分」
「ラジャ」
「こちらZ、XはGに到達、強襲を開始」
「ラジャ」
やがて禾人の前方にセスナの機影が見えてくる
「オメガよりオムニデン」
「こちらオムニデン」
「コードエリミネート開始する」
「ラジャ」
禾人の機体がセスナの前へと移動するとステルスモードを解除した
「の・禾人か!」
セスナからは禾人の機に向けて命乞いの通信を送り始めた
「禾人!見逃してくれ、妻も子供も乗っているんだ!」
「頼む!」
後ろで泣き叫ぶ子供の声が聞こえてくる
「人ならば見逃してくれ!!」
禾人からの通信が入っるとヘイグマンは胸をなでおろしたが、ヘイグマンは大きな間違えを侵していたのだ、そう禾人は魔王と化していた
「家族で死ねるてめえは幸者だぜ」
「禾人!許してくれ!!!」
機体から小型のカプセルが投下される、それはセスナの前方で弾け中の液体が機体を包み込んだそれと同時に再びステルスモードへと移った
「なんだ此れは!」
エンジン部分から白煙が上がり始めると一気に発火セスナを炎が包み込んだ、軽油の入ったカプセルそれは飛行機事故に見せかける為の仕掛け
「パパ〜〜〜ママーーーーーー」
禾人の無線には子供たちの泣き叫ぶ声が入ってくる
「禾人!!!呪ってやる!!!」
禾人は眉一つ動かさず呟いた
「呪われついでだ幾らでも構わんさ」
禾人は計算通りの場所へと墜落させた、墜落炎上する機体から人が逃げ出さないか旋回しながら確認する、やがて上空を旅客機が通過その無線で事故報告が行なわれた事を確認すると次の制圧へと向かい始めた
「オメガからZへ」
「こちらZ」
「エリミネート完了」
「了解、XはGを完全制圧GよりHファイルを回収オムニデンに帰還途中」
「了解、当方も帰還する」
「了解」
「ジェニファー中佐、ヘイグマンファイルの裏付けを取ってください」
「イエッサー再審開始までに処分するべき将軍を洗い出します」
ジェファニーは直ぐに各作戦における情報部と各将軍たちの繋がりを洗い出し始めた
「禾人さんまだまだ楽は出来ませんね」
ノエルは禾人の完全復帰を確信したのだ

そして
赤く染まった軍服を着て禾人は大法廷に立った
「あと五人は将軍を補充せんといかんな」
アイクマンが並んだ顔を見て話し始めた。
「大統領命令により土田禾人の再審を開始する」

「以下の事を念頭において本裁判を進行する。弁護人は土田禾人の意思により不在、次に先程議会において地球移民並びに地球軍戦傷軍人支援特別法が成立した、ただし過去三年に遡り適応される禾人の場合は適用除外となる判ったな」
「土田禾人中将弁明を始めて貰えるか」
「弁明は一切ありませんが、前件に付け加えるならば私はエラン大虐殺の実行犯であり極刑を望んでおります。」
「その話しは別だ」
「いえ、どの顔を下げてエランの人々の前に立てましょうか、私をこのまま処分した方がオムニの為にもなります」
「今一番お前の事がオムニの憂鬱なのが判っていないのか!」
「彼にそれを問うのは無理と言うものです」
「確かにそうだが」
廻りの将軍たちが笑い出した、殆どが禾人の味方である、此処で有罪にすればエランに関わりがあるものとの判断されかねない
「もう良いでしょう茶番劇は、禾人はエランシティ爆撃を行なった、それは情報部と一部の将軍が仕組んだ犯罪それに禾人が使われた、禾人は総てに悔やんでいて孤児達や戦傷軍人たちを助けていた、相殺出来得る理由だ」
「そうだなサッサと固唾けてしまおうか」
「では評決を行なう、有罪判決の者は挙手せよ、では満場一致で・・はない様だな」
言葉を濁した土田広人が有罪判決なのだ
「22対1で無罪だ・・広人空軍総指令何かあれば」
「土田中将、君の行なった行為はオムニの法に背くものだ、今回は人道的見地から無罪となったが以後このような事は無い、この事を肝に銘じて節ある行動を願う」
「イエッサー!!!!」
禾人に新しい軍服が手渡される、其処には総ての勲章、隊章そして階級章が揃っている。
それを纏うと裁判官席に深々と頭を下げた
「無罪と言っても此れだけの騒ぎになったのだ、明日より一週間の謹慎処分とするカウンセリングを受けておけ」
「謹慎について不服申し立てをいたします、カウンセリングについても拒否いたします。」
「なぜだ」
「明後日には最終判断が下されます、部隊から離れて居たくはありません」
「少し戦争から離れていろ、お前は入れ込みすぎだ」
「一人で居ても仕方ありません、悪い考えばかり思い浮かびますので」
「ならば謹慎処分は撤回するが出撃は暫く禁止する、基地内に置いてもその行動に制限をかけるいいな」
「イエッサー」
退廷する将軍たちの中からノエルが駆け出し禾人に跳び付いた
「世話かけたな」
「ホントに・・」
「禾人」
「親父・・」
広人は禾人背中を叩くと一言言った
「頑張れ」
「ハッ!」
そのまま去っていく
「いいお父様ですよね」
「良いか悪いかは未だに判らない・・ただ俺のことは昔から認めていてくれた・・空軍司令のサインが無いと中将には上がれないからな・・」
「そうですね」
「禾人あと一日あるノエルとゆっくり休むんだな」
「はい」
「ゆっくり出来るとは限りませんよ、リサがドールズを引き連れてエアーズマンに行っています」
「そうか・・だがなぜ君が暗い顔をする?」
ノエルの顔に陰りがあるのを見逃さなかった
「Zの姿をフェイちゃんに見せてしまいましたから・・」
「暗黒の女神か・・貫き手で心臓を抉り出したのを見られた訳ではないだろう」
「無抵抗の者を打ち抜きましたから」
「仕方ないわれわれの役目だ」
「はい」
「さて行くか」
法廷を出た途端ノエルの携帯が鳴り出した
「はい、ノルンです」
「直ぐに禾人ときてくれるか」
「お父様なんでしょう?」
「聞きたい事がある」
「判りました」
「どうした」
「お父様が呼んでいます」
「さっき言えば良いのにな」
「良いじゃないですか同じ建物の中ですから」
「ああ」

ドアをノックすると直ぐに返事が返ってきた
「なんでしょう?」
「このビデオを見てくれ」
それには雪人が映し出されている
『それでは最後に貴方が起した事件は、貴方のお兄さんに許婚を奪われた恨みからと言う話しがありましたが』
『それは、大きな間違えです兄に嫉妬はありましたがノエルと兄は似合いの恋人同士と認識しております』
『では・・』
『兄が原因で私の愛する人が死んでおります』
雪人が目頭を押えながら話しを続けた
『兄の行動が周りを・・先導・・彼女を・・死に追いやった・・兄が・悪いわけではなかったけれど・・彼女を庇ってくれていたけれど・兄があんな事になっ・た・・途端廻りが・・』
雪人が言葉を詰まらせた
『失礼・・これ以上は・・』
此れでビデオは終わっていた
「禾人」
必死に思い出そうとするがどうしても思い当たる節が無い
「覚えがありませんか?」
「俺があんなことって・・なんだ?」
「あれも擬装か?」
「いえ違うでしょうアイツはどんな事があっても人前で涙を流す奴じゃない」
「では」
「思い出すまで待ってください」
「いくら考えても今は無理だろう・・思い出したら言ってくれ」
「はい・・」

禾人たちは部屋を後にエアーズマンへと向かうが何かシックリ来ない・・
『一体なんだっと言うのだ雪人』・・

オムニ今そこにある危機3 第17話 「皆、思いは果てなく」

エアーズマンに付けられた一台のバイク、ノエルと禾人がタンデムで来たのだ、それも後ろ向きで禾人が乗ってきた
「禾人様」
「スティーブありがとう世話をかけすぎたようだ」
「いえとんでもない」
「俺の過去を知って刺したがっている社員は居ないか、居たら何時でも刺されてやるよ」
「その件につきましてはなんともいえませんが・・」
「そうか・・」
ロビーに入るとドレスを纏ったフェイルンが近づいてきた
「ノルン少将お話しがあります」
その真っ直ぐな目に思わずノエルは目を背けた
「ノエル少将は、疲れている話しがあるなら私が聞こう」
「中将!私はノエル少将に話しがあるのです!」
「その雰囲気では私事ではないようだ、ノエルの上官は私だ作戦や行動に疑問があるなら私に聞け」
「ノエル少将は休んでよし」
「失礼します」
「少将!待ってください!」
「中佐!私の言葉が聞こえなかったのか!!」
「イエッサー!!!!」
「では此処での私のオフィスに行くか」
フェイルンは禾人の後をゆっくりと付いて行った

「少将」
エレベーターにノエルが乗り込むとマフィルが追うように入ってきた
「マフィル大尉先程は助かりました、他の方はどうでした」
「ハーディ大佐が上手く誤魔化しておりました」
ノエルは軽く頷いた
「マフィル大尉は確か情報部にも一時居られましたわね」
「同じような事をしていましたので良く判っているつもりでおります」
「そうですか・・」
「情報部の捜査も此れで終わるでしょう、そのお礼と言っては何ですがもし必要なら中佐の処分は私がお引き受けいたします」
「その必要はないでしょう」
「中佐の事を信じておられるのですか?」
首を振りながらノエルは答えた
「仕事は仕事と片付けますから、直接手を下すのは彼が全てやってくれます」
「しかし、情報部としては・・」
「情報部に対しては私が全て保証しましょう」
「判りました」
ドアが開きマフィルが下りたドアが閉まるとノエルが呟く
「情報部のファントムマフィルとんでもないのがドールズに紛れ込んでいましたわね」

「中将!」
「一寸待ってくれ」
禾人はニュース番組をプロジェクターに映し出した
「此れで声は外に漏れん」
「少将の捕虜に対する・・」
「射殺だろ、全て私の命令だ」
「しかし、あの時点で!」
「私が指令を出せる状況に無かったと言う事だろ、我々は常に緊急事態省隠蔽工作員としての役目がある」
「少将の判断でしょうか?」
「私の作った緊急事態省機密保持及び内政保護マニュアルによる行動だ」
「捕虜の射殺も含まれているのでしょうか?」
「捕虜の射殺は許可されていない」
「では!」
「捕虜と言うのは敵であって身内の犯罪には不適当な発言だ」
「そう言いますと」
「今回の件は生きていると必要でない情報まで出て来ると判断されて処分された、今これ以上オムニの憂鬱を増やしたくは無いのだ」
「口封じですか」
「その通りだ」
ニュース速報でで先程の事故(禾人にとっては仕事である)が報道されていた
そのニュースを聞きながらフェイルンが呟く
「逃げた結末が此れ・・妻子連れで事故死・・」
目を禾人に向けるとじっと見つめている
「まさか!お兄ちゃん!」
仁王立ちのフェイルンを見つめながら禾人が言う
「ハッキリ言ってドールズは必要だったがフェイルンお前はいて欲しくなかった・・我々の仕事を知られたくなかった、キリカにはノエルの事は黙っていてくれ」
一呼吸置いて
「大事な者を守る為には力必要だった、それと引き換えに魂を売ったんだよ俺たちは・・やっと全てから開放されると思ったが引き戻されてしまった」
「納得できません」
「中佐納得する必要はない、ドールズには戦死者はいないが、我が隊では50名スパイダーは30名も死亡している、仲間を守る為には危険なものは全て排除しなければならんのだ」
「身内であっても?」
「身内と言うのは、あくまでも実であって余分な膿みではない、膿みは潰し押し出して悪化しない様に治療するのだ」
「情報部は膿だと」
「ある一部はな」
「だからと言って妻子までも!」
「悪いがコードEが出された以上従うのが私の役目だ」
フェイルンが禾人の本心を聞き出そうと話しを変えた
「守る者それはオムニの高官たちをでしょうか?」
「いや、オムニだ」
「だったら捕まえ裁判で決着をつけても良いのではないですか?」
「通常なら裁判でも良いがこの時期にオムニを割る様な情報を必要としていないし、いま捕まえてきても戦争が始まれば裁判どころではない」
「でも!」
「逃げるチャンスを与えるか?逃げれなくとも奴に関係する人間が暗殺を企てるかも知れん、まともな裁判は行なえんよ」
「何も妻子ごと殺さなくても!」
「奴は判っていた妻子を連れていれば攻撃されない事を・・しかしそれは大きな間違いだ・・俺は命令とあらば平気で一般市民も爆撃する男だ、あの爆撃とこの攻撃といかほどの違いがあると言うのだ」
「それは・・」
「悪魔も神の慣れの果て・・」
「は?」
「神と悪魔、正義と悪この違いは判るか?判ったとしてもお前の立場での理解だと思うが」
「?」
「阿修羅と呼ばれた悪魔がいた此れは仏に使え韋駄天と呼ばれる神になった、ルシファーと呼ばれる天使がいたが魔王と呼ばれるようになった、自分の意志をもって此れが正義だ!と言い張って突っ張っても他人からは悪としか見られない事もある」
「ルシファーも正義ですか?」
「異教の神は悪魔として扱われたのも事実、神はソドムとゴモラを消滅させ世界を洪水で破壊した善人は一家族と決め付けて後は皆殺し善人が居たかもしれないのに、此れは正義か?」
「それは宗教を使った例え話です」
「確かにそうだが、私の言いたいのは立場の違いから善と悪の考え方が違うと言う事だ」
「確かに立場が変われば考え方も違うと思いますが」
「俺の中の悪は4人を殺した事ではない、エランを爆撃し市民2351人を殺した事だ・・」
「しかしそれは、命令で仕方なく皆判ってくれます」
「それだと良いのだがな・・一人殺せば殺人者1千人殺せば英雄か・・」
「え?」
禾人はタバコに火をつけて一服すると
「これ以上はどんなに話しても平行線だ終わりにして良いか」
「はい・・」
「ところでクリスマスも誕生日もプレゼントを渡してなかったな、ほら」
禾人が差し出したプレゼントにフェイルンは躊躇した
「人殺しからは受け取れんか?」
「そんな事は無いわ」
禾人から時計のついたネックレスを受け取ると直ぐに首からかける
「似合う?」
「ああ、そのネックレスだが俺の時計のリューズを弄ると」
いきなりフェイルンの首を絞め始める
「ハッ!ェエェェ!!!」
スイッチを切ると絞めていたワイヤーが緩む
「ゲホゲホゲホ!なんで・・なんで!お兄ちゃん!!」
「お前がノエルの件を部外に話さないようにする為だ、お前の処分を情報部が求めてきたが、ノエルがそれを押さえ込んだのだ保障はノエル自身だ」
「それで・」
「お前には緊箍還をつけて貰う」
「喋った代償は私の命」
「それだけでは済まないんだよ」
禾人はもう一つネックレスを取り出すと自分の首にかけた
「お前の事をおれが保障する、俺の命もお前に預ける」
「しかし!」
「判ってくれ大切な人たちを守っていく為には情報と機密は必要なんだ」
「情報部は信用できないのではなかったんですか?」
「一部は信用できる部署もある、私と取引もしている」
「中将がですか!」
「情報と言うのはあらゆる角度から分析しないとならないからな」
「そうですか判りました今回の件は内密に致します、ですが・・」
「構わんよ、私やノエルを嫌ってもらっても、ただ明日からヤオ中佐も中将付きにする」
「監視ですか」
「そうだ」
何も答えないフェイルン
「では、食事に行くか皆に挨拶をしなければいけないしな」
禾人の後についてフェイルンがパーティ会場へと向かっていった

「ハーディ今回の件どう思う」
「上官として率直にか?」
「幼馴染としての意見」
「フェイルンはショックを受けてだろうがしょうがない事だ、オムニ建国時に物資の都合で海兵隊が海軍に併合をされたが任務は全く違う物だった海兵隊は少将たちの事を理解できても海軍士官には理解できないだろうし、まして身内みたいな人間たちが無抵抗な者を殺したのを目のあたりにすればヤオは黙っていられまい」
「潔癖すぎるのよねフェイルン・・」
「汚い人間よりは良いだろう」
「其れはそうだけど、この隊にいればショックは大きいわよ」
「追い出そうとした少将たちの気持ちも判らんでもないか」
「そうね」
禾人がフェイルンをつれて部屋に入ってくると皆が駈け寄り挨拶を交わし出した
「禾人様・・」
「中将!」
「すまなかったな色々迷惑をかけ・・」
突然禾人の顔目掛けショートケーキが飛んできた
「人殺し!」
その声に禾人は避けようと思えば避けられたケーキを顔面で受けた、そうその声は孤児院の子供達であった、次々と禾人に色々な物が投げつけられる浴びせ掛けられる罵声
「皆!やめ・・」
フェイルンが叫ぼうとした瞬間禾人がポツリと囁いた
「お前がノエルや私にした事と同じだ・・彼らを止める権利は無いだろう」
禾人は子供たちの前に進み出る、子供たちを止めようとするシスターに
一言「構わないと」言うと胡座を組んで座った
「お前たちの両親や兄弟親戚を殺したのは私だ!好きにするがいい!」
色々な物が次やら次へとぶつけられる、やがて禾人の額から血が流れ出すとその光景にドールズの面々は顔をそむけた
「もう良いでしょさあお部屋へ」
シスターが子供たちを部屋へと促す
「君は良いのか?」
禾人をジッと見つめて何もしない子供がいた
「私が憎くないのか?」
首を振りながら答え出した
「憎いけども約束が有るから」
「約束?」
「サンタさんとの約束・・」
禾人がドキッとした、この少年がジムである
壊れた義足も修理が済んで禾人の前に立っている
「僕はサンタさんと約束した、牧師となってシスターたちを助けていく」
自信を持った張りのある声で答えた
「しかし、憎い相手を黙って見過ごせるのか?」
「出来るようにならければ」
「そうか・・」
少年は禾人に背を向けると
「サンタさん今年も来てくれるんでしょ、皆楽しみに待っていますから・・」
この一言が禾人を直撃した、溢れ出す涙
「ママ〜〜ママ〜〜」
禾人が突然泣き出した尋常な泣き方ではない精神破綻を起したのだ
肉体的にも精神的にも苦痛には耐えられるが子供の健気な優しさに、震えながら泣く禾人
「ママ、ママ、ママ…」
頭を抱え床に丸まったまま動こうとしない
リサが慌ててノエルを呼んで来た、ノエルはテーブルクロスを引き剥がすと禾人の上から多い被せた
「このまま部屋へ連れて行きます、時々あることです皆さん気にせず寛いでください」
「おね・・」
「貴女との事も引き金です、今日はそっとして置いてください」
「でも・・」
「一晩眠れば元に戻りますから」
そう言われるとフェイルンは黙って見送くるしかなかった
「カウンセリングを拒否した理由か・・」
「ハルゼー大佐たちは周知の事実だったのかしら」
「聞いて見るか?」
「本人たちの方が答えてくれるんじゃないかな」
「フェイが聞いてくれるのか?」
「もう聞きたくはないわ、悪魔も神の慣れの果て・・か・・」
「何だ其れは?」
「立場変われば見方が違うということよ」

部屋に着く頃には禾人は泣き止んでいた、テーブルクロスを剥がすと虚ろな目で遠くを見つめている
「少将・・」
「大丈夫ですよ」
「兄さまは、なんでこうなるまでなにもしなかったんですか」
「反省の事ですか」
頷くリサ
「彼も私も仲間が死んだとき以外反省はしません、仲間を死なせた作戦の反省です相手を死なせた事には憔悴し後悔して祈る事しかしないのです」
「なぜ反省しないのですか」
「敵を倒す事を反省すれば、答えは退役か死か・・」
「確かに・・」
ノエルはリサにニッコリ笑って
「分かって貰えて嬉しいです」
「兄さまの妹ですファミリーの一人ですから」
「そう・・ではリサ今夜は此れで、この子をお風呂に入れなければなりませんので」
幼児と化した禾人を風呂に入れるのだ
「兄さま自分を取り戻してくださいね」
リサが立ち去るとバスタブに湯を張り禾人の服を脱がし出した
大き目のバスタブ、禾人を湯船につけるとノエルは服を脱ぎ出した
「禾人さん、今の状況ではわからないと思いますが、この傷小さくなったんですよ」
ノエルは腹部の傷を撫でながら言った
「やっと吹っ切れました、貴方に見られても平気です」
バスタブに入ると禾人を洗い出した、成すが侭にされる禾人が其処にいた
洗い終わると体を拭きバスローブを着せて椅子に座らせる
「ホント大きな子供ですね」
微笑みながらノエルが禾人の髪の毛を乾かす
禾人は遠い目でオイルランプの明かりを見つめている
「さあ此れで良いですね」
立ち上がらせベッドへと手を引いていく、ベッドに横たえ添い寝をし子守唄を歌うと、禾人はノエルの胸に顔を埋めて眠り出す
「もう大丈夫ですね」
優しく禾人の頭を撫でながら寝顔を見つめた

「中佐!兄さまが苦しんでいるのが判らなかったんですか!」
「リサ判ったから攻めないでくれ」
リサがフェイルンを攻め立てているのである
「リサ、兄さまと今呼んだな?」
「ハーディ大佐・・」
大きく深呼吸をすると一気に言い放った
「兄さまのやった事はフェイルン中佐には理解しにくいかもしれませんが、同じ海軍でも私はドンコルリオーネ、ドン禾人の義妹、理解できます」
「!」
「それでは、皆さんおやすみなさい」
リサは、自室へと戻って行った
「リサがマフィア・・」
「中将がリサを選んだ」
「このホテルの存続のためにか?」
「フェイ、リサはお前より中将に近しい人間になっているらしい」
「この3日間色々有り過ぎた、今日はゆっくり休もう」
「そうね」
ハーディ、ファン、フェイは用意された部屋へと向かって行った

『クラッシュしたのか・・』
横に眠るノエルの寝顔を見ながら禾人が頭を掻き毟った
午前6時、何時もなら禾人より早く起きるノエルが寝息をたてぐっすり眠っている
『迷惑かけたな、今日はゆっくり眠ってくれ』
そっとベッドを降りると、隣の部屋で身づくろいをする
「今日はバレンタインデーか・・バラを注文しないとな、リサにもか」
白と黄色、赤のバラの組み合わせがロイヤルスイートとセミスイートに届くよう、ホテル内の花屋へと注文をした
「さて、昨日の朝からコーヒー一杯か腹減ったな・・恵のところに行くか」
和食「鈴」こじんまりした店内エアーズマン唯一の和食レストラン席数10席
「ケイさん元気?」
ケイこと恵 一(メグミハジメ)禾人のエアーズマン経営参謀兼、鈴の板長
禾人が席に着くとおしぼりとお茶が出された
「朝からビールはお出しませんよ」
恵 鈴、一の連れである
「生きている証で朝から一杯が良いんだが」
「朝から来るってことは何か」
「朝定食を其れと例の件の答え」
一は、魚を焼きながら返答した
「例の件は女房とも話したんですが禾人さんが戦場から戻るまでの代役ならお引き受けします」
「兄さま此処にいたのですか」
リサがやってきた
「昨日はどうやら情けない姿を見せたようだな」
「この二日で人間土田禾人を見ました、兄さまとノエルさんの強さ弱さ優しさ脆さもそして、そんな所が好きです」
「そうか、ところで話しを変えるが我々が戦場へ行っている間、恵がエアーズマンを見てくれるそうだ」
「ケイさん助かります」
「「皆頑張っているのに何時も影ですからたまには表に出なさい」ってねかみさんが言うもんだから」
「お互いかみさんには頭が上がらないな」
やがて朝食が運ばれてきた
「イセエビの刺身、蟹の洗い・・豪華じゃないか」
「お祝いですよ」
「生きていれば良い事もあるか・・」
「そうだ、変わったウイスキーが入ったんですよ一杯どうです」
「どこの?」
「地球から輸送されてきた物品の中にあったのを一本回してもらったんですよ」
「朝からですか?」
「ちょっと位飲ませてやれよ、明日から何時まで合えないか判らないんだから」
「私も良いですか?」
「鈴ちゃんもリサもまた合う誓いだ」
四つのグラスにウイスキーが注がれた
「乾杯」
「違いますね」
「何時もバーボンだったからな、スコッチか?」
禾人がラベルをまじまじと眺め出す
「かみさんと名前が一緒だったから・・」
BELLS'禾人は忘れていた大元になった三人の誓い、ノエルの事件と平行して起きた忌まわしい憎むべき虐め
「ベル ワイストマイヤー・・か」
「誰ですか?」
リサに説明しながら禾人の頭には中学生当時の思い出が蘇って来る、
ベル ワイストマイヤーは地球側の軍人、政治家の家系、禾人たちと同じく地球とオムニの確執を無くし統一を夢見た
「何もオムニの学校来る事無かったのにな、来て虐められて、俺たちが庇って」
「庇ったんですか」
「当然、美人だったから」
「それだけ?」
「冗談だ、ジャンもジョニーも彼女を庇っていた志は一緒だったから」
「でもこのメンバー聞いて手を出すなんて馬鹿ですよね」
「二人とも立場上、手を出せなかったからマフィアと海軍司令官の息子ではなぁ」
「で兄さまは?」
「エンジン全開ボコボコ・・」
「あははははははは!!」
「親父も地球側の人間にいい感情は無かった、親父が校長に呼び出されて説教で不良って呼ばれた、『規律を守れない奴は不良だ!』こんな顔して暴力で解決しても何にもならんて、自分が軍人の癖してよ」
「わははははははは!!」
「リサは明るいなぁ」
「ははは・・そうですか?で今回何とかそのベルさんに中とってもらえないんですか?軍人政治家の家系なら」
「無理なんだ・・彼女はエンジェルパークにいる」
「!」
エンジェルパーク其れが表すのは公園墓地である
「俺とノエルが入院中に自殺した・・いや殺されたに等しい」
地球側がパレードにロケット砲を撃ち込もうとして禾人が阻止した事、銃撃されてノエルが重症を負った事、自分も足に怪我を負い入院した事
「それが起因した、俺が入院、ジャンは俺に銃の使い方を教えた為停学、ジョニーはパレードの件でオムニシティを離れた、残された彼女に廻りが詰め寄ったんだよパレードの件で・・」
「その話しって、この前のテレビで庇ったけれど兄が原因でって?」
「まさか・・!だったらロミオとジュリエットだ、ワイストマイヤーの父はオムニリンク嫌いで親父は地球高官嫌い、ベルは親父に止められていたがオムニ側の学校へ通っていたで雪人と付き合っていたか・・」
「辻褄あいませんか?」
「いやピッタリかもしれない・・命日は2月15日明日だ・・」
「回答日ですね」
「オムニが無条件降伏すれば彼女に手向けが出来る、ノエルを追いかける事でベルの事は忘れていた、いや無理に忘れた、もう一つの原点を今一度思い出さなくては」
禾人が電話をかけ出した
「親父?」
「何だ禾人か」
「答えが見つかった、ベルワイストマイヤー・・彼女が雪人の恋人だったらしい」
「そうか」
「今回は負けるかもしれない」
「お前にしては、弱気だな」
「時折生きている女性と甘い時を過ごしている俺と死んだ女性を思い続けるあいつとでは思いが違うからな」
「だか負ける訳には行かんぞ」
「総てが判ってスッキリした、此れからは俺の思いとアイツの思いの勝負だ」
「二人とも死んで欲しくない・・生かして連れ帰ってくれ頼む禾人・・」
「連れ帰っても国家反逆罪で死刑だぞ、負けてやるか戦場で止めを刺すかどちらかのほうが良い」
「そうか・・」
「では」
父との電話を切るとすぐさまジャンに電話を駆け出す
「遅い!心配していたんだ!とっとと連絡を入れろ!!!」
「悪いな・・」
「親父が一番心配していた一度顔を出せ」
「じゃ待ち合わせないか2時間後エンジェルパーク」
エンジェルパークと言う場所にジャンが言葉を詰まらせたがやがて重い口を開いた
「やはりベルちゃんがアイツの引き金だったか・・」
「お前知っていたのか?」
「恋敵だったからな・・」
「そうだったのか、あの時それであいつ等をギタギタにしたのか・・」
「じゃあ2時間後彼女の墓前で・・」
電話を置くと
「リサ、ヘアースタイルをポニーテールにして見ろよ」
「へ?」
不思議がながらリボンを借りて髪を縛り出した
「そう言う事か・・」
「なんですか?」
「良く似ているんだリサがベルちゃんに・・」
「それで好きだって言っているんですかね」
「そんな事は無いだろ、あいつは何時までも引きずると思わない」
「じゃなんで?」
「似てるだけじゃなく、リサ自身魅力あるじゃないか」
「またまたぁ煽てたって何もでませんよ」
「俺から見ても魅力あるぞ」
「奥様の次にでしょ」
「良く判っていらしゃる、さて食ったら行くぞ」
「私もですか?」
「なんだ付き合わないのか?」
「いえ行きます!」
聞いていた鈴が声をかけた
「禾人さんのパートナーって良い人ばかりですよね」
「良いパートナーが集まってくれた、軍、ホテル、マフィア、総ての友人に感謝している」
禾人は微笑みながら言った
「君達がやってくれると言ったからホテルも安心できる」
考え深げに茶を啜ると
「勘定」
「何時もありがとう御座います」
暖簾をくぐり、花屋に向かう墓前に捧げる花束を買う為に
「鈴あの事は言わないのか?」
「今更あのことは良いでしょ、それよりも一さん、もし禾人さんに何か合ったら手伝いに出てもいいですか」
「戦う相手は地球軍だよ」
「関係ありません、オムニも地球も・・土田禾人その人の思いに答える為に」
「構わない」
「そんな貴方、大好き!」

シルバーのムスタングギアが長い丘の道を登っていく
「一寸其処で止めてくれ」
「AF25地区はまだ先ですよ」
区画表にはL10の表示
「母さんの墓にも花を置いていくから」
「はい、私も参って良いですよね」
「ありがとう」
リサと並んで墓の前に立つと既に真新しい花が置かれていた
「誰だ?」
疑問に思いながらも再び車で墓へと向かう
ゆっくりカーブを曲がるとベルの眠る場所が見えてくる
墓前に4人の男が立っているのが目に入ってきた
「ジャンとジョニーだな後は、雪人だ・・」
「え!」
「黒服が随分居るじゃねえか、ジャンのテカとジョニーのボディーガードあと・・ん?」
「どうしたんですか?」
「雪人にボディーガードが居ると思わんがデビットワイストマイヤー!そうか!」
「もう突然なんですか!」
「雪人の制圧だ・・奴の作戦は無血が多かった」
「そりゃそうでしょ白の将って言うくらいなんだから」
「違う、裏取引して作戦場所から敵を居なくさせていたんだ」
「何のために」
「奴を将軍に押し上げる為だ、作戦の成否が経歴になる勝ち続けさせれば出世も早い」
「どうして?」
「情報を多く取る為だ」
「スパイって事ですか!」
「悪く言えばスパイ良く言えばオムニ軍に居た地球軍人だ、金の為じゃないベルちゃんの為だそれを手引きしたのがデビットワイストマイヤー地球軍大佐・・ベルちゃんのお兄さんだ・・参ったな今回は・・」
頭を掻き毟りながら墓標へと向かって行った。

オムニ今そこにある危機3 第18話  「互いの平穏な日」

「よう、元気そうだな」
墓に花束を置きながら禾人が雪人に声をかけた
「因果なもんでな、体だけは誰かと一緒で丈夫だ」
「デビットさんご無沙汰しております」
深々とお辞儀をした
「集まってきた所を見ると答えは見つかったようだな」
「はい、もう一度原点に返って見つめ直すつもりです」
「それが良い、今回勝っても負けてもどちらも目的は同じであって欲しい」
「ベルちゃんのと約束もあります、どちらの政権になっても相手側から必ず大統領補佐官を登用すると」
「そうか」
一寸した沈黙が重苦しいのか雪人が話題を変えた
「しかし、この状況で我々を良くほって置く物だ」
「其処の二人が動かないのなら誰も手出しはしないだろう」
「俺たちに動けってか?ばか言ってんじゃねぇベルちゃんの墓の前で俺がそんなこと出来る訳ねえじゃないか」
「お互い惚れた弱みか」
「この墓の前で無粋な事をした奴は俺が生かしちゃおかねぇ」
雪人が笑う、
「兄貴ノエルを連れてこなかったのか?」
禾人は一寸ビックリした
「ノエルは疲れて寝ているよ、一昨日から起きっぱなしだったからな」
「そうか・・」
「最後に挨拶したかったか?」
「まあね」
「処であの放送を良くやった物だな」
「今回手を汚さず消せるチャンスだったんだけどデビットさんがな」
「其れだけじゃないだろう、お前が兄貴って呼ぶんだから吹っ切れたか」
「そんなとこだよ」
「ところで雪人、例の件はもう無理か?あれが成立すれば殺しあわなくて済む」
「無理なのは判っているだろう」
「仕方ない・・お互いの思いとプライドをかけて・・」
「戦場で会おう」
雪人はデビットと共に車に戻っていった
「禾人ホントにほって置いていいのか!」
「原因が判ってしまったのに手出しできるのか?」
「参ったよな彼女の件だったとは」
「俺たちの意思の再確認が必要だ、俺は軍総指令に成って軍からオムニの統一を目指す」
「俺は大統領になって政治面からオムニの統一」
「俺は影からオムニの統一」
「軍、政治、マフィア此れだけの面子が揃えば可能だ、絶対トップを目指せ!特にジョニーお前が大統領になれば俺を軍総指令に指名できる、ジャンはジョニーを大統領にする為に工作を」
「判っている」
「だが此れはあくまでもオムニ政府であった場合だ」
「地球・カシアス政府になったら終わりか」
「いや、ジャンの一家はどちらだって構わないだろうお前は頑張れよ」
「なに言っているんだお前こそ革命を起せるんじゃないのか」
「地球カシアスが政権を取ったら俺は絞首刑、罪名エラン虐殺罪」
「でオムニが勝ったら雪人は第一級国家反逆罪で銃殺刑てっか」
「まさに」
「兄さま」
雪人が去ったのを見てリサが近づいてきた
「リサ来ていたのか・・!!!」
リサのポニーテール姿を見てジャンとジョニーが驚いた
「リサ、こいつがジョニーKアイクマン、大統領補佐官だ」
「始めまして」
「禾人、悪い冗談だベルの亡霊が出たかと思った」
「やっと思い出したんだよ、彼女の顔を・・」
「忘れていたか・・」
「リサを連れまわしていたんで覚えていたんだと思っていたが」
「ノエルのことで一杯一杯だったからな」
「何で今思い出した?」
「余裕が出来たんだよ、ノエルがやっと吹っ切れたようなんだ」
「なんだよ、吹っ切れたって」
「一糸纏わぬ姿で俺を抱きしめて寝ていたよ」
「そりゃやる時は裸だろ?」
話しを聞いていたリサが顔を赤く染めた
「ジャン言葉選べや」
「SEXの時は何か着ていたのか?」
「ストレートすぎるな・・」
禾人が笑いながら答えた
「腹の傷が見えないようにコルセットを着けていた」
「見られたくないってか?」
「ああ、だが今日は何も付けていなかったそれが意味するのは吹っ切れたってことだ」
「真実が見え、過去を吹っ切れたのに平和ではなく戦いが始まるか…」
「仕方ない、運命の女神の悪戯だ」
「だったら女神殴っても修正しろ」
「それが出来たら苦労はねえよ」
「フッ」
「しかし、朝っぱらから交わす会話かねぇ」
「明日からは馬鹿も言っていられねーし、かまわんだろ」
「もう決定したのか」
「最初から決まっていたからお前が動いていたんだろ」
「まあな」
「禾人此処にきて臆したんじゃないのか」
「しかたねぇだろ、しかしやる事はやる」
「目標は?」
「半年でケリを付けたい」
「たい?お前らしくねえな、言い切っちまえ半年だって!」
「完全に目覚めた智将雪人相手に勝つ自信はねえよ」
「お前と同じ能力の奴を相手にするからか?」
「ちがう、俺は右利きだがアイツは左利きだ」
「右脳派か・・」
「カッカしている内はミス誘って勝つ自信は有るんだが、ああ冷められるとなぁ」
など三人の話しが雪人のことで盛り上がり出した時
「禾人兄さま」
「なんだ?」
リサが禾人に携帯電話を差し出した。
受話器からかなり大きな怒鳴り声が聞こえてくるノエルだ
「何処にいるんですか!!それもリサと二人なんて!人の気も知らないで!」
「いや・・その・」
「言い訳はいりません!」
たじたじの禾人を笑いながら見ている二人は
「何だもう尻に惹かれてるのか!」
「なんだかんだ暮らして長い二人だしな!」
ジャンとジョニーはノエルに聞こえるぐらい大きな声を禾人にかけた
「ジャンさんとジョニーさんもご一緒なんですか!」
「ああ、エアーズマンの戦争中の扱いについて打ち合わせしているから」
「それならそれと早く言って頂ければ」
「言う暇を与えてくれなかったから」
「ノエルは禾人がリサといるのが嫌なようだな!」
「そ!そんな事ありません!」
ジョニーが要らぬ事を言った
「ノエル禾人は此れからリサとデートだって」
一気にリサの血の気が引いた、前にあったノエルのジェラシー
『今度こそ消される・・』
「冗談いっていないでサッサと戻ってくるように行ってください」
「ノエル何かあるのか?」
「お父様が呼んでいらっしゃいます」
「そうか・・又めんどくさい事じゃなければ良いけれども」
「そのような事ではないようです」
「こちらの話しが終わったら空軍基地に行く、ノエルも食事を済ませたら基地に顔を出してくれ」
「はい」
「食事は、たまには和食も良いだろ「鈴」の朝御膳なんてどうだ」
「あなたのお勧めですか?」
「ああ」
「では行ってみます」
「じゃまた空軍基地で」
「はい」
電話を切ると禾人がジョニーに言った
「今のデ−トの話しは冗談通じない話しの内容だ」
「何だノエルに首でも絞められたか」
「その通り、その上リサに絡んだ」
「愛してもらっている証だろ」
「いろいろと涙が出るほど嬉しいよ」
「トホホホって感じですよね」
「お前が言うな!」

部屋を出たノエルの前にフェイルンが佇んでいた。
その神妙な姿にノエル総てを感じ取る
「あ・あの・・」
ニッコリ、ノエルは微笑むと
「朝食はまだですか?禾人さんがお勧めの所があるのですがご一緒にどうですか?」
「はい!」
ノエルは歩きながらフェイルンに語った
「私たちのことはフェイちゃんに判ってもらおうと思いませんし、判らなくて良いです、ただ私たちは貴女の姉兄と何時でも思っていますからそれだけは理解して下さいね」
「私、ノエル姉と禾兄ィは大好きです、ただ・・」
「納得出来ない部分も有るんでしょ・・こんな仕事している以上申し訳ないと思います」
「もう良いんです、禾兄ィもノエル姉ぇ苦しんでいるのが判ったから・・」
ノエルは軽く頷く
「ここですね」
「ノエル姉ぇ暖簾仕舞っているわ」
「終りですか?」
「あ、どうぞお入りください」
鈴が暖簾を仕舞いながら二人を中に招き入れる
「終りなのに済みません」
「有ってないような営業時間ですので一向に構わないのです」
朝食の部の終了である客が引ければ片付ける
ノエルが違和感を覚えた『何処かで彼女と会っている、しかし何処で』
鈴がお茶を運んできた
「どうぞ、お箸で良いですか?」
「オネェはフォークとナイフよね?」
「ええ」
鈴がノエルの前にナイフを置こうとしたとたんにノエルから凄まじい殺気が放たれた
それに呼応するが如く鈴からも殺気が放たれる
鈴のナイフを持った姿にノエルは嘗ての敵の姿を見出したのだ
フェイルンは背筋に強烈な殺気を受け身動きが出来ない
「ママァ〜怖い」
この一言がノエルの殺気を解いた
「お子さんですか?」
「美鈴と言います」
ノエルが美鈴を抱き上げた
「おばさん誰?」
ノエルと鈴は然程年の差はない子供から見ればおばさんなのだ
「貴女のお母さんの友達です」
鈴が其れに答える
「そう、命がけの親友ですよ」
「上がったよ」
ハジメがお盆を差し出した、二人の殺気に気付かないふりをして料理を続けていたのだ
「はい」
鈴が受け取り二人の前に配膳する
「どうぞ」
ノエルの前に置いた時にノエルが鈴に呟いた
「貴女には総ての上で勝つ事ができなかったですね」
それに答えて鈴が話し出した
「戦争に負けて良かったと今再確認できました、こうして彼と二人で店を始めて娘が出来て、貴女が来店してくださいました、今が一番幸せなときです」
「私が来て幸せ?」
「一度落ち着いてお話しがしたかったから来て頂けて嬉しいです、でも今日どうしていらしゃったんですか?」
それにはフェイルンが答えた
「禾兄ィが薦めたのよ」
「CEOがですか?」
「そうよ」
「先程、オーナーと見えて何処か行かれましたね」
「そう言えばあのお二人って何れご結婚なさるでしょうか?」
ピクッ!ノエル顔が一寸引きつった
その様子を見てフェイルンが鈴に尋ねる
「何でそう思うの?」
「話し合っている姿が似合っているのです」
「それだけ?」
「男女の仲なんて言うものはそれだけで十分です」
ノエルが我慢できずに声を張り上げた
「禾人は私の夫です!」
「やっと名乗っていただけましたわね」
ハッとしてノエルが我を取り戻した
「知っていたのですか?」
「禾人さんが飲んでぼやいていたのを昔から聞いていました」
「ぼやいていた?」
「ええ、『ノエルは中々結婚に首を縦に振らない』って私たちは一緒に暮らしているのだから其れで良いでしょって言っていたんですけれども形が欲しかったらしいですね、」
「そんな事を言っていたんですか・・」
「そして今あなたが言った言葉が禾人さんの欲しがっていた形」
ハジメがカウンター越しに言葉をかけてきた
「禾人CEOは大空で最強だったが、ノエルさんの前じゃ形無しって感じですな」
「お兄ちゃんてそんなに強かったの!」
「デルタグランマにテトラエックスを描いた機体には近づくなって地球空軍の間では有名だったよ、魔王が乗っているってね」
「へぇ〜」
「その魔王でも勝てなかった神が地球軍にいるって禾人さんが言っていました、ホルスの目を描いた機体にやられて命辛々逃げたと」
鈴が驚いたように喋った
「そうなんですか?ホルスは燃料タンクが空ではなかったら火を噴いて撃墜されていたって言っていたんですよ」
「ホルスとお知り合いなんですか?」
「知り合いと言うか・・」
横目でハジメを見た
「はぁ、貴女の事も家の人は存じ上げているんでしょうか?」
「スコープ越しですが戦場でお会いしていますわ」
「なんて回りくどい事を!貴女達の様に成りたいのなら禾人さハッキリ言えば良いのに、見せて考えさせるなんて!」
黙っていたハジメが口を開いた
「彼はそんなつもり無いだろう、家内が貴女に会いたいって言ったから気を効かせて来させたんだよ、もう後戻りも逃げることも出来ない事は禾人が一番知っている」
「でも」
「この幸せは敗者の一兵卒に与えられた権利だ、勝者の幹部には勝ち続けなければ成らない負ければ13階段がまっている・・」
「禾人さんは背負った物が多くなりすぎたようですね、其れに貴女も」
「まあ話しはその位で、冷めるまえに食べて貰えるのが板前としては嬉しいのですが」
「そうですね」
ノエルは食事を始めた

「飲まないのか禾人」
「ファーザー申し訳ないですが明日飛ばなければならないので」
「そうか、ならば風呂にでも入ってから戻るがいい用意してある」
「ありがとう御座いますファーザー」
「生きて帰って来いよ」
「はい」
ゴットファーザーが部屋から出るとジャンとリサを従えてジャグジーへと向かった
風呂に着くと禾人の行動にリサが赤面した
「なに!」
リサの前で真っ裸になったのだ
禾人は三人の女の立つベッドへと寝転ぶ
「垢すりですか・・」
「リサもやってもらうか?」
「裸でですか?」
「当たり前だ」
ジャンも裸になってベッドへと向かう
「生き返る・・」
「そうですね」
「わぉ!リサ!」
リサが何時の間にか裸になって隣のベッドに横になっている
「この後マッサージまで有るぞ」
「そうですかあぁ〜〜」
「眠くなっただろ」
「そうですねぇ、でも何時戻ります」
「あそうか・・親父呼んでいたなぁ」
「いま、ひとふたまるまるで〜すぅおやすみなさいぃ〜」
「ノエルが先に行っていれば遅くなっても良いか」
「ここから15分有ればお前なら着くだろう」
「まあな」

「お勘定は結構ですよ」
「え?」
「CEOにつけて置きますので」
「それでは・・」
「ミセス土田、ここで払ったら禾人CEOの顔を潰すぞ」
ミセスと呼ばれて一寸躊躇いながらも笑顔で答えた
「ええ、彼に任せます、ご馳走様でした」
「またいらしてくださいね」
「はい、貴女に・・鈴さんにお聞きしたいのですか」
「なんでしょう?」
「また戻るんでしょうか?」
ノエルを抱きしめて耳元で囁いた
「娘と夫と此処で平和に暮らしたいです、其れを壊されるなら・・」
「大丈夫私が守ります」
「ありがとう・・」
硬い握手を交わしノエル達は割烹鈴を後にした
「お姉ェあの人一体誰なの?」
「誰だったけなぁ忘れちゃったわ」
「そんなぁ」
「さあ、空軍基地へ行かなければねぇ」
「お姉ェ!」
ノエルとフェイルンはZIIに跨り基地へと向かって行った
フェイルンの疑問を残して

「禾人様」
スティーブがエントランスに姿を現した禾人に声をかけた
「奥様は空軍基地のほうへ向かわれましたが」
「そうか」
「?」
「いや、私も直ぐに行かなくてはならないのだが用を思い出してな」
「そうですか、では」
禾人は割烹鈴へと向かっていく
「あ、禾人さん・・ではないですね・・雪人さん?」
鈴が怪訝な顔をして尋ねる
「よく判りましたと言うよりも流石戦女神アテナ観察力は良い様だ」
「一体何の用で?」
「葵鈴さん、戦女神アテナを迎えに来た」
「戦場へですか?」
「そうだ」
「お断りいたします」
「何だ貴様は!」
奥に居たハジメが思わず飛び出して来た
「だれだ?」
「鈴の亭主だ」
「掴んだ幸せを離したくないか・・」
「その通りです」
「だが拒否すれば地球軍の裏切り者として扱われるぞ」
「なぜです?すでに退役しているのに?」
「君は退役と思っているだろうが、君の扱いは予備役になっている」
「予備役!」
「予備役の再招集だ戦女神アテナと呼ばれた君を地球カシアス連合がほって置くと思ったのか?」
「・・」
「逃げても構わんが一生逃げ回ることになる」
「其れは地球カシアス連合が勝利した時の話しです」
「必ず我々は勝利する、明日10時までオムニ商港で待っているそれでは」
雪人は一言言い残しホテルを去って行った
「鈴・・」
「私の心は決まっています」
「そうか」
「この事は禾人さんに伝えるべきでしょうか?」
「いや、この事もあの人には見通していると思うだから良いだろう」
「はい」
二人は一言二言交わすと重い雰囲気の中通常の営業を始めた

「なんだ?」
「なんでしょう?」
禾人達が基地に着くと滑走路の方から聞き覚えのあるエンジン音が響いてくる
「まさかな?」
そのまさかである
「なにやっているんだ!あの二人!」
ノエルと広人のチェイス
「MVアグスタ750アメリカ!良くもまあ20世紀の遺品を・・っておれも人のこと言えないが」
ノエルはネオZIIで後方を走っている
「姉さまが負けていますよ」
「あの走りの親父にはノエルは敵わないと言うよりは近寄れないだろう」
禾人の姿を見つけるとバイクは真っ直ぐに禾人に向かってきた
「禾人!やっと着たのか」
「今着きましたが・・まさかレースするのに呼んだんじゃないだろうな??」
ヘルメットを早く取ったノエルが答えた
「禾人さん、そのまさかです」
「クソ親父!!!!明日から戦争だって言うのに何考えてやがる!!!!」
「遊べるのは今日だけだ、勝負だ禾人!」
「い!や!だ!!!」
「なんだと!」
「何が悲しゅうて空軍がオートバイレースしにゃならんのだ!やるんだったら・・」
禾人は人差し指を高々と天にむけ
「イッツ!ドックファイト!!!」
「俺に勝てると思っているのか?」
「ロートルに負けるわけ無いだろう」
「面白い勝負だ」
「リサ!お前相手してやれ」
「禾人!お前が上がるんじゃないのか!小娘相手に真剣にやれるか!」
「こいつは、親父が選んだ第三戦術戦闘航空隊ビットに二度勝っている、それに真打は後だ」
「面白い、私が勝ったら禾人勝負しろよ」
「ああ」
「整備兵!俺の機をペンタグランマを用意しろ!後テトラXとF242改だ!!」
広人は着替える為に自室へと向かっていく
「リサ、パイロットスーツはミノルので合うならあいつのロッカーがまだ有るはずだ戦技研究班の部屋だ判るな?」
「はい!で中将の出番はありませんよ」
「おお頼もしいことで」
リサは走って着替えに行くとポツリ呟いた
「馬鹿が勝てるわけ無いだろが蒼空守護天の異名を持つ親父に・・」
「リサなら勝つんじゃない?」
「フェイはリサ贔屓か?」
「そんなこと無いけど禾兄ィが鍛えた選りすぐりじゃない」
「あまい!ただこの勝負でリサの技量が一段上がれば御の字だ」
「ふ〜ん、で兄ィは勝てるの?」
「四分六で分が悪い・・」
禾人の本音だ
「中将!行ってきま〜す!」
既に着替えたリサと広人が機乗し滑走路へと出て行く
『ペンタグランマ、リトルフォックス離陸を許可するを』
一気に吹き上がるバーナー二機同時に発進
リサは機体が浮いた瞬時にギアを仕舞いこむ
「今日も私のほうが・・!」
既に広人はギアを仕舞い高度を上げ始めている
「そんな!」
そしてドックファイトが始まる
「なるほどいい腕だ」
リサの健闘空しくリサの後尾を広人が取った
「ロックオン」
「拙い!」
瞬時に広人の前からリサの機が消える
「度胸もいい」
リサは木の葉落しを使ったのだ
しかし広人には通用しなかった広人機は背面飛行に移った
リサの位置を確認、自分を目掛けて上昇してくるのを確認すると
「真っ向勝負」
広人は急降下してリサに迫る
まさかの反撃でリサが焦った
この焦りが一瞬にして勝敗を決めた
「え!」
広人の銃弾がリサのキャノピーを真っ赤に染め上げると回線を開けリサに呼びかけた
「いい腕だ、流石にビットに勝っただけある、禾人は空軍から腕の良いのばかり自分の部隊に引張りおって!」
「私、海軍です、空軍は落とされました」
「空軍志願者だったのか?」
「はい!」
「禾人が試験を馬鹿にするのも良く判る、適材適所は実戦でとあいつが言うわけだ」

「決着ついたな、さてと」
「行くの?」
「二人が戻って来てからだけどな」
「禾人さんどうしてバイクで勝負しなかったのですか?」
「バード大佐との約束がある」
「約束?」
「ノエル俺の運転はどう思う?」
「お上手だと思います、何でスピードを出さないのか不思議なくらい」
「スピードの感覚が一般人と違うんだ、2000Km/hの世界で生きていると普通に走っているつもりで200Kが標準、バード大佐は身を持って其れを証明してしまった」
「あの・・」
「死んではいないが片足を落とした、空軍兵士は空で死ぬべし地を這って死すべからず言い残して退役だ、もっと教わりたい事があったのにな」
「そうなんですか・・」
「親父もスピード感覚がおかしいから、ノエルが普通に抜こうとしても危なくて近寄れなかったんだろう」
「その通りです」
「プロほど慎重になる、さて勝負だフェイルンが兄ィってまた呼んでくれたから今日は頑張るか、もう呼んでくれないかと思っていたからな」
「がんばってね!」
「アイサー」
丁度リサが戻ってきた
「中将負けてしまいましたぁ〜」
「お前が勝てるわけ無い、今日はスペシャルサービスアクロバットを見せてやるよ」
リサに一声かけて禾人は、テトラXへと向かって行った。

オムニ今そこにある危機3 第19話  「日常平穏な時」

「こいつに乗るのは久しぶりだ・・」
コックピットを見回す
「注文して使ってないがあれを付けてあるか・・」
「禾人テストも終わっている」
ハーバ整備兵が声をかけてきた
「俺意外誰かのっていなかったんですか?」
「此れに乗れるのはお前意外いるわけが無い、格納庫の隅で今日まで眠っていたんだ」
「整備行き届いていますね」
「何時でも飛べるようにしてあった」
「其れでは心配なく飛べます」
「信じられるのか?」
「ミスターメカニックを疑う訳無いですよ」
など整備の事で話しが盛り上がっていると、休憩を終えた広人が現れた
「禾人賭けをせんか」
「何を賭けるんですか?」
「ハッキリ言おう、現在防空軍は人材不足だ独立軍からお前とアヤセ、海軍のリサと言ったな後ノックス、お前が負けたら4人編入して来い」
禾人が考え込んだ、親父が呼んだ理由遊びではなく元は3人の編入の申し込み、リサを出したのが間違えだった新しい人材に目を付けられた
「お父様それは・・」
ノエルがこの賭けに口を挟もうとすると
「お断りします」
禾人がキッパリ断りを入れた
「そうか、では軍総省に10時間以内に辞令を発動させよう」
「そんな勝手な事が!」
「禾人中将!中将如きが空軍総司令に敵うと思うか!」
「お父様!横暴すぎます!」
「横暴だろうが、勝手だと言われようが形振り構っていられんのだ!!」
「あまり自分の子を困らせるもんじゃない」
声の主を見て禾人が見を正し敬礼をした
「バード大佐!」
「正しい名で呼んでほしいな」
「ハ!ジョン・バードランド大佐、お元気そうで何よりです!しかし何で此処に・・」
「総司令が行った通りだ、人材不足新人訓練のために教官として復帰だ、義足も最近のは良い物があって反応速度が実物と変わらないからな」
「まさか・・」
「そのまさかだ、優秀な教官がいる」
バードランドが禾人の空軍復帰を願い出たのだ
流石に此れには禾人は困った、自分を鍛え上げてくれた大恩あるバードランドが自分を必要としているのだ、この様子にノエルもフェイルンもリサも口を出せない
腹は決まった
「勝負に勝てばこの話し絶対になくして頂けますね、其れとは別にどうしても聞きいて確かめたい事がある」
「良かろう」
「証人は4人だ、ただ強権を発動すれば其れも関係が無いが」
「そのときは悪い噂を流します、蒼空守護天は大嘘つきの卑怯者だって、娘が言いふらせば権威も失墜するでしょう」
ノエルは軍でなく家族を武器に脅しを入れた
「約束は守ろう」
禾人が黙ってテトラXに乗り込んだ
「広人、ハルゼー達戦略部隊を賭けの対象にしなかったのか?」
「爆撃攻撃隊は十二分に居る、防空戦闘部隊がどうしても足りんからなめぼしい所4人にした」
「だから禾人が甘いと言うのだ、禾人がハルゼー達を爆撃のみにしていると思うか」
「何でも屋だという事を忘れていたな」
「まあいいか、4人は手に入る」
「勝てますか?」
「負けるわけにはいかん、大天使ルシフェルの光翼を力いっぱい羽ばたかせる」
「兄さまあの機体・・」
「ステルス機体だろ、塗装が違うからわかるが・・リサ!ステルスは見えないようで見方によっては良く見える」
「どう言う事です?」
「後で教えてやるよ、この装置がうまく行ったら・・」
「そう言えばスペシャルアクロバットって?」
「あっ!とビックリさせましょう、お前たちに厳しい要求ばかりで俺自身の技量を見せていなかったからな」
禾人は三人に敬礼すると機に乗り込み滑走路へと向かって行った
『ペンタグランマ、テトラX離陸許可します』
二機が並んで発進、ほぼ同時にギア収納上昇角も同じ
「親子ですねぇ」
「空軍のトップ2が争うんだ見物だな」
「このドックファイト無制限、ルールなし・・」
「少将、父さんが先程の話し応じると思わないのですが」
「お父様があれほど言うのですから既に交渉しているんでしょう、ヤオ大将も土田大将から防空軍の戦力不足を言われればある程度の答えを出さなくてはならないでしょうから」

「さて」
禾人のジョイスティック操作が一段と早くなった
お互いの背後を取ろうと必死の操縦である
禾人が背後を取った
「拙い!」
禾人の前から広人機が消える木の葉落しだ
空かさず禾人も機体を落とした
「あの馬鹿者!」
禾人機が上昇を始めた広人の前をかすめて降下していく
「10mって処か5mの超ニヤミス狙いだたがちっと遠かったか」
禾人が大きくターンをはじめ滑走路上空へ入ってくる
「禾人め、チキンレースをやる気か面白い受けてたつぞ!」
広人は逆側から禾人目掛け突っ込んでくる
「ロートル!乗ってきやがったな!」

管制塔内に上がったノエル達は禾人と広人のドックファイトが賭けの対象となっているのを聞いた
「50対2の賭け乗ってみるかい」
リサが財布をテーブルに投げ出した
「中将に全部!」
管制塔内が湧いている禾人が50倍蒼空守護天の信望者が多いのだ
滑走路に向かい合って突っ込んでくる2機
「あ!なんで!中将!!!」

禾人機が45度の上昇角をとり始めた、其れは即ちチキンレースの負けを意味する
「臆したか禾人!」
広人も上昇角を取る
「勝った・・」
広人の計算では5秒後にターゲットスコープ内に禾人の後方を取らえられる
既にトリガーを引く準備だ
「もらっ・・!」
禾人がいない

「すっごいいいいいい!」
リサがキャッキャッ騒いでいる
禾人がコブラを見せたのである
45度の上昇角を取りながらスロットルを巧みに操って水平移動をさせているのである
「此れ超難度E級です通常失速で墜落しますよ!!アクロバットでも普通しません!」
ノエルたちに熱く語る

「クソ親父!!!覚悟!!」
スロットルをマキシマムまで叩き込みアフターバーナーを噴かす
一気に広人目掛け駆け上がっていく
「拙いな」
雲の中へと機体を隠した
「やりやがったな・・」
ステルス機能禾人のレーダーには映っていない
「さてと」
レーダーシステムの脇についたボックスを開けるとつまみを弄り出した
「トランスOFF、レシーバーゲインUP6dB・・12dB・・」
送信を切って受信感度を上げていく
「さて姿を表せ」
入感・・18dB・・
「敵後方レーダー減衰率87.5%ってとこで距離約3500mか」
ステルスといえども後方警戒レーダーを切ることは無い
反射距離外に出た電波を探し出し減衰率、レーダー幅から距離を割り出した
左右上下に機体を振り発信源のセンターを探すそのセンターにこそ敵がいる
「終りだ」
禾人が広人の左下に付けた
「禾人もこの雲の中では動けまい、あれだけ無茶をしてくるとは」
一寸一寸近づいていく
「ロートル!引導渡してやるぜ!!」
一気にアフタバーナーを噴かし広人の機体を斜めに通り過ぎると同時にトリガーを引いた
広人の後方警戒レーダーが危険を知らせたがもう遅い
「なに!」
「手ごたえあり!!」
衝撃と共にキャノピーの上部が赤く染まった
「やられた・・か」
雲の上に機体を上げて速度を落とすと
「管制塔へ、ドックファイトの終了を宣言、着陸許可を願う」
『こちら管制塔了解した』
「中将の勝ちか・・」
ため息が管制塔を包んだ、終了の宣言を出した者こそ勝者なのだ
「総取りです!!」
リサが思わぬ収入に狂喜乱舞している誰もが広人の勝利を疑わなかった為、戦略部、防空部両指令が結構な額を出していたのだ
フェイルンが真っ先に言った言葉は禾人の勝利を祝う言葉ではなかった
「リサおごりなさいよ」
「今日の夕食おごちゃいます!」
あっさり要求をのむと電話をかけだす
「あ、ケイさんリサですけど今日の夜、貸切でお願いします」
なりやらやり取りの後
「エアーズマンで和食フルコースです」
「へぇ〜気前良いね」
「たっぷりありますから」
札束を握ってリサが笑いながら答えた
ノエルといえば既に滑走路に下りて禾人を出迎えている
「お疲れ様です」
ノエルの笑みに禾人も笑って敬礼する
「お父様も戻ってこられましたね」
禾人機に横付けする形となった
「なんで判った」
「野性の感て奴よ、ヌードの女神も付いているしな」
「なんだヌードの女神って・・」
「親父のペンタグランマは安部晴命の紋章だが俺のデルタグランマは弁財天さまの紋章、人が神に勝てるか」
「地球かぶれが江ノ島弁財天ってことか」
「まあな」
「中将お疲れ様です!」
「おう」
「今日もこちらにいられるんですよね?」
「エアーズマンにか」
「鈴の貸しきり予約入れました」
「金有るのかよ」
「へへへへぇ総取りです!!」
「総取りって・・賭けてたのかよ!」
「指令もよろしかったっらお越しに成られませんか?」
「いいのか?」
禾人をチラリと見る
「親父みたいのが可愛いお嬢さんから誘われる事はこれから無い、断り損だぞ」
禾人が笑いながら言う
「それではご馳走になろうか」
「禾人中将」
禾人が敬礼をしてジョンを迎えた
「お前は俺が教えていた時からセンスは良かったが、頑張ったな」
「大佐には申し訳ありませんが・・」
「仕方ない約束だ、それに実戦中に訓練をしなければならない環境を作ってしまった空軍に責任はあるしな」
「そう言って頂くと助かります」
「お前が少年工科学校へ行かなくて空軍直接入隊ならこんな事は無かっただろう」
「しかし、空軍に来たから戦略空軍特殊部隊が出来て腰抜けとは言われなくなりました」
「確かにな・・」
「禾人このテトラXはお前が持っていけ使える奴はおらんからな」
「指令有り難く持って行かせて頂きます」
長話の様相を呈して来た為フェイルンが口を挟んだ
「中将早く着替えて行きましょう」
「ああ、30分後にムスタングの前に集合だ」
禾人は汗を流し私服に着替えるとムスタングの幌を出し5人が乗れるようにした
メンバーが乗り込んでいく
「もうヒトナナマルマルか・・」
五人を乗せてエアーズマン割烹鈴へ付くと其処にはマリアとキリカが待っていた
「遅いわよ」
「姉さんなんで!」
「キリカに呼ばれたのよ」
「私はリサさんに・・」
「リサ呼んだのか?」
「はい、折角ですから」
「そうか・・」
立ち話を終わらせるようにハジメが声をかけた
「突っ立っていないで奥の炉辺に吸わんな、蟹のいいところ焼くから」
禾人が一寸ビックリした
「この部屋何時作ったんだ?」
炉辺のテーブルが座敷の真ん中にあり板前のハジメが中に入って焼くスタイルである
「貸しきりに限って使えるように改築したんだ、外から見えず落ち着くだろ」
「何飲まれます」
「ビールジョッキ5とノンアルコール2だ」
「なんだ、明日飛ぶのか?」
「ヒトヨンサンマルまでに基地にもどらにゃいかんのでな」
「そうか、じゃしょうがない」
炉辺で色々焼き始める
「禾人、何か聞きたい事が有るって言っていたが」
禾人が考え込んだ、マリアとキリカが邪魔であるが意を決して尋ねた
「お袋と、ノルンおじさんの事だ」
広人がジョッキをテーブルにおいた
「なんで一緒の飛行機で事故にあったのか、なんで二人で乗っていたのか」
「愛の逃避行って言ったらどうするつもりだ」
「笑える冗談だ」
「何で冗談だといえる」
「情報部の知り合いが言っていた、お袋とおじさんは情報部のトップクラスにいたと」
「え!」
ノエルもマリアも知らない情報である
「余計な事を言う奴もいたものだ」
「親父は何処まで知っていたんだ」
「あいつとノルンは情報部でその時俺と付き合いだした、お前達が出来て情報部を辞めた筈だったがどうしてもって言うので借り出されたが・・」
「内部調査で拙い情報を知ってしまったんだろ」
「ほかの乗客ごと・・」
広人は両手を広げ爆発の仕草をする
「どんな情報だった」
禾人は落ち着いていたが凄みの効いた喋り方になっていた
「お前は37になったな、もう34年も前の話しだ・・」
「それでもやらなければ成らない事もある」
「ヘイグマンファイルを手に入れたんだろ、あれで数人の将軍が処刑されたお前は既に仇を討っているその答えで我慢しろ、それ以上知りたかったらヘイグマンファイルを分析しろ」
「わかった、ヘイグマンのファイルは権力を取る為に使わせて貰おう」
「さあドンドン焼けるぞ食ってくださいよ」
「秋刀魚もあるのか」
「活きが良いので刺身にしますよ」
「いいねぇ」
「そう言えば兄さま」
「兄さまって禾人なんだ?」
「固めの杯を交わした義兄妹ってやつだ」
「ブラックスコーピオンか・・」
「今日は凄かったですね!コブラはやるは10mのすれ違い降下、雲の中でステルスを打ち落とす流石ルシファー」
「10mのすれ違い降下あれは失敗だ、5m以内にする気だったが・・計算間違えた」
「禾人さんハイ」
口をあけてノエルのフォークに乗った蟹を食う
禾人の解説に広人の訂正そして言い合いが始まる
「勝ったのは俺だ!」
「なんだとこの馬鹿息子!」
会話について行けないのかリサはハジメと話し始めた
「CEOコブラまでやったんですか」
「ビックリしちゃって鼻先10m降下てっか落下の映像凄かったですよ」
「鼻先5mを目の前で見ると凄いですよ」
「見た事有るんですか?」
「見たくは無かったんですがねぇ」
ハジメの過去をリサは知らないのだ
「リサさんあんまり家の人炊きつけないでくださいよ、また飛びたいなんて言い出したら手におえないから」
鈴が冷却用の氷の入った変わったピッチャーをテーブルに置きながら言った
「飛ぶのは構わないと思うが、なんだったら俺のセスナ貸すぞフロートついているが」
「禾人さんも・・」
「今はこの商売で良いですよ」
「誰も戦争に行けと言ってはいない趣味で好きな空を飛ぶのは良いだろう、第一ケイさんを相手にもう一度ドックファイトやろうとは思わない」
「あれぇ兄さんにしては及び腰じゃない」
キリカが何時でも強気の禾人にしては弱気な発言に口を突っ込んできた
「俺がただ一度負けた相手だ、あの状況で生きていたのが不思議なくらいだ」
笑いながら禾人が答えた
「兄さまが負けたって!」
「禾人を負かす腕を持っているのか空軍に来ないか?」
「親父、元地球空軍を口説くんじゃないト言いたいが、俺も欲しい人材鷹神ホルスだ」
「あのホルスか!」
禾人が広人を無視して恵と話しを始めた
「ケイさんあの時なぜ最後の一発スパローを使わなかったんだ?」
「あれですか、非常回線1・2・3共にショートして発射不可能、接点の間にゴミ入っていたんですよね、其れよりなぜ後ろ取った時に撃たなかったんですか」
「弾切れだよ、あの時逃げるのに木の葉落とし掛けたろ」
「ええ」
「下か突き上げられたら終りだったから、ぶつけるつもりでこっちも落とした、後5mでいけたんだけどな・・」
禾人が脱出ポーズを取りながら言った
笑いながらハジメが答える
「私も弾切れだったんですよ」
「其れで追って来なかったのか!」
「テトラXが逃げたと思いませんでした、追い上げられてやられたら彼女の顔が見られなくなる必死で逃げたんですよ」
「気が合うはずだ・・俺も上からやられたらお終いだと思って必死に逃げたノエルの顔がもう一度笑った顔が見たかったから・・この顔・・!!」
ノエルの顔を覗き込んで禾人の顔が引きつった
「のぎとさ〜〜ん〜なぁ〜にぃ〜」
「よ、酔ってる!なんで?飲んでないだろ?」
「水しか〜飲んでませ〜〜〜ん」
禾人がコップの水の匂いをかぐ
「あ?匂いが・・微か?」
舐めてみると
「大吟醸・・水の様だ・・」
先程鈴が運んできたピッチャーに大吟醸酒が入っていたのだ
「親父飲んだか?」
「いやビールだけだ」
禾人が手で鈴に合図を送ると指で5の合図を送ってきた5合一人で飲んだのだ短時間で
「のぎとさ〜〜んなに人妻にィ〜合図送ってるんですか!さっきもすずさん昔ッからしっているって言っていたし〜く・や・し・いウフ」
ニッコとノエルが笑った瞬間
「いっ!てーーーー!!!」
ノエルが抓っているのである
「はなせーーーー!!いて!!」
「い〜〜やぁ〜〜」
「いてててててぇぇぇ!」
禾人が悶絶する
禾人はどんな拷問にも耐えるよう訓練を受けているがノエルの抓りは別である
「ノエル止めなさい」
マリアが止めに入る
「ね〜さぁ〜ん」
「良い子だから止めようね」
ノエルが手を離した
「ねえさぁ〜んのぎとさんのはじめてのじょせいってぇねえさ〜んなの」
「なんでしって!…」
いらない事を言った、ギュ
「痛い!痛い痛い!離しなさい!」
「いや〜〜ぁ」
マリアがターゲットになった
「止めないんですか?」
「リサ止めて来い」
「嫌ですよ危ないもの」
広人が止めに入った
今度は広人が餌食になった、理由はキリカを産ませておいて母と結婚をしないという
禾人もマリアもノエルに意見が合ったほっておこう
「禾兄ィ」
「なんだ今度はお前か・・」
「だれが初めてかなんて気にしないけど、鈴さんて何者?」
「何者って割烹鈴の女将さんだ」
「兄ィも姉ェも何隠してるのよ!リサあなた何か知っているんでしょ!」
「私知りませんよ、ケイさんがホルスって言うのもいま知ったばかりですから・・」
「何で知りたがる?」
「姉ェが凄く睨みつけていたから・・それに知っているような気が・・」
「あ、禾人さま此方におられましたか」
スティーブが禾人を探して現れた
「なんだ?」
「今朝お会いした時にお話しすれば良かったのですが・・」
「今朝?会っていないぞ」
「そんな事ありません、奥様が此方を発たれた後エントランスでお会いしています」
「は〜いのぎとのおくさまで〜すねぇリサぁ〜かわいい〜」
リサにキスをしまくっている
「かなりお酔いになっているご様子ですね」
「普段ストレスの固まりだからな」
「所で明日からの事なんですが・・」
「その件は恵と決めてくれ、我々は戦場に行く身だエアーズマンは残る者たちが決めるべきだ」
「かしこまりました」
スティーブが去った後禾人がハジメに核心を訪ねた
「雪人が来たのか」
「はい」
「で誰がターゲットだ」
「かみさんですよ」
「やっぱり隠している雪兄ィが必要とするほどの女性って何者?」
「アテナだ、聞いた事あるだろう」
「聞いただけじゃなくて負けたこと有るわ、ドールズボロボロ・・」
「俺はスコープ越しにお見合い、お互いぶっ放してこの目の横の傷」
よく見ると禾人の目の横には小さな傷がある
「でもなんであの時チャンスだったのに眉間を打たないでベレーの隊章を打ち抜いたのですか」
リサに絡んでいたノエルが禾人の膝の上に乗って変わりに答えた
「このひと〜ねぇ〜おんなうてないんでぇ〜すねぇ〜の〜ぎ〜とさ〜ん」
ノエルを抱きしめながら禾人が言葉を継いだ
「ノエルが・・撃たれた時の事が脳裏にあってな、どうも生身の女性は撃てない」
「そうだったんですか」
「でも鈴さんは度胸あるよな、単独で木の上から指令車のハッチから上半身を出していた俺に照準を合わせてくるんだもんな」
「あれでは司令官だって直ぐわかりますから」
「距離800mに敵はいない筈だったんだよな」
「禾兄ィなんで判ったの」
「スコープか何かが軽い反射をしたんだ」
鈴が驚いた
「よく判りましたね、反射する物なんて無いのに・・」
「ホルス神には敵わんがそれなりの動体視力は持っている、でも狙った相手が空軍だと思わなかったろ」
「ええ、まさか最前線に腰抜け空軍が戦車を率いていると思わなかったです」
ハジメが言った
「ああどうせ地球空軍は腰抜けばかりだよ!」
「そう言う意味では・・」
「まあ、空軍は何処でも腰抜けって言われるしな・・でも空母乗りは別格なんだよな」
「あれ、腹立ちますよね」
「そんなに優遇されてませんよ」
リサが反発した
「そんな事無いだろ、フェイが少佐の時少尉でフェイお前空母に乗ったとき士官室は何人部屋だった」
「たしか・・4人だったかな?」
「リサは2人だろ専用デスク付きで」
「え〜〜リサそんなに良い生活していたの!!!」
「フェイ知らないのか?空母の飛行隊はストレス溜まらない様に生活スペースも食事も一寸違うようだ待遇だけは大佐並だってな、ノエル・・」
小さな寝息を立てて禾人の胸の中で眠り始めていた
「一寸部屋において来るわ」
一言言ってノエルを抱きかかえスイートルームへと禾人は向かう
「あの馬鹿息子はよくこの一週間引っ掻き回してくれた」
「兄さん何時も必死だったから、此処二日は落ち着いているみたいね」
酒の勢いでフェイルンがマリアに尋ねてみる
「マリア姉ェ、さっきの事ってホントなの?」
マリアが焦った別の話しに変わったので安心していたのだ
「さっきの事って?」
「禾兄ィの最初の女って」
「まあその・・ねぇ・ちぇノエル何処で知ったんだ・・」
察しがついた間違いない
「姉さん・・」
「キリカ!なんだその目は!」
ジッと見つめるキリカ
「一体何時のころの話しなの?」
「・・」
流石に気が引けて小声で答える
「え?」
「禾人が中学生の頃だよ!私が高校生!」
「早いわねぇ」
「妹の旦那食っちゃうんだから」
「ダメなんだ私、声を押し殺して泣いている男見ると慰めてくなって・・」
「へぇ〜」
一寸馬鹿にした言い方にマリアがカチンと来た
「なんだその言い方!禾人が学校から帰ってきてソファーで泣いてる後姿にググッときちゃ行けないのか!」
「何で家に行ったの?」
「ノエルがあんな事になって禾人たちの夕食作りに行っていたんだよ、その前はノエルと禾人が一緒にキッチンで作っていたらしく『姉さん手伝わなくて悪い』とか言って可愛かったんだ、相当なショックだった見たい声に張りも無かったしまだ思い出せるよあの頃の事」
「凄いドラマ聞いているみたい」
マリアがここぞと言った
「ホントジャンと言い禾人と言いドラマチックだったのよ」
「へぇ〜」
「マリアさん一寸良いですか?」
リサに疑念が出た
「いまジャン兄さまの名前も出ましたが・・」
しまった!余計な人物の名前を出しただがもう認めるしかない
「あいつも悲しい事あったから、同じ時期だったと覚えているわ」
「でも凄いですねぇマリアさんに抱かれた二人ともオムニのTOPに一番近い男ですよ」
「私って福何とかって言う奴かも」
ハジメがなにやら鈴に合図を送った、鈴は店の前に出て禾人を待ちうけた
「あれ鈴さん何してるんですか」
「貴方とジャンさんの初体験で盛り上がって・・」
「何でジャンの名前が?」
「貴方と同じ人らしいですよ」
禾人が固まってしまう・・『あいつとそっちも兄弟かい・・』
「今行くと修羅場になりましから」
「では逃げます・・」
この後宴会はマリアの男関係と戦闘機の話しで盛り上がり続けた

オムニ今そこにある危機3 第20話 「怒れる女神」

「おはようございます」
禾人とノエルは寝たのが早いのか何時もの時間よりも早く目がさめた
「おはよう・・」
元気なノエルにバツの悪い禾人が力なく答える
「どうしたんですか?」
「いや?」
ノエルは自分が原因だと言う事は覚えていない
「今日は如何します」
「テトラXを持っていくんだが」
「副座ですね」
「乗っていくなら酒抜かないと高度上がったら一気に酔いが回るぞ」
「ではサウナで残ったアルコール抜きます、ご一緒しませんか?」
「構わないのか?」
ニコッと笑うと禾人の腕に抱きついた
ノエルは服を脱ぐ禾人の肌に青あざを見つけると
「1・2・3・・私またやってしまったのですか・・」
「気にするないつもの事だ」
「まさかリサには・・」
「大丈夫だ、余程リサが好きになったかキスの雨を降らせていた」
スイートのサウナは10人入れるほどのスペース壁に埋め込められた冷蔵庫テレビ
しかし、サウナの中は無言で向かい合ったままの二人
禾人が沈黙を嫌うかのように昨日の状況を話し出した
「昨日一番の被害者は親父だ、キリカとおばさんいや義母さんの事が原因だからほって置いた、姉さんも犠牲者だ」
「それで・・その・・あの・・で・・」
ノエルらしくない態度に意を決する、ノエルにしこりを残したまま戦場に出たくない、出したくないのだ
「15の時相手はマリア姉さんだ」
ノエルがビックと肩を震わせた
「自分の蒔いた種とは言え最高の時から最悪の時になった、何が大統領を守った英雄だ国家栄誉章だ君を傷付けておいて到底喜べることではない、落ち込んで泣いていたら姉さんが慰めてくれた、その後な調子に乗って工科学校入学前にやらしてって行ったら打ん殴られた」
禾人が笑いながら話し続ける
「口説く相手間違えてるんじゃないってノエルが好きならトコトン口説いて来いってね」
「いえ、その事は既に終わっていますし姉でよかったと思っています、ほかの人だったらそっちへ行ってしまいそれで終わっていました、私が気にしているのはブラックスコーピオンのことです、昨夜お父様がブラックスコーピオンて」
「その件は首を突っ込むな」
「どうしてですか、妻としてあなたの総てを知りたいです」
「負の遺産の継承者は俺だけで良い」
「リサも知っていてなんで」
「リサも知らんし知って欲しいとも思わん、知らないほうが良い」
「どうしても教えていただけないのですか、単にマフィアの事を組織の事」
「だけならいくらでも教えてやるよ、親父もノエルも大きな勘違いをしている」
「どう言う事ですか?」
「オムニの大統領官邸を見下ろす高台にマフィアの大邸宅があると言う事はどう言う事なのか」
「大統領よりも・・」
「コルリオーネファミリーは二つの顔がある、経済マフィアが表の顔だ其れに伴ってカジノの経営が末端の組織の潤いになる、本体は株や会社の乗っ取りだ現在の保有株はオムニの主要企業60%に登る」
「裏の顔がスコーピオンですか?」
「オムニはマフィア抗争が殆ど無いだろう」
「ええ」
「一箇所が巨大な力を持てば弱小な所は従うしかない」
「たかだかマフィアの装備でしょ」
「俺が号令をかければオムニシティ守備隊を15分で壊滅30分で完全制圧できる」
「そんな馬鹿な!」
「グランドクロスアタック、35000発の艦対地ミサイルが空軍、陸軍、海軍基地を一斉に襲う跡形も残さず瓦礫の山だ」
禾人が事も無げに言った
「もしノエル、君が望むなら30分以内にオムニをプレゼントしよう」
「そんな物はいりません・・でもなんで・・」
「保有主要企業株の45%は軍事産業だ社長や専務、CEOにはコルリオーネファミリーが送り込まれている、政治家も軍も迂闊に手を出せない」
禾人が笑いながら核心を言う
「オムニの実質の大統領はジョルジュ・コルリオーネだよ」
「一つどうしても聞きたい事が・・ジュディ中尉の事です彼女にブラックスコーピオンの調査指示を出して既に四年、生きているかもわからない状態です」
「首を突っ込んだ者がどうなるかは判るだろう其れ相応の対処をしなければならない」
「それでは!」
「君の部下を奪ってばかりで悪いな」
「彼女の両親になんていえば・・」
「言う必要もないだろうオムニ軍が紙一つ両親のもとへ『ジュディ中尉は作戦中栄誉の戦死を遂げられた事をご報告すると共に栄誉勲章を送らせて頂きます』でお見舞金1万ドルはい終わりさ」
「あなたは!・・」
「サウナで興奮するとぽっくり行くかもしれないぞソロソロ冷やした方がいい」
サウナを出ると水風呂へ飛び込んだ
「何で調査をさせた?」
ノエルの顔が敵を見るような目になっている
「麻薬です」
「残念だったな、麻薬は国を滅ぼす経済マフィアには大敵だ働け稼げ、ギャンブルで使え其れがコルリオーネの信条だ」
「ではあの当時麻薬・・」
ノエルの脳裏にエイハブ商会の名が浮かんだ
「貴方も同じ物を探していましたね」
禾人は答えず体を拭き服を着だした
「さて早いが食事を済ませて戻るぞ」
ノエルの憎悪を背中に感じながら禾人は部屋から出て行く其れにノエルも追随する
「おはよう御座います」
「リサおはよう」
リサが早く起きていたのだ
「早いですね」
「昨日上手い事逃げ出しましたので早く寝れました」
「あれからどうだった?」
「結構盛り上がりましたよ」
「どうせ良い話しじゃないだろう」
「兄さまにとっては良い話しじゃないと思います」
「そうか」
「姉さまと兄さまの子供のときの話しを結構聞きました」
「腐れ縁で38年に成りますわね」
「?」
ノエルの様子がおかしい・・なぜ?あの事!
「あの姉さま・・」
「リサほっておけ、俺たちは犬も食わない状態だ」
「たまには兄さま達もあるんですね」
「飯食ったら基地に戻るぞ」
「はい」
食事を終わった禾人達はエントランスホールでエアーズマンのスタッフに見送られていた
「じゃあケイさん後頼みます、後此れセスナのカギ」
「必要ないですよ」
「いや、もし陥落して鈴さんが捕まれば徴兵拒否で営倉行きだ、つれて逃げろ」
「ありがたく預かっておきます」
ハジメは一寸考えながらも受け取ったのだった
「ノエルさん・・」
鈴とノエルが抱き合って会話を交わしている
「しかし、凄い光景だ元戦っていた相手同士が抱き合ったり握手したり」
呟きながらジャンがエントランスに姿を現した
「兄さま」
「昨日の敵は今日の友か」
「禾人」
「ジャン、暫く留守にするがよろしくな」
「生きて帰って来いよ、それから親父があれを供出するそうだ」
「あれをか・・」
「ああ、ただしオムニにではなく禾人にだ」
「有り難く預かっておくよ」
「使う必要はないと思うがな、ノエル元気でな」
ノエルはジャンが握手を求め伸ばした手を叩き払った
「おい、禾人何かあったのか?」
「兄さま達は涙で女性を落とすのがお好きなようですから」
「リサ何の話しだ?」
「ジャンお前と俺はこっちでも兄弟らしい」
股間を指差しながら禾人がうな垂れる
「マリアさんか!」
「昨日、姉さんが総て喋った・・」
「まあ男だしなぁハハハハハッ」
ジャンはポケットから手紙を取り出すと禾人に手渡しながら
「此れがあれの目録だ」
「判ったあれはノエルに任せる」
「お前は使わんのか?」
「元空軍よりは良いと思うが」
「親父にはそう言って置こう」
禾人はジャンに親指を立てサインを出すとジャンも同じく答える
「スティーブ、親父たちはまだ寝ているが寄る所があるので我々は先に発つが後は頼む」
「かしこまりました」
禾人達は別れを惜しみながらエアーズマンを後に空軍基地へと向かって行った
禾人は幌を出したムスタングの中で二人に行き先を話し始める
「リサ、嵐の海って知っているか?」
「オムニ開発史に出てくる気象コントロールユニットが暴走を続けている場所ですよね」
「そうだ」
「まさかあそこに行くって言うのじゃありませんよね?」
「その通り」
「あそこは異常磁気の為にレーダーも無線も使えないんですよ」
「計器飛行は可能だろう」
「あの距離を計器で!コンパス使えませんよぉ」
「出来ないとは言わせないぞ、それなりの訓練は行なってきた」
既に禾人の顔は軍人へと変わっている
「イエッサー」
「少将は私の後ろへ」
空軍基地でテトラXとF242改を受け取ると後部座席にノエルを乗せる
「狭いですね」
ノエルが後部座席で周りの計器を見回していた
「リサ、嵐の海に入ったら此れを点けろ」
「なんですか?」
「特殊ビーコンこの発信源に向かっていけば有る物が現れる」
「一体何が有るんですか?」
「着いてからのお楽しみだ」
「でもあそこは・・」
「素粒子を電波代わりに発信しているんだ、後の質問は向こうに着いてから無線では一切この事は話すなよ」
「わかりました」
禾人がテトラXに乗り込み準備を開始した
「一つ聞いていいですか?」
「なんだ?」
「このテトラXは特殊機体なのですか?」
「いや一般機体で15年に成るな」
ノエルとの会話に割って入るように整備員の声が聞こえてきた
「補助電源切り離します!良い旅を!」
禾人は軽い敬礼をすると滑走路へ向けて機体を発進させるとリサも其れに続いた
キャノピーが動きにあわせ閉じていく、エンジン音が甲高くなり体が沈み込む
「V1・・VR・・V2・・ローテーションと」
バックミラーを見ながら禾人が呟いた
「リサも離陸が様に成ってきたな」
ピッタリと禾人に付いて離陸をしてきたのだ
「先程の続きですがなぜテトラXなんですか」
「テトラXは機体番号だ」
「機体番号?」
「最初のXは10次のXは10乗、その次のXは更にその10乗、そのまた10乗だ本当は無限にしたかったんだ」
「無限ですか」
飽きれ返ったようなノエルの声が返ってきた
「実験機体に近いのでな可能性が無限にあるって事でそうしたかったんだ」
「思いは人それぞれありますからねぇ」
「お前の思いはジュディ中尉て所か・・」
「そうです」
コックピット内が重い空気になっていくが禾人は平然と操縦を続けた
飛行時間約90分嵐の海と飛ばれる空域に達した
「リサ、付いて来い見失ったら死ぬと思え」
「判っています」
リサも禾人もビーコンのスイッチを入れた
計器を見ながらスティックを小刻みに動かしていく
嵐の海と言うぐらいで風雨が尋常ではないのだ
機体が横滑りする
「修正しないとな」
バックミラーを見ながらリサが着いてきている事を何度となく確認する
やがてビーコンが作動をはじめると禾人は機体を降ってリサを横に呼び寄せた
「ノエル横のライトでリサにモールスを打ってくれ」
「良いですよ内容は?」
「右、着陸甲板に着艦せよ尚一度通り過ぎ艦の全容を確認のこと」
「航空母艦があるんですか!」
「メガフロートがある」

「ドン禾人がきた着艦に備えろ整備員、甲板員は持ち場に着け」
「ボスもう一機来ていますが?」
「回状が着ていたドンの新しい兄妹か」
「両甲板にワイヤーの用意、風上に艦首向け」
「ヨーソロー」

リサと禾人の前にライトの帯が出来た
「なにこれ?飛行場?中将・・」
無線が使えない事を思い出した
「なんですか此れ?」
「全長2500m全幅600mのメガフロート形の空母だ、超伝導推進ユニットを備えて最大戦速45ノット総排水量757000トン艦載機700機」
「こんな物が・・」
「ノエル此れだけではないステルス戦艦、潜水艦が護衛についている」
2機は着艦体制に入った
艦中央の艦橋兼コントロールタワーを挟んで両サイドに着艦するのだ
フルパワーでワイヤー目掛けて突っ込む
この嵐では普通着艦できる状態ではないが失敗しても2000mの余裕空間がある
その空間が心のゆとりとなり無事2機とも着陸した
禾人はリサにモールスを打つ
『ローダー牽引エレベータにて発艦デッキに入るまで其のまま待て』
無人ローダーが2機をエレベーターまで牽引するとエレベーターが降下を開始、発艦デッキに入るとキャノピーを空け禾人達は艦に降り立った
「兄さま此処は何なのですか?」
「コルリオーネ一家が保有するメガフロートだ、上甲板が着艦専用で此処が整備及び発艦専用甲板、この下がハンガーだ」
ノエルが見回しながら言った
「非常に効率がいい設計みたいですね、上甲板に着いた機を直ぐに整備発艦出来る、通常なら発艦のみだったり着艦のみで事故を防ぐのですが其の必要がない」
巨大な穴がノエルの目に入った
「艦橋を沈められるのですか?」
「2500mの滑走路が出来る」
禾人がニヤリと笑った
「エアフォースワンが着艦できますね」
「其れが判れば何の為の空母かわかるな」
「大統領を拉致するのですか?」
「そんなとこだ、処でお前の探している所はあのエレベータの下にある」
弾薬専用エレベーター廻りには危険の文字
「弾薬は10箇所に分けて保管してある、一箇所ぐらい吹っ飛んだってコイツは沈まんぞ」
ノエルは効率よくこの空母を沈める事を考えていたジュディ中尉の報復である
リサは呆気に取られながらもフライトデッキを見回していると、よく知っている人物が目に飛び込んできた
「中佐?ヤオ中佐!」
リサはいる筈の無いフェイルンを見つけると声をかけたが何故か返事が無い
『リサがフェイルンに間違うほどの人間』
ノエルがリサの声に反応したリサの見ている方向に目をやると二人の人物が立っている、
ノエルがよく知っている人物だったのだ
ノエルはゆっくり禾人の方に向き直ると行き成り平手打ちを食らわした
リサと二人が慌ててノエルを押さえ込むが
「リサ!レベッカ!ジュディ!いいから手を離してやれ!」
三人は禾人の怒号で一斉に手を放した
ノエルは遠慮なく禾人目掛け無数に平手打ちを出す、
パッン、パッシーン、パッン、パッン休む事無く響き渡る打音
髪を振り乱し目は血走り顔は悪鬼羅刹の如く凄まじい形相である
何分続いたか定かではないがリサには非常に長い時間に感じられたのだった
やがてノエルは疲れたのか肩で息をしながら手を休めた
「少しは気が済んだか?」
息を切らしながら禾人を睨みつけて小声で言う
「裏切り者・・」
禾人に裏切られていた、総てを語ってくれていたと思っていたのに
自分の大切な部下さえも取り上げられた
ノエルはジュディに向き直ると手を振り上げた、何も報告しなかった裏切り行為許せない
しかし、ノエルの振り降ろそうとする腕を禾人が掴み制止した
「やめろ、ジュディには罪が無い」
ノエルが禾人を再び睨みつけ緊張が漲るがリサの言葉に一時休戦となった
「兄さま何処か他の処で話しは出来ないのですか?」
リサが周りを気にしだした整備員たちがじろじろ見ているのである
「そうだな、アベル何処か空いた部屋を!」
禾人が監視カメラに向かって叫ぶと艦内放送で答えが返ってきた
『No6会議室をお使いください』
禾人がその言葉を受けて4人を連れて歩き出した、
道すがらリサがノエルにゴムバンドを手渡す
「姉さま此れを」
リサはノエルの振り乱れた髪を気にしたのだ
「ありがとうリサ」
リサの好意には感謝を込めて礼を言った、そう今四人の中でリサだけが唯一信頼できる
ノエルは長い金髪を首の後ろで纏めコンパクトを取り出し自分の表情を見つめると
「酷い顔・・」
呟くように言ったが、だが憎しみの籠った表情を崩す事は無かった
「さあどうぞ」
禾人が扉を開け中に入るよう勧める、中には円形に並べられたテーブルが有るただ軍の物とは違い豪華なテーブル、椅子もレザーの高級品である
中に入ると禾人が艦内電話で喫茶店に注文を始めた
「アールグレイのミルクティとアメリカン4つをNo6まで頼む」
「この状況でお茶ですか?」
「まあその位は許してくれよリサ」
ノエルは椅子に座るとテーブルに肘をつき凄みの聞いた声でジュディを問い詰めた
「さてジュディ中尉、私が納得する答えを話して頂けるんでしょうね?」
「その件は俺から・・」
「貴方は黙っていなさい!」
「・・」
本気だ、ノエルの怒りが頂点に達して重い空気が部屋を包み込んだ

「ボス帰ってきているって」
「一寸色々有ってなNo6会議室にいる」
「この前の件ボスが直接持ってきたことだし報告しておこうと思うの」
「今はどうかな・・」
「直ぐ済むから」

ノエルの質問にジュディは沈黙を続けていた
「どうしても話して頂けないのですか?」
「だから俺から・・」
「貴方の言う事は信じられません!」
ドアをノックする音に禾人が立ち上がろうとした
「貴方は座っていなさい!リサすみませんがお願いいたします」
「どうせお茶だよ」
「ハイ」
リサが扉を開けると一人の女性が佇んでいる
「ドンリサですね、ドンコルリオーネからお伺いいたしました」
「ハ、ハイ」
ドンと呼ばれ戸惑うリサ
「ドン禾人は?」
リサは女性を部屋に入れた、途端に正面に座っていたノエルの顔が更に憎しみにゆがむ
「どうしたノエル?」
「エリーゼ!貴女まで私を裏切っていたんですか!」
「ノエル准将!」
エリーゼやジュディ、レベッカの知っているノエルの階級は准将、4年前の時点である
「エリー・・拙い所で来るなよ」
「ボスにこの前の結果報告しようと思ったんですが・・」
「で如何だった?」
「クスリ漬けでやられて・・奴らは注文主の依頼でスライス、バックに詰めました」
「詰めたのは?」
「依頼主です」
「ご苦労だった、追加ボーナスを出させる」
「いえ結構です依頼主からチップを頂きましたから」
「そうか」
「其れでは失礼します」
「後で其方に行く」
「まちなさい!意味不明な事ばかり言って去っていくってどう言う事ですか!!」
「ノエル、彼女はキチンとした手続きで退役して私のファミリーに成った裏切った訳ではあるまい」
「裏切ったも同じです!」
「では何を聞きたい!」
「今の会話彼女が今何をしていたのか!」
「聞きたきゃ教えてやる!12歳の女の子がさらわれて、さらわれた女の子の家族から報酬を貰って探し出したが麻薬付け!犯されて・・」
「精神異常です」
「精神異常をきたした!怒った家族が犯人を切り刻んで・・」
「生きたままです」
「おい、生きたままかよ、素人は俺たちよりエグイな・・」
「バック詰めて海にでも沈めたんですか?」
平然と言うノエルに禾人が言う
「バックの元に詰めたんだよ!ワニ園のプールに落としたんだ!」
此れには流石のノエルの目も天になった
「すげえ断末魔だったろ」
「家族の方は薄笑いしていました」
「おれが始めてやった時と同じだな」
「今だに夢に見て怖がって抱きつくくせに何言っているんですか!」
「あれ?兄さまファイヤーレスで恐怖が無いって・・」
「リサ!馬鹿!」
「ファイヤーレス!そんな事まで黙っていたんですか!」
総て話すしかない・・
「取りあえずお茶でも飲んで落ち着け」
暫しの沈黙の後禾人が語り出した
「ファイヤーレスに成ったのはあの事件の時だ、敵を殺す怖さと自分の死に対する恐怖は感じなくなった、夢に見る恐怖はノエルお前が撃たれ苦しんでいる姿そして俺を睨みつける目だ」
「私がですか・」
「だからあの夢を見た後、現実のお前に抱きしめられると落ち着くんだ」
「それで昔からカウンセリングを拒んでいたのですね、ファイヤーレスは戦場に出られない」
「そうだ、どうしてもの精神鑑定があるときは深層催眠を使って誤魔化してな」
「あなたがそうしてでも戦場に出た訳は判りますが・・」
「それだけでも判ったくれればいい、それでジュディの件だが」
葉巻を切り火をつけながら禾人は淡々と話しを続けた
「ジュディのご両親兄弟を私が人質に取っているから従っているに過ぎない」
「人質!どう言う事ですか!」
「どんな事をしても吐かないと言うか、拷問も薬も使いたくなくて、いっそ殺っちまうかと額にモーゼル当てたんだが引き金引けなくてな」
「引き金が引けない?」
「女と猫と蛇は祟るから殺さない」
笑いながら答えたがノエルの目は冗談さえ許さないと言っている
「お前の顔が重なった、撃たれ苦しんでもがいている顔が・・で軍のフェイススキャンを使って情報の洗い出し、情報部なら係らないと思ったがスパイダーと出たときは驚いた」
葉巻をクリスタルガラスの灰皿に押し付けながら更に続ける
「マフィアに執って其れからは簡単だ、家族を調べ親兄弟を楯に脅迫する、俺たちの率いる部隊は自分の痛みには強いが他人の痛みに弱い、ジュディを従わせるのは楽勝だったぞ」
「貴方って人は!」
「だがお前に話した今をもってジュディを解放だ」
「いえ私は戻らず此処に居たいと思います」
「ジュディ!私が嫌なのですか?」
ジュディは暫し沈黙した
「はい・・」
ノエルが首を振る聞きたくない答えだった
「あ〜あ茶番はいい加減にしたら〜」
「レベッカ」
意味ありげに禾人がレベッカを睨んだ
「旦那からこの艦とスコーピオンの目的を聞いて乗り込んだけどその時の約束だとノエルは連れてこないと言うことだったよね」
「状況が変わった、親父がスコーピオンの名をノエルの前で言いやがった」
「それでジュディの事も、でもこの艦に連れてくる事無かったじゃないの」
「ゴットファーザーが軍人としての俺にこの艦を供出してくれたが元空軍ではな、この艦はノエルに任せようと思ってな」
「勝手ね、わたしはノエルと共にトップを狙うのパッセンジャーとして24耐久のパートナーとして其れには絶対の信頼が要るの」
「だから?」
「総て話すわ、あんたはノエルの泣き顔が見たくないって私は憎む顔が見たくないの」
禾人は立ち上がって部屋を後にしようとした
「何処へ行く気ですか!話しは終わっていません!」
「総て終わったさ・・後はスパイダー内部の話しだ俺は遠慮させてもらう・・リサ行くぞ」
「まちなさい!!」
止めるノエルを無視して禾人達は部屋から去っていく
「兄さま良いのですか?」
「レベッカに任せる、俺は射撃でもしているさ」
入った場所は射撃訓練室一つのケースをロッカーから取り出し準備にかかる
「リサ此れ」
保護眼鏡と耳栓だ
「教えてくれるんですか?」
「見ているだけだお前は覚える必要はない」
「何でですかぁ」
「身を守位の事なら教えないでもないが戦う為の撃ち方は教えたくない、戦う為の撃ち方見せてやるよ」
禾人の選んだエリアはロングとショートレンジの使い分け立射、伏射できるところ
ケースを開けるとバラバラでモーゼルが仕舞われていた、其れを足元に置くと一気に組み立てマガジンを差込標的目掛けぶっ放す正確に頭に全弾を打ち込んだ、続けてマガジンを差し込むとオートモードに切り替え両手で確りと固定、マシンガン並の射出一瞬で標的を粉砕した、終りかとリサが声をかけたがまだ続く
モーゼルを分解、ロングバレルを取り付け更にスコープと銃座を装備2分と係らず組み立て300m先の標的の額を打ち抜いた
「鈍っちゃいないな」
マガジンを引き抜き弾装内に残りがない事を確認するとテーブルに置いて整備しながら仕舞い始めた
「姉さまの事なんですけれど」
「今頃泣いているか、怒っているかわからんな」

「その内通者は誰なんですか!裏切り者には制裁を下さなければなりません!」
「ノエル!其れだから禾人は貴女に教えなかったし、ジュディだって戻れば報告しなければならなかった、だから残った」
「報告は義務です!」
「そうだよでも、その人間がジュディの友達なら出来ないだろ」
「友人・・」
ノエルの中でジュディの繋がりから数人をピックアップした
「禾人がこの件については総て形をつけているから今考えている人間の名は忘れろ」
「出来ません!」
「其れだから禾人が何も喋れないんだ!」
「何ですって!」
「やめてください!何もお二人が喧嘩始める事無いじゃないですか・・総て話しますから」
ジュディが総てを打ち明け出す、その内容はノエルを落ち着かせるに十分な内容であった


続く