オムニ今そこにある危機3 第11話 「策士策に・・」

「アクエリアス、カーゴバード射出深度まで緊急潜航」
警笛が鳴り響き高速潜航を始める
「ヤオ中佐」
「ハ!なんでありましょうか」
「1番発射管のPLDに搭乗せよ」
「は?」
「伝令を頼む、禾人に今度の土曜日にマムの店で酒を酌み交わそうと伝えてくれ」
「は?」
「禾人も君に隠す秘密は無くなっただろう戻ってくる必要はない、この親書を君の父上に渡せば総て手続きをしてくれる」
グッと手を握り締めて礼を述べた
「艦長、短い間でしたが有難うございました」
「ヤオ中佐御武運を!」
「チェルシー副官有難うございます」
「射出深度到達、自動懸垂」
「アーイ」
「ヤオ中佐の搭乗確認ハッチ閉鎖」
「射出圧搾空気注入」
「カーゴバード1番!射出!」
ロケットブースターを海上で切り離しSDSへと向かってとんでいった

「禾人は本当に良くやってくれる」
「緊急事態省の秘蔵子ですからね彼は」
「此処で私からの命令だ、現行の4軍から独立軍を正式に軍の一部として認め5軍とする、尚SDS及びグリーンベレー、シールズは独立軍へ再編成、独立軍は対テロリストと機密作戦の部隊として完全独立させる、司令官はヤオフェイロン大将、SDS隊長はノエル少将、グリーンベレー神少将、シールズターガーソン大佐、各軍指令には文句は言わさんぞ」
「判りました、閣下」
「空軍指令は現行のまま辞任は許さない」
「私が引いた方があいつは喜ぶ」
「いや、息子たちの殺し合いを現場で見ていろ、過去の清算だ」
「イエッサー」
「さて、これからの方針だが呑める話ではない議会でも其れで通すつもりだ、軍は此れより戦争備えろ良いな」
「判りました閣下」
大統領の即決で各軍の司令官は即座に持ち場へ戻っていく
「さっきからノエルは何を見ている」
ノエルは携帯電話の画面を見つめている
「ここは電話の入る場所ではないぞ?」
「蛇の道は蛇、ある周波数はこの壁を通してしまいます」
「そのような報告は聞いていない」
「彼は情報収集の妨げになる様な事を報告すると思いますか?」
「する訳無いな、でなんと?」
『終わったらエアーズマンに来い来ないと今夜はリサと二人っきりでスイートルーム』
「なにを言うんだあいつは・・」
「と言う事で今夜はエアーズマンに泊って行きたいと思いますが・・」
「君を必ず呼ぶ呪文だな、良いだろう傍でそわそわされていても気が散る」
「有難うございます、指令」
「ノンビリ出来るのは今日ぐらいだろう、基地に帰ったら地獄の門をくぐるのと一緒だからな」
「はい」
「其れと兵士の除隊希望者を募るぞ、雪人を慕う者もいるだろう嫌な戦争になる」
「出来る事なら雪人さんには考え直させたいです」
「もう無理だろう」
「では・・」
途中ノエルを空軍指令が呼び止めた
「土田空軍指令」
「禾人に最後まで世話を掛けさせて済まなかったと伝えてくれ」
「ご自分でお伝えになったほうが良いと思いますが・・」
「いや・・」
「判りました」
「それと・・」
「それと?」
「ノエル、君は禾人と雪人のどちらが好きだったのかね・・」
「ホントの事言いますと昔から禾人さんの事が好きでした」
「私が無理な事をしたから禾人はグレ、雪人には最後に裏切られた、君の気持ちを考えるべきだった」
「禾人さんの気持ちが一番だったのかもしれません」
「兄妹になったほうが良かったか・・」
「今では私、総ての踏ん切りもついて禾人さんと一緒に成れたのが嬉しいです」
「馬鹿息子をよろしくたのむ」
「有難うございますお父様、お父様もお母様をよろしくお願いいたします」
「禾人に合同で結婚式をしようといったらどんな顔するだろう」
「喜ぶと思いますよ」
「ありがとう・・」
一言言って広人は寂しげな後姿を部屋の中へと消していった

「初めてですねあのホテルに泊まるのは・・」
ノエルはホテルへと向かった

「どうぞ」
三人に渡されたグラスにワインが注がれる
「随分とサービスがいいのだな」
「オムニシティエアポートまで3時間は掛かりますので禾人様から十二分に持て成すようにとのことでした」
「敵に対してですか」
「昨日の敵は今日の友と申します、其れにあの方は自分の前に立ち塞がる者以外は敵と認識していませんし、仲間はどんな事をしても守る方ですから」
「我々は立ち塞がったのではないのかな?」
「貴方方の核使用にて親友であらせられたハイドリッヒ大佐が自刃されたのは、非常に残念がられていましたですけれども貴方方を恨む素振りは微塵もありませんでした」
「戦争をしたくないだけだと言うのか」
「あいつは昔から喧嘩っ早かったそんな訳ないだろう」
「人間は変わるものです、今は引退して奥様とシルバーレイクの丸太小屋でノンビリ暮らすのを楽しみにされています」
「ノエルとか」
「はい」
雪人が更に憎悪に満ちた表情になる
「雪人さん?」
「いや・・すまない感情的になりすぎた・・君が居ると言うのに」
「雪人少し落ち着いた方がいい、オムニに着いてから冷静な君ではなくなっている」
「そのための三時間だと思ってくださいこの機なら最高速度を出せば1時間で着きますが3時間かけて来いとの指示ですので」
「そこまで禾人は判っているのか」
「ベストの状態でお会いしたいと」
「どうせあいつの事だ、時間を稼いで何かを企んでいるのだろう」
「疑う事は悪い事ではないが、双子ならば何処かで通じ合っているはずだ感じてみろ」
「無理です、俺はあいつと通じ合っているとは思えないし思いたくはない」
「勝つ為には必要だぞ」
「判りました」
「ではごゆっくり」

「カワサキ大使、彼ら三人は何処へいかれたのかな」
「敵に誘われて飲みに行ったようです」
「さっきの奴かね」
「ええ、敵はまだ遊びのつもりでいます乗ってやるのも一興かと」
「行き先は?」
「オムニシティエアーズマンホテル」
「安全の保証はあるのか?」
「ブバイが付いていますし流石に最後通告も出ていないのに仕掛けますか」
「港北重工の件がある」
「死者はいない、殺すつもりはないのですよ彼には」
「エアーズマンホテルとは・・」
カルツォーネが意味ありげに話し始める
「あのホテルは一流ですが裏に回ればマフィア絡み、そんな場所で話し合いとは死にに逝く様な者」
「CEOが土田禾人らしいのだ」
「判りました、貴方方の作戦は失敗民衆もオムニ政府に付くでしょう、今度は私たちジアースのやり方を見てもらいましょう」
「カルツォーネ失敗は許さんぞ」
「お任せください閣下」
不敵な笑みを浮かべてカルツォーネは消えていった

「さて、もうじきオムニシティエアポートだ直ぐに・・あれ?リサ何見入っている?」
リサが洋上を眺めている
「オーシャン1です」
「洋上の大鷲か、オムニで始めて生産されたロープや布、材木、金属で作られたオムニフロンティアスピリッツの象徴、帆船オーシャン1今日入港か」
「此れにあわせて行動を起こしたってことはないですよね?」
「だったら間違えなくオーシャン1爆破ってことになるだろう」
「でもやりますかね?」
「俺だったらやらんオムニ全土を敵に回すぞ、今もあの船は新しくオムニで開発された材料で作られた部品を装備し続けている動くオムニの開発史、この星に住む者の歴史と誇りだ」
「確かにそうですね」
「着陸だシートベルト着用サインが出たぞ」
しっかりシートベルトを締めるリサ
「随分と慎重だな」
「他人の操縦は信じられないんです!」
「あっそ」
空港に着くとすぐさま格納されていた車を引き出しエアーズマンへと向かう
「何が有るのですか?」
「さっきの三人が来る筈だ」
「なんで?」
「飲みたかったから誘った」
「信じられない事しますね!」
「まあそう言うな、前から俺の行動に予測をつけられんだろう」
「そうですけど」
「それと今日は特別にリサにはセミスイートルームを頼んで置いた、おれはノエルとロイヤルスイート」
「奥様呼んだのですか?」
「ああ、今日は特別だ奴が帰ってきたからな、戦争が始まる前に会わせておきたい」
「昔の仲間だから・・」
「元許婚同士・・ノエルは親父のお気に入りで雪人の嫁にと俺は元から嫌われていたからな」
「え!」
「俺が茶々入れて奪ったということになる、あのオムニ独立記念日無理に連れて行って怪我させた事が原因だ・・」
何か遠くを見つめる禾人
「親父なぁお袋が死んでからノエルのお袋と付き合っていてキリカは俺達と事実上の兄妹だけどノエルと雪人を結婚させるのに別姓だった、リサならわかるだろう」
「日本人特有のモラルですよね」
「日本人だけじゃないと思うが・・モラルと言うよりも世間体とかだがな」
「でもなんで、許婚じゃない兄さまと一緒にパレード行ったんですかね?」
「さあ?フェイルンの面倒を俺じゃ見切れないから付き合ってくれって言ったはずだな?」
「兄さまは、単に茶々入れただけじゃなくて奪うつもりだったんでしょ」
「・・・・・・」
「図星ですね」
「俺も若かったからな」
「何言っているのですか、怪我までさせておいて」
「その言葉は、ノエルとキリカから散々言われた・・」
「マリアさんでしたっけ?お姉さんって?」
「ああ、」
「何も言わなかったんですか」
「そう、仕方ないね君も勇気出して飛び掛ったんだ頑張ったんだぞって言ってくれた」
「中学生の兄さんには嬉しかったでしょ」
「嬉しいって事よりもノエルが心配でな」
「確かに怪我をさせて喜んでいる馬鹿いませんよね」
「その通りだ」
「女の感ですがむかしっからノエルさん兄さまの事が好きだったんじゃないですか?」
「まさか・・」
「いえ、どんなに女性が仕事に熱中しても生物上メスとしての大仕事、子供を産む事を奪った男性と一緒に成りたくはないですよ、私なら絶対どんな事をしても許せません」
「俺が子供を産めなくても作れるだろって言って受精卵を保存したから・・」
「其れだったら他の男にしますよ、特にノエルさんみたいな美人だったら言寄る人は、いるはずでしょ、どうです思い切って聞いてみたら」
「いやだ、今更・・今一緒にいてくれるだけでいい」
「受精卵があるんですか・・代理母は・・」
「フェイルンが成ってくれるから大丈夫だ」
「そうですか」
つまらなそうな顔をして横を向くリサ
「それとさっきの話ですが雪人さんは、見た感じ冷たそうで一緒に居て楽しそうに思えない、あの演説を聞いても自己陶酔型の意見ですし、兄さまの方が好かれると思いますが」
「そうか?もう着くぞ」
リサの褒め言葉も一笑に付す禾人
「で私はどうします?」
「あいつ等に顔を見せる事はない隠れていろ、終わったら食事に呼ぶ」
「判りました」
玄関にはエディが待ち構えていた
「禾人様、念のため警備を配備いたしました」
「あんまり騒ぐな、今回そんなつもりはない」
「一応です」
「ありがとう」
「奥様を初めてお見受けしましたが美しい方でいらしゃいますね、既に部屋のほうへご案内いたしました」
「すまないドレスはどうした?」
「最高の物をご用意しました」
「そうか」
禾人は嬉しそうな素振りを見せる
「禾人様のタキシードも最高の物をご用意させていただきました」
「早速着替えて待ち受けるか」
リサと別れロイヤルスイートルームへ入って行くとノエルがドレスを着て鏡の前でクルクルまわっている
「可愛いじゃないか」
「あら嫌ですわ、お声を掛けてくださればよかったのに」
「いや、昔のようだった・・一番楽しかったあの頃を思い出した」
「今日はこんな素敵な部屋を用意してくださって有難うございます。新婚旅行代わりですか?」
「雪人を呼んだ」
「そうですか」
「それだけか?」
「何かあります?」
「いや元・・」
言いかけた言葉を遮るように
「お互いの意思によりますわ、私は昔から面白い禾人さん・・好きでした・・」
禾人が固まった思いも寄らない言葉であった、リサの言葉が今になって解った
「早く着替えないと間に合いませんよ」
「ああ」
既に上の空である、タキシードのネクタイを締める手も覚束無い
「何やっているんですか、さあ締めてさしあげます」
ネクタイを締めながらポツリとノエルが一言言った
「これって何か良いですね、主人のネクタイを直すって」
禾人は既に雲の上を歩いているがリサの一言で現実に引き戻される
「中将!奴らが来ました」
「そうか、ブルークルーズは貸切にしたか?」
「既にエディさんが仕切って準備が終わっています」
「スティ−ブはどうした?」
「奴らと一緒に戻って来ました」
「解った」
「では、ノエル姫参ろうか」
「お供しますキング」
腕を組んで歩く二人の後姿を見ながらリサが呟く
「二人は本当に良いカップル・・さて警備室で相手の出方見ますか」

「ここが奴の居城か・・」
「孫賓を名乗っておりました」
「孫賓か・・」
「はい?何か?」
「雪人、馬には気を付けろよ」
「何がですか?」
「いや解らなければ別に良い」
肩をすくめて雪人が答えた
「そうですか」
その様子を見たブバイは更に禾人を求める
『禾人を何とかこちらに引き抜きたい・・』
やがてVIP専用の地下駐車場からダイレクトエレベーターでエアーズマンへ上がると禾人とノエルが待っていた
「ようこそ、オムニへ」
「何を!」
怒鳴りかけた雪人を抑えるようにノエルが挨拶をする
「お帰りなさい雪人さん」
「ノエルか・・」
禾人は三人をレストランの中へと案内した
「まあ皆さん座ってください」
円形のテーブルに座る5人、ブバイが先ず口を開いた
「呼んだのは、昔話をする為ではないと思うが」
「雪人は一人で来ないと思いました、話の解りそうな人物をつれて来てもらって良かった」
「兄の目から見て雪人はダメか?」
「いえ、感情が入らなければ私など足元にも及ばない策士」
「なにを見え透いたお世辞を言うか!」
「世辞ではない、白の智将に対して赤の猛将の評価だ、雪人遅くはない戻って来い」
「いまさら、ノエルまで引き出して口説こうというのか」
「外交の席に妻を同伴させるのは当たり前だろ」
「そうか」
露骨に嫌な顔をする雪人、雪人を煽って面白がっている禾人
「さて、本題だ、カシアスがオムニに付くならば無条件にオムニの資源を供給しよう」
怪訝な顔をブバイは露にした、警備室でモニターしていたリサも同じである
「地球と折半するよりもキチンとした形でカシアスに供給できる」
「それは、既に議会の承認済みの話か」
「いや、大統領の勅命で行なう予定だ」
「あの大統領がそんな話を飲むわけが無いだろう!」
「誰が今の大統領だと言った」
「選挙をしている暇は・・まさか、貴様!」
「戦死者見込みで2万、2万人の命を助ける為なら3人ぐらい簡単な話だ」
「禾人さん!それは!」
「何も言うなノエル、を瞑って3つ数えれば直ぐに済む話だ、ただ大統領が話しに乗れば誰も死ななくて済む」
「話が見えんが?」
「雪人は解ったらしい、この星のシステムを最大に使うという事だ緊急事態省長官を大統領に引き上げる」
「大統領、副大統領、国務長官、緊急事態省長官の順で移行していくんだったな」
「うちのボスなら嫌とは言わせんし言わないだろう」
「三人を消すということか」
「簡単な事だ」
「解ったカワサキ全権大使に進言してみる」
「感謝する、貴方ならそういって貰えると感じていた」
「禾人中将、オムニ最高の軍師との評判通りだ、戦わずして勝つと言う最高の兵法を出して来たな」
「上の利権で戦争を起こされ多くの人間が死ぬ、情報で操られ思い込まされ・・もう良いでしょう殺しあわなくても」
「まさにその通りだ、民衆が国の根源それを失うは財産を無くすも同じ」
「私は、裁きが下るまで戦い続けなければ成らないが今回は違う、エクトールの能力は完全にX4の能力を上回る、それと雪人の戦略センスが重なれば我が軍に勝ち目は無い、勝ち目の無い戦に部下を出すわけには行かない」
「随分相手を認めるんだな、え禾人!」
「それは、禾人さんの計算が弾き出した結果、現実主義の成せる事です」
「言い換えれば、戦えば必ず私たちが勝つということだ!」
雪人が拳銃を抜いて禾人に突きつけたその瞬間、上階の席周囲からエアーズマンの警護が一斉に銃を構え立ち上がった
「こんな事だろうと思ったよ禾人!生かして帰さない積もりだったか!」
「お前が銃を向けた相手はこのホテルのCEO、警備の者が威嚇の為銃を向けるのは当たり前だと思うが、エディ!すぐさま全員を引っ込めろ!私が打たれても手を絶対に出すな!」
「しかし!」
「私の命令が聞けぬか!」
「解りました禾人様」
「さて雪人、これでお前の好きに出来るぞ、さあ撃て!」
禾人は、雪人の手を取り銃を心臓の上に宛がう、躊躇わず引き金を引く雪人
銃声と共に悲鳴が上がった
「面白くないショーだな」
禾人がぽつりと言うと胸から10Cm角のライターを出した
「特殊鋼にケプラー繊維による防弾効果、骨折しない為に断衝材・・同じのを雪人にやるよ次はお前が狙われる番だしな、ちゃんと胸にしまって置け」
「相変わらず用心深いな」
「ま、座れ多少は気が済んだか」
「ふん!」
「あんまり無理しないで下さい!」
「悪かったノエル」
ブバイがくだらない兄弟ゲンカに終止符を打つように
「其方の話の内容は直ぐにでもカワサキの方へ伝えたい」
「お帰りになると?」
「そうだ」
「貴方との会談は非常に有意義でした、戦争が起こらない様にお互い努力しましょう」
禾人が握手をブバイに求めた
「出来ればそう在りたいですな」
「機内に最高の食事を用意させました、寛いでお帰りください」
「何から何まで心遣い有難うしかし、港北重工の事は頂けんな」
「何の事でしょうか?火災が発生して消火に当たったのはニュースで知っていますが」
トコトン惚ける所はしらを切り通す
「喰えん処もあるようだ」
「では良い返事を待っています」
「なるべく希望に添えるようにしよう、ただし君に欲と言うものが無ければの話だが」
「は?」
「手を組む以上、潔癖でなければならない悪い噂を立てられたくは無いからな」
「私自身それは無理でしょう、オムニトップマフィアコルリオーネファミリーの長兄と五分の義兄弟です」
「ジャンと五分の兄弟か!」
「そう言う事だ・・」
「ふん!マフィアの方が似合っているのではないか」
「確かにな・・」
「裏で動いている内にこの話纏める様に努力しよう」
「有難うございます」
「では此れで失礼すると」
禾人とノエルはエレベーターホールまで三人を送った

「さて、どう出てくるか」
「雪人さん次第のような気もしますが」
「まあ、それは無いと思うが、リサ!飯だぞ聞いているんだろ!」
慌てて警備室から駆け出していくリサ
「さて三人で食事するのは初めてだな」
「三人だけじゃないわよ!」
振り向いた禾人とノエル目掛け平手打ちが飛んできた、鈍い音が響き渡る
「何もかも二人だけで片付けようなんてしない事ね!、キリカを急に帰任させるなんて何かあると思ったら」
「姉さん・・」
「キリカもか」
「キリカに貴方たちを張り倒す事なんて事出来ないから私がやったの!」
「二人には心配を掛けてしまって済みませんでした」
「兄さん、雪人兄さんと争わなければならないの・・」
「キリカ、禾人さんは最善の手段を選びました、戦争を避ける為に国家反逆罪も厭わないつもりです」
「でも・・」
「姉さんは解っているらしい」
「相手がいることだからね」
「その通りです」
「ま、私は一発引っ叩いてスッキリしたから良いけどで、彼らとの取引は済んだのかい?」
「そこは抜かりなく」
「マフィアのようなやり方は得意だね」
「マフィアですからね」
「そっか」
「しかし、何で解ったのですかここにいる事が?」
「銀のオープンカーでノエル以外の女を乗せていれば気になる、姉として浮気は許さないよ」
「目敏いですね」
「で、あの女性は?」
「リサキム、このホテルのオーナーで私の腹心です」
「ノエルも知っているのか?」
「ハイ姉さん」
「それならま、いいか」
「でも良く此処の場所に入って来られましたね?」
「一時的だったけど止められたわ、で禾人の姉って言ったら『暫くは待ってください』って何かしていたのか?」
「この場所で雪人とネゴしていた」
「雪人が来ていたのか!」
「兄さん来ていたの!」
「最後のチャンスだ、雪人だけでは聞かないと思うが同行して来た大佐が上手くやってくれれば何とか成る」
「確立は?」
「6:4」
「不利なんだろ」
「その通りです」
「やる事やったんならそれで十分頑張ったね」
「姉さんのその一言で楽になりました」
「さて、どんな物をご馳走してくれるのかな」
「何でもどうぞ」
リサの紹介も終わり5人は宴を始めた

怪訝な顔をして親書を読むヤオ大将
「ヤオ中佐・・君の転属は認めよう・・上官として出なく父親としては情けない理由ではあるが・・」
「はぁ?」
掲示板に張り出された内容を見た人間は戻って来た理由を納得した
『貴隊より転属命令によってアクエリアスに配属されたヤオフェイルン中佐は、艦に置いてその行動非常に姦しく敵艦の音響探査に発見される可能性高く艦に不適切であると判断、帰任を命じた』
「あたしってそんなに賑やか?」
廻りの人間が頷いた

そして翌朝・・
「あの鳩?足が光ったな」
「なんでしょうかカルツォーネ中佐?」
「あの鳩を撃て」
「は?」
「貸せ!」
アサルトライフルを部下から奪うと鳩を打ち落とし、足についていた通信缶を外し内容を読む、「シラをきれ」
「中佐何ですか?」
「古いやり方だが今では誰も気が付かんな」
「は?」
「此れで逃げ道は絶ったが、どう出るかな」
カルツォーネはニヤリと笑うと陰からホテルを見上げた

オムニ今そこにある危機3 第12話 「禾人!」

朝バスタブに並んで浸かる禾人とノエル
「なんか良いな、こんなの」
「官舎ではバスタブは二つ並んでいませんものね」
「温泉行っても混浴はいやだっていうものなぁ」
「お腹の傷は貴方だけには見せたくありませんもの」
「そうか・・」
そう良いながらビールを開ける禾人、その音にすばやく反応するノエル
「ダメですよ、今日は緊急事態省のほうへ行くのでしょ」
「一時間もあれば冷めてしまうよ」
「まったく・・」
部屋のほうで大きな音がする
「あれ?」
「兄さま!!どこですか!!」
「リサか?」
「何を騒いでいるのでしょう」
「リサ!!風呂だ!」
「直ぐ出てきて下さい!大変なんです!」
「一体なんなのだ」
バスローブを身に付けバスルームより出る禾人
「中将!此れを見てください」
新聞を渡すリサ、一面トップに『エアーズマンとマフィアの関係!驚愕空軍中将とコルリーオーネの取引!』
「中将、朝からマスコミがホテルに押しかけて玄関に集結しています」
「テレビを点けてくれ」
ニュースはコルリオーネと禾人の癒着を面白おかしくそして非難混じりに伝えている
「ニュースは、俺とジャンの事で持ち切りか」
「どうします」
「スティーブとエディに来る様に言ってくれ」
「解りました」
「リサ又手間をかけてしまうな」
「構いません」
「ノエル、朝食が済んだらVIP用の特別通路からお前達4人を送り出す」
「一緒ではいけませんか?」
「これは、俺自身がキッチリしなければ成らない問題だお前は一切かかわるな、良いな」
「解りました貴方・・ただ無理しないで下さいね」
「ああ」
「禾人さまお呼びでしょうか」
「三人とも掛けてくれ」
ノエルは別室へと移って行く、リサとスティーブ、エディが席についた
「我侭を許して欲しい・・」
禾人の言葉を遮るかのようにスティーブが言う
「我々は構いません、このホテルグループが無くなろうと」
「そうか・・しかし、俺が去ってチャンとしたCEOを設ければもう一度チャンスはある」
「貴方が降りたなら此れからは今までのような資金運営も行なえません」
「誰より貴方とリサ様のコンビではなくては、皆着いて行かないでしょう」
「お前たちの生活があるではないか」
「十分に蓄えさせていただきました」
「兄さま、辞めなければ成らないとはいえません、現状の蓄えなら切り詰めて客がいなくても3年は持ちこたえられます」
「噂が消えるまでか?」
「戦争が終わればもう一度出来ます」
リサは既に経営状況を把握していた
「解った、しかし会見は私の一存で話すぞ良いな」
「はい」
テレビに映ったジャンが答えている
「禾人〜そんな奴はしらねえなぁ、いい加減にしねえとぶっ殺すぞ大体どっからそんな話が出たのだ」
「おお、すげー言葉放ってよ」
「これはジャン兄さま惚けろっていっていますね」
「惚けるか、総てを闇に葬れればだが」
「やる気になれば出来るのではないですか?」
「ま考えるか、それよりソロソロ食事にしよう、ノエル達をブルークルーズに集めてくれ」
「かしこまりました」
テーブルで待っているとやがてマリアたちと一緒にノエルが現れた
「大変だね」
「まあ、結論は出ていますが」
「ジャンが惚けるなんて、あいつも善いところ有るじゃないか」
「ノエルと私の親友ですから当たり前の事ですよ」
「で惚けるのか?」
「合わせましょう」
「賢いね」
ノエルが寂しい顔をするが禾人は気付かないふりをする
「朝から一寸ハードな食事だけど残さず召し上がってください」
「これで酒でも有れば最高なんだけど」
「姉さん飲みますか?付き合いますよ」
「二人とも何言っているんですか!仕事でしょ!」
「相変わらず、ノエルは硬いんだから禾人について少しはやわらかくなるかと思ったのに」
などと言う普段通りの食事が済むと四人をVIP専用エレベーターの前まで送る。
「では気をつけて」
「あ、禾人忘れていた・・」
「なんですか?」
「おまじない」
イキナリマリアが頬にキスをした、ムッとしたのは、ノエルだけではないリサもである
「有難う、まだ戦えそうです」
「じゃ頑張って」
「あの、禾人さん・・」
禾人はノエルを抱き寄せるとキスをした、そしてVサインをだし去っていく禾人
「ノエルなんだったんだい?」
「あのキスの意味・・私と彼の思いが一緒だということです」
「ふ〜ん」

禾人はロビーに集まる報道陣の中に姿を表した
「土田中将、貴方がジャンコルリオーネ氏と繋がっているって本当ですか」
「このホテルがマフィアによって経営されているって本当ですか」
一斉に取り囲んだ報道陣から矢継ぎ早に質問が出される
「まあまあ、行き成り言われても答えようが無い」
一人の女性記者が質問を始めた、禾人は車に向かいながら答える
「では、ジャンコルリオーネ氏の関係からお願いします、ジャン氏は関係ないといっていますが」
「ジャンは知らないっていたのか?」
「ハイそういっていますが」
次の言葉は誰もが否定すると思っていただが
「あいつと俺は幼稚園時代からの無二の親友だ、それは今も昔も変わらない、それとホテルの資金はジャンが貸してくれた物だが経営には口を出していないし既に返済は済んでいる、失礼そろそろ軍に行かないと間に合わなくなる」
禾人は報道陣を振り切って階段を駆け下りる、追う報道陣をスティーブとエディが止めようとするが
「退いて!」
スティーブが突き飛ばされたショックで義足が外れ階段から転げ落ち頭を打って気を失った、それを見た禾人が怒鳴り声を上げると同時に顔がルシファーと化す一部始終をテレビカメラが伝えていた
「エディ救急車だ!」
「今呼んでいます!」
「誰がやった!」
一斉に曳く記者たち、やがて来た救急車にスティーブを乗せると禾人も乗り込んだ
「省ののほうは!」
「辞めても構わんよそれ以上に軍法会議で三年は食らいこむかな」
「行った方が良いと思います」
「スティーブの検査が出てからだ」
「わかりました」

そのころ・・
「あの馬鹿!関係を認めやがった!」
「ジャンよ、そう言うな禾人は嘘をつくより真実を言う事で自分のみで止め様としているのだ」
「止める?」
「禾人が知らんといえばマスコミは総てを調べ出す、ジョニー、ノエル、リサect表に出したくない人物が浮き上がるからな」
「父さんそれだけでしょうか」
「いや、禾人は単純だ親友を知らんと言えないのも良い所だ」
「そうですね、だが対処を考えなければ・・」
「親友としてお前も答えろよ」
「はい」

「あれ?禾人認めちゃったね」
「そうですね」
「何嬉しそうな顔してるんだい?」
「いえ、友人を知らないと言わなかったから」
「でも言わなかったほうが楽だったと思うわ」
「シラを切るような人だったら私好きに成っていませんでした」
「おお、言ってくれるね」
「はい私の禾人さんですから」
あきれ返る3人
「でも間違いなく3年は刑務所暮らし寂しいよ」
「特別救出部隊を編成できます」
「全くあんたは」
「ハルゼー大佐が教えてくれました彼が言っていたそうです『軍に逆らってもノエルは守る』と」
「それのお返し?」
「ハイ!オムニに逆らっても二人で逃げます」
「はいはいご馳走様」
「ゲッタウェイですか?」
「そうね」

「エディ後は頼む」
「軽い脳出血でよかった」
「彼を又、傷つけてしまった」
エディが禾人の肩を叩きながら
「気にしないこった、生きているだけ幸せなんだ」
「済まない」
深々とエディに頭を下げると禾人は緊急事態省長官室へと向かった

「中将には困った物ですね」
「いや、奴らしい軍法会議で弁護できる資料を作ってくれ」
「解りました、経歴や作戦成功率、減刑署名は集まるでしょう」
「そうしてくれ、最後に父親らしい事をしてやれる」

「禾人」
「なんでしょうか長官」
「お前の軍法会議を回避する為に情報部が取引を出してきた」
「取引?」
「お前の持っている情報網を渡せと」
「彼らに操れるような情報網ではないですよ」
「渡せないか」
「渡しても使い切れないでしょう」
「他にお前を助ける方法はない」
「大統領にならば可能ですよ」
「勅命か・・」
「取引をカシアスに持ち掛けました、私の最後の仕事です」
「どのような?」
「オムニに付けば無条件で物資をカシアスに供給すると」
「だがそのような・・まさか禾人!」
「2万が3人で済みますただし大統領が首を縦に振れば誰も死ななくて済みます」
「私にも決断を迫るか」
「カシアスが首を縦に振ればですがね」
「可能性は有るのか?」
「今度の件で無理でしょう」
「回避策・・万策尽きたか・・」
「やるだけやりましたから、スッキリしています」
「禾人、今日限りで解任と言いたいが、特別に休職だお前が私利私欲で動く人間でないのは良く知っている」
「いえ、私利私欲でノエルの為に軍を動かしてきました」
「お前が権力を振るう時はノエルが絡んだ場合だけだ、馬鹿者が」
「一人味方が居ただけもありがたいです、では」
部屋をでた禾人は軍総省へと向かう
「軍総省か・・」
ジョン・F・アイクマン総司令が呼んでいるのだ禾人を更迭する為に
やがて第一種制服に身を固めた禾人が総司令官室の扉の前に立つ
「入りたまえ」
言葉に促されて入室する
「失礼致します」
「禾人お前が私利私欲で動かないのは知っているつもりだが、今回の件だけはどうにもならん、軍法会議を開くよう全司令官から要求がきている、弁護人を用意する事も出来るが」
「必要ありません」
「息子に尋ねたが何も言わん、君が口を閉ざしている限り言う必要はないと」
「その通りであります」
「会議は諮問委員会を作らず、直接裁判形式になる」
「サー」
「会議は4日後それまで自宅謹慎処分何処に居るかはモニターできるが」
「シルバーレイクのログハウスに居ます」
「解った」
「では失礼します」

基地に先に戻ったノエルはロビーで一枚の指令書を呼んでいた
「あらこの張り紙?」
思わずノエルは笑ってしまった
「ノエル少将」
「ジェファニー中佐なんでしょうか?」
「ヤオ司令官が、退役希望者の募集と全隊一斉臨時の休暇を指示しましたが」
「そうですか・・除隊したい人は出ましたか?」
「昨晩の時点では居りませんでしたが、今朝のニュースでスパイダーからは10人が・・」
「仕方ありません、将、将と有らずば兵、兵と有らずです、それよりジェファニー、宜しかったらチームバルキリーを招集して走りませんか?幸い滑走路も今日は開いています」
「わかりました、皆喜ぶと思います」
「横はジェファニー乗って貰えますね」
「ハイ、でもレベッカを呼んだほうが・・」
「怖いのですか?」
「トンでもありません」
「ではニーラーを出してください」
「はい」
本格レーシングチームバルキリー禾人の知らないノエルの顔である
カラコで滑走路に作られていくコース
「こんなもので良いでしょ」
引き詰められたカラコを見つめていた瞬間、爆音が響き渡る禾人がSRFで戻ってきたのだ
「彼、こっちに戻ってきたの!」
既に管制管も休暇呼んでも答えない基地が無くなったのかと禾人が心配するほどであった
「燃料無いってのに滑走路塞ぎやがって!」
リサが外部緊急信号灯を見て叫んだ
「あ!燃料が100ガロン切っています」
パイロンを固唾けて居る暇は無い、緊急時禾人には迷いは無い
「ギヤダウン、対ショックシステムクレイモード、さて突っ込むか」
既にアプローチに入った機体を見てハルゼー達が飛び出してきた
「パイロン巻き込んだらスッ転ぶぞ!消防隊の準備をしろ!」
案の定禾人の機体はパイロン数個を前輪の間に巻き込みロックしてしまう
「ヤロ!」
砂地に機体を向けリバースを駆けるがロックした車輪に掛かる重量は変わらない
巨大な音と共に前輪が折れた
「ヲォォォォ!」
エンジンを停止するどころか逆に噴かして砂地へと機体を押し出す
そう戦時において滑走路を塞がないようにする為に機体を意地でセーフティーゾーンへと移動させるのだ
やがて禾人が機体から出てくる、心配して近寄ったハルゼーを見るなり行き成り顔面に正拳を叩き込んだ
「ハルゼー!どう言う事だ!どんな事態においても2本のうちの一本は必ず使える状態で無ければならないのは、お前が一番知っているはずだ!!」
「申し訳有りませんサー」
「直ぐに管制に人を上げ管制業務に当たれせろ、戦略空軍であった我々の仕事には航空路の安全確保もあることは忘れては成らん、民間機の非常事態にも答えなければならんのだ」
「イエッサー!!」
「遊びも程々にしろよ」
「今回は我々ではありません」
「私たちが並べてしまいました、申し訳ありません」
ノエルが頭を下げた
「ノエル少将!髪を束ねろ!歯を食いしばれ!」
バシッバシッと往復ビンタがとぶ、禾人がノエルを叩くとは誰も思わなかった
抗議の為スパイダーとドールズが禾人を取り囲んだが
「SDSの司令官として平常時の基地のあり方については以前から教育していたつもりであっただが、それが如何に浸透していないかがわかった此れは総て私の責任である」
と一言言うとイキナリ自分の顔面に正拳を叩き込んだ、自分なりのケジメである
当然の如く廻りが引いた、口から血を吐き出しながら禾人がニーラーを見て言った言葉がノエルを激怒させる
「速そうじゃないな、俺たちのほうが絶対速いと思うがハルゼーどう思う」
振られたハルゼーはたまったものではない、女房からレーシングチームについては良く話を聞いているのだ、小声で禾人に教える
「中将、ノエル少将は、趣味でレーシングチームを持っておられるのですよ」
「しらん」
「バルギリーって有名じゃないですか」
「しらん、バルギリーって言うメスの競走馬は良く知っているが同じか」
禾人がノエルを煽る、ノエルの顔が見る見る変わっていく
禾人は四日後には三年は食らいこむのが決定しているので思い出が少しでも欲しいのだ
「勝負しましょう!私たちより早いって言うのなら!」
「よし4分ハンディやるよ」
更に煽る
「何ですって!」
「その代わりマシンは自分たちのを使うぞ」
「持っていらっしゃるのでしたら構いません!」
絶対勝つと言う自信の元にノエルが答える、さらにノエルが賭けを持ちかけた
「貴方方が勝ったらスパイダーが飲み会のコンパニオンをやって差し上げます、負けたらスコルピオンに裸で滑走路を一周して頂きますわ」
「面白い、受けた」
「中将!」
「パイロットは君だ、ナビは俺だあとの皆はサポーターってか」
「わかりましたよ!」
禾人がもう一つ条件を出した
「コース幅を広くしてくれ」
「いいですよ」
スターティングポジションにノエルが着く、禾人とハルゼーは格納庫に向かって走り出すスタイルを執る、4分のハンディは禾人達が格納庫からサイドカーを引き出す時間なのだ
コインが放り投げられ、地面に落ち金属音を上げた
「ハルゼー、ちゃんと整備しているのか!!」
「やっていますよ!」
走りながら会話を交わす
「3年は乗ってないぞ!」
「若い奴等が隠れて自主で同じ訓練しています!」
「いい事だ!」
「整備が慌てて居ると思いますよ!」
「裸で走りたくないってか!」
「ええ!」
「マシン変に弄ってないだろうな!!」
「大丈夫です!!」
耐Gスーツを脱ぎ捨てヘルメットを装着する、ヘルメットのコードを接続するとナビシステムが作動するヘルメットにタイム、エンジン状態、スロットル開度、速度、照準まで表示される
「さて行って見ようか」
「戦闘機になったサイドカーの威力思い知らせますか」
既にノエルたちは3周目に入っている、250CCの小型マシンだフルスロットルをキープしている、その速度に臆すことなくジェファニーがアスファルトに体をこすりつける
「かあちゃんのケツを拝むか」
格納庫から甲高い音と共にサイドカーが滑り出した
「開度40%を保て」
「ヨーソロー」
「一周はケツについて、直線で一気に抜く」
「アイサー」
「コースイン」
ピッタリと後ろに付け維持、直線に入ると一気に抜くコーナーの度にマシンがジャンプしながら高速でターンしていく
「漫画で出来て俺たちに出来ない事は無い!」
「アイサー!」
「なんて言う走りをするんでしょう、ジェファニー頑張らないと負けてしまいますよ」
「アーイ」
15周目最終コーナーで追いついた禾人たち、直線勝負では250CCのノエルたちには勝ち目が無いスコルピオンコンビネーション訓練用サイドカーツーローター1000ccの化け物ツインイーグル
「開度68%」
「再度確認」
勝ち目のない開度である
「開度68%にアップ」
「ヨーソロー」
ゴールを目指して突っ込んでくる二台、偵察撮影班のカメラがゴールライン上の二台を捕らえ、インスタント写真が判定を下す、結果同着・・
「おもしろくな〜い」
「ホント裸踊り見たかったのに、あんなマシン卑怯よ!」
禾人達が囲まれ非難を受ける、ノエルはそれよりマシンの廻りを巡り各部の作りを見ている
「ロータリーですか、トルコンアクセルワークだけですね、どうやって飛び上がったんでしょう?コンピューターまで搭載しているんですか」
「乗ってみますか」
ハルゼーがヘルメットを差し出した
「良いのですか?大事なマシンではないのですか?」
「レースの為に作ったわけじゃないです、パイロットとナビゲータのコンビネーション訓練の為に作ったんです、命を相手に預けるのにイキナリ空じゃ怖いですから」
「それでは遠慮なく載せていただきます」
「ほらジェファニー」
「何言っているんですか、中将が乗らないとマシンの使い方が判らないでしょう」
「ああ」
ナビシート、正式にはパッセンジャーシートに載る禾人、ヘルメットからのピンジャックを接続しコンピューターを作動させる
「凄いですね!情報が総て表示されるのですね」
「コックピットにいるのと一緒の状況に出来るだけ近くした表示だ、そう言えばお前を乗せて飛んだ事無かったな、今日一寸上がるか」
「良いのですか?」
「構うこたった無い」
「はい」
「では行こうかスロット開度25%」
「アーイ」
「先程は悪かったな」
「貴方の方が痛かったのではないですか、身も心も」
派手に飛ばしたハルゼーも派手な音を立てたビンタも周りに対するアピールで然程の痛さもないように上手くやったが、自分に対しては真剣に正拳を入れたのだ
「さて、コーナーだ」
禾人がアスファルトに体とヘルメットを擦り付ける
「ノエル好きに走って良いぞ」
「アーイ」
「ヤッパリあの二人のコンビネーションには敵わないわ」
「負けないよレベッカと俺のコンビも」
「ハイハイ、ご馳走様」

禾人の自家用機フロート付きセスナがシルバーレイクに飛び立つ
「行ってしまいましたね」
「ええ彼、言いたかった事があったようですが・・」
「言われなくて良かったです」
「はい?」
「今の少将なら着いて行くのは目に見えていますから」
何も言わないノエル、禾人の言葉がよみがえる
『お前までいなくなる訳には行かないものな』

禾人がシルバーレイクに着くと見慣れた自家用ヘリコプターが訪れていた
「何だあいつ?」
湖に着水ドラム缶でできたいかだに係留する
「禾人、遅かったな」
「ジャンどうした?」
「今朝の件だ」
「ま、いいじゃないか」
「最低三年だぞ!」
「三年で済む」
ジャンには何の事だかわからなかった
「あと、貸した金は何に使ったかは知らないと言えよ」
「なんでだ?」
「理由は聞くな死にたくなかったら言わない事だ、此れは頼みではない忠告だ」
「わかった」
「飲むんだろ」
「そのつもりだ」
「樽を空けるか」
「しかし、此処はホント要塞だな」
銀鉱山の露天掘り跡地、直径2K深さ500Mの岩盤を刳り貫いた場所なのだ
「安心できるだろ」
「ああ」
「では、ゆっくりと飲むか!」

そして4日後・・
新聞の見出しを大きく飾った文字があった
『土田禾人=TodayNoGet 何も求めない男』
禾人の嫌う渾名、ノーギットが一面を飾っていた

オムニ今そこにある危機3 第13話 「悪法も法なり」

朝早く基地に着く禾人を迎えるノエルの姿が在った
「ゆっくり休めましたか?」
「一人になると悪い考えばかり出る」
「今日の朝刊です」
「なんだ!此れは!」
「こんな事になるんだったら、私傍に居たかった・・」
「今日の軍法会議後翌日には刑が執行されるな・・」
「将軍たちに良い口実を与える内容ですね」
「ああ、しかし真実だ」
「だから私にも経営の実態を黙っていたのですね」
「その通りだ・・」
「一体誰が漏らしたんでしょう!」
「怒るなノエル、解っているスティーブだ良かれと思って喋ったのだろう」
そうスティーブが病院のベッドで語ったのだ
「総員に悪法も法なりと言ってくれ」
「何が有っても動くなと言う事ですね」
「そうだ・・」
「わ・・わか・りま・し・・た」
「中将お供します!」
ニコニコしながら寄ってきた
「この新聞で逆転ですね!良い事していたんだから無罪!ジャッジドレッドだって無罪にしますよ」
「ああそうだな」
笑いながら禾人が答えた
「リサ!アナタ・・」
ノエルの言葉を禾人が遮る
「輸送機で行こうメリサに操縦を任せて飯でも食いながら」
「私もお供します」
ノエルも行く気になっている
「ヤオ大将から私もついて行く様にと命令が在りました」
「ハーディ大佐!」
「大将は今日の軍法会議から外されました」
「そうか」
「大将は全軍に対して動くなと・・」
「それで良い」
「では行きましょう!」
リサだけが解っていない、何があるのかを・・

数日前、看護婦に化けた女記者がスティーブのもとを訪れていた
スティーブを突き飛ばして怪我をさせた女記者である
「失礼します」
「検温の時間ですか?一寸早いような気もしますが」
「どうしても話が聞きたくて入ってきました」
キョトンとしたスティーブだったが顔をよく見て気が付いた
「あの時の記者!」
「そうです、編集長から何やっているのだ!他紙はもっと良い内容だ何とかインタビューとって来い!ってこんなカッコじゃないと入れてもらえなかったので」
「お帰りください、話す事はありません・・」
「そう言わずにお願いします。」
「しつこいですね・・」
「貴方たちのやり方で始末しますか?」
「やり方というと」
「あなたの足が無くなった様に」
「此れは禾人が!」
「禾人は失敗すると部下の足を見せしめに切り落としたと」
メモをとる記者
「禾人その様な事をする人間ではない!あれは状況で!」
スティーブが口を滑らす
「状況で?どんな?」
「貴方には何を言っても無駄のようだ」
「言わなくても良いですよ、残忍禾人部下の足を切り落とす、良い見出しです」
「それは違うと・・」
「では本当は?」
スティーブは考え込むと
「嘘偽り脚色をしないと言うならばエアーズマンの姿を総てお話しましょう、使途不明の金についてはこの手帳に総て記録してありますそれは、あなた達が期待するような内容ではないですけれども」
「お約束しましょう」
「ただ約束を破った場合は、命が無いのも承知してください」
「解りました」
記者がMDを回し始める
「ではお話しましょう、彼との腐れ縁は私が禾人の命を狙ったのがきっかけでした」
「アサシンだったのですか?」
「いえ逆恨みです、足を奪われ職にも付けず家族を養えない」
「どうしてそうなったのですか?」
「独立戦争です、私は地球連邦空軍第1航空団攻撃隊1番機のパイロットだったのです、彼との空中戦の果てバルカン砲でコックピットを打ち抜かれ片足を吹き飛ばされた・・」
「それで?」
「戦争が終結・・地球軍だったと言うだけで就職口は無し・・」
「でも恩給が・・」
「ある訳が無いです、負けも同然、地球軍に資金は無く戦傷軍人や遺族に対して何の保障も無かったのです、オムニの殆どはオムニ政府が管理して地球軍の居場所も収入源も絶たれていましたから・・」
「で命を狙ったのは?」
「衝動です、片足で落ちぶれて職安に佇む私とそこを笑いながら通る彼、見た瞬間奴がルシファーだと直ぐわかり、そして持っていたナイフで襲い掛かったのです、片足の私に刺されるほど柔ではないし直ぐ取り押さえられてしまったのです」
「当然、警察沙汰ですか?」
「いえ、彼がそのまま納めました」
「そんなに簡単に?」
「私の顔を見た瞬間にすべて理解したそうです、パラシュートで脱出した私の顔を覚えていたらしいのです、一言『付いて来い』そして行った先はバーそこで色々話しました」
「どんな?」
「嫌味辛みから現在に生活、刺しかかった訳まで」
「で?」
「一言、戦争だ許せとも言いたくないし謝る気もない、確かにその通りなのですが納得する分けないです、現在生きる為の手段も奪われたんですから・・」
「まだ食って掛かったのですか?」
「その通り、そうしたら彼は財布から2000ドルを机の上に投げ出して」
「恵むと?」
「私もそう思って怒ったのですが、それで背広を買って明日俺に付き合えと」
「それでホテルですか?」
「いえ、ジャンコルリオーネ氏との接見でした。」
「ジャン氏と?」
「金の借り入れです、担保はありませんでした」
「それでも貸してもらえたのですか?」
「2年以内に返却出来なければ、禾人氏が軍を辞めて完全にマフィアになると」
「・・」
「一級のスナイパーが欲しいのだと思ったのですが、親分肌で部下に絶対の信頼と欲が無い親しみやすい性格が良いんでしょジャン氏も兄弟と慕うほどですから」
「で、融資は?」
「2億ドルをうけ、戦争で廃墟と化していたあの建物を買い取って補修、地球戦傷軍人や戦死者の家族を集めてあのホテルを開業したのです。」
「そんなに簡単に開業?」
「前から気にしていた場所だったらしく、ジャン氏に凌ぎとしてやってみないかと言われていた様で私の話しで決心がついたとか」
「最初から上手く行ったのですか?」
「いえ、何でオムニ軍人に仕えなくてはならないのかと反対者も出ましたが」
「よく収めましたね」
「彼の生い立ちです」
「何かあったんですか?」
「彼の奥さんが15歳で子供が産めなくなったって事を知っていますか?」
「いえ」
「25年前の新聞に載っていますよ大統領を救った不良ってね、彼は軍に入りたくなかったが、復讐の為に工科学校へ入った彼女を追って負けようが勝とうが関係ない彼女を守りたい一心で戦った」
「・・」
「行き着いたのは有難くもない渾名ルシファー、飲んで私より愚意を言う」
「逆ですか?」
「学校と言えるのは中学校までのようでしたから、遊びたい時に遊んでいないしある意味では私たちのほうが裕福だったのかもしれません」
「彼も彼女も我々と同じ、被害者でしかなったのです、かなり苦しんでいるでしょう」
「・・」
「戦争なんてそんな物です、だから我々を助ける・・いや自分自身の救済も兼ねた投資だったのかもしれません」
「そうですか・・」
「地球空軍の戦傷者の間であそこに行けば働けると話題になるのは時間の問題でしたただ・・」
「ただ?」
「プライドです空軍のプライドを捨てるのには結構掛かりました、皆接客を覚えるのには苦労していました」
「そうですか・・」
「エアーズマンは、ホテルだけでは収容しきれずグループ化して直営牧場も作っていますからあちらの方もかなり皆苦労しているようです」
「何か得られる事はありましたか?」
「色々と・・」
「でそろそろ使途不明のお金について」
「判りました、此れが行き先です」
その手帳に並べられた孤児院の名称と金額、孤児の数
「オムニからは?」
「地球側の孤児には何もありません、出来れば貴女の目でその施設を見て皆さんに伝えてください、オムニの孤児の施設と地球軍の孤児の施設の天と地の差をあの子達には何も罪がありません・・」
「判りました・・ただ編集長が乗せるか判断します・・出来るかは・・」
「構いません、嘘さえ書かなければ・・」
そして、孤児院を回り取材、禾人の総てを書いたのだ

「こんな良い事していたなんてお兄ちゃん、無罪決定!」
ファンが怪訝な顔をした、ハルゼーもジェファニーも同じである
「本当にそう思うの?」
「ええ、こんなにいい事しいて罪になることなんて無いじゃない、ジャッジドレッドだって無罪よ!」

先程からノエルの様子がおかしい、思いつめたように立ち上がると腰のコルトをハーディのコメカミにに突きつけた
「この機の行き先を変更してください!」
ハーディは答えない
「ノエル止めろ」
禾人はゆっくりとした口調で止めに入った
「このまま貴方を行かせたくありません」
禾人が立ち上がりノエルの右手を握り締める
「なんで・・なんで・・こんな余計な事を・・したんですか・・」
泣きながら訴えるが突如として気を失った
「申し訳ありません中将」
ハーディがスタンガンを使ったのだ
「良いジェファニーがいたら完全に拉致されていたとこだ」
「なんでですか!」
リサが叫んだ
「一寸前にお前はジャッジドレッドでも無罪と言ったが、俺が奴に「俺が正義だ!」と言ったら奴は「そう言うと思ったぜ」と答え・・」

「フェイ、ジャッジドレッドの判決は有罪」
「どうして!!!!」
「罪状オムニ国家反逆罪にて・・」

「・・死刑!此れにて閉廷!、俺のした事は、してはならない地球軍への資金提供に当たるのだ・・」
「困った人を助けて、それが悪い事だなんておかしいです!!」
「戦傷者だろうと地球軍の人間には代わらないのだよ」
「でも!」
「孤児院の件も未来の地球軍兵士の育成になったかもしれない・・」
「だからと言って!!」
「私のした事は自分では正義だが法を破ったのだ、ハーディ大佐やる事があるだろう」
「私には出来ません」
「ヤオ大将に命令されたのではないのか」
「しかし・・」
「かまわんよ」
「失礼致します」
ケースからチェーンを取り出すと禾人の腰に巻きつけ先端の手錠を手首へと掛けた
「ハーディ大佐!!!」
「キム少佐!何も言わないでくれ!」
ハーディが目を潤ませリサの言葉を抑えた
「ドールズが居てくれてよかった、スパイダーもスコルピオンも俺を縛ってでも逃がすだろうだが、それでは俺の正義が証明されない、法を犯して自分の意志を貫くそれで不良ならそれで結構!最後に大歌舞伎、歌舞いて歌舞いて歌舞伎まくってやるぜ」
「兄さま・・」
「リサ、ノエルにも手錠しておけ暴れるぞきっと」
「判りました」
「ホテルのオーナーの件はビデオが総て勝ち分だと証明してくれるから安心しろ、内容は知らなかったと言っておけよ、お前が戦争後残り資金を使って負けたほうの戦傷者を援助するんだぞ良いな」
「判りました兄さま・・」
「さて、飯にするか朝の食事は未だだ、ノエルを起こしてくれ」
「イエッサー」
気付けのアンモニア臭がノエルの鼻を襲う
「ウッ・・」
「大丈夫ですか・・」
「なんですか!此れは!」
「最後に夫婦揃って手錠を掛けられるなんて良いじゃないか、記念写真でもとるか?」
「馬鹿な事を!リサ彼を行かせればどうなるか解ってやっているんでしょうね!」
「今聞きました・・」
「では直ぐに!」
「兄さまの意思は正義、逃がせば影で悪事を行なっていた事を認めてしまいます・・」
「悪でも私たちが解っていれば良いではないですか!」
「それではダメなのだ、キッチリとけじめを付けなくては、兵士に示しが付かない」
「それでもいい!生きてくれていれば・・」
「今出来れば、あの事件の前まで戻りたいと思ったよ・・例え君が弟の妻になろうとも」
「なんで、私が工科学校へ行ったかわかりますか・・」
「この前ホテルでの会話でわかった・・見せたくなかったんだろ腹の傷や心の傷を好きな俺に・・」
禾人は一寸赤くなりながら答えた
「その通りです・・追いかけてこないと思ったのです・・」
「馬鹿な事を好きなノエルをほって置けるわけが無いじゃないか・・」
「貴方の性格を考えれば当然のことでした」
「俺にとって君は黄昏の乙女・・」
涙を拭きながらノエルが聞く
「また漫画ですか・・」
「『君はノルン』ってか?名も一緒だし20世紀の漫画は面白いぜ」
笑顔の戻ったノエルが答えた
「そうですね・・あなたは・・」
「狂戦士って処だな、出来れば最後にジークムントを手に入れたかったけれどな」
苦笑いを浮かべて禾人が言った
「私が絶対に手に入れますから・・半田さんを必ず救出して・・」
「あいつは必ず自分自身で帰ってくるだから心配は要らんよ、ジークムントが出来るかはキリカ達にかかっている、出来るだけサポートしてやってくれ」
「判りました」
「もう時間か・・飯も食えなかったな」
下にはオムニ空軍総司令部が見えてくる、左旋回をしながらアプローチに機は入った

「さて忙しくなる」
ハルゼーを頭にジェファニーその他諸々S&Sのメンバーが武装している
「私も加わります」
ヤオが武装を始める
「中佐、二度と戻れないのだよオムニ軍には、それでも良いのか?」
「構いません、お兄ちゃんには幾つも借りがあります」
「では・・」
「馬鹿者!!!!!何をやっているか!!!」
ヤオ司令官の一括が入る
「止めないで下さい、意地でも銃殺刑は止めさせます」
「禾人の言葉だ、悪法も法なり、奴はオムニが好きでオムニの法を厳守するつもりだその気持ちをお前たちは踏みにじるつもりか、もしお前達が踏み込めばあいつはその場で腹掻っ捌くだろう」
「・・」
「奴を助けられるのは、大統領か議会かオムニ軍事大法廷でしかない何か裏でもあって取引できればそれもいい!」
「無いでしょう・・あの馬鹿者たちが禾人中将を意地でも処刑場に送るでしょう」
「しかし、意地でもとは言い過ぎだぞ」
「どうも敵意をもっている将軍がいるのですが」
「気のせいだ、良いか絶対に動くな此れは私の命令ではない禾人の意志だ」
「イエッサー!」

「此れで我々にチャンスがやってきた」
「どう言う事だ雪人」
「禾人が間違えなく処刑される・・」
「なぜですか?」
「オムニ反逆罪、してはならない地球軍への援助、あれだけの良い事をしても処刑される国家なら嫌気もさすだろう、この新聞の通りエアーズマンのある都市では元地球軍人による犯罪発生は0%十分に国家に貢献している事が認められても決っして処刑が中止される事をはない、どうしても禾人を葬りさりたい将軍がいる」
「なぜ?」
「あいつも知らない裏がある」
「裏?」
「あいつが封印したくてしょうがない作戦、オペレーション『エランAスイーパー』無差別縦断爆撃後に何があったのか」
「雪人は知っているというのか?」
「オムニ海軍情報将校であった頃、既に情報は掴んでいる」
「だったら禾人を助けられるではないのか?」
「助けて如何する、今のままの方が此方には有利に運ぶぞ」
「自分の手で奴を葬らなくて良いのか」
「構わん、勝たねばならないからな・・そんなに禾人に入れ込んでも奴は来ないぞ」
「一度でいい手合せしたい」
「それも敵わんよ」
雪人は、一言言うと自室へと戻っていった
「雪人さん!!」
後を追うナギサ、雪人は振り向くとナギサに笑いながら言った
「一寸銀行にお金を下ろしに行きたいので付き合ってください」
「そんな事を・・」
「良いから、変装していきましょう」
疑問に思うナギサをよそに雪人は準備を始めた

空軍総司令部オムニエアフォース、ベースワンに着陸した輸送機から禾人が降りるとタラップを用意したメリサが奇声を上げた
「ちゅちゅちゅ!中将!」
禾人の手錠姿に驚いたのだ
「脅かせたな、訳はリサに聞け」
禾人の廻りをMPが取り囲んだ
「迷惑をかけるな」
「いえ、とんでもありません中将」
「銃は構えないのか?」
「貴方に銃を突きつけたら窓から見ている奴らに後で爪弾きにされますから」
「だが役目だぞ」
「この話はそれまで車に乗ってください」
「わかった、ノエル私の部屋で待っていてくれ」
禾人は元々オムニ空軍戦略部中将、オフィスは軍総省と空軍総司令部に部屋は用意されているのだ、独立軍のオフィスは未だ用意されていないのも原因であるが
「わかりました、リサと買い物に行って夕食を用意しておきます貴方の好きな物を沢山用意しておきます」
「車はタクシーを使え俺の車は国家貸与品だ既に差し押さえられている筈だ・・」
「あの車はノルン少将が使えるように手配しておいた」
振り向くと土田司令官が立っている、禾人とノエルは身を正し敬礼をした
「馬鹿者が・・意地でもお前を銃殺刑にはさせん」
「それを行なうは法を遵守しない事になります、私が不良と呼ばれた出した原因を貴方は知っている筈ですそして貴方も俺の事を不良と言った」
「それは・・」
「いや判っています、貴方の正義は法の内にあり、私の正義は法の外にあった・・もし私の父であり続けていただけるのなら法を守る、私の尊敬できる父さんであって欲しい・・」
「禾人・・」
「法を守らぬは不智、親を泣かすは不孝、国に刃向かうは不忠しかし、人を助けぬは不仁、にして不義、仁、義なくして人を守れようか自分に正直に活きました悔いは有りません」
「私に有罪判決を出せというのか」
「父さん合同の結婚式出来なくなってしまってすみません・・ノエルのお母さんと末永くお幸せに・・」
「・・」
何もいえない広人
「では、中将行きましょう」
「判った」
禾人の行き先は軍総省大法廷、通常なら大会議室で行なわれる軍法会議も今回の事件の全容を受け一気に大法廷における裁判へと変わったのだ
「将軍は揃っているのか?」
「26名の将軍が既に集結しています、広人司令が入れば今回の裁判官が全員揃います」
「そうか・・裁判長はアイクマン総司令だな」
禾人中将を含め現将軍は30名それがヤオとノエルを抜かして揃うのだ、地球カシアス連合がいると言うのに・・
開廷まで禾人は拘束されオフィスの前にMPが立った

「運転なさらないのですか?」
「・・」
「この子凄いですよ、MAX375k出るんです」
「・・」
ノエルは荒野を眺めて何も答えない
「車重が軽ければ6000ccのガスタービン500kは出るんですけれど・・」
途中パーキングエリアに車を止めて降りるとリサは背伸びし大きな深呼吸をした。
「少将、ずるいです・・泣いて逃げて・・私だって・・泣きたいです・・中将と知り合って兄さまと呼べて・・突然別れが来た・・貴方が弱いという事は中将から聞いています、でも私だって・・」
「リサ別に逃げていません・・貴方の運転を見ていると運転したくなるから別の方向を眺めていたのです、この車を私に運転させたくないのが判っていましたから・・助手席に乗ってください私が運転します」
ノエルはリサの指摘通り泣いていたのは間違えないがそれを認めたくない
『私が弱い・・リサには言われたくない・・』
リサの前で一度は座り込んで泣いたが、禾人の処刑を前に今回だけは認めたくないのだ
「飛ばしますよ、色々説明していただきましたがこの装置は教えていただかなかったようですね」
ハンドル下の蓋を開けると赤いボタンがあったそれを引くと一気に加速を開始する
「なんですか!!」
オープンカーのため声が通じにくい大きな声で尋ねる
「ニトロの混合です!」
ガスタービンの燃料は航空用燃料灯油である、この車は普段一般航空機用のノーマル燃料を使用しているがニトロを添加する事によって戦闘機用燃料となるのだ
「何で知っているんですか!」
「前に一度運転させてもらった事があるのです!」
そりゃそーだな奥さんだとリサは頷いた
ノエルたちがオムニシティのスーパーマーケットに着く頃禾人は法廷に立っていた

「では間違えなく全員が地球軍の戦傷者や遺族で構成されているのだな」
「その通りであります」
「その事がオムニにとって災いになると考えなかったのだな!」
「そのような思いは一つもありませんでした」
「孤児たちが育った時我々に立ち向かってくる事もか!」
「それは、判っていましたが飢えている子供たちをほっては置けません」
「それはオムニの政策だ、貴様の考える事ではない!」
「浮浪孤児や元地球軍人による犯罪発生を見過ごせと!」
「それは警察の取締りで治安維持を行なえばいいこと!」
「それでは犯罪者を生み出す環境を断ち切れないではないですか!」
「確かにその通りだが、その資金が確実に孤児の為に役に立っていたか裏付けは取れているのだろうな」
「それは、行なっていません」
「していない?」
「はい、行なっていません信用していますので」
「信用だけで済めば軍や警察はいらんよ」
「今朝のニュースで情報部が慌てて調べた結果だ」
配られる資料には孤児院から更に地球軍にこの五年で資金が流れたとなっている
「此れについて反論はあるか?」
禾人は情報部に対して情報網を渡さなかった為に嵌められたと直感でわかったが・・
「反論はありません」
「一寸待て」
広人空軍司令が話しを遮った
「この情報には信頼性が有るのかね、短時間で此れだけの資料は不可能ではないのか?」
一人の将軍がニヤリと笑いながら言い放った
「貴方はどの様な事をしても息子さんを助けたいようだな」
「そのような事はない、公正な立場で質問しているだけだ」
「情報部長、今回の調査結果は間違えないのか」
「短時間では有りましたが間違いありません、教会ももぬけの殻になっていました今日のニュースで危険と感じて姿を消したのでしょう」
『教会の孤児院・・あそこか!』
禾人が懸念を抱いた・・『もぬけの殻・・まさか俺を始末する為にそこまでしたのか!!』
憎悪に満ちた目を情報部長に向ける禾人、禾人は願った『皆無事でいてくれ』
「禾人中将、反論はあるかね」
「ありません!!」
アイクマン総司令がこれ以上の進展は見られないと判断して最終決断を全将軍に求めた
「では評決を下したいと思うが異論はあるか」
総司令は広人が異議を唱えれば禾人に時間を与え最高の弁護人を用意するつもりではあったが、それも無く判決へと進んでいった
「評決を・・」
ゆっくりと有罪判決の挙手が挙げられていく、13対12有罪、土田広人空軍司令は、涙をにじませながら有罪に挙手した14対12
「決まったな・・」
将軍達は広人の判決に驚きを隠せない
「判決、土田禾人独立軍中将をオムニ第一級国家反逆罪として銃殺刑と処す」
禾人は身を正し敬礼をした
「処刑は明日9時公開刑として執り行うが異存はあるか」
「在りません」
「これにて閉廷」
禾人はこれより明日の朝まで空軍執務室で軟禁されるのだ
「禾人最後の望みは」
「銃殺隊は、空軍でなく陸軍神少将の部隊にお願いしたいと思います」
「わかった、知っている顔だと後に引くからだな」
「そうであります」
「あとは何かあるか?」
「好きに入場させてください」
「あまり歌舞くなよ」
「最後ですから」
「広人の判決は・・」
「私の望んだ父がいました、嬉しい限りです」
「?」
「ガキの頃の話しです」
「むかしか・・」
「ハイでは!」

「行ってしまったか・・後は大統領次第、処刑中止を宣言していただければいいのだが」
そう最終決定は法務長官と大統領がサインすれば執行できるのだ

何処から流れたか不明のまま夕刊の第一面を禾人の処刑を事細かに伝えていた

オムニ今そこにある危機3 第14話 「シューティング・ザ・ムーン」

戻ってきたノエル達は厨房の一部を借りて料理の用意を始めていた
「手間かけるな・・」
「どうでした」
ノエルは手を休めず尋ねた
「明日9時だ・・」
「・・」
ノエルは何も言わず黙々と作業を続ける、禾人には背中が震えているのが見えた
「今夜は寝ずに語り明かしたい、先に部屋に戻っている」
「わかりました」
禾人が自室に入るとドアの前にMPが立った

「ばかな!!!」
新聞を見て大声をあげる一人の人物がいた
「あの人がそんなことする筈がない!」
「だがいなくなったのは本当だろ惚れた弱みじゃないのか」
「だったらシスターだけがいなくなれば良い事で子供たちは如何したんだ!」
「確かにそうだな」
「でスティーブは!」
「落ち込んでいるよ、まさかこんな事になるとは思っていなったらしいからな」
「落ち込んでいる暇はないはずだ」
「フェルウォン、では聞くが何とかなると言うのか」
「何とかしなければ・・」
「確かにシスターを探し出せば何とかなるかも知れんが時間がないぞ」
「確かにな・・お?電話だ一寸待ってくれ」
携帯電話を取り出して話し出した
「フェルウォンさんですか?」
「そうですが」
「こちらサイバネティックメディカルサポートセンターですが、先日ご契約なさいましたジム・フェルナンデスさんの義足に異常が発生したことの報告です、第一連絡者のエテルナス教会さんには連絡が取れないため第二連絡者のフェルウォンさんになりました」
「で状況は?」
「義足神経回路の断裂による緊急停止信号がオムニ商港のエイハブ商会第一倉庫から発信されています、此方からサポート要員をお送りしますか?」
「いえ私のほうが近いので迎えに行きます」
「わかりましたご利用有難うございました」
「エディ!運があった!」
「何だいったい」
「居場所が判った、エイハブ商会第一倉庫」
「なんでだ」
「この前子供に義足を贈って貰ったろ」
「ああ」
「何かあって動けなくなると困るからSMSCに入れてもらったんだ」
「で?」
「故障して救援信号が出ている」
「命はあるのか?」
「ああ、神経と心音の停止は送られていないらしい、送られていたら電話より先に救急要員が送られているはずだ」
「そうか・・そうと判れば、昔取った杵柄、身柄の確保に行くか」
「そうだな、メンバーを集めよう」
元地球軍軍人、戦傷者とは言え特殊部隊もいるメインはエディ率いるエアーズマン保安部だ、やがて広間に集まったメンバーに内容を話し出す
「スティーブこれで失敗を帳消しに出来るな」
「言わないでくれ、これで金の流れが判って地球側に流れていなくても国家反逆罪で終身刑は間違えないのだから・・」
「では、準備していくか」
「タイムリミットは朝8時、あの記者が知り合いのカメラマンを連れてきてくれる事になっている」
「で場所は?」
「オムニ商港エイハブ商会第一倉庫だ」
昔の感触を思い出すように銃を整備するメンバー、唯ひとり目を瞑り必死に何かを思い出している
『エイハブ・・取引・・そうだ!』
「ダメだあそこは!突入すれば皆殺しにされる」
「どうした!」
「エイハブ商会・・オムニ情報部の裏ルート、取引に使う場所だ俺が情報部時代に上官がエイハブの話しをしていた事がある」
「と言う事は、今回は情報部が関わっているのか」
「そうだ、これで我々が踏み込めば間違えなく地球軍に対して裏金を流していたと成るぞエアーズマンメンバーがシスターと合っていた、そこをオムニ情報部が嗅ぎ付けて撃ち合いそして壊滅・・」
「何とかならないのか!」
「打つ手なしだ・・」
「オムニ軍で信用できる人間と連絡は取れないのか!」
「いるわけないだろ!」
「怒ってんじゃねえ!」
「落ち着け!最善を考えよう」
「誰か連絡に行くか」
「情報部なら既に此処を見張っているだろう」
「禾人のSDSに電話するか?」
「向こうも見張られているだろう、基地に此処から電話したら一発だよ」
「個人の電話はどうだ?」
「全従業員の携帯番号は抑えられていると思う携帯から基地の誰かにかければ直ぐ盗聴が始まるぞ、第一向こうは誰にかければ良いのかわからんだろう」
「チィ!」
「こっちの電話は何とかなるぞ」
「え?」
「お客さんの忘れ物だ、ロックは掛かってないし取りに来ると言ってたので解約はしていないと思う、それも3台」
「後は相手だ」
「相手といっても、あっちも個人の携帯を抑えられていると思うが・・」
「三台の携帯は持ち主の職業は判っているのか?」
「ああ、サラリーマン、株のバイヤー、陸軍軍人」
「使えそうだ・・」
ニヤリと元情報部が笑う
「盗聴確認機材はあったか?」
「禾人の執務室にある」
「後は誰にかけるかだが・・」
これが一番の難題なのだ
「この前連れてきた女性は?妹みたいな者だと言っていただろ?」
「軍人か?」
「確認が取れている、間違えなく禾人の軍だ」
「だが番号は?」
一番困った問題だ
「参ったな・・此処まで来て・・」
「軍に確認を取っただろう!」
「だが番号は・・」
「違う!あの時のクレジットの控えには携帯の番号があった筈だ」
慌てて台帳を確認し出す
「あった!」
「ヤオフェイルンだ、もう一人はハーディニューランドどっちが良い」
「上官はハーディだ冷静だと思う、ヤオは直情的になるようだ、ブン投げたしな」
ヤオのクレジット上限五千ドルを超えた為残りをハーディから借りたのだこれが幸いした
「番号は判ったが、だが相手は盗聴されているんだぞ如何する」
「昔と変わっていなければ、あいつ等は手抜きをするはずだ」
「手抜き?」
「説明するよりやって見よう、あと15時間しかない」
禾人の執務室に慌てて移動すると一台の携帯を取り、盗聴探査ユニットと接続する
「さて始めるぞ、皆は黙ってくれ絶対に喋るな!俺はこの携帯の持ち主になりきる」
顧客の資料を見ながらその人物に成るのだ、ハーディの電話番号を押し始める
「はいニューランドですが」
「此方、オムニシティーバンク証券です、今回の戦争勃発で非常に良い株があるのですがご購入なさいませんか、上がるの確実ですこの件は貴女様のみにお知らせしています、すごく良い物件なんですか」
「戦争を食い物にしろというのか!」
真剣に怒ったハーディの声が返ってきた
「そう言うわけでは御座いませんが、戦争で残らない可能性のあるお金でしたら株券の方が国は滅んでも企業は残る可能性が・・」
言いかけた途端電話を切られてしまった
「如何するつもりだ!」
「まあ待て、これからが本番だ10分待つぞ」
「今の会話盗聴されていたな」
「ああ、通話時間1分30秒良い時間だ」

「ノエル随分と食事を作ったなぁ」
「明日の朝までゆっくり食べられるでしょう、大好きなアップルパイももうじき焼けます」
「そうか、ところで明日の刑場入りの時に歌を唄ってもらえないか?」
「歌える状況ではないと思いますが努力します、何を歌いましょう」
「S&Sの合唱隊でメサイアからアーメンコーラス」
「まさか、銃殺用の丸太を背負って入場する気ですか」
「オムニ救世主は、この俺だって最後の大歌舞伎!」
「死ぬのも遊びですか?」
「辛いと思うが意地を通させてくれ」
「判りました、私が此方で皆は基地から中継させます」
電話を基地のジェファニーにかけ出した

10分が経った
「さて、本番だ」
再びハーディに電話をかける
「はいニューランドですが」
「此方、オムニシティーバンク証券ですが・・」
「しつこいぞ!」
盗聴探査ユニットは警告ランプを点灯させない
「ゲーリック盗聴されていない!」
行き成り声色を変えて用件を言い出した
「失礼ハーディニューランド大佐、此方はエアーズマンホテル、怪しまれないで話せる時間は1分30秒なので此方から一方的に話させてもらいます、禾人が地球側に流していたという資金の中継役になっているシスターは現在エイハブ商会第一倉庫にいます、子供たちも一緒で彼女を確保すれば資金の流れが解明し上手くすれば終身刑まで減刑の可能性があります、どうかCEOを救ってやって下さい、では・」
「ちょ・・!」
行き成り電話を切られてハーディは困っただが此方からかける訳には行かない
「大佐如何しました?」
「いや」
「S&Sで明日合唱して中将を送り出すそうです」
「そうか・・これから私はヤオ司令と打ち合わせをしてくる、ファン中佐、白兵のプロと諜報のプロでチームを編成してくれドールズでだ装備はSSA」
「フル装備?」
「大至急」
「判りました」
「私の分も忘れるな」

「よく盗聴されなかったな?」
「一度セールスマンでやった事がある、10分は電話の持ち主の確認をさせるために空けたんだよ」
「確認が済めばその電話は見逃す、奴ら手を抜くんだ唯、頻繁にすると受け答えの時間や回数で怪しまれる、この電話はこれで使えんよ向こうが判ってくれれば良いのだが・・」

司令官室で頭を抱えるヤオフェイロン『禾人・・』ノックの音で静かに返事をした
「入ってよし」
「失礼致します」
「ハーディ大佐何か用かね」
「司令この話しを聞いてもらいたいのですが」
携帯を取り出して再生ボタンを押した
『・・させてもらいます、禾人が地球側に流していたという資金の中継役になっているシスターは現在エイハブ商会第一倉庫にいます、子供たちも一緒で彼女を確保すれば資金の流れが解明し上手くすれば終身刑まで減刑の可能性があります、どうかCEOを救ってやって下さい、では・ちょ・・!』
慌てていたが素早く録音したのだ頭が切れてしまったが
「かけ主はエアーズマンの従業員のようです」
「裏を取る方法は何かないか?」
「盗聴の可能性が高すぎて不可能であります、信じて敵に突っ込もうと準備させておりますが」
「敵ならば全隊出撃命令を出すが、エイハブはオムニ情報部のカモフラージュ会社だ」
「なんですって!」
「禾人の敵はオムニ情報部か・・基地から攻撃機や輸送機をオムニシティに送ればすぐさま捕まっている者の命はない・・だがほって置いても結果は同じか」
「司令・・」
「ハルゼーを呼んでくれ」
「判りました」
窓の下ではS&Sで合唱の練習をしていてハルゼーが一人列から抜けるのが見えた
「お待たせいたしました」
敬礼をして入ってくる
「禾人の件だが・・」
先程件を詳しく説明すると
「判りました、何とか皆さんをオムニシティに送りましょう」
「ハルゼー大佐たちは?」
「我々がいなくなれば情報部ですから直ぐ事がわかるでしょう、行きたいのは山々ですがハーディ大佐お願いいたします」
敬礼を交わす二人、作戦司令室にドールズのメンバーが召集された
「どの様にして基地を出るのでしょう?」
「SRFのフルステルスモードを使用します」
「でも音は?」
「現在3機あるSRFはフルステルスが出来るのは1機です2機をスクランブル警報で飛ばしますその音で誤魔化して3機目も飛ばす」
「向こうの問題がありますね」
「現在建設中の高速道路を使います、今の時期雪で中断誰もいません直ぐ傍の川からボートで下り10K下流にオムニ商港があります」
フェイルンが真っ赤な顔でやる気満々である
「フェイルン今回の作戦抜けるか?」
「なに言っているのハーディ!」
「今のお前は私情を入れすぎだ、失敗して中将だけでなく仲間を巻き込む事も考えられる」
「大丈夫です、向こうに着くまでに通常に戻します」
「そうかお前がいなければドールズに成らんからな」
「今回の隊長として・・」
「誰が隊長だ!」
「ではファン中佐ですか?」
「私が行く、情報部には借し過ぎている、そろそろ払って貰わねばな」
「では、カモフラージュでスクランブルを15分後にかけます」
「判りました」
「御武運を」
ドールズが気密室に積み込まれる定員MAX6人に10人、更に高高度機密服に身を包んで4人が操縦席と通路に座り込む
「アヤセ大尉、燃料補給はありませんブースターを増槽代わりにしてください、それでもギリギリです」
「判りました」
「SRFはミノルが操縦するのか」
「私以外誰かいますか?」
「いや」
「そろそろ、作戦開始です」
けたたましくベルが響き渡る
「アンノン接近中アルカデア三崎沖距離300K SRFスクランブルせよ」
二機のSRFに続きミノルのSRFが離陸する
「エアーインテーク、ジェットノズルトランスフォーム、アンチレーダーウェイブ、機体投影システム作動、アテーションプリーズ当機はこれより離陸いたしますお手ごろのものに御捕まりください」
二機の後に続き見えないミノルの機が滑走路に出る
「03、02発進してください」
「ラジャ」
一気に駆け上がっていくSRFを追うようにミノルの機がモッタリと上がっていく
「お・重い・・」
人数が人数だけに機体の引き上げがまま成らない
「やっとあがった・・さてコース設定到着予定時間23時30分」

「ヘイグマン情報部長、SDSよりスクランブルでSRFが2機離陸しました」
「スクランブルか・・他変わったことはないか?」
「先程より主要メンバーがコーラスの練習を開始しています」
「死刑囚の要望か、SRFが帰ってくるか確認して報告しろ」
「判りました」
二十分後には帰還報告の連絡を入れた

「ノエルこの料理一寸お前の味と違うな?」
「判りますか?」
「ああ、なんか懐かしいような?お前のお袋さんの味か??」
「このノート見てください」
「なんだ?」
「中学生の時あなたの家で見つけたんです、貴方のお母様の料理ノート」
「お袋の味か・・」
「ええ、貴方たちの好きなものを沢山書き込んでありました」
「覚えたのか」
「はい喜んでもらおうと思って、美味しかったですか?」
「死ぬのが鈍るじゃないか・・」
禾人が涙を流しながら答えた
「今夜は沢山愛してくださいね」
「ああ、でも監視していられたら役に立たないかもな」
ノエルは鈴のように笑う
「大丈夫、監視も盗聴もされていませんから、さっきリサに調べてもらいました」
「有線盗聴は?」
「それも大丈夫です」
「拙い!」
禾人が慌て出した
「何故です?」
「次は君が命を狙われる、私との会話に何があったか判らない以上情報部は用心の為に・・」
「どう言う事ですか?」
「今回の件は情報部が絡んでいる、どうしても俺を消したいらしい」
「どうして?」
「判らんが私を刑場に引き出すために孤児院を襲撃したみたいだ」
「あの新聞にあった」
「新聞て?」
「何処からか今回の件流されています」
「公開刑だからだろ」
「それ以上の内容です」
「そうか・・」
「でどうします」
「シスターを助け出して欲しい、俺が処刑されれば彼女たちが消される・・これ以上俺のために彼女を傷つけるわけに行かない」
「愛人ですか・・?」
「言わんと動いてくれそうにないので話すが、彼女や子供たちはエラン出身者ばかりだ」
「エランとあなたの関係が・・」
「判らんか・・空爆と制圧の総指揮官がこの俺だ・・」
「あの!」
「君には話さなかった・・我が部隊の恥だ・・誰一人話したがるものはいない」
「判りました助けに行きます」
「チャンスは30分しかない、私が刑場に引き出されて処刑されるまでだ」
「物は如何します」
「オープンカーに乗っているのとこれを使え」
ロッカーを開けると銃や防弾チョッキが出てきた
「戦女神ワルキューレーを信じている頼むぞ」
「判りました、でも場所は?」
「あいつら使うのは一箇所しかない馬鹿の一つ覚えだ、エイハブの倉庫」
「港の」
「そうだ、15の内のどれか一つ」
「はい」
「応援はいるか?」
「片付けてしまいますから必要ないでしょ」
「流石、女ランボー」
笑い声が響く
「こうやって笑えるのも10時間を切ってしまいましたね・・」
「仕方ないさ」
「あの禾人さんそろそろ・・」
「ああ・・」
禾人とノエルが甘い吐息を立て始める頃
「着陸します全員何かに掴まって下さい」
意外と長い直線道路ではあるが雪が積っている
「スキーユニットセット、エアブレーキチェック、ドラックシュートスタンバイ」
ミノルの表情が硬くなる
「突っ込みます」
「掴まれ!!」
ハーディがコパイシートから叫び声をあげた
スキーが雪に埋もれ出したかと思ったら一気に機体の底部まで接する
「ドラックシュート、リバース!」
「あっさりと止まったな」
「雪が深かった為抵抗が大きかったのが幸いしたのでしょう」
「さて行くか」
ハッチが開くとヤオが飛び出した
「わ!」
飛び降りた為に雪に埋もれてしまったのだ
「フェイ!遊んでいる暇はないんだぞ!」
「ファン!ロープの用意をさせろ」
「サー!」
ファンが数人と機体からガードレールの際までラッセルを行ないロープをポールに結ぶ
「さて時間がないぞ!いけいけ!!」
次々と高架上から飛び降りていく
「ボートを用意して」
大きな袋を持ってフェイスとミリーが走る
黒い物体を出しピンを引き抜くと膨らみエイミーとマークが船外機を取り付ける
「取り付けてチェック!」
「サー」
「此方ボート班セット完了」
「機体擬装班、埋設完了これより降下する」
「集合急げ!」
「サー」
「急いで下るぞ」
2機の船外機をフルスロット時速80Kで突っ走る、夜間なのでナイトビジョンで周囲を確認する
「二時の方向に岩!」
「200m先9時の方向!」
「エンジンを切れ!」
「総員オール持て」
「後一キロだ接岸させるぞ」
「バックアップ要員は、ファン・ジュリアかアリスが居ればもっと楽なんだがな」
「アリスは帰ってきていないの?」
「あいつ、新聞もテレビも見ないからな」
「いったい何が趣味?」
「クラッシック鑑賞と読書だって」
「下らん事言ってい無いでサッサと行くぞ!」
「サー」

その頃・・
「中将!」
リサが慌てて部屋に飛び込んできた
「な!なんだ!!!」
「キャー!!」
「し!失礼いたしました!!」
ノエルはバスルームに飛び込んだ
「どうした」
「いいいいいえ!」
「何でもないのなら・・」
「ノックス大尉が伝令で来ています!」
「なんの?」
「判りませんが」
「入ってもらえ」
アリスが敬礼をして入ってくる、その仕草に似合わないロングドレス姿だ
「如何した」
「エアーズマンの方から伝言を言付かってきました」
「それで?」
「教会の人間はエイハブ商会第一倉庫に監禁されている模様、当方よりSDSハーディーニューランド大佐に連絡済、以上」
「そうか、彼らが動いてくれていたか・・ところでアリスなんで君が」
「今日ブルークルーズでお父様とお食事のお約束がありまして、ギャリソンとお話しの中で中将の部隊だといったら何とか連絡は着かないかと頼まれました」
「ありがとう」
「いえ、どう致しまして」
「よくエアーズマンを使ってくれた」
「悪い噂があっても中将のお店なら絶対そのような事がないと信じております。」
「良い部下を持った」
「それとこれが新しい携帯電話です、エアーズマンにも置いてまいりました」
「盗聴を防ぐ為か?」
「はい、確実に番号が判らないと盗聴が不可能な周波数になっている機種です。ノックスグループの電話会社なので更に安全にしております」
「では安心して使わせてもらう」
早速、電話をエアーズマンかける
「禾人だ」
スティーブ達は盗聴探査ユニットで確認をする、オールグリーン
「スティーブです」
「頑張ったようだな」
「いえ貴方に運があったのです、神が未だやる事があると・・」
「そうか・・ただ明日の朝9時には刑が執行されるそれまでに証拠を出さねばならんぞ」
「貴方のチームなら大丈夫でしょう」
「上手くすれば終身刑に減刑か・・」
「生きているだけ有難いですよ、貴方の陰の力は消えない」
「確かにな・・」
「それで私どもはどう致しましょう?」
「動かないでいいだろう、ドールズが上手くやってくれる」
「ドールズ、あの」
「そうだ」
「判りました」
「スティーブ心配かけたな後は結果を待っていろ、最高の人事を行なったんだ天命を待つしかない・・じゃあな」
「ハイ失礼致します」
ノエルがバスローブを着て現れた
「私はどうします?」
「出る必要はなくなったようだ」
「判りました、では最後まで貴方の傍に居ます」
「リサ、アリスご苦労下がってよし」
「サー」
二人が部屋から出ると今度はカギを掛け再びベッドへ潜り込み出した

「ナギサさん大丈夫でしたか?」
「このディスクでいいのですか?」
「間違えありません」
「何のディスクですか?」
「奴を激怒させる為のディスクです」
「?」
「まあ、またあのTVに行かなくては・・ファルゴは前回の件許してくれるだろうか・・」
「大丈夫ですよ、きっと貴方の親友ですもの」
「ああ」

オムニ今そこにある危機3 第15話 「踊れ人形達!」

ハーディが指でミチコとマフィルに指で合図を送と二人は心得た物で顔を見合わせ頷くと倉庫へと近づいていく、ナイトビジョンを装備し倉庫周りの警備状況を確認するのだ
「赤外線センサー、サーモビジョン、暗視カメラ、超音波センサー拙いわね・・対人ファランクスまで」
「隠密進入は殆ど不可能」
「下が使えるかも知れないな」
「ネズミになりますか」
今度はマンホールの隙間から0.1mmのマイクロファイバースコープを差込み内部の調査を行なう
「振動センサー、対人ファランクス・・」
「進入不可能・・」
「参ったな・・」
「あと上は」
「赤外線を飛び越え暗視カメラを掻い潜り?」
「それしか方法は無いですよね?」
「ドライスーツは持ってきた」
「在ります」
「潜るか」
「判りました」
マフィルとミチコは一旦ハーディの元へと引き下がった

「どうしたのですか?」
「いや、ドールズが気になってな」
「彼女たちなら大丈夫ですよ」
「顔がチラついて集中できん」
「私もリサの駆け込みからムード掛けてしまって、お茶でも入れましょう」
ノエルはシーツを体に巻きつけて立ち上がった
「難攻不落のエイハブか・・」
「難攻不落って?」
「対人ファランクス、各センサー盛りだくさんだ」
「行った様なお話しですね」
「一度潜入しようとしてどじった」
「貴方がですか!」
「驚く事は無い、元々荒っぽいからな」
「でもそれだけ難しい場所なのですね」
「そうだ」
「それを私一人で攻略しろと言っていたのですか?」
「言っていたのでは無くやるのだ」
「でも先程」
「ああ言えばリサ達は安心する」
「で如何すれば」
「阿修羅になれば出来るさ」
「昔の渾名を・・」
「ワルキューレーとどっちが良い」
「ワルキューレーですね」
「だけど今回だけは阿修羅になってくれ別名韋駄天、最速で走り敵を撃破する」
「総てを破壊つくして救出しますわ」
「ああ任せた」
「はい、ところで先程から気になっている事があるのですが」
「なんだ?」
「どうしてあそこだと判ったのでしょうか?」
「そうだな肝心な事を聞いていない」
既に1時を回ろうとしていたがスティーブに電話をかけ出した
「スティーブです」
「遅くに悪いな」
「いえ起きていましたから構いません」
「そうか、さっきの話しだが何で判ったんだ」
「SMSCからの連絡ですジムの義足に異常が発生したことの報告」
「その電話やつらは盗聴していなかったのか?」
「確認はしていませんが」
「罠か?」
「如何しますか?」
「お前達が飛び込まなかったのが幸いだ」
「しかし・・」
「逆に罠に嵌めてやろう、人形たちにチャンスがある」
「お任せいたします」
スティーブは一言言うと電話を切った
「さてアリスを呼んでくれ、寝ていると思うが」
「私がですか?」
「俺はこの部屋から出るわけに行かないからな、此れだけ自由にさせて貰っているんだこれ以上は望めないよ」
「判りました」
やがてアリスが連れられてやってきた
「中将何でしょうか?」
「SMSCはノックスの資本が入っていたと思うが?」
「はい、お父様が経営陣に入っていますが?」
「一寸頼みがある」
「出来る事なら何でも致します」
「サービスカーを警察同伴でエイハブ商会の第一倉庫へ送って、立ち往生している少年を助けだすよう指示をしてもらいたいのだ」
「判りました行くように指示いたします」
「探す場所は倉庫の回りをわざとうろつかせるんだ」
「はい」
「さて、ドールズたちは気付くだろうか」
「隊長はハーディ大佐ですよ」
「心配するだけ無駄か」
アリスが電話をかけて指示を出した
「10分で到着するそうです」
「ありがとう」
「ところでノックス大尉どうやって此方へ来られたのですか?」
「あのホテルとこの基地の共通点がありますの」
「??」
「ノックス水産が食材を収めていますのよ」
「まさか冷凍車ででしょうか?」
「その通りです」
「お嬢様にとんでもない事をさせてしまったようだな」
「御気になさらないで下さい、総て自分の為になります」
「ノックス大尉は総てをプラスに考えられますのね、大変素晴らしいことです」
アリスがノエルの微笑を見てドキッとした、
「久しぶりだお前の本当の笑顔を見るのは」
「そうですか?」
「最後に見られて良かった」
ノエルの顔が変わった
「何を言っているんですか!皆さんが貴方の為に頑張って下さっているのに」
「済まないアリスお嬢様にもとんでもない事をさせてしまったのに」
「中将が居なくなってしまったら隊が暗くなります最後まで諦めないで下さい」
「判ったありがとう」
「では、失礼致します」
「アリス大尉遅い時間ですがお茶でもいかがでしょうか?」
「ありがとうございます、でもこれ以上お二人のお邪魔は出来ませんので失礼させていただきます」
「リサから何かを聞いたな?」
赤くなりながらアリスが頷いた
「それでは、お休みなさい」
「失礼致します」

けたたましくサイレンを鳴らして倉庫の前に救急車とパトカーが止まった
「なんだ?」
「チャンスが来たってことでしょう」
ハーディがGOの合図を出すと脱兎の如くマフィルとミチコは倉庫へと向かった

救急車の隊員が倉庫脇のドアを叩くと倉庫の中から男が出てきた
「なんだ?」
「サイバネティックメディカルサポートセンターの者です、此方の倉庫からSOSが発せられていますので捜索させていただきたいのですが」
後ろで警官が捜索の準備をはじめている。
「一寸待っていろ」
男は無線で話し始めている
「奴らが来ずにSMSCが警官を連れて来たがどうする」
「構わない捜索させろ、ガキはGX2で眠らせろ病院で始末すればいい」
「判った」
戻ってきた男は愛想笑いをしながら
「構わないから探してくれ」
「警官の方は外の捜索をお願いします」
「一寸待ってくれ、外の警報機を切る」
また無線で指示を出す、中だとは言えず捜索の許可を出した
「良いそうだ」
「感謝します」

チャンスと見るとマフィルとミチコは素早くパイプを伝わり屋根へと上がる、空かさず屋根の対人センサー総てに細工を施した、当然の如く対人ファランクスはその機能を総て停止させる
目でミチコに合図を送るとミチコはマイクロワイヤーを換気口から降ろしだす、換気口と言っても倉庫の換気用人ひとり通れる隙間は十分であった
マイクロワイヤーを伝い鉄骨の梁の上へと降下するとマフィルは周りを見渡し倉庫内の警備状況を確認さらに敵の顔を覚えていく
「全員で40名」
ミチコが梁を走り捕虜を探す、高く積まれたコーヒー豆の袋が障害となって見えにくいのだ
捕虜は一区画に豆の袋によって築かれた壁のその中にM61を構えた工作員と居た、ミチコは空かさずマフィルに指で合図を送る
「43名・・」
次にする事、警備システムの乗っ取りである、此れが上手く行かないとドールズの突入は有り得ないのだ
既に屋根は制圧したに等しい、後は壁際の防御システムを抑えるだけだ
「遅いわ」
「ヤオ焦っても仕方ないマフィルを信じろ」
「でも」
「ここに縛られて作戦終了まで捨てて行っても良いのだぞ」
「すみません」
「一度失敗している事を忘れるな」
「イエッサー」
時間は既に3時を回ろうとしていたが屋内は膠着状態にあった、先程救急隊が撤退した途端、中二階の四隅に警備兵が現れたのだ梁に上から動くに動けない
やがてマフィルの腹は決まった強襲である、一気に4人を倒す一番人間に隙の出来る時間日の出に合わせて事を起こす事にした。日の出は6時20分それまで梁の上で休息を始める外では、ハーディが中の状況を悟ったのか交代で休憩を取らせ出した
「ハーディ!」
「それ以上騒ぐと見つかるぞ」
「でも遅すぎる」
「やはりお前を連れてくるべきではなったようだ、黙っていられないのならボートへ行っていろ」
「・・」
空が白み始める夜明けが近づいてきたのだ、マフィルはミチコに合図を送ると長いパイプを組みだしたミチコも同じだスーツブロー即ち吹き矢である。
マフィル曰く「射撃は美くしいくない」潜入工作専門のマフィルにとって音や光の出る物は好ましくないと考えているのだ。
一人で二人を瞬時に倒す青酸の入った小さな注射器の付きの矢を込めるとミチコに合図を送る、同時に矢を噴出し空かさず弾込め第二射を放ち見事に四人を倒した。
他の人間が気付かない内に事を片付けなければならない、周囲に気を付けながらマイクロワイヤーで一気に地上に滑り降りる
外のシステムに信頼を置きすぎたのか内部の警備は手薄である、更に夜明けともあって気の緩みが出たのも原因の一つだった。
ターミナルボックスに駆け寄り次から次へと配線に細工を施す赤外線、超音波、振動センサー、サーモビジョンと監視カメラの映像は接続したコンピューターが擬似映像を自動的に作り出す日付と時間と経度・緯度を組み込むと背景に日の動きを加えてくれるのだ、潜入工作のプロフェッショナルならではの手早さである、次は対人用ファランクス此れだけはどうしようもない、単独センサー遠隔コントロールによるスイッチ操作黙らせるには破壊かケーブルの切断だ、幸い高所に隠す形でセットされていた為バッテリーは搭載されていない事は判っている、ただケーブルパイプに保護された動力ケーブルを切断する術がない、既に6時50分時間がない

シャワーの音が響く、簡易キッチンではスクランブルエッグを焼くノエルの姿、日常の家庭の様子何も変わらないように淡々と何時もと変わらない時間が進んで行く
シャワールームから出てきた禾人は其のままテーブルについた
「どうぞ」
「ああ」
言葉少なに食事が済むと禾人は鏡と向かい合い身だしなみを整え出す、オールバックのヘアースタイルに金と銀の羽のメッシュを入れる
「あ・・口紅が無いな・・」
「私ので良ければ」
「有難う・」
軽く指につけると唇に薄く塗りつける、更に頬に塗ろうとするとノエルが止めた
「私がファンデーションで・・」
「任せる」
ノエルは禾人の死化粧をまさか自分がするとは思わなかった、少し強張った顔で禾人に化粧を始めた
「眉も弄ります、口紅も塗りなおしましょうね」
「ああ」
淡々と化粧を進めるノエル、ここで禾人のジョークでも出れば少しは和むだろうが今日ばかりはそんな気分ではない
箱に詰められた白の軍服を出した瞬間にノエルが呟くように言った
「此れが長年オムニの為に働いてきた者への仕打ちですか・・」
100を越える勲章も隊章も階級章も総て剥奪されていた
「別に構わんよノーゲットそれが俺だし、オムニなんか元々どうでも良いし」
「私の為だけですか・・」
「そうだったが途中から地球軍戦傷軍人達の為にもなったがな」
「ごめんなさい・・あのと・・」
禾人が口を塞いだ
「最高の戦士をヴァルハラへ導いた女神とも思えぬ発言はやめてほしい」
「貴方ですか?ワルキューレーと言ったのは」
「阿修羅よりは可愛いと思ってな、しかし今日はとうとう本物のワルキューレーに会うことになったか」
禾人が時計を見つめた銃殺刑執行まで2時間、午前7時になろうとしていた

小型ドリルでパイプに穴を開け始める、そこからマイクロファイバーを差込みコントロールケーブルだけを切断するのだ同時に二台に細工をする、事を起こして30分奇跡とも言えるほど警備に発見されないのだ四人が倒された事も気が付いていない
最後の仕上げドアのセンサーを切断
戸を開けると手で合図をハーディに送った
フェイス、ミノル、ミリー、エイミーが巨大なワイヤーカッターを持ってフェンスまで駈け寄り金網を切り出した。援護はファンとジュリアが狙撃銃を構え周囲を監視する。
「ヤオ、キッチリと仕事をしろよ」
「イエッサー」
残りが突入に備えた、総てのセーフティが外される。フェイスから合図が送られて来た突入降り積もった雪が足音を消す。
ミノルがしんがりだ、ボソリとミノルが呟いた
「殿の仇、討ち入りか・・」
屋内に進入するとマフィルが各人に配置を指示、展開が済むといよいよ制圧に斯かる
ミチコは豆袋の間から警備兵の首にマイクロワイヤーをかけ絞め殺す、ヤオは力尽くで首の骨を折り、マフィルはナイフで首を裂く、やがて半数の警備兵を始末した
「ヤオ、マフィル2・3人を捕まえておけ、聞きたい事がある」
「イエッサ」
いよいよ人質の奪還だミチコが場所を指示一気に制圧するのだ、倒したのは30人、捕まえたのが5人残り8人内3人はこの中にいる、失敗すれば人質は皆殺し三人が豆袋に手を突き馬を作るハーディ、ファン、ジュリアがサイレンサーを銃に取り付けると三人の背中を蹴って豆袋を飛び越え敵を打ち抜いた見事なコンビネーションである、廻りを見回してハーディが焦った
「しまった!」
このとき初めて気が付いたのだ子供たちだけでシスターがいない何処に行った・・
駆け込んできたマフィルとミチコにハーディが尋ねた
「いたのか?」
「確かにいました」
「突入している間に連れ去られたのか」
窓から外を覗く車の音もしないではこの中、手で合図を送る「回線開け」全員が無線のスイッチを入れた
「作戦終了ですか?」
「ダメだ計画変更直ちに集合せよ」
怯える子供たちを宥めながら訳を聞く
「シスターたちは何処へ行ったの?」
「連れて行かれちゃったぁ」
「何か言っていた?」
この時ハーディの心配は作戦の失敗を想定していたが年長の子供の話しから違う事が判った
「何か最後に良い物を見せてやるとか言って連れて行っちゃたんです」
「良いもの?」
「はいそうです、エラン出身だろ気が晴れる物をとか言っていました」
ハーディにヤオが耳打ちした、涙声である
「時間・・」
スキングローブを捲り時計を見たメインには作戦行動からの時間経過そしてサブには現在の時刻8時15分隠密に進めてきたが限界だ、良いもの・・禾人の処刑を意味していた
「あと14棟、強行作戦に移るぞ全棟の完全制圧だ」
「イエッサー!」
「ヤオは子供たちを守っていろ!」
逆らうと思ったヤオが素直に応じた、判っていた今このまま皆と行けば自分が死に曳かれる事を
「兎も角シスターたちの確保だ急げ!」
「イエッサー!」
一気に展開して行く自動小銃のセーフティが外された完全に撃ち合いを覚悟しているのである次から次へと倉庫を探していくが発見できない、焦りが出る・・
「何処だ・・」

「時間か・・」
8時28分部屋を出る時間である、ノエルが小さなグラスを差し出す波並と注がれたテキーラ
「最後のお化粧です」
一気に飲み干すと禾人の顔がほんのりと赤くなった
「ノエル・・良い男捜して暮らせよ」
ノエルは首を横に振って答えた、言葉が出てこないのだ
扉を開け通路に立つ8時30分野太い男の声が響き出す、メサイアアーメンコーラスが始まったのだ、やがてソプラノのパートに入ると禾人の後ろに立つノエルが歌い出した
その声に押されるように禾人がゆっくりと歩き始める、左右に並んだ警備兵は、通常銃を腰に構えるのだが銃座を床に付き敬意を示した
禾人が曲がり角に消えていくのを見るとノエルは直ぐに戦闘服に着替え荷物を担ぐとガレージに駆け込んだ
「どうしたのでしょう?」
シルバーのオープンカーが無いのだ、その代わり奥に二台のバイクがあった禾人のお気に入りであるMVアグスタ・ジ・オムニとネオZIIだ
迷わずZIIに跨ろうとした、その時二台の後ろにシートを被ったもう一台のバイクの存在に気が付く、ノエル乗車絶対禁止大きくシートに書かれた
「この子が一番速い!」
直感である飛ばし屋の自分に乗せたくないバイク、兎に角早く危険
ノエルは前の二台を退けるとシートを剥がし跨った、基地内とあってキーは付けっ放しキーを捻りエンジンをスタートさせるスロットルを開けた瞬間一気にウィリー、此れには流石のノエルも焦る薄暗いガレージからウィリーのまま外にタンクに刻まれていた名盤は聞いた事の無いバイクであった、ヴァンビーン1000ccのロータリーエンジン、シャフトドライブ、マニュアル車であるオムニの技術進歩でバイクでも殆どがトルコンなのだ再度スタート今度は上手く行った、後は路面の凍結箇所に気をつければ20分で着ける

アーメンコーラスも何時しか終り、基地の片隅に急造された処刑場に入る禾人の姿が現れると警備に当たって並んでいた空軍兵士たちが歌を歌い出した、基地のドアから滑走路を横切る長い道のりを埋め尽くした警備兵以外の兵士達も曲はシャローム、その道をゆっくりと歩く
「此れで終わりだ」
テレビを見ながら呟くように男が言った
「エランを破壊した憎い男の最後だぞ」
「憎くは有りません」
「シスターらしい返事だ満点をやるよ」
「あの方は償い続けています、そしてそれが今日を持って終わろうとしているのです」
「祈るかやつの為に」
「もちろんです」
マフィルはピックアップを壁から外すと喉のマイクロフォンを押えながら喋り始めた
「シスターを確認」
「判った」
ファンからも応答があった
「此方も面白い物を見つけた」
「マフィルの位置に集合せよ」
「イエッサー」
瞬時に各倉庫からメンバーが集結を完了
「音響探査は完了しているのか」
「この壁の中央から右へ10度、距離15m」
「C4をセット時間が無い急げ」
外にはノエルが仁王立ちでロケット砲をノエルが構えていた
「ファランクス破壊ですね」
トリガーに指が掛かるがロケット砲の矛先を地面にと向けた
「ドールズの邪魔は出来ません・・」
自分がゲートの前に立っても警備が出てこない即ちドールズが警備室制圧を完了、騒ぎも死体もないところを見るとまだ作戦遂行中であることが見て取れる
「時間ですか・・」
ノエルがバイクを見つめた

「ほら」
「悪いな」
神がタバコを勧めた
「最後の一服か」
禾人が大きく吸い込んだ
「俺たちは生きて帰れるんだろうな」
「大丈夫だよ」
廻りを取り囲んでいる空軍兵士たちの動向を気にしているのである
「目隠しは」
「言わなくても判るだろう」
神は手を差し出した、禾人はそれに答え握手をした
「祈ってくれるか」
ポケットから聖書と聖水を取り出し禾人にかけると
「父と子と聖霊の皆において・・」
やがて祈りが終わると敬礼をして銃殺隊の指揮位置へと戻っていく
9:00ゆっくりと管制塔を見上げる、禾人の父こと空軍司令官が銃殺刑執行の合図を送事に成っている
「まだ来ない・・」
銃殺隊は胸に銃を持ち未だに射撃体勢には入っていない
その頃大統領官邸ではアーノルド大統領、ヤオ独立軍大将、アイクマン総司令、ジェッカード法務長官、猪緊急事態省長官、アイクマン大統領補佐官が緊急の会議を昨夜から開いていた
「四面楚歌だな・・禾人を処刑すれば禾人を慕う者たちが反乱軍となるかもしれんし、中止すれば軍が割れることもある・・」
「この時期にとんでもない事になった」
「今上院で旧地球軍戦傷軍人およびその家族と孤児についての支援立法が可決されます」「議会も昨夜から慌しいようだ」
「この立法が早く成立していれば禾人も銃殺になることは無かったでしょう」
「禾人の件を受けて議会が一気に動き出したのだ、今までの事を改めねば自分たちが危ういのだからな」
「だが禾人はもうこの世からいなくなる」
「まだ判らんぞ、この書類にわしも法務長官もサインしておらん」
「そろそろ良いだろう」
ヤオが口を開いた
「ドールズがシスターの居場所を突き止めて身柄の確保に入っているはずだ」
「なに!」
ヤオの言葉に皆が驚いた
「なぜ黙っていた!」
「いる場所はエイハブ商会だからだ」
「情報部か!」
「しかし、なぜ奴らが・・」
「あいつの情報網が邪魔らしい」
「それだけか?」
「わからん」

業を煮やした陸軍の将軍が広人に電話してきた
「この期に及んで息子を助けたいか!」
「残念だがその気はない、大統領から処刑執行書が来ておらん」
「なに!」
「大統領に直談判しろ」
一言言って電話を切った
『禾人出来ればお前の心意気に幸在らん事を・・』

「長いな・・」
男は苛立っているその他の男も同じである、シスターは祈りを捧げ続けている、その時後方の壁が凄まじい爆音を上げて崩れ落ちた
「なに!!!」
ドールズが雪崩れ込んだのだ
「今ですね」
巨大なシャッターが吹き飛んだノエルの突入
このシャッター破壊音にファンが即座に対応射撃体勢に入るがそのシルエットに手を下ろし敬礼で迎えた
「どうでしょうか」
「制圧はあと少しです、それより此れを見てください」
ファンが豆袋からビニール袋と銀の包みを出して見せた
「コカイン、大麻ですか」
「はい」
「中将が探していた物、侵入しようとした原因かもしれませんね」
身柄の確保に当たっていたドールズに新たな問題が発生していた。
「銃を下げな」
4人を射殺したが残りの一人がシスターを楯にしたのだ
「逃げられないわよ、銃を降ろしなさい」
「どうかな」
ニヤリと男が笑った瞬時に銃の変わりに遠隔スイッチを握り締め直していた
「なんだか判るか?」
「自爆ユニットか」
「ご名答、この倉庫群総てが吹き飛ぶ」
ジュリアが男の頭を打ち抜こうと銃を構えるがハーディが此れを制した
「筋肉収縮でスイッチが入るぞ」
「それも良い答えだ、さて出口まで下がって貰おうか」
じりじりと下がっていく、男の視線がマフィルを捕らえた
「お前か・・」
マフィルも知っている人物、情報部工作員ガン・ベルティアであった
「また見事にやられた物だ、お前が居ると判っていたならもっと歓迎出来るようにしておくのだったな」
マフィルは答えない、ガンは出口へと向かっていく
「詰めが甘いようですね」
ノエルが呟く
「どけ!」
「どうぞ」
ノエルはすんなりとガンを通した、やがて海を背にした
「此れでさよならだ」
ガンがスイッチを押そうとした瞬間その手ごとスイッチが吹き飛んで消えたのだ
「甘いですね」
ノエルがシスターを引き離しガンに拳を叩き込む回し蹴りで左腕も叩き折った
ガンは右腕より血を噴出しながらのた打ち回るハーディが身柄を確保、右腕を縛り上げて止血を行なった。
ノエルが在らぬ方向を見て敬礼をしている。
「誰ですか?」
ファンが同じ方向を見るとシルバーのオープンカー後部座席から覗く20mm対戦車ライフルと集音器ドレスを着た女性、約1Kは離れているだろうか
「あそこから打ち抜いた!」
「驚く事はありません、アリス大尉ですから」
「あ」
ファンが納得した
「さて、シスター多少お聞きしたい事があるのですが」
「なんでしょうか」
「寄付されたお金の流れです」
「それがどうかしましたか?」
ガンに蹴りをくれながらハーディが言った
「こいつ等が寄付金は地球軍に流れていると」
「そんな事は一切ありません、それより敵とは言え傷ついた人に暴力を振るうのはよい事ではないです」
此れにはハーディも苦笑いをするしかなかった
先程からテレビに映る禾人には変化が見られない
「今のうちに大統領に!」
9時30分既に30分のオーバー、ノエルが連絡を取ろうとした時画面では弾丸の装填作業に入った
「間に合わない・・」
ガチャ装填音がスピーカーから響き渡るその音にマフィルが反応した
「おかしい」
音の響きが違うのだ
「確かにおかしいですね?」
神が銃殺隊の前を歩き銃の確認をする
「総員右向けー右!進め!」
銃殺隊が引き上げていくのである
「あと30分は稼いでくれますね」
「何がったんですか?」
「銃殺用の銃は旧式ですからこの寒さで作動しなくなったのでしょう」
外気温はマイナス20℃、この寒さの中ノエル達は制圧作戦、禾人は軍服姿でじっと立って居る
「さあ早く大統領へ!」
そこへスティーブ達がオムニ全国ネットに顛末を流すためレポーターを連れて現れたリサも丁度合流した所だ
「スティーブさん」
「リサ様間に合ったようですね」
「何とかなりそうです」
ついに放送の開始、それに合わせてノエルの大統領への報告が始まった

続く