オムニ今そこにある危機3 第6話「過去を背負って」
禾人の申し入れに対して司令官が集まり協議を行う
「ハーディ大佐、キム少佐は秘書官として派遣して宜しいですな」
「は!」
フェイロンはノルンが珍しく不機嫌な顔をした事を見逃さなかった
「一人反対のようだが、却下するとして中将」
「は!何でありましょうか?」
「私の方から一つ頼みが有る、隊の宣伝アクロバットチームパワーウィングスの教官をお願いしたいのだが」
「其れは構いません、でも・・」
「リサと二人っきりにするのが嫌な人物が居るみたいなのでな」
「浮気はしないと後で言っておきます」
禾人にフェイロンが耳打ちした
「いい加減、式を挙げて正式に籍をれたらどうなんだ」
「受入れてくれないのです相変わらず・・」
「何とかしろ早くいいな!」
ノエルは、この二人の行動に疑問に思ったか
「どうしたのですか?」
「いや、後で詳しく話すよ」
一通りの引継ぎや依頼の承認が済む
「では、失礼いたします」
「待ち合わせは18時ですから」
「解った正門だな」
「今日は私が運転していきます」
「え・・」
「たまには良いでしょ」
「ハハ・・では」
「禾人中将、SDS司令室を退出」
「これで晴れてリサは正式に秘書官だ」
「はい」
弾んだ声を上げるリサ
「全てを知ってもらわなければならない、この基地のもう一つの顔、緊急事態省安全保障局としての機能部分」
「その部署の仕事は初めてです」
「ドールズは関与していないからな」
「でも中将は解任されたのでは、ないのですか?」
「SDS大隊はな、しかし安全保障局付き武官は解任されていない、未だに私が司令官だ」
禾人がポケットからバッチを取り出しリサに渡した
「これを付けておけ、俺の秘書官で安全保障局司令室への出入りが自由になる」
「解りました」
司令室に入るとハルゼーが敬礼で迎えた、禾人が不在のときはハルゼーが指揮を執っているのだ
「さて、これから見る物は軍では極秘事項だ、今度は聞きたくないとは言わせないし聞く義務が発生しているのは・・」
「認識しています」
「結構」
禾人は早速資料をリサに見せる、更にビデオを見終わると
「このギアは、既にオム二に来ていると」
「そうだ」
「その為のSDS大隊・・」
「まだドールズの兵士は知らんようだがな」
「ハーディ大佐もエリオラ中佐も何も話してくれていませんから」
「訓練も激しさを増して来ているからそろそろ伝えそうだが」
「はい」
聞きたいような聞きたくないようなでも、秘書官としても知って置きたいような
「中将お伺いしたい事が・・」
「なんだ」
「あの写真女性ですが・・」
「気になるか」
「はい」
「明日、残っている話をしてやる」
「解りました」
「あれ、もうこんな時間か」
17時を回ろうとしていた
「着替えないと間に合わないか」
「何か用事が?」
「飲みに行くんだが」
「私も・・」
リサが言いかけたときに
「だめだ、ノエルが嫉妬するから」
「私に?」
「そうだ、お前を敵視しているようだ」
「敵視ですかぁ困ってしまいますね」
「俺だよ困っているの、お前と出かけたときは必ず全て説明しないと寝かしてもらえない」
「ホントですか」
「あの写真の女の方が楽だっだ」
「え?」
「何でもない」
コンテナのオフィスへと戻っていく禾人
「中将」
「なんだ」
「こちらの指揮はどう致します」
「ハルゼーお前が取れ緊急のときは俺のDCに連絡を長官にも言っておくでは頼んだぞ」
「イエッサー!」
司令室から退出する禾人とリサ
「勤務時間も終わりだし、また明日よろしくな」
「イエッサー」
「はぁノエルの運転か」
禾人が着替えを済ませて門に行くと既にオープンカーに乗った三人が居た
カッコといえばノエルも禾人もフェイもキリカも珍しくデニムの上下で禾人にしては七三分けの髪型ノエルはリボンで結ぶというカッコである、基地の場所は温暖とは言え秋の装いではあるが
「お兄ちゃん遅刻よ」
「ああ」
ノエルの顔を見て
「この車誰のだ?」
「これですか?これはファン中佐からお借りいたしましたの」
「そうか」
「お兄ちゃん早く行こう」
「ああ」
助手席に乗り込みシートベルトをガッチリ締める
「フェイ、キリカ、ちゃんとシートベルトしておけよ」
「なに言っているの自分は何時もしないくせに」
「それでは、行きますよ」
一気にアクセルを踏み込むノエル、タイヤが白煙と悲鳴を上げる
体がシートに押し込まれると同時に後ろで声が上がった
「キャ!」
「口あけるんじゃないぞ舌噛む!」
ボソリと禾人が呟く
「地獄コースター」
「お姉ちゃん!T字路よ!」
「なにフェイちゃん!」
ノエルはサイドブレーキに手をかけると一気に引いた
「わ!」
直角に曲がる
「走るものに乗せると全く敵わない、後20分乗るのか」
禾人の顔が引きつる
官舎まで普通なら30分、マムの店に50分だがノエルは10分の20分で着く
基地の周りに民家が無いので人が飛び出してこないのが災いしているのだ
楽しそうなノエルを他所に気分の悪くなるうしろの2人
「もう一寸スピード落とさないか」
「あら、まだ200Kです、この子300K出るんですよ」
「其れで借りてきたのか・・」
呆れ顔の禾人を他所にスピードを上げドリフトでカーブをクリアーしていく
「明日ファンになんて言おう、タイヤだけは新品で帰さないと」
「ジェファニー中佐、済みませんが官舎まで送ってくださいませんか?」
「あら?車故障ですか?」
「いえ、ノルン少将にお貸ししたんです」
「え・・貸したのですか」
「ええ何か拙い事でも?」
「中将からノエルには絶対に車を貸すなと言われているんです」
「下手なんですか?」
「とんでもない、上手いから困ったもの、公道を平気で200K出しますから」
「それくらいなら」
「ドリフトはよくするしスピンターンもタイヤ無茶苦茶よきっと」
「人は見かけによらない」
「全くその通り」
「あ〜あ」
「大丈夫、中将がちゃんと整備して帰してくれるから」
マムの店の駐車場に一気に駆け込むとスピンターンを決めて止まった
「はい、着きましたよ」
「ああ」
「姉さんやり過ぎ・・」
「お姉ちゃんきついわ」
「帰りは俺が運転する」
「駄目ですよ、お酒入った人に運転させられませんから」
「明日オム二シティまでフライトが有るから飲めない、飲んだら高度1万で酔っ払っちまう」
「リサと?」
「ああ」
禾人はムッとしたノエルを気に掛けず店の中に入っていく
「いらしゃい、待ってたよ」
「マムよろしくね」
「ああ解ってるよ」
運ばれてくる料理が多い事
「おい、こんなに頼んだのか!」
「二次会無いですからたっぷり食べてくださいね」
ノエルはトコトンなんでもするのが好きである
「何飲む」
「俺はコーク」
「私たちはビールね」
「あれ禾人珍しいね、コークかい」
「あす飛ばなきゃならんからね」
「ああ良いことだ、ちゃんと酒抜くのがいいよ」
「そうだな、マムの顔見られないようになったら面白くないしな」
奥の方が意外と騒がしい
「マム奥の席何者だ?」
「グリーンベレーらしいんだがね、一寸飲み方がねぇ」
「ふ〜ん」
「禾人言っとくけど、喧嘩だけはしないでおくれよ」
「ああ、何にも無きゃな」
「ねえ、お兄ちゃん」
「なんだ」
「ハッキリさせておきたい事があるの」
「どうぞ約束だなんでも聞いてやる」
「あの女誰!」
「あの写真の女性か、あれは・・」
禾人の答えようとした横からノエルが口を挟んだ
「私の友人ですよ、たまたま彼が町であっただけ丁度彼女の誕生日だったし私にも出て来いって電話もらったけれど忙しかったから行けなくて」
「でもホテルは!」
「あの日ジャンさんのところから電話もらって3人で飲んでたって」
「でも、うそってことが!」
「フェイちゃん、司令官にはその居所を追尾するためマイクロ発信機が埋め込まれているの、その結果もちゃんとジャンさんの家だった・・これ極秘ねオム二の将軍が幼馴染とは言えマフィアと付き合いがあるなんて知られるわけには行かないから」
「ホント悪さも出来ない一寸前まで何も無かったのによ、どっかの馬鹿が中将の乗った戦車撃っちまうから」
そう以前中将が捕虜になり護送中の戦車部隊を攻撃してしまったというある部隊の失敗から所在を示すマイクロチップが埋め込まれるようになったのだ
「アハハハハハ・・」
一笑いするとフェイルンが黙り込んでしまった、残った疑惑は自分と李の関係
「姉さん、それで納得しているの?」
「私と彼を見てもらえれば解るでしょ」
今度は禾人が口を挟んだ
「彼女よりリサの方が気になるって毎晩言われているんだよ」
「リサ!」
「今日も嫌な顔したよな」
「見ていたのですか」
「露骨だったからな」
「そんなに?」
ニヤニヤしながら禾人が答えた
「ああ」
「兄さん楽しそうね」
「今までやきもちも焼いてくれなかったんだぞ、リサにジェラシー剥き出し、愛してくれているんだよな」
「知りません」
赤くなってソッポを向くノエル
「お姉ちゃんかわいい」
「もう!」
アップテンポの曲が流れ出す
「ノエル久しぶりに踊らないか」
「良いですよ」
ホールに出で踊り出す二人
「お姉ちゃんたちホント良いカップルよね、二人の子供だったらキットかわいいと思うわ早く子供作ればいいのに」
横でキリカが険しい表情をした
「フェイまさか姉さんにそんな事、言ってはいないでしょうね!」
かなりきつい口調で聞く
「言っていないけど?」
「良かった・・」
「なんで?」
「フェイ知らないの」
「なにを?」
「姉さんが子供産めない事」
「はぁ?」
「あの日のこと覚えている、オムニ移住記念日に何があったか」
「ええっとあの日は、後部からいきなり2人が銃を乱射して・・」
「ちがうわ、二人は銃を構えていたの、そこを兄さんが見つけて正義感から飛び掛った」
ビールを飲みながらキリカは話を続けた
「結果あいつらは銃を乱射、姉さんは私たちを庇って腹部に一発・・当たったところが悪くて卵巣1つ子宮を三分の二摘出、子供は作れないって中学生の姉さんが言われたの、それから姉さん荒んだわ」
「荒んだって?」
「部屋にこもって出てこなくなり、兄さん来ても会わなかった、部屋から出てきた姉さんは笑顔が消えて・・復讐のことだけ考えるようになって、工科学校へ進んだ」
「お兄ちゃんは・・」
「追っかけって行ったのよ工科学校、自分の責任だからって」
「責任て言ったって」
「姉さんも私も解っている大統領を含め多くの人が助かったって、でも頭で考えても心で許していなかったの結構辛く当たった」
「でもお兄ちゃん工科学校卒業後、陸軍蹴って空軍入隊でしょ?お姉ちゃんは陸軍蹴って海軍士官学校進学追いかけるなら」
「姉さん海兵隊志願だったのよ士官学校は効率よく敵を殺傷する訓練のため、兄さんは姉さんが戦場に出る前に戦争を終わらすため戦場へ」
「知らなかった、私何も知らなかった、お姉ちゃんが突然来なくなって、お兄ちゃんが行き成り全寮制の学校へ行くって言い出したのは覚えていたけど・・あれ以来何も話をしなかったし・・」
「いくら頑張っても一人では・・戦火は拡大・・やがて独立戦争という名になって・・フェイ姉さんの渾名知ってたっけ?」
「気にしない様にしていたけど・・殺戮の女神ワルキューレ・・」
「まさに鬼神と化したのよ、兄さんは・・」
「ルシファー・・」
「解っているじゃない、姉さんに報復だけで戦って欲しくないから、兄さんが必ずオフェンス取れる位置に部隊を降下させていた・・みんな知っていたらしいの兄さんの立てた作戦は私情絡みだって・・」
「それは、軍法裁判物ではないの?」
「兄さんが特殊部隊で中将までのし上ったのは、それが如何に重要作戦の要をしたか解るでしょ」
「お姉ちゃんの復讐を邪魔してオム二軍を勝利に導く作戦・・」
「ホント良く考えたわ感心してしまう、軍法裁判に掛けられたら邪魔できなくなるから」
「お兄ちゃんらしいわ・・」
「独立戦争が終わったときに兄さんが姉さんに言ったらしいの、二人の子供を作ろうって」
「でも!」
「そう姉さんも何言っているんだって怒ったらしい、兄さんめげずに『産めなくても作る事は出来るんだろ、代理母頼もう』って姉さんも何とか納得して二人が33のとき受精卵冷凍保存したらしいのそれから姉さん顔の険も取れて笑顔が戻ったわ、二人の間で色々あったみたいだけど」
「まだ代理の人は見つかってないの?」
「フェイ、姉さん喜んでいたわ見つかったって」
「良かったじゃない」
踊り終わって二人が戻ってくる
「久しぶりに踊りましたね」
「ああ、約束通りだなインディペンデンスに成ったらって」
「はい、あら?二人とも暗い顔して何?」
二人揃って手を振りながら
「何でもないわ」
「そう、お料理冷めちゃうからサッサと食べてしまいましょう」
「ところで姉さんあの話は・・」
「嗚呼あれですか」
「丁度良いし話だけはするか、フェイルンに頼みがあるんだが」
「なに?お姉ちゃんとお兄ちゃんの頼みならなんでも聞いてあげるわ」
「で、いつ李と結婚するんだ?」
「李大尉とは!」
フェイルンが言いかけた時ノルンが言葉を遮った
「もう禾人さんは、ストレート過ぎますわ、ねぇフェイちゃん貴女が結婚して子供を産んだら、代理母で私たちの子供を産んで欲しいの」
「今のオム二の法では既婚者で出産経験が無くては代理母になれないからな」
「キリカやマリア姉さんでも良いのですが、結婚が一番早そうなフェイちゃんにお願いするのが良いかなって二人で話したんです」
「ノエルがキリカも姉さんも結婚はしそうも無いからって、お前のあの写真見た時俺は、驚いたがノエルは逆に喜んだそうだ代理母が見つかったって」
「フェイちゃん二人とも心からお願いするわ、代理母を引き受けてください」
フェイルンはあの写真でここまで話が進むと思わなかった
『言えない・・二人の嬉しそうな顔を見たら・・違うとか嫌だとか・・』
腹をくくった、良いと言って李大尉でなくても相手は何とかなる
「今の話し謹んでお受け致します」
「ありがとうフェイ・・」
「ホントにありがとうございますフェイちゃん」
「さぁて、ジャンジャン飲むか」
「あら、禾人さんはフライトでしょ」
「リサに任せてSRFの気密室で寝ていくよ」
「そうですか・・ウィングマーク捨てるんですか、規定時間を後1.5時間足りていませんよ消化期限もあと残り3日です」
「あ・・もう一年か・・」
「ホントに早いですね」
「お姉ちゃんしんみりしないで飲みましょうよ」
「ええ」
「マムコーク頼む」
「あいよ」
騒ぐ禾人達を見ていたグリーンベレーの一人が
「なんだ女三人に男一人かぁ一人ぐらい引っ張ってくるか」
フラフラ立ち上がったかなり酔っているようだ
「大尉お止めください、一般人に手を出しては軍の名折れです」
素面の下級兵士が止めるが聞かない
「まあ見てろ」
「おい兄ちゃん」
禾人を呼んだ
「はい?」
「いい身分だな女3人に囲まれて」
「妻と妹達なんですよ」
「それでもいい身分だ俺たち兵隊がよ、頑張ってるからこうして要られるんだえ!」
「解っています」
「だったら酌ぐらいさせろって」
ノエルに近寄ろうとする兵士を禾人が立ち上がって止める
「ここは一つご馳走しますのでお止めください」
「止められるかって」
禾人が珍しく下手に出ている、フェイルンの快諾が機嫌を良くしているのとマムの喧嘩しないでくれが効いているのである
その姿を見て更にエスカレートする、ノエルに迫りキスまで要求するありさま
あまりの行為に思わずノエルは突き飛ばしてしまった
「このアマなにしやがんだ!」
慌てて禾人が止めに入るが
「てめえは黙ってろ!!」
コップの水を掛けられてしまう、禾人はまだ我慢をし続ける
「これで気が済んだでしょ席に戻られた方がよいと思いますが」
「なにこのアマ俺の言っている事が解らないのか!頭を冷やせ!!」
酔っ払いの理論は解らない物である、ノエルにコップの水をひっかけた
次の瞬間、酔っ払ったグリーンベレーはホールで血を垂れ流しのた打ち回っていた
禾人の右フックが顔面を捉え鼻の骨をたたき折ったのである
「一寸我慢しすぎたか、すまないノエル」
一言言うとホールへ男を追う、その顔から笑顔は消え魔王と化した
「ノエルちゃん大丈夫かい」
マムがタオルをもって来た
「マムありがとうございます、お願いがあるのですが直ぐに陸軍基地に連絡してMPをよこして貰ってください彼が殺してしまう前に・・」
「判ったよ、でもあいつら災難だねよりによってとんでもないのに喧嘩売っちまうなんて」
「お姉ちゃん大丈夫」
「ええ水掛けられただけだから」
「でも兄さんは」
「あの台詞が出なければ大丈夫だと思いますよ」
「お兄ちゃんの中学時代のあの台詞」
席にいたグリーンベレー3人が禾人を囲む一人の兵士が静止するが酔っ払った勢いもあり静止を聞かない
「てめえらこの俺に喧嘩売りやがって!命のスペア持ってんだろうな!」
ノエルが思わず顔を覆う
「ああでちゃった」
ついにホールでは大乱闘が始まっている
「姉さん、兄さんあんなに強いのになんで泣き虫禾人って渾名だったの」
席では何も無かったように話が続いていた
「それはね、映画とか感動するとぼろぼろ泣くのよ、恋愛映画なんて私より先に泣くぐらいですね」
「凄い一面!」
「あれ見ているとそうとは思えないけども・・」
既に床には4人がのた打ち回っている
「これで懲りただろう軍人は偉くもないし立派だと思うな!」
この一言で傍観していたシールズも黙っていられなくなった
「おい!そんな事は判っている守ってやっているんだ」
「自分たちが優越感に浸る為の守りならば止めてしまえ!己の信ずる事のために戦え!」
禾人はノエルをフェイルンをキリカを守りたいが為軍人になった男である
その心に共感して集まったのがスコルピオンの兵士である
戦争が終わり禾人たちの考えが邪魔になって非常事態省に隊ごと預けられたのも事実
軍人よりもガーディアン戦士を選んだのだ
こうなるとノエルも黙っていられないホールへ飛び出す
「座っていろ」
「あら、たまには良いのではないでしょうか?」
「シールズは女性を殴る趣味は無い下がっていてください」
「女性に倒されるのがお嫌なのですか?」
「そこまで言われるなら」
お互いが構えたときドアをあけて陸軍のMPが突入してきた
「まて!」
「あら?」
知った顔である
「ノエルじゃないか」
「シェンロン」
シェンロンこと神 龍二である
「神少将」
敬礼して向かえる素面の兵士
「どうしたのだ一体」
素面だったグリーンベレーが説明をした
次の瞬間、のた打ち回っている兵士に対して龍二の蹴りが入った、セーフティシューズの鉄の部分でである
「恥を掻かすな」
「しかし、良くこれだけで済ませたな」
龍二はノエルがやったものだと確信している
「いえ私では・・」
「隠すな、手に巻いたタオルで判るから」
ノエルも大人しいとは言え流石に戦いなれている、シールズとやる為に手に巻いて出てきたのだ
「あらこれは汚れたソファー拭こうと思って、フキフキ」
「ハハハハ・・」
「じゃ誰がやったんだ?」
ニヤニヤしながら龍二が言った
「神少将、喧嘩した人間はそこのソファーの影に隠れています」
「なに・・もしそうなら良くこんな物で済んだな」
流石に察しがいい
「よ!」
禾人が顔を出した
「女神と大天使がお揃いで、祈ってしまいそうだな」
「そう言うな」
「しかし随分と大人しくなったものだあの凶悪にして残忍のモンスターが」
「言いすぎだ、お前だって残酷にして最悪のデーモンだろ」
「神少将、こちらの方々は」
「挨拶もしていないのか」
「喧嘩相手に名乗る事は無いだろう」
呆れ顔で龍二が言った
「悪夢に出てくる化け物を百倍にして現実世界の暗闇に引き出したのがコイツ戦略空軍空挺特殊機甲師団第一大隊スコルピオン隊隊長土田禾人中将だ」
「あのルシファー・・」
グリーンベレーもシールズも驚きを隠せない
「こちらの女性は、夢に出てくる理想の女性を百倍にして満点の星の輝きの中に置いたのが海軍特殊部隊スパイダー隊長ノエルノルン少将だ」
「ワルキューレ・・」
「その名だけは当てはまらないと思うが、さてレディに無礼を働いたこいつ等は営倉行きだ、素面のお前は残れ」
MPは4人を抱えて出て行った
「私は?」
「少将たる私の付き添いは出来ないと言うのか?」
「いえ」
「だったら付き合え」
「イエッサー」
「なんだ帰らないのか?勤務中だろ」
「悪友に合って其のままか?良いんだろ」
「ああ」
「さあ皆さんで飲みましょう、シールズの皆さんもどうぞ」
ニッコと微笑むノエル
「ハッ!」
飲み出せば自ずと話が弾むものである
「なんだ禾人飲まないのか?」
「フライトだよ」
「かわいそうに」
「ほんとウィングマークを捨てれば良いのに・・」
「そうも言えんよ空軍だし」
「あら独立軍中将でしょ?」
「なんだ!独立軍に移ったのか!指令は!」
「そこに座っている女性のお父さん」
「始めましてヤオフェイルンです」
「フェイロン教官が復帰か!」
「ああ」
「なんてこった!!今日の事は内密にしておいてくれ!!!兵の教育が成っていないってぶっ飛ばされるからな」
神は工科学校の同期生である、流石に言っている事はわかる
「土田中将!お聞きしたい事があります!」
「おいなんだ突然」
「シールズとも話したのですが先ほどの内容、我々兵士の根本にかかわる事なので出来ればを詳しくお話いただきたいのですが」
「なんだ禾人またお得意の兵士ではなく戦士の話か」
「いつもの事だほっとけ」
「ほんと、理想論と本音を言い過ぎるから上層部から嫌われるのですよ」
ノエルの話も気にせず理想論を繰り広げる
「我々軍人はまず誰に尽くすべきかわかっているか?」
「ハ!それは国家であります」
「違うな、先ずは国民だ我々は彼らによって雇われているのだ、大統領も議員も同じ立場だ、だが何故かそれを忘れ偉くなった様な気でいる国家も国民が作っているという事を忘れている」
禾人は一呼吸置くと
「そして、我々は志願して兵になったという事も忘れてはいけない、自分の意思でなった押し付けの感謝の要求は止める事だ」
「しかし、軍という組織がある以上は」
「組織を守るだけならばマフィアにでもなれ、彼らは組織が第一だ、我々は国民を第一に考えろ」
「お〜禾人理想論ぶち上げて、ホントはおまえ自身そんな理由でじゃないか」
「ああ、ホントは自分の好きな女性を守る為だ、本心を言えば心に自分が兵たる本当の理由をもつ事が大事だ」
「だからそれは戦士だぞ」
ニヤニヤしながら神が言う
「馬鹿野郎、兵隊だったら戦って帰ってくると汚いオッサン連中の顔だが戦士は美人が迎えてくれるんだよな、ノエル」
「まったく、それでうちの隊のトップガンナーがハルゼー大佐に取られてしまったんですわ、ホント困った理想論です」
レベッカの退役をチクチク突っつかれるのである
「ハハハハハ!良いじゃないのかノエル、司令官同士が恋人で部下同士も結ばれるなんて、え、禾人それが目的じゃないのか、引きずってもらってノエルと結婚がどうなんだ」
「一寸待った!お兄ちゃんとお姉ちゃん結婚していなかったの!」
フェイルンが驚いた
「ありゃ話してなかったっけ」
「私にもチャンス有ったんじゃない」
手を振りながら
「ないない、それとお前が代理母引き受けてくれたお陰で正式結婚決定!」
「え?」
「代理母頼むのも正式な夫婦ではないと駄目だからな」
「そうですね長かったですね、ここまで来るのは・・」
「諦めつたか」
「前から着いていたのですがきっかけが欲しかったのです」
「おい、暑いぞ」
「暑いならビールでも飲んでいろ」
「へいへい、だが禾人これで一寸は荷物も降ろせるだろ」
「まあな」
「最近男二人のヒソヒソが多いみたいですけれども何なのでしょうか」
「みんな、俺たちの事心配してくれているんだよ」
これをきっかけに更に昔話に花が咲き延々と宴は続いて行った。
オムニ今そこにある危機3 第7話「過去を背負って2」
禾人が朝から上機嫌でリサを引き連れSRF−2でシティへ向かう
「タキシング」
「こちらSDS管制、ファイヤーフォックスの離陸許可します」
「ラジャ」
「油圧、タービン圧、電圧、射爆管制、オールグリーン」
「V1」
「アフターバーナーオン」
「V2」
「ローテーション」
「ギヤUP」
「さて、リサ何時ものコースで行くぞ」
「判りました」
珍しく指令席ではノエルが頭を抱えている
「どうしました」
「ハーディ大佐・・ですか」
顔が青く目が虚ろである
「医務官を!」
「大丈夫、二日酔いですから・・」
「はぁ?」
「ハハハハハ!ノエルが二日酔いとは」
ヤオ指令が大笑いした
「はい、記憶も定かではないのです」
「そこまで飲むとは・・何かあったか・・」
コーヒーと水、薬を持ってフェイルンが来た
「指令コーヒーをどうぞ、少将薬です」
「フェイルン中佐ありがとうございます」
一寸間を置いて
「昨日何が有ったのでしょうか・・」
ニヤニヤしながフェイルンが喋り出した
「少将が中将を口説いたのです」
「え?」
「レースのハンカチを頭に載せて『私を貰ってください』って、神少将が神父役で結婚式の真似ごとしましたよ」
更に弾みがつく、フェイルン自分の体を抱きしめて
「ノエル愛しているよ、禾人さん、チュッ!!」
ノエルは青い顔もだんだん赤くなってくる、止める気配の無いフェイルン
「ヤオ中佐、君をほかの隊に転属させるのがSDSの恥にならないかと心配になってきたと同時に父親として非常に恥ずかしいのだが」
司令室に笑い声が響く
「SDS司令室こちらファイアーフォックス」
「こちらSDS、ファイアーフォックス感度良好」
「飛行プランフェーズ2を開始する」
「ファイアーフォックス、内容を」
「昨日、SDSに対してステルステストデーターの収集を依頼した」
「判っておりますが此方の準備がまだ・・」
「時間は有ったはずだ、飛行プランの都合上時間通り開始する以上」
そうフェイルンの話に気を取られていたのだ
ノエルが無線にでる
「SDS了解した」
「ファイアーフォックス了解、ラジオアンテナを収納する」
これで通信は出来なくなる
「ノエル少将!」
「責任は私が取ります、出来る範囲でファイアーフォックスのデータを収集してください」
腕を組んで状況を見つめるフェイロン
「フェイルン、SDS最後まで軍人ではなかったな」
「申し訳ありません」
フェイルンは言葉少なく答えた
「ラジオアンテナ収納」
「ラジャ」
「ジェットシステムチェンジ」
「ターボジェットON、ラムジェットOFF」
「システムオールグリーン」
「エアーインテイク&ジェットノズル、トランスフォーム」
「ラジャ」
「アンチレーダーウェーブシステムON」
「ラジャ」
地上レーダーから機影が突如消える
「レーダー、ファイアーフォックスを消失」
「偵察衛星の画像を」
「偵察衛星超望遠システム、ファイアーフォックスを捕捉」
「さて、光学迷彩ではないぞ」
「映像投影システムを使用します」
「判った」
「フィッシュアイウィンドウOPEN」
「機体投影開始」
「偵察衛星超望遠システム、ファイアーフォックスを消失」
「シーイング追尾システムを使ってみてください」
「了解」
「オプチカルフラットレンズに切り替え」
「次はオプチカルフラットで乱流を調べてくるはずだ」
「どうします」
「乱流を起こさない機体構造だから何やっても無駄だと思うが」
「確かにこの子は物凄いモンスターですから」
「マッハ0.9に落として排気温度及び乱流の発生を最小限にする」
「パワーダウン」
「これで何時もの3倍の時間でオム二シティか」
「ヘリ並ですね」
「さて此処は盗聴も出来ない密室だ昨日の質問に答えやすい」
「あの女性ですか?」
「ああ、彼女はアルガ実戦部隊隊長ナギサシンジョウ」
ピタッとリサの動きが止まった、ゆっくり禾人の方を向くと
「あの資料にあった、カシアス連邦軍の・・?」
「そうだ」
「なんで!!」
「そう言えばリサはキャリアーに乗っていたな」
「なんですか突然話を変えて?」
「キャリアーは何だった」
「艦番102アストラでした」
「第2艦隊だな、では白の智将知っているだろう」
「ああ赤の馬鹿と白の智将土田雪人少将ですね・・中将と苗字が・・顔も・・」
「双子だよ!知らなかったのか?」
「少将は兄弟がいないとか・・」
「要るよ此処に」
「でも・・」
「あいつと俺は仲が良くないからな」
「兄弟でですか?」
「普通の兄弟なら違ったかもしれないが双子で考え方も似ていれば一人は邪魔なのだ」
「それだけで?」
「ノエルの事が絡んだから余計だな」
「少将が・・」
「人の恋路をってやつだな」
「でなんの関係があるのですか?」
「雪人が裏切った」
「!・・!!!・・白の智将が・・」
「赤の馬鹿がこうして残ってしまったが・・」
「赤の猛将って・・」
「比喩だあいつと俺の・・俺は最前線で敵を倒して白い軍服も返り血で赤く染め上げる、あいつはホワイトボ−ド上で指揮をとり汚れない、其れで赤と白」
「まさか兄弟げんか・・」
「俺はそんなつもりでは無いがな」
「孫賓って名は!」
「おおリサ解っているじゃないか」
「そうだったんですか、でどうするのですか」
「約束が有った訳じゃない、ドラゴンと化した弟を勇者の俺が倒すってシナリオはどうだ?」
「ドラゴンスレーヤーをもって?」
「惜しい!じゃないんだ・・」
「まさかアビスソード」
「近い!200mmの防弾ガラスもを貫いて水銀弾で木っ端微塵に吹き飛ばす」
「何なのですか?」
「開発コード超長距離狙撃ライフルグラディウスとタングステンカーバイトジャケット弾ノイラティム」
「遊びすぎです、少将を暗殺するのに・・」
「このくらい下らん事言っていないと辛いんだよ、肉親を殺すと決めた時から」
「すみません」
「謝る必要はない、リサの明るさが欲しくて秘書官に任命したのもある・・」
「で作戦はあるのですか?」
「暗殺は極秘で行う、雪人が裏切ったと知れば軍が割れる事が考えられるから死体も残さないよう水銀弾で吹き飛ばす」
「SDSでこの事を知っているのは」
「俺とノエル、リサだけだ・・ヤオ大将が気づいているかも知れない」
「何で私に話したのですか?」
「秘書官だろ知っていてもらわないと俺が動きづらいんだよ」
「でもいつ?」
「戦争が始まってからになるだろう・・普通で暗殺すればニュースになることも考えられる」
「敵に鮑叔牙がいたら?」
「野望を持たない軍師か・・」
「敵のカワサキ将軍の才能は良くわかっていません、用心に越した事はないと思いますが」
「わかったしかし、リサは賢いな」
「乗りませんよその後の言葉は、マーク中佐とでもやってください」
「チィ つまらない奴で何か手を考えるか」
「その辺は、軍師孫賓にお任せいたします」
「シナリオを起こさないといけないな、やつのやりそうな事を考えなければ・・」
「ところでこの作戦名は?」
「馬陵で奴の暗号名は?涓」
「萬箭で射殺すのですか・・」
「その為のグラディウスとノイラティムだ」
「水銀が数万の粒となって打ち砕く・・」
「そうだ」
「たまりませんね、大丈夫ですか中将」
禾人は何も答えない
「・・そろそろ、フェイズ3に移行する・・」
「ラジャ」
「エアインテーク、ジェットノズルトランスフォーム」
「アフターバーナーMAXパワー」
「処で中将、結婚式ごっこはどうだったんですか」
「フェイがなんでか大きなレースのハンカチ持っていて、ノエルに被せ煽ったんだよ、フェイがレースのハンカチ持っていたのも驚きだったが」
「もっと驚きますよ、そのハンカチハーディ大佐が編んだんです」
「・・」
「ついでに指輪の交換まですれば良かったのにでも」
「成り行きじゃなぁ」
「持っていないですものね」
「いや」
禾人はネックレスを懐から出すと
「いつも持っているんだ」
ネックレスに二つの指輪が光っている
「なんで渡さなかったんです?」
「リサは酔っ払った状態で渡されて嬉しいか?」
「いえ其れは・・」
「だろ、それとこの指輪の事知っているのは、リサと俺だけだノエルは気付いていない」
「一緒に生活していて?」
「寝る時は一緒でも自室がある、お互いその部屋だけは干渉しないし・・」
「ロマンチックなんですね中将は、でも羨ましい少将」
「戦う男にはロマンがいるんだよ、リサも乙女なんだなこれ見て羨ましいなんて」
「女の子は幾つになっても乙女なんですよ」
「そうか・・処でリサ頼みがあるんだが」
「なんでしょう?」
「戦時の私機の回収はリサが行う事に成るのだが、万が一にも私が戦死した場合この指輪を処分して欲しい」
「どうしてです、形見としてノエル少将が持つべきでは」
「いや、死んでから彼女を縛る気はない・・だから渡さない今回の敵は最強だから全てが終わって生きていたら渡すつもりだ」
「・・処分って私が持っていてもいいのですか・・」
「いや、海にでも捨てるか潰してしまってくれ第一名前が刻まれている指輪では仕方ないのではないか」
「判りました」
「しかしなぁ〜神父だけは本物だった、死神牧師シェンロン従軍牧師も兼任の少将だったからな」
「兼任ですか?」
「部下の死を見取るのも役目とか・・実家が教会なのによく工科学校に入った物だ」
「へぇ〜」
「さてオム二シティまで30分か・・天候は?」
「雪です」
「ラジオアンテナオープン」
「ラジャ」
「此方ファイヤーフォックス、SDSセンターSRF−2の機能テスト終了を報告する」
「SDS了解した」
SRFは次第に雲海の中に機体を鎮めて行く
「ファイヤーフォックスからオム二シティエアポート管制」
「こちらオム二シティエアポート管制」
「ファイヤーフォックス着陸許可をこう」
「現在積雪のため滑走路閉鎖中、軍用空港への着陸は出来ないか」
「現状軍飛行場への着陸は考えていない、そちらの視界はどの位か報告を願う」
「視界10m」
「エアポート管制、視界10mならば着陸を行なう最端の滑走路使用許可を願う」
「これから除雪を急がせる待機せよ」
「除雪不要、牽引ローダーの手配願う」
「危険だ許可できない」
「当機は雪上離着陸システムを搭載している、既に着陸は経験済みである」
リサの訓練も兼ねているため強行する禾人
「こちらエアポート管制、10番滑走路の使用を許可する」
「了解」
「さてリサお手並み拝見するぞ」
「でも雪の上に降りるなんてやった事ありません」
「判っている、では先ずギアダウン」
「ラジャ」
「スキーユニットセット」
「ラジャ」
「ミニマムパワー350ノットまで減速」
「ラジャ」
「ランデングを長く取れる位置にタッチダウン」
「ラジャ」
「ランディングは横風に注意するのは当たり前だが、滑る以外は全て同じだ」
「それだけですか!」
「それだけだ、実戦あるのみ!では覚悟を決めて突っ込め!!」
「イエッサー!!!」
リサは覚悟を決めて着陸態勢に入った禾人はコパイシートで腕を組んで見ている
「進入角良し、タッチダウン」
滑る機体
「エアブレーキ、エンジンリバース」
「結構すべるな」
「何、気楽なこと言っているんですか」
「もう止まるぞエンジンカットスタンバイ」
「ラジャ、エンジンカット」
「お見事、初めてにしては上出来だ」
「ファイヤーフォックス牽引を開始する」
「了解」
「格納後管制室室長の元へパイロットは出頭せよ」
「了解」
「中将、無理して民間空港へ着陸する事はなかったのではないですか?」
「確かに軍空港は常に除雪されていて安全かもしれないが、それでは訓練にならない除雪されていない場所が良いんだよ、お前には北極だろうが南極だろうが迎えに来てもらわないと行かんからな」
「北極南極まで戦争に行くんですか?行けないですよね」
「新兵器がある、基地からオム二の反対側まで8分で行ける」
「何処でもですか、宇宙へも行ってしまうのではないですか」
リサは笑いながら言った
「いけるよ」
「え?!」
「新輸送兵器アサルトライナーが配備される、カーゴバードはジェットエンジンだがアサルトライナーはロケットエンジンある意味人間大陸間弾道弾だがな」
「何でそのような物を」
「さっきの説明で不服か」
「いえ」
このあと禾人は管制室長を脅して事なきを得たが普通ならパイロット資格取り消しであった
「リサ、今日はクリスマスって判っているよな?」
「もちろんです」
リサは禾人がプレゼントをくれる物と思い込んでいたが
「ほれ此れ」
真っ赤なスーツに長靴に白い髭、赤い帽子・・
「なんです??」
「わからないのか?」
「いえサンタクロースですよね??」
「判っているじゃないか」
「でもなんで」
「俺一人じゃ配れないからお前もやるの」
「何処で!!」
「孤児院だよ!!」
「あ・・」
「忘れていたろ、プレゼントはスティ−ブが用意している」
エアポートレンタカーを借りるとスティーブとの合流地点であるアースパークへと向かった
「そう言えば今日の予定って、此れだけでしたっけ?」
「後は・・」
「返りますか基地に」
「そうだな、しかしサンタが昼間に行くとは間抜けのような・・」
「そう言えば夜はSDSでパーティだとか言っていました」
「じゃ帰るか・・」
そのころ
「データーはどの程度収集出来たでしょうか?」
「ノエル少将、データーは赤外線、シーイング、通常画像、レーダーのみです」
「そうですか・・」
「すみません、少将・・」
フェイルンが頭を下げる
「次の日にテストがあると判っていながら酔いを残すまで飲んでしまった、私が悪いのですから謝る事はありません」
「失礼します」
敬礼をして李大尉が入ってきた
「ノエル少将、SRFのUV解析データ、各レーダーサイト設置の衝撃波追尾システムのデーターをお持ちいたしました」
「中佐のカバーですか、フェイちゃんはとても良い方を選びましたね」
「そそそ其れは!!」
「おおおお姉ちゃん!」
「照れる事はありませんよ、彼がやはり同じように私の失敗をカバーしてくれていましたから」
遠い目をしながらノエルが話し出す
「あの頃は、ただ戦う事にしか考えが行かず周りが見えていませんでした、禾人さんの心遣いも考えず、カバーされるのが当たり前のように・・今考えると早く素直になっていればこんなに苦しくなかったって思います、ですからお二人も素直にね」
「ああああの」
「ゴホン!」
ヤオ指令が咳払いをした
「此れでわたしは、失礼します!」
李があわてて司令室を飛び出して行った
「禾人様」
「待たせたな」
横にはそりにトナカイが繋がれていた
「ほ!本格的ですね!!」
「この位で無いと夢も与えられない」
「プレゼントはこの袋に用意してありますので」
「判った」
「ではよろしくお願いいたします」
シャンシャンシャン鈴を鳴らしながらそりは進む
「兄さまみんなが見ていますよ」
「手でも振ってやれ」
調子に乗って手を振るリサ、やがてソリは裏路地へと入っていく
「こんなところに孤児院ですか?で此れが」
オム二の施設にしては実に粗末な物である
園内にソリを乗り入れると子供たちが集まってきた
下は5歳ぐらい上は12歳前後である
「メリークリスマス!!」
禾人の呼びかけに子供たちが答えた
「メリークリスマス」
「シスターの言う事を聞いて良い子にしていたかな」
「ハイ!!」
「ではプレゼントだ」
男の子には禾人が女の子にはリサが配る
「フォフォフォフォフォ・・貰わなかった人はいないかな」
「大丈夫そうですね」
シスターが禾人たちに話し掛けた
「すみませんが部屋に3人いるのですが」
「では行きましょう」
禾人たちが部屋へと入っていくと車椅子に乗った子供たちが寄って来る
「メリークリスマス」
「メリークリスマス・・」
「何が欲しいのかな?」
「・・」
「何がいいの?」
リサが聞き返した
「あし・・足が欲しい・・」
禾人とリサが黙り込んでしまうような答えが帰って来たのに対してシスターが禾人達に子供たちの事情を話してくれる
「サンタさんこの子、独立戦争の時爆撃で両親と片足を無くしてしまって・・」
リサが子供たちに尋ねた
「何処に住んでいたの?」
「エランシティ」
「三人とも同じなの」
頷く子供を見て禾人が言った
「私サンタは神ではないのだ無くなった足をもとに戻しは出来ない、でも望むなら最新の義足を与えられるどうする」
最新型電子制御の神経接続型である、孤児院ではとても与えられる代物ではない
「其れでもいい」
「判ったサンタが君たちにプレゼントしよう」
「だが、今日は無理だ明日代わりのサンタが届けるよう頼んでおくよ」
「ありがとう」
「足が良くなったらどうするのかな」
三人が声をそろえて答えた
「兵隊になるの!兵隊になって復讐する!」
シスターが慌てて子供たちを諌めようとするが言う事を聞かない
禾人は目をつぶるとゆっくりとなだめるように喋りだした
「それでは、足はあげられない」
「どうして!」
「私は神様の使いなのだ悪い子や危ない事、シスターの言う事を聞かない子にはプレゼントできないのだよ」
「でも・・」
「良いかい、君たちをそんなにした悪い人は神様が罰を与えよう、もし君たちが同じようにほかの人を傷つければ神様はお許しにならない、判るかい人を傷つけたり、殺したりすれば必ず報いが訪れる」
「はい・・」
「では私と約束してくれるかい、人を傷つける事をせず人のためになる事を出来る人間になると」
「どんな人が良い人なの?」
「シスターではないのかな」
「あ・・」
「神父、先生、医者、エトセトラエトセトラ、君たちが頑張って下の子供たちのめんどうをシスターと一緒になってやることが良い事だと思うぞ」
「判りました」
「では約束だぞ」
禾人は右手を出し握手を求めた
「はい!」
「さあ皆さんお食事ですよ、今日はフェルウォンさんがご馳走を用意してくれました、サンタさんたちもどうぞ」
車椅子を押してシスターたちが進む、後をリサ禾人の順で付いて行くが
「兄さま・・?」
禾人の気配が突然消えたのだ振り返り禾人を探すが見当たらない
トイレかと思いシスターに場所を尋ねた
「シスターおトイレは何処ですか?」
「今ご案内いたします」
トイレに行く途中礼拝堂の前を通ると少し開いた扉から柱の陰に隠れながら祈りを捧げる赤い服の人物が目に付いた、リサとシスターは忍び込むように礼拝堂に入っていく
「兄さま?」
涙を流しながら跪いている禾人がいた
「リサか・・」
「どうしたのですか?泣き虫禾人が感激したんじゃないんですか」
リサは微笑みながら尋ねる
「良い事したし感涙ってね」
「リサはエランシティの事知っているか」
「激戦だったとか、地球軍の核攻撃作戦司令部があって制圧の為民間人をも無視して攻撃が行なわれた・・」
「B−73が20機編隊で500k爆弾2000発を縦断無差別爆撃しローダー隊の制圧が行なわれた」
一呼吸置いて
「エラン制圧指揮官は私だった・・私が爆撃を指揮した」
「え!!」
「軍司令部は核に怯えて制圧を急いだのだ、民間人を巻き込む事も司令部は判っていた、だが決定は覆らず最終命令が下り私が前線に出撃、空爆を行なった・・スコルピオンはそんな仕事ばかりだったのだよ・・」
「そんな・・」
「シスター!!」
「彼らには復讐の為兵士に成るなと言っておいて自分自身は復讐を目的としていた・・彼らを注意できた立場ではないな・・」
「空しさを知っているから注意できるのです、貴方の事を神はお喜びになると思います」
「喜ばれるより神の蹄鉄が下る日が何時か知りたい・・」
「それは・・」
「困らせて済みません」
「兄さま・・」
「死にたい訳ではない・・ただ自分だけ幸せになれない・・血染めの手で生きていくのも辛いのだよ、ノエルを抱きしめていても癒される事は無い」
「命令で仕方なったんでしょ」
「無責任の責任を言うつもりは無い負けていれば戦犯で銃殺刑になっていらだろう、勝てば官軍負ければ賊軍だ、独立戦争以来彼らの様な人も出来るのは判っていただが目をそらしていた」
シスターが語りかける
「それだけ判って懺悔しているなら神もお許しになるでしょう、フェルウォンから貴方の事は色々お伺いしています、貴方は罪を償われ続けています」
「いえ未だです確実に罪は増えていきます後一人は間違えなく殺さねばならないのです」
禾人は雪人の事を言っている
「それは避けられない事なのでしょうか・・」
「はい」
「おお神よ・・ここに懺悔する罪深き者をお許しください・・」
「シスターこの事は・・」
「懺悔は誰にも話は致しません、その代わり礼拝堂を出た時からサンタさんとして振舞ってくださいあの子達の夢として・・」
「ありがとうシスター・・」
食堂で皆との別れを済ますとソリに乗り込み去っていく
「禾人様ありがとうございました」
フェルウォンが声をかけてきた
「フェルウォンあのシスターは何処の人だ、オム二側だったのか?」
「いえ、地球側でエランシティの出身者ですが」
「そうか・・」
「なにか?」
「いや、なんでもない」
ソリが進むにつれ落ち込む二人
「リサお前にも背負わせてしまったな・・」
「兄さま・・」
二人はこの後言葉も交わさず基地へと戻って行った
オムニ今そこにある危機3 第8話「ヒューマンスクランブル」
重い空気の中着いた基地ではクリスマスパーティの真っ最中、このクリスマスが最後のクリスマスと考えている者もいる様で一段と騒がしい物になっている
明かりも点けず暗いコンテナの中で考え込む二人がいた
「どうします・・」
「行って来いよ・・」
「中将は・・」
「一人にしてくれるか・・」
「はい・・」
「少佐も疲れたみたいだな」
「少々疲れました、中将が与えてくれた陰の力で出来るだけ彼らを助けていきたい」
「見なくて良い物を見せてしまった・・」
「知っている方がいいです」
「ありがとう・・」
会話を遮るようにコンテナハウスのドアがイキナリ開いてノエルが飛び込んできた
「二人でなにやってんですかぁ〜」
「げ!酔っ払っている!」
「明かりも付けず〜〜私のことなんかぁ〜なんとも思っていないんでしょう〜〜リサときっと良いことしてたんでしょクヤシ〜〜イ〜〜」
「そんな事はない、おいで」
ソファーに呼び寄せ肩を抱きしめる
「禾人さぁ〜ん私で良いのですかぁ?リサが良いのではないのですかぁ〜」
「俺を抑えられるのは君しかいないだろ」
「はいぃ、リサ」
「なんでしょう」
ノエルは右手を目に当てるとリサに向かって
「べぇ〜〜〜私が良いんですって!!」
一言言うと禾人に体を預け小さな寝息を立ててノエルは眠り出した、それを見たリサが仮眠用の毛布をそっと掛ける
「ありがとう少佐」
「いえ」
禾人はノエルを起こさないように立ってコンテナの外へと移った
「少将は何時もあの様なのですか?」
クスクス笑いながら尋ねた
「酔うとな」
タバコに火をつけてコンテナに寄りかかりながら空を見上げた
「でもいつもの凛々しいのは?」
「彼女は俺が甘えて見せるから強い自分でいようとしている、彼女が自分を出すのは酔った時だけだ酒もそんなに強くないし」
「皆何かを背負っているんですね」
「判った口を・・」
「爆撃の下でなにが起きているのかも考えていませんでした、いえ考えないようにしていたのです、でも目を背けられなくなった」
「チビがデカイ荷物背負って行くか」
「はい!」
「ま、公私とも頼む」
「判りました!」
「皆と飲んで来い」
「中将は?」
「二人にしてくれ、彼女が私に甘えるのは酔った時だけだから」
「食事だけ運んできますね」
「ああ、シャンパンぐらいは付けてくれよ」
「はい」
走っていくリサの背中を見ながら一言呟く
「最後の晩餐か・・」
そして数日が過ぎフェイルンが隊を去る日が来た
「それではハーディ大佐失礼致します」
「中佐お元気で・・」
見回すとドールズの隊員が総出で見送りに出いる
「フェイ元気でね」
「ナミも大変だと思うけど中将の注文どおりの物作るんだよ」
「判っているって」
「しかし、中将達は見送りも来ないのか」
「ドールズだから?」
「そんな差別はしないでしょ」
「でも・・」
「中佐お迎えに上がりました!」
軍用車両でリサが迎えに来たのだ
「なにリサ送ってくれるの?」
「うちのボスがハンサー海軍基地まで送っていくそうです」
「中将が?」
「はい、それで此れを着用してください耐Gスーツです」
「そう・・」
「荷物は規定のバック2つですね」
「そうよ」
「壊れ物は?」
「無いようにしてあるわ」
「じゃフェイ頑張れよ」
「ええ、それではまた!」
敬礼で見送る仲間たちを後にリサが車を走りださせた
「リサ、お兄ちゃんをお願いね」
「は?」
「暴れん坊だから止めてよ」
「アイサー」
「あれでいくの!」
F231が滑走路の端で待機
禾人が整備に当たっているがフェイルンを見かけると手を休め敬礼をした
「中将」
敬礼を返す
「送っていこう」
「ありがとうございます」
リサが荷物を積み込み、禾人がヘルメットをフェイルンに渡す
「では行こうか」
淡々と離陸までの作業が進んでいく
フェイルンと禾人はタラップを上がりシートに体を預けてベルトを締める
「中佐良い旅を」
リサが指を立ててフェイルンに合図を送るとフェイルンも同じように合図を返す
タラップが外されキャノピーが降りると所定の位置に機体を出し離陸体制に入った
「お兄ちゃん・・」
「一寸待っていろ、SDS管制離陸許可願う」
「離陸許可する」
許可の声を聞くと禾人はフルスロットルで一気に上空めがけ駆け上がって行く、やがて所定の高度の維持に入るとフェイルンが先ほど途切れた話を始めた
「お兄ちゃん、なんでキリカと私を排除したの」
「適正が合わなかったからでは、不十分なのか」
「私にとってそれは言い訳にしか聞こえないわ」
「無理やり理屈をつけて隊からお前たちを排除したと言うんだな」
「そうよ!私はドールズにいたかったSDSにも馴染んできたと言うのに!」
「認めよう、私達は私情でお前たちを排除したそれで良いか?」
「あっさり認めて今までなんだったの?」
「追い出す為だ」
「なぜ?」
「身内を危険な戦場に出したくないし、空爆を受けるかもしれない基地に置いて置けなくなった」
「だって私兵士なんだよ、危険は当たり前じゃない」
「ノエルも俺もこれ以上身内を無くしたくないのが本音だ」
「身内ってハイドリッヒ大佐の事?」
「ハイドリッヒは親友だった、奴なりの責任の取り方だ無くしたとは思っていない」
「じゃあ誰!」
「雪人が・・」
「雪兄ィがどうしたの!!」
「敵艦からの脱出途中に射殺された・・と報告を受けた・・」
禾人にとって雪人は死んだも同然、死んだ事にしてしまう事でノエルとも合意がされたのだ
「!…!!」
声にならない、やがてすすり泣くフェイルンの声が聞こえてくる
「フェイ、俺は空に上がったら泣けないし前に進む事だけを考える、良いかリサ達も俺もこうして忘れるようにしてきた、お前の席前の後方確認ミラーを見ていろ」
「な・・に・・」
フェイルンは涙を拭きミラーを見つめる
禾人はスロットルレバーを一気にマックスパワーに押し込んだ
フェイルンの体がシートに押し込められると同時に強烈な衝撃、一瞬ミラーに機体の周囲を囲むように出来た雲が写った
「今のは何が起きたの?」
「ソニックウォールを破ったのさ俺たちは今、音よりも早く飛んでいる。空では過去は後ろに置いて進むのが定めだ、さもなくばマッハの戦闘で死有るのみ」
「辛くないの・・」
「地上にいるときは辛いがジョイスティックを持てば忘れるしかないんだ、蒼空に白一線を曳いている時は余分な考えはしてはならない」
「だから私を外した・・雪兄ィが死んでそれを知ったら余分な考えで死に惹かれるから・・」
「その通りだ、お前の死を私俺達は見たくない」
「うん・・」
「私情と言われようとなんと言われようとも権力を使えるうちに行使する事も自分の為に必要だ」
「自分の為に・・」
「ああ、自分の為だ、処でエアーズマンの時は悪かったな途中寄って行くか」
「いいの?」
「此処までやったらなにやっても良いだろうと、言いたい所だが独立軍中将だから差ほど問題にされないのだよ」
「お兄ちゃんの性格からすると意外と寂しいんじゃないの」
「いや今は、構われたくないから独立軍に移ったんだよ」
「あ・・雪兄ィの・・」
「しんみりするんじゃない!」
「お供します中将」
「よし!」
機は方向転換しオム二シティへと向かっていった
その頃とある放送局では・・
首にマイクロホンを掛けたプロデューサーらしい男がロビーに現れ周囲を見渡し、サングラスを掛けた男女のカップルを見つけると近寄っていった
「見違えたよ、雪人」
「ファルゴ、久しぶりだ」
雪人は握手を求めるそれに対してファルゴも手を差し伸べしっかりと握り合った
「五年ぶりかな?」
「そうだな、五年になるか・・最後合ったのが何時だったか解らなくなってしまった」
「忙しかったのか?」
「ちょっと遠出をしていたのでね」
「戻ってくればこうして尋ねてくれるんだ相変わらず友には違わんよ、処でこちらの美しい方は?」
「シンジョウナギサさんだ、ナギサこちらは高校以来の友人ファルゴだ」
「はじめまして、ファルゴ・デューエンです」
「はじめまして、ナギサシンジョウです」
「ところで今日はなんだ仕事場までとは?」
「ニュース担当だっただろう」
「ああ、意外と忙しいのだがお前が来たんだ顔出さない訳には行かないだろう」
「前の事もあるからか」
「あの核攻撃のネタは凄かったお陰でチーフプロデューサーになったからな感謝している、お前の紹介だとか言ってネタ持ってくれたカルツォーネさんは元気なのか」
「まあ元気だろう、でちょっと此処では話しにくいネタを持ってきたのだが」
「なんだ、そう言う話か直ぐ部屋を用意しよう」
「ああ頼む」
奥まった場所の会議室が選ばれた、部屋に入るとナギサが探知機を使い盗聴器の有無を確認する
「そんなに重要な事なのか?」
「ああ、俺と会ったことも秘密にしなくてはならないほどの物だよ」
「今日の事は秘密にしておけと?」
「その通りだ」
「お前がそう言うのだったら、その通りにしよう」
「悪いな、実は地球軍の動きなのだが」
「地球軍は事実上壊滅なのだろ」
「慌てるな、地球は新しい移民惑星を開発したその名をカシアス」
「それでオムニは必要がなくなったから平和か?」
「そんなネタぐらいでお前の所には来ない、カシアスは鉱物資源が豊富だかオムニのように豊かな緑・・第一次産業は無理らしい、そこでどうしてもオムニの産業が必要で利害が一致した地球とカシアスが連合を組んでオムニの分割統治に乗り出したのだ」
「夢のような話だ」
「五年前なら俺も同じ事を言っただろう、だが俺は見てきたのだカシアスを・・」
「五年で行って来られる距離ではないだろう」
「地球は既にハイパードライブを完成してオムニ地球間が約一年で航行できる」
「しかし、何でそんな重要な事を軍から流す」
「本題はまだこの後だ」
「本題?」
「この局からオムニ全土へ向けて分割統治宣言を発したい」
「お前がそれを話すと言う事は裏切りを示すのだぞ!」
「裏切りではない!上の利権の争いだから戦争をしたくない!困るのは民だけだ」
「私も確かにオムニだろうが地球だろうが放送検閲さえなければどちらでも暮らしには影響は無いが」
「地球の技術は既にオムニの200年先を行っている、兵器もそれに合わせて発達を遂げたオムニの勝利する可能性は、ほぼゼロだ」
「無駄な死者は出したくないと言うことか」
「そうだ、オムニのように力尽くのような事はしたくないあの核攻撃のような事は絶対にしない」
「雪人、お前は地球側のネゴシェーターなのかカシアスのエージェントなのかどっちだ」
「どちらでもない、オムニを本当の意味で自由な国にするためなのだ、前からお前に話していた事が全てだ」
「地球移民の差別か・・」
「ああ、移民の順番は決まっていた、先陣は辛いのも判っていたその代わり子々孫々に渡かなりの地権を与えられたはずなのに我が物顔でオムニを支配し、後から来る移民を差別している」
「ああ、まさにその通りだ・・私の両親も苦しんだ口だった」
「それが判っているお前だから協力を頼みに来たのだ」
ファルゴはしばし考えた末に
「判った引き受けよう、何時になるのかは私にも秘密にして置いた方が良いな」
「ありがとう助かります。」
ナギサがファルゴの協力に感謝を示した。
「お嬢さんは地球の人かな?」
「いえカシアスです」
「雪人、地球側というよりもカシアスだな」
「なんでだ?」
「いや、お前は少し変わった」
「人は変わらなければならない」
二人は考え深げに話を中断してしまった
オムニと太陽を挟んだ向かい側では
「ブバイ少将、君はそれで本当に納得するのかね」
「カワサキ中将、先ほどの事が全てです、あの方法がオムニにしてもカシアスにしても最善の選択と考えます」
「しかし、裏切った者を信用せよといっても簡単に行く物ではない」
「今オムニを手に入れようとしているのに、たった一つのこだわりで潰す必要もないでしょう」
「オムニを手に入れるか・・」
「ええ」
「そうするか」
「イエッサー」
ドアをノックする音に二人は会話を切った
「カワサキ中将!、斥候部隊より入電、『作戦終了入港を待つ』以上です」
「判ったガイアに作戦開始を打って置いてくれ」
「アイサー!」
「此れで後戻り出来なくなったな」
「ハ!」
「最終作戦開始時間は240時間後だ」
「乗り込みますか」
「ああ」
「ノルン少将お呼びでしょうか」
「ジェファニー中佐、我が隊の優秀なアクターを集めてください」
「何を撮るのでしょうか」
「シナリオは此れです」
「監督は如何されますか」
「私がしますわ」
「人数的には足りないようですが」
「ドールズにも声を掛けてください」
「記録の編集と合成は?」
「中佐の得意な分野ですので安心しています」
「判りました2日で全て完成させます、試写は3日後でよろしいですか?」
「合成部分以外は必要ないと思いますので合成が完成し次第試写を」
「しかし、このシナリオはかなり事実とは違いますがよろしいのですか?」
「それが狙いですから」
「イエッサー!!」
敬礼をするとジェファニーは退出して行く窓外を見ながらノエルがポツリと呟いた
「あなた・・また余計な物を背負うと言うのですか、大きすぎますよ今度のは・・」
「お兄ちゃんこんなドレス買ってもらって良いの?」
「お前この前1万ドル払ったろ、現金じゃ返せないが此れぐらい買ってやるよ」
「現金が良いけど」
「あれを壊したのはお前だ、それは判っているだろう」
「うん」
「そして、あれは俺の持ち物ではない会社の持ち物だ、いいか会社資産を壊したのだからその責任は自分で取れ」
「判っているわ・・」
「それなら結構、ではリムジンでお姫様をお連れ致しましょう」
「もう!」
ドレスアップしたフェイルンをつれて禾人はエアーズマンへと向かっていった
その頃ジャンはシマの一つナキストシティのカジノを訪れていたが
「ドンコルリオーネ、右を見てくださいドン禾人が女性を連れて出てきますぜ」
「ノエルじゃねーな、浮気か?」
「それにしても良い女ですね」
「テレビ局からか?キャスターかなんかだろう」
「こんなナキスト外れの辺鄙なテレビ局でですか?」
「良い女は何処にいようと関係がないしな」
「ドン、でもあれだけ良い奥さんが居ながら浮気は許せないと思いませんか?」
「ノエルは幼馴染だし俺だって許せんな」
「ですね」
「ちょっと言ってやるか」
電話を掛ける出すが
「禾人か?」
「ジャンなにか用か?」
「いい身分じゃないか、え美人とデートとは?」
「見ていたのか?美人だろ?え?」
「なに言ってやがる、ノエルの事を蔑ろにしているんじゃないのか」
「何だよ、しょうがねぇな今、美人と変わってやるからよ、驚くぞ」
禾人は未だにジャンとフェイルンがあった事を知らないのだ
「ジャン兄ィ!」
「フェイルン!」
「見ていたなら言ってくれればいいのに」
「え?今何処に居る?」
「エアーズマン、この前会った所よ」
「おい、フェイこの前会ったって・・ちょっと変われ」
禾人の声が変わった
「お前かフェイに俺の別名ばらしたのは!」
「いや・・何かあったのか・・」
「ちょっとひどい目にあったんだ!」
「いや・・悪かった・・」
「で、納得したか?」
「お前に似た人物が美人を連れてテレビ局から出てきた物でな」
「テレビ局?」
「人違いだった」
禾人の触手が動き出す一寸した情報をも聞き逃さないのだ
「ところでジャン一寸緊急で話があるんだが今日の夜にでも会えないか?」
「家には帰っているから問題ないが」
「では今晩会いに行く」
一言言うと電話を切った。
「お兄ちゃんなんだって?」
「いや、なんでもない、さっさと食べろ送っていくぞ」
電話の後に慌しくなった禾人を見て疑問に思うが転属先の事もあり余計な詮索はしない様にしようとフェイルンは考えた。
やがて昼食も済み、ハンサー海軍基地へと到着した二人であったが別れは一言二言言葉を交わしただけだ。
「フェイ元気で」
「また、戦争が始まったら押しかけますよ」
「必要はない」
給油も終わり離陸体制に入った機をフェイルンは手を振って見送った。
そして、その夜・・
「なんだ禾人急用って」
「昼間の話だ」
「フェイルンに言ったことか?」
「いやテレビ局の事だ」
「お前に似た人物か?」
「俺に似た人物って言ったらお前だったら誰を想像する」
「そりゃ雪人だろ」
「当たりだ、この女と一緒だったか?」
一枚の写真を取り出してジャンに尋ねる
「この女だが、一体雪人と何が有ったんだお前は・・」
「雪人が裏切った」
「軍を?すなわちオムニだが・・」
「その通りだ」
「グラディウスはその為か?」
「まあな・・で何処のテレビ局だった」
「N―COTVだ」
「この前の核爆発をすっぱ抜いたテレビ局か・・雪人はマスコミを使って優位に話を進める気でいるな」
「お前たち兄弟の関係に首を突っ込む気はないがもしなんだったらファミリーを使え」
「いや、最終決定はオムニ市民が行なうだろう情報操作でどっちに傾くかが勝負だ」
「勝つ自信は有るのか」
「当たり前だ自分の分身に負けるわけがない」
「奴の事を分身って言うから揉めるんだ」
「考え方も容姿も似ている嫌な相手だ」
「そうか」
「で何か手伝う事はあるか?」
「あの局の傍に息の掛かった店は何かないか?」
「ない事も無いが?」
「雪人が次に局に入る時を監視してもらえないか」
「判った」
「よろしく頼む」
「で今夜は泊まっていくんだよな」
「いや、帰るよ」
「珍しいじゃないか、飲んで行かないなんてよ」
「ノエルが帰るのを待っているからな」
「ノエルか・・言っちゃ何だが雪人も好きだったんだよな」
「ああ」
「それも絡んでか・・」
「それは無いと思うが」
「ま、いいノエルに宜しく言っておいてくれ」
「ああではまたな」
「おう」
禾人のオープンカーを見送りながらジャンは部下に指示を与えた
「オムニがまた戦場になる、闇市の準備もしておけ」
「判りました」
「さて、雪人の居所を掴まないと・・野郎もそこにいるはずだ」
着陸したF231にリサが駆け寄って行った
「お疲れ様でした」
「おう、上がったんじゃないのか?」
「今日は奥様の・・いえ少将の仕事の方で残っていました」
「何の仕事だ?」
「撮影です」
「あれのか・・アクターになったのか」
「エキストラですが」
そんな話もしているとノエルが近寄ってくる
「お疲れ様です中将」
「少将、例の作品の撮影は進んだのか?」
「5割がた出来上がっていますが」
「今夜中に出来上がらないか?」
「急ぎますか?」
「事態が変わってきた」
「判りましたジェファニー中佐と私で朝までに仕上げて起きます」
「頼む、私に出来る事は何か無いか」
「休んで於いて下さい、明日の為に」
「コンテナで休んでいる、何かあったら連絡をくれ」
「イエッサー」
「では私が食事をお持ちします」
「キム少佐!貴方は私たちと一緒に作業する事を命じます!」
ノエルはかなりキツイ口調でリサに命令をする
「ノエル!露骨だぞ!」
「やっぱり貴方はリサが良いんでしょ若いし可愛いし子供を産めるし!」
「なにを馬鹿な事を言っている!」
「でも!!」
「でもも糞も無い!少将としての自覚と発言をこの場では命令する!!」
ノエルは手を握り締め
「イエッサー!!!」
横で見ていたリサに対しても
「食事を運んでくるのは秘書官の仕事ではない!この前は仕事を離れたパーティーだったから頼んだだけだ!仕事と私事区別は付ける様に!!」
「イ・・イ・イエッサー!!!」
「各人持ち場へ戻れ!!!」
ノエルとリサは流石に海軍同士である二人揃って返事を返えす!!
「アイサー!!!」
禾人は二人をコンテナから追い出すと天岩戸を決め込んだ
リサがノエルから一寸下がった位置で歩いていくが突然ノエル視界から消えてしまう
慌ててよく見るとノエルはしゃがみ込み泣き出てしいた
「リサ・・ごめんなさい・・判っているんです・・貴方と彼がそんな関係ではない事はでも貴方が羨ましいのです・・空を飛んで彼のそばにいつもいる事が・・ホントに嫌な言い方しまって・・ごめんなさい・・ごめんなさい・・」
リサはこのときに判った
『中将の言っていたノエルは弱い、だからかばって行かなければいけないって』
そしてリサもノエルを支える事を決意したのである。
オムニ今そこにある危機3 第9話 「ワンマンアーミー」
あれから十日が過ぎ朝から禾人が時限爆破装置に細工を施している
「中将、お茶が入りました、奥様のケーキも届いていますので一息されたら如何ですか」
「ああそうしようか」
ドライバーを置きタバコをくわえた
「もう一寸でできるな」
「一体何を作っているのですか?」
「核爆弾」
「え?」
「この前のビデオが既に核爆弾だが此れが更なる決め手になる」
「これで?」
「ああ」
お茶を飲みながら寛いでいるとノエルがやってきた
「中将失礼します」
「なんだ?」
「例のビデオをCDにして来ました」
「此れなら何時でもポケットに入れておける」
「内容の確認はしないのですか?」
「君の仕事だ安心している」
「嬉しいお言葉です」
「少将、今日も午後の訓練はお願いできるのでしょうか?」
「少佐大丈夫ですよ何時もの時間にコースで待っています」
「イエッサー」
「結構上達したのか?」
「少佐は飲み込みも早く素晴らしいドライバーになりますわ、誰かと違って私のドライビングにもビクともしませんから」
ニッコリと微笑みながらノエルが答えた、そうリサはノエルのドライビングテクニックを覚えるべく毎日のようにノエルについて訓練を受けているのである
「スピード感もアクロバットもドールズNo1と言ってもいいからな」
「既に中将の護衛の役目もこなせる位のドライバーにはなっています」
「それは助かる」
「ところでこの所おかしな動きをしていませんか?」
「地球軍に何か動きがあったか?」
「いえ中将の様子がおかしいのですが」
「あの時以来、一線曳いた行動にしているからな」
「リサの事で揉めた時からですか」
「ああ」
「今は言って良かったと思っています、少佐の心も判りましたから」
「そうかそれなら良かった」
「なにか誤魔化されたような気がするのは何故でしょうか」
「誤魔化すつもりはない、一寸した情報を得た」
「どんな?」
「奴はマスコミと接触した、始めるつもりだよ情報合戦からになるだろう」
「でもマスコミなら既にリークしても可笑しくないと思いますが・・」
「どうも雪人の高校時代の友人が絡んでいるようだ」
「どこまで調べているのですか?」
「既に港北重工の内情も連絡がきている」
「政府接収になるのでしょうか?」
「それは無理だろう、奴らの方が武力的には上だ・・」
「珍しいですね、中将が敵を認めるのは」
「キム少佐それは違いますよ、完全な分析と現実主義が彼の基です、それから出された答えは敵の戦力が上」
「その通りだ、力の分析は間違えてはならない、死を招く事もあるからな・・リサ此れだけは必ず守れ自軍の戦力を絶対に間違えるな、人間同士の関係でも隊の能力は上下する此れだけは気をつけろよ」
「アイサー」
「でもリサは貴方が選んだだけの事はありますね」
「どう言う事だ?」
「私の後はジェファニーが継いでくれます、貴方の後はハルゼー大佐ではなくリサを選んだのでしょう」
「それこそ人間同士の関係で隊の能力が半減する」
「ではリサは?」
「エアーズマンを全て任せている」
「そうですか、リサだと思ったのですが」
「さて作業を再開するか」
「では、失礼致します、あ、キム少佐今日は直ぐに始めましょう、午後は会議がありますので」
「アイサー!」
リサを連れてノエルがコンテナを出て行く
「こいつを組み込んで核爆完成と・・」
窓を叩く音にふと見ると窓には一羽の鳩が泊っている
「あれ?ジャンからか・・」
ジャンはとんでもない秘密の話があるときには良く伝書鳩を使う、禾人が手旗やモールスを使うのと同じだがジャンの場合遠いので基地の近くにいる部下のシマから飛ばすのだ、そうすれば禾人と直接連絡する必要が無く盗聴の危険が無いのである。
足から通信缶を外し読む
『奴が入った』
たった一言だけれどもそれで十分わかる言葉だった
「動いたか・・」
禾人は整備員に連絡SRF−2にブースターを装備させコースに出ているリサ達を追った
かなりのスピードを出し障害物を避けていく運転の腕前はノエルと然程変わる物ではないむしろ禾人の方が上のような感じさえ受ける
「いた!」
更にスピードを上げ追いかけながらぼつりと呟いた
「あの馬鹿携帯忘れやがって連絡つけられないじゃないか」
しかし、禾人もかなり慌てている事は間違えない、一斉放送で呼び戻せば良かったのだ
パッシングをして止めようとするが止まらない
「後ろ中将じゃありませんか?」
「そうみたいですね、何か有ったのでしょうか」
「中将って結構運転上手いんですね、障害を簡単にクリアーして着いてきますね」
「それにしてもあのような技術があるなんて言っていませんでした、一寸遊んでみますか?」
ノエルの横に並んだ、止まる様に指示を出すが更にスピードを上げる
「チキンランでもする気かあの馬鹿対抗心出しやがった!」
最終障害に向かって爆走する
「俺には恐怖心が無いというのを判っていない様だな」
多くの戦い中で危険な任務をこなしてきた禾人は、恐怖心という物を病的に失っているカウンセリングを受けたが恐怖心が戻らないのだ
「まだブレーキをかけないのですか?」
禾人がニヤリと笑った、次の瞬間最終障害手前ギリギリでスピンターンを決め止まったのだ
「お見事です中将」
「サッサと止まれ、緊急事態コード001A発令SRF−2スクランブル」
「イエッサー」
リサが禾人の車に移る
「SDS大隊はどのように致しましょう」
「この件は私の独断だ、軍総省にも連絡を入れるな」
「判りました」
「では行こうか」
アクセルを踏み込み一気にSRF−2に向かった
「私の知らない面がまだ有るのですね」
ノエルの知らない禾人、一番楽しい高校時代を兵学校の中で暮らした二人には、まだまだお互いの知らない面があった
滑走路を突き抜けSRF−2へと辿り着くと後部座席に積んであった時限爆破装置を積み込み直す
「それも持って行くのですか?」
「この為に作った物だからな」
「SDS管制、ファイアーフォックス離陸許可を願う」
「こちらSDS管制離陸許可する、飛行経路承認が済んでいない為、離陸後速やかに報告せよ」
「ファイヤーフォックス了解」
「V1、V2、ローテーション」
一気に蒼空へ向けて駆け上がっていく機体
「SDS管制、飛行経路はオムニシティ上空を通過後ナキスト空軍基地に着陸予定、途中BS−12にて空中給油を要請する 以上」
「SDS了解した」
「さてリサ行け!!」
「MAXパワーアフターバーナーオン、ブースターオン」
「30分後に給油それから30分でナキストだ」
「ラジャ」
「遊ぶ暇なしだな」
「たまには良いんじゃないですか?」
「腕が鈍るんだよ」
「ところで中将、車の運転あんなに上手いのに、なんで何時も大人しい運転なのですか?」
「ファイアーレスって言う言葉を知っているか?」
「恐怖心がなくなった人のことですよね?」
「そうだ脳の恐怖に対する反応がなくなってしまったことだが」
「なんの関係があるのですか?」
「俺がそうなんだよ」
「え!」
「だから最前線でも恐怖が無い、兵士としては恐怖心が無いのが最強だがしかし、隣に友人がいて無理な運転をし怪我をさせるのが怖いんだよ」
「それでゆっくりと走るんですか・・」
「ノエルには内緒だぞ、ファイアレスだと知ればなにかと心配するしな」
「判りました・・」
「さて、そろそろ給油だ」
「ST−1011よりファイヤーフォックス」
「こちらファイヤーフォックス感度良好」
「かぁちゃんがミルク持ってきてやったぞ」
「レーダーにタンカーを確認、ブースターOFF、ドップラーレーダー気流探査モード」
「気流確認、タンカーの下に潜り込みます」
「哺乳瓶出してくれ」
「給油ノズルOPEN」
「相対速度調整」
「ドッキング完了給油開始した。」
圧力を上げ強制的に燃料を高速で送り込んでくる、数分で機体、ブースターのタンクが満杯になった
「燃料計MAX、ブースター用酸化剤計MAX」
「こちらファイヤーフォックス腹いっぱいだ」
「では、良い旅を」
「リサ、思いっきり跳ばせ!」
「ラジャ!」
禾人は緊急事態省長官 猪 猛徳に対しマグナフォンを使用して連絡を取り始める
衛星レーザー回線を使った通信である。
「禾人か!」
「イエッサー」
「探していたぞ、緊急事態だ」
「奴らが動きましたか」
「もう判っているのか?」
「だいたいは、ところでそれは情報部から入った話ですか?」
「情報部はあてに成らんよ」
「では何処から」
「大統領宛に降伏勧告が送られてきた、地球カシアス連合軍全権大使連名でな」
「正攻法で来ましたか、それで大統領はなんと」
「当然、受けられる話ではないと」
「おっぱじめて良いのですか?」
「最終勧告まで240時間ある、まだ早いがボスはお前が動くなら構わないと言っている」
「始めは情報戦ですよ、緊急事態コード001A発令を願いいたします」
「反政府民衆陽動の動き有りか」
「その通りです」
「判った、それと大統領が将軍達に非常招集をかけたがお前は出れんな」
「はい、では後ほど」
連絡を終えるときには真下にナキストの町が見えてきた、禾人が腹をくくる時が来たのだ
「中将、着陸態勢に入ります」
無言で前を見つめる
「中将!」
「ああ、」
「ボーとしていないで下さい」
「おう、ギヤダウン、エアブレーキ、」
「フレアー通過、進入角良しタッチダウン」
「さて、車の用意も済んでいるはずだ着替えていくぞ」
「戦闘服のままじゃダメなんですか?」
「戦争をしに行く訳ではない、カモフラージュもいる」
「判りました」
禾人はある人物に電話を掛け始めた
黒塗りの車が数台N―COTV局に停車、目立たないがそれを取り囲み警護する車があちら此方にいる。
「ご苦労だった雪人」
「とんでもありません、カワサキ全権大使」
「今日の放送でオムニの民に問い掛けをしてこちら側に傾けさせると言う君の情報操作は本当に上手くいくのか?」
「邪魔さえ入らなければ例の核爆発が決め手になります」
「邪魔が入る可能性はあるのかね」
「0.1%は見ておかないと成りません」
カワサキの腹心、ブバイ河原大佐が一言言った、その言葉が雪人を憤慨させる
「100%考えるべきだ、君の兄は必ず来るだろう。オムニ最強最高の軍師にして無頼漢、土田禾人空軍中将」
「奴は最高ではない!!」
「そう言う君の部隊は訓練とは言え彼の部隊に勝った事が無いのではないか」
雪人は嫌な顔をするがその事を認めた、ブバイは既に禾人に対する情報を得ていた
「その通りだ、予測のつかない男が私のクローンだ」
「警備は増やした方が良いだろう」
「任せますブバイ大佐」
雪人は苦虫を噛み潰したままカワサキについていった
雪人が姿を消すと一言ブバイが言った
「禾人は逸材だ是非欲しいが何とか成らない物だろうか・・」
禾人は先ほど電話をかけた人物を基地で待っていた、既に体には変装用にラッテクスを貼り付け恰幅のいい身体つきになっている
「誰を待っているんですか?」
「一寸な、処でリサ例の計画はどうなっているか見て来い」
「先ほどの計画ですか?」
「準備が出来たならオペレーションに移すように言ってくれ」
「解りました」
「オペレーションコードは、ウォータードミノだ」
「アイサー」
「港北重工には悪いが先制攻撃させてもらう、危険な兵器を生み出すラインを潰さねばな」
一時間前に付いた禾人たちは、既に配備されていたSDS小隊に指示を出していた。
隊長はファンカンメイ
「ファン中佐、プロジェクトウォータードミノを発動との中将よりの伝令です」
「ラジャ」
「中将の作戦開始に時間合わせ」
「ラジャ」
「ではリサ中将に御武運をと伝えて於いて下さい」
「解りました」
「ファン中佐、御武運を!」
ファンは軽く敬礼を返した
オペレーションを伝えるとリサが戻ってきた
「何をいらいらしているのですか」
「いや」
禾人は放送が始まる前に局への乗り込みたいのだ、やがて女性兵士たちの騒ぐ声がしてくる
「来たか」
「誰です?」
「お前も騒ぐと思うが」
ニタニタ笑いながら声の方へと進んでいく、緊張をほぐすには丁度いい機会であった
「どうもね、君もサイン欲しいの」
次々とサインをして行く
「よう」
禾人の顔を見た瞬間女性兵士達は身を正し敬礼をする
「そのままで良し」
「いよぉ禾人久しぶり、呼び出しとは一体なんだい」
意外と軽い口調で話し掛けてくる
「チュ・チュ・中将こ・こ・この人!」
リサの声が上ずった、それもその筈であるオムニ女性人気投票No1のアクションスター、テイチェンロン、リサのあこがれるスターでもある
「久しぶりだな、一寸内緒の話があるんだが」
「いいとも、お嬢さん方悪いね今日は此処までだ悪いのはこの男だからね」
何処までもファンサービスを忘れない男であった
部屋の中へと三人は入って行く
「中将、チェンロンさんと一体如何言う関係なんですか?」
「今はそんなこと言っている時ではないだろう」
「良いんですよお嬢さんこいつとはね、工科学校のときの同期生なんですよ私は一寸した怪我で軍を離れたんですけどね、で禾人なんで俺を呼んだんだ」
「今日の新聞でお前がN―COTVに出るって書いてあったからチョッと一緒にテレビ局に入れて貰おうと思ってな」
「なんだそんな事か、見学で入ればよかったじゃないか」
「それでは入れない、今日は特別な日だ、地球軍がN―COTVを使ってオムニの分割統治を発表する」
「また戦争か!」
「いやそれを決めるのはオムニの民だ、俺は真実を知ってもらいたいあの核攻撃の真実を・・」
「あれにお前が関与していたのか?」
「核爆弾の奪還が私の隊の役目だった」
「あの人達はいたのかい?」
「いなかったが居たんだよ」
「??」
「不服か?」
「何時もの事だ、で変装を済ませろ放送時間に遅れてしまうニュース番組だから生なんだよ今日の放送は」
「お前の出番は無いぞ」
「俺は正義の味方、オムニのためなら協力するぜ」
「中将はいい友達を沢山持っているんですね」
「悪友が多いのさ」
シルバーーのオープンカーが既に待機している
「中将の車ですよね?」
「情報を得てからこっちに運搬させていたのさ」
「いい車じゃないか」
「ボンドカーだよ、20mm対戦車ライフルとバズーカを後部座席下に仕込み、マグナフォンで連絡、20mm装甲とケプラー&アルファ断衝材、50mm防弾ガラス、6000CCガスタービンエンジンect・・」
「今度俺の映画で使わせてくれよ」
「国家支給品だからジョニーにでも言ってくれ」
「おう言っておく」
「では行こうか」
禾人がポンと肩を叩いた
「ああ」
その頃、軍総省大会議室、所々でヒソヒソ話が聞こえてくる
「緊急事態とは一体なんだ」
「大統領が全将軍と緊急事態省の幹部にも招集をかけるぐらいですからよっぽどの事でしょう」
「荒れるか今日は」
「何時もの調子で土田空軍指令は黙っていれば良いじゃないですか」
「そのつもりだが」
「貴方の秘蔵子、雪人海軍少将が戻って来るまでは」
「ああ雪人に私の後を継がすまでは、上手くやって行かなければいかんからな」
「暴れん坊が足をひっぱらなければ良いのですがね」
「禾人は土田家の恥だ、オムニに背き自分勝手なことばかりするアウトローを気取っているからな、とんでもない奴だノエルの件もある」
「雪人少将に頑張ってもらわないといけませんね」
「全くだ」
「大統領到着!」
下士官の声に全員が立ち上がって出迎えるやがて大統領が席に着くと全員が座した
「全員集まっているのか?SDSはまだ来ていないのか、奴らが一番わかっているから始めても構わないな」
猪 緊急事態省長官が首を縦に振った。
「今日集まって貰ったのは、他でもない地球軍からオムニに対して和平条約の一方的破棄と降伏勧告が送られた来た」
一部の将軍たちから驚きの声が上がる
ジョニーKアイクマンが立ち上がり送られて来た通告文を読み上げる
「通告文を読み上げます、『惑星オムニは地球連合の所有物であり完全独立国家としての地位は認めず即時現政権を解散し地球連合軍大使に全権を引き渡すように命令す、此れに従わない場合は、地球カシアス連合軍による分割統治を行なう。当方は武力による制圧を望まない貴政府の無血開城を節に望む、この勧告に対し無回答の場合は240時間後に最終勧告を通達する 以上 地球連邦全権大使ジェス ジェファーソン カシアス連邦全権大使 カワサキ
ハマー』」
「ついに地球共が動き出したのだが対処についてはどのようにすればよいと思うか」
「無条件降伏はありえない、やる如かないだろう」
「だが敵戦力は解っていないぞ」
「それについては、司令官達は解っているがこれからは知らない将軍たちに対してカシアスの戦力状況をVTRで見てもらいたい」
部屋が暗くなり壁面に平蔵が投影され始めた
「リサ、お前は車に居て呼んだらすぐさま玄関につけろ」
「一緒ではダメなんですか?」
「脱出に必要だ絶対に車を離れるな、トイレはそこに簡易トイレを置いていくお前が失敗したら俺は銃殺か良くてスパイ容疑で拷問、頼むぞ信頼している」
「イエッサー!」
「呼ぶ合図は半径2キロ内に居る敵方の護衛が先ず動き出すその後ろをチンタラ付いて行け、絶対に最後尾だ、後はお前の感と俺とのタイミングだ」
「イエッサー」
「じゃ禾人行こうか」
禾人とテイチェンロンは、テイのマネージャーに連れられてTV局へと向かっていった
「悪いな巻き込んじまって」
「呼んでおいて其れは無いだろう、いざとなったら俺も加わるぜ」
「其れは遠慮しておく」
「さてTV局だ、鬼が出るか蛇が出るか兎も角お前は変装がばれないようにしろよ」
玄関に着くとテイのファンが取り囲んできた
「お嬢さん方すまないね、入らないと間に合わないんだ」
テイの入場を助ける為、警備員が整理に当たる
「望み通りだな」
「良いカモフラージュだ」
「俺の人気は凄いだろう」
「ああ」
テイと一緒の控え室に入って行く禾人
「さて」
荷物から黒の服を出すと着替え始める、目出し帽を被りナイフを足につける
「換気口からスタジオの梁の上に出られるはずだ」
「ああ、ありがとう今度一緒に飲みに行こう」
「頑張れよ」
時限装置を持って換気口の中に姿が消えていった。
「警備の方はどうだ」
「先ほどテイチェンロンが入って行ったきりです」
「テイチェンロン?」
「オムニNo1のアクションスターですよ」
「そうか」
「テイチェンロンと後2人マネージャーらしきのが」
「護衛じゃないのか」
「そうかも知れないですねスターですから」
雪人が口を挟んで補足説明をする
「今日のニュース1500のスペシャルゲストだ、視聴率アップの為の客寄せパンダ」
「なるほど」
「そろそろ、放送時間です」
スタッフが声を掛けてきた
「我々の出番はまだ早いか」
「臨時ニュースでも入らねば予定通りだがな」
ブザーがなり放送が開始される、禾人は時計を見ながら梁への移動を完了させる
「中将予定通りに行っているかしら」
車載テレビを見ながらハンバーガーをぱくつくリサ、時計を見ると15:03後二分で工作員の作戦が開始される
「さて本日のスーパーゲストは、アクションスターテイチェンロンさんです、インタビューは後ほどで、今日の予定ですがこのように成っています」
パネルを指差しながら司会者が解説をする。
「さて時間だ」
「エアフォーム消火システムシステム破壊、防油提内雨水排水バルブ閉鎖破壊、着火」
巨大な爆発音と共に一気にフローティングルーフタンクが燃え上がった、黒煙を高らかに巻き上げる
「なんだ!」
慌てる作業員、非常ベルが鳴り響き工場がパニックになる
「指令!只今港北重工で火災発生しました」
「この基地の距離からだと基地の燃料タンクが危険に曝される、全消火班を向かわせて早急な鎮火に勤めろ」
「イエッサー」
基地から次々と消防車が港北重工に向かう重工も軍の消火班を拒否できない、更に消火用空挺が海水を積んでタンクに向けて飛来する
キャスターに一通の紙が渡される其れを上から見た禾人が第一作戦の開始成功を確信した
「臨時ニュースを申し上げます、只今入りましたニュースによりますと港北重工ナキスト工場において大規模な火災が派生した模様です、現在取材車が現場に向かっていますので詳しい内容がわかり次第お伝えします」
このニュースを聞いて慌てふためいたのが地球カシアス連合である、予定が狂ったと同時に武器の生産ラインに危険が迫っているのである
梁の上からスタジオ全体を見下ろしていた禾人が慌てふためく地球連合軍を見てニヤリと笑ったのだった。
『雪人、全ての主導権は此方で握らせてもらう・・』
オムニ今そこにある危機3 第10話 「真実は何処に・・」
「まさかオムニが動いているのではないだろうな、カルツォーネ中佐」
「オムニの将軍たちは招集を受け軍総省に集まっており、動きは無い」
「その中にSDS指令はいたのか?」
「ブバイ大佐、SDS司令官は遅れてだが空港に入ったのを確認した」
「間違いなく土田禾人中将だな!」
「ノエルと腕を組んで入っているので間違いだろう」
「顔を確認していないのだな!」
「直ぐ部下に確認を取る」
「嫌な予感がする」
だが考える暇を与えず時間は進んで行く
「そろそろ時間ですが延ばしますか?」
「カワサキ中将どのように致しましょう」
「雪人に任せたのだから口を出す必要もないだろう」
「予定通り発表を行ないます、既に大統領宛に勧告文を送った以上、奴らが動く前に発表しないと先手を打たれますから、先ずカシアス代表からそして地球代表に移ります」
ブバイがまた雪人を憤慨させる
「もう遅いかも知れんぞ、既にお前の兄は気が付いて行動を起こしたに違いない、あの港北重工の爆発は間違えなく兵器工場を破壊する目的で行なった物だ」
雪人が声を荒げて言った
「あれを燃やした所で基地の破壊工作は出来まい」
「其れは解らん」
「工場内への立ち入りを禁止して警備を多めに立たせれば良い話だ」
「解った、そうしよう」
カワサキがブバイに耳打ちした
「雪人で本当に良いのか?」
「謝ったかも知れませんが、あれだけの地位を与えればもっと考えるようになるでしょう」
「社長は馬鹿でも専務がしっかりしていれば何とかなるものだ、頼むぞブバイ」
「分かりました」
またメモがキャスターに渡された
『フ、いよいよ奴らは動くか・・ファンの方も気になるが彼女なら大丈夫だろう』
「また、ニュースが問い込んできました、本日は臨時ニュースが多いようでしてインタビューが進みませんが、このニュース大事です、本日オムニ政府に対して次のような勧告文が送られてきたようです。」
会議室に伝令が飛び込んできた
「大統領!只今TVにて勧告文が発表されています!」
「なに!誰かリークしたのか!」
猪が耳打ちする
「其れは無いでしょう、禾人が緊急事態コード001Aを宣言しましたから」
「そうか」
「取り合えずその番組をモニターに写せ」
「判りました」
既にカシアス代表の声明は終わろうとしている
「録画はあるのか?」
「有ります」
「後でみる、このまま地球代表の声明を聞くか」
そのときカシアス代表がとんでもない発言をした・
『最後にオムニに住む皆さんが安心して暮らせるようカシアス統治領には、現オムニの将軍を総統として生活と治安が変わらぬようと考えております』
「誰が裏切った!」
「判りません揃っていない将軍は5名」
『この後、地球代表の声明が終わり次第、彼の紹介を兼ねてオムニ政府の現内情を明らかにいたします。では後ほど』
「顔が出るという事か・・」
「そうですな」
「困った物だ」
「このテレビ局に軍を送るか」
「此方が先に攻撃をしたことになります、控えた方がいいかと」
「わかった」
その頃
「艦長、ヤオ中佐の様子がおかしいのですが」
艦を浮上させて声明を聞いていたフェイルンがおかしいのだ
「如何しましたヤオ中佐」
「副官、何でもありません・・」
「それなら宜しいのですが?」
フェイルンが見たもの其れはカワサキ全権大使の横に立ったナギサの姿である、ヤオが掲示板に貼った写真の人物、騒然と成ったのはフェイルンだけではないSDSも蜂の巣を突っついた騒ぎとなった
「中将が裏切ったらしい・・」
との会話が飛び交う中、ハーディがハルゼーと会話を交わしている
「ハルゼー大佐どう思います」
「中将にそんな話があれば我々にも必ず声をかける、それがあの人の性格だからついて来たのだ」
「しかし・・」
ジェファニーが騒ぎを収める為に動いている
「ほんとそうですね、少将が一緒じゃないですから裏切って奥様が捕虜になったら大変ですし、それと・・」
「俺達が居なければ話に成らないと言うことだ」
「でも人間欲がありますから」
「中将は名前の通りの人だから心配するな」
「名前の通りって」
「一番合った渾名を知らないのか」
「はい」
「この渾名は中将が一番気にしているから教えないが、子供の頃からの渾名だそうだ」
「そうですか」
「どちらにしても始まるぞ先ほどのヤオ大将の命令を発令しろ」
「イエッサー」
「デフコン5発令総員招集!」
デフコン5、外敵勢力に対しての発令である、4は内戦勃発でよく発令される
『リサの言った通りに鮑叔牙が居たか・・』
演説台の直ぐ横の梁に移った、上からのライトが禾人を隠す
『地球代表か下らん演説だ、流石に移民のカシアス代表にはかなわんな』
在り来りの話に呆れる禾人、
『あの話の上手さとナギサが加わっては裏切るのも無理ないか、俺が行っていたら同じになったかな?いやノエルのほうがいい女だ急いで片付けて帰るかな・・』
マイクロワイヤーを降ろして降下の準備に入る
地球代表の声明が終わったのだ
『奴が出てくる』
フェイルンは震える足を堪えながら画面を見つめる
画面右側からナギサに先導されて入ってくる
「お兄ちゃん・・」
丁度、将軍たちも画面を見入る
「禾人か!」
「あの馬鹿者が!」
土田広人が声を張り上げた
「猪、どう言う事だ」
「大統領、大丈夫でしょう、あいつは賢者です」
「これは芝居だと言うのかね」
「敵を欺く為ではないかと思われます」
やがて壇上に立ち正面を向く
「傷が無い!」
フェイルンが叫んだ
「どうしました、中佐」
「傷が・・傷が無いのです」
フェイルンの意味不明の言葉に戸惑う副官
やがて壇上に立った人物が自分の自己紹介を始めた
「私はオムニ海軍少将土田雪人であります」
「雪兄ィ!死んだんじゃないの!」
「死んだと誰が言ったのかね」
何時もは無口な艦長が尋ねた
「禾人おにいちゃんが・・」
「中将が言ったのか!」
フェイルンは我に帰り身を正して答える。
「は!その通りであります」
「そうか・・」
「雪人が裏切ったのか!」
空軍司令官土田広人はへたり込んでしまった
「大統領!直ちに空軍司令官の更迭とSDS司令官解任及びSDS大隊解体要請を致します!」
他の司令官たちが緊急動議を出したがしかし、暗い中SDS司令官が立ち上がり動議を押さえつけたのである
「私の部隊を解体するだとふざけるのではない!」
その姿に一同が驚いた、其れもその筈ヤオフェイロン海軍中将改め、ヤオフェイロン大将なのだから
「既に禾人はSDSを出て独立軍に移っている」
「ハ、しかし空軍司令官の解任は軍内部の規律維持のためには必要と考えます、地球に奴を送り込むのを強行したのは土田空軍指令ですので」
「其れは仕方の無い事だ、広人辞任しろ其れが禾人の為だ、兄弟の殺し合いをお前も見たくは有るまい」
「禾人は、そこまで考えていたのか・・」
「ヤオ大将、既に情報を禾人は掴んでいたというのか!」
「雪人がこのような形で人の前に出てくるとは思っていなかったので秘密裏に処理するつもりだったようだ」
「奴はなぜ直ぐ報告しなかった」
「どんなに嫌っていても父親、悲しませたくは無かったのだろう」
「あいつは優し過ぎるからな」
「だがこの事態どう収める!」
「禾人が動いている、自分を犠牲に諸刃の剣を振り上げる気だ」
ノエルが画面を見ながら、話を遮るように意見を述べた
「彼の話を落ち着いて聞くべきではないでしょうか、今後の対応もありますし」
「判った」
雪人の話は以前大統領が発表したオムニの影を話し終わった唯、内容は更に細部に渡っていたが
「既に私が国民に謝罪した話ではないか!」
「まだ続きがあるようですよ」
「地球から到着する移民船に積まれている物資、其れを横流しし私服を肥やす政治家たち!そして250名もの国民を犠牲に僅かなゲリラを核攻撃にて殲滅した軍!国民を蔑ろにしてまでその権力を維持しようとするオムニ政府を私は許せない!今こそホントの意味において平和なオムニを作ろうではないでしょうか!」
『なに言ってんだか・・しかし結構知っているじゃないか・・さてソロソロだな』
降下準備に入る禾人、瞬時にマイクロワイヤーを滑り降り雪人の横顔に正拳を叩き込んだ受身を取れず転がる雪人を横目にナギサを羽交い絞め、喉にはナイフを突きつける。
即座に演説台上に時限爆破装置を置きスイッチを入れると内部より球形の弾頭が現れた
「核弾頭か!」
ブバイが叫んだ
「ご名答」
禾人が目出し帽を脱ぎながら答えた
「禾人!!!きさま!!」
憎悪の念を込めた声を雪人が上げる
「醜いな、雪人オムニを戦争に引き込み私利私欲を貪ろうと言うのか」
「なに!自分こそ250名の命を奪っておいて何を言う、戦略空軍があれを使用したのは明白だぞ!」
「否定はしない、250名の尊い同胞の命を見殺しにしたのは私の責任だ」
一瞬、地球カシアス連合の動きが止まった。
そう禾人が認めるとは誰もが思わなかったのだ、特にカルツォーネはその驚きを隠せない
唯一人ブバイだけがしまったと言う顔をしている。
「そうか自分で殺した事を認めるか!」
「その通りだ、見殺しにしてしまったのだ、貴様らの策略に乗って・・」
横から兵士が禾人に銃を突きつけるが
「殺せるか、この装置を見ても」
禾人の心音、脳波を検知し核爆弾をコントロールしている、更にナイフの柄にはスイッチ
「止めろ!さがれそいつは最初から死ぬ気だ」
「貴方の名は、何と言う」
「ブバイ河原だ」
「ブバイ将軍か?」
「大佐だ」
「賢明な判断感謝する」
雪人が様子を伺いながら話を続ける
「あれが私たちの策略だと笑わせるな、我々はあのような事をしない何の徳が有る」
「オムニ側が戦争を仕掛けたようにするためだ、核の存在は私よりもお前の方が親父より聞いていたはずだ、其れを知っていて自分たちが攻撃を受けたように仕組んだ、250名の命を奪って」
「オムニ側は、あれは献体だといったな、それは嘘か」
笑いながら雪人が言った
「その通りだ、250名の人間は生きていた」
既に禾人のペースに嵌った、ブバイが苦虫を噛み潰したようになる
「あの日何が遭ったか全部話してやる、V−CDシステムを持って来いこの局のスクープだぜ」
やがてテレビ局の用意したビデオシステムが用意された
「こっちへ持って来い」
再生機が禾人の元へ持ってこられるとすぐさまポケットのCDを再生し出した
ハンバーガーを咥えながらクスリとリサが笑う
「中将なにやってるんだか・・まるで悪者、ソロソロ行きますか」
この状況ではテレビを見ている人間に禾人は乗っ取り犯のようにしか見えない
リサは計画通りに車を待機の位置へと移動させた。
TVには、あの日の基地内及び作戦進行の映像が映し出されはじめる。
『カーゴバードPLD格納プレートオープン、敵の迎撃に注意せよ』
『敵迎撃無』
『索敵』
『敵反応無』
『格納庫確認』
『格納庫の両サイドへ着陸する、ミリーとフェイスは東側、私とアイクは西側』
『イエッサー』
『こちらヤオ、島の裏側に展開終了、索敵を開始する』
『了解』
『フェイス、プローブ』
『索敵開始します』
『敵反応無、爆発物反応無』
『侵入する、フェイスWRで索敵続行、ミリーはフェイスの援護、アイクは私のバックアップ』
『イエッサー』
『ヤオ中佐、これから格納庫へ侵入します、其方の状況は』
『こちらヤオ、町がある』
『町?この島には無い筈です』
『建物に人が縛られて閉じ込められている』
『どう言う事ですか?』
『私が聞きたいぐらいだ、何かの為の人質ではないか』
人質のアップが映し出されるがよく見るとリサである、その他もドールズが主体、雪人の判らないメンバーが正面に来ている
『こちらSDSコントロール、中将よりの指令です人質と思われる方々の開放は制圧隊に任せ索敵を続行せよ以上』
『了解』
『おかしい?』
『確かにおかしいです』
『これだけの証拠を残して消えるわけ無いわね。』
『敵ミサイルを発射した着弾まで6分!』
『ミリー!この島の最高点の高さは!』
『標高300mです』
『李制圧隊に中止命令!すぐさま引き返すように!』
『了解!』
『セルマ大尉、直ちに岸壁まで後退!』
『弾着までのカウント開始して!』
『すでにマークが撃墜体制に成っていますが』
『撃墜しても!』
『了解!着弾まで300秒299・298・・
『フェイス!グレネード発煙弾で私の投げたプローブ打てる!』
『ハイ』
『それでは投げるから!山頂めがけて上がるように撃って!壊さない様に弾くのよ!』
『こちらマーク、弾道弾を撃墜』
『200・199…』
『壊れてない様ね、探査開始』
『こちらミチコ、防波堤まで撤退完了』
『150・149…』
『対人反応無、金属反応有り、火薬反応有り』
『放射線量、現位置のバックグランドより山頂の方が高い!』
『B−3、111号機アルゼン空軍基地に着陸、警備班乗り込みと同時に爆発、死者5名!』
『100・99・・』
『SDS!本島において核爆発の可能性あり』
『こちらSDS全機!海中に待避せよ!』
『人質は!』
『助け出す余裕は無い!』
『でも!』
『でももクソも無い!助かる可能性のあるお前達が退避せよ!』
『嫌です!見殺しに出来ません!』
『あと20秒で何が出来る!』
『それでも!』
『SDSコントロール、ヤオ機強制停止!ミチコ!投げ込め!』
ミリーの機を投げ込んだ映像を利用したのだ
『総員退避!』
言うが早いか、3機のローダーは海中へ身を投じる
カメラが停止する寸前、強烈な閃光が海上に発生した事を伝えた
『中将、先程のデーター解析結果で250名の対人反応がありました』
『250名か・・』
『あとミチコ機がヤオ中佐を助けた為に安全深度を取れなかったようです』
此処で禾人はビデオを停止した。
禾人の演技が続く
「私は・・部下を助ける為に・・250名の命を犠牲にした・・」
涙を流しながら訴える
「罪は私にある・・」
そして、胸から一枚の写真を取り出して
「今、一人はこうなっている・・」
写真には特殊メーキャップを施したミチコが写っていた
カメラが写真をアップにする
「うっ!!」
思わず目を背ける者が続出
「此れで私がなんでこの場に現れたか判るだろう!」
禾人が声を荒げて更に話を続ける
「報復の魔王が再び戦場に来たんだ、ありがたく思え!雪人!ルシフェルと化した我が力思い知るが良い!」
禾人の顔が魔王と呼ばれるのに相応しい形相となった
「この局の人には悪いがこの場で全てを片付けさせ貰う、あの世で総てを詫びるから先に逝った250名と一緒に・・」
「話が違う!カルツォーネ中佐どうなっている!!!」
ブバイが慌てての雪人の発言を抑えようとしたが
「作戦通り献体250を私はちゃんと用意した!!!」
「チョッと待て」
ゲストに来ていたテイチェンロンが雪人たちに問い掛けた
「それでは彼が、いやオムニ大統領が言った敵の策略が真実じゃないか!あんたらはそうやってオムニの民を戦争に引き釣り込もうとしたのか!」
苦虫を噛み潰した雪人たちが映し出される、先程の会話も総て映し出されている
「タイムアップだ・・」
禾人が一言言うとテイチェンロンは慌てて目を瞑った
ナギサの手に一枚のメモを禾人は握らせるとナイフのスイッチを押し込む
凄まじい閃光と轟音が響き渡る
禾人は隙を突いて人の間をすり抜け廊下へと駆け窓へ向かって発砲ガラスにヒビの入ったのを見るや否や窓に体当たりし外へと飛び出す
核弾頭に見せ掛けたスタングレネード
「ワオォォォ!!!」
三階の窓から飛び降りた禾人が奇声を上げる、下は噴水見事に飛び込んだ
「いて!」
車のブレーキ音が響く
「お疲れ様です中将」
慌てて車に飛び乗ると急発進
「逃げるぞ!」
「イエッサー!」
「追え!」
地球カシアス連合の護衛たちが追ってくるが
「リサ!ファンに最終指令!TKO!」
「ラジャ!」
リサはマグナフォンでファンと連絡を取り出した
「こちらファン」
「ファイナルアプローチTKO発令です」
「ラジャ!」
禾人が頭を拭きながら後部の敵の追跡を監視する
「跳ばせ飛ばせ!」
「何処まで!」
「空港に決まっているだろう!」
「基地じゃないんですか!」
「此れで帰ったらオムニの先制攻撃だ!」
「イエッサー!」
「でも噛ましているけどな」
約2時間半前
「中将、では、港北重工に対して攻撃を行なうと?」
「ファン中佐、誰が攻撃と言った、事故だ巨大な地下開発センター上の15万キロFRTが火災を起こし、消火に使った水が防油提内に溜まりタンク内にも水が溜まる、設計ミスだ地下室の上にタンクを杭も打たず立てた為に重さで陥没、使った水も海水で比重が大きくてなんて不幸な事故なんだろう」
ギロッと廻りを見回すと
「消火は重工の私設では間に合わず、ナキスト空軍基地の消防と消火用空挺が行なった結果、地下施設がある事は解らず消火を続けたと・・解ったな!!」
「イエッサー!!」
「発火は、ニュース1500が始まった5分後だ」
タンクと防油提内に貯めた海水の重みで地下設備を潰してしまおうという禾人の作戦、地下施設カモフラージュ用の燃料タンクが仇となった
そして作戦進行中
「消火艇、横一線隊形で一斉投下せよ」
「こちら消火艇了解」
「全消火班、退避!」
「なにをする気だ!」
「もう満水状態です、表面の火を一気に消すのです」
「判った!」
工場長はファンの話を鵜呑みにした
「ミチコ、良い?」
「マフィル大尉からOKサインが来ています」
「タイミング合わせ」
「ラジャ!」
「中将の最大指令無血破壊は可能?」
「先程から地下に水が入り始めた為、作業員が退避したのを確認しています。」
「それでは、カウントダウン!」
消火艇が進入してくる
「3・2・1・0!支柱爆破」
同時に水が投下され、轟音と共に地面が陥没した地下三層がドミノ倒しに潰れていく
「なんですか此れは!」
ファンが白々しく尋ねたが放心状態で何も答えられない工場長
「消火終了!総員帰還せよ」
ファンたちは何も無かったように基地へと帰っていった
その頃スタジオではキャスターが詰め寄っていた
「貴方たちは核攻撃で被害者をわざと出す為に250名もの人を殺したのか」
「いや・・」
答えられない地球カシアス連合
テイが再びビデオを回し出す
撮影の撤収風景が映し出される
「特撮か!」
ノエルがメガホンを握り締めデレクターチェアーに座っている
縛られていたリサが解かれ手をふる
ミチコがメイクを取りベッドから起き上がる
「此れで地球の方もホントの事を言ってくれますね」
禾人が横で笑ったそしてメッセージを送った
「このビデオはあくまでもフィクションです、オムニは核を作りました其れは事実そして、其れを奪って地球側は、攻撃を受けたように見せかけました献体を奪って多くの人が死んだように見せかけたのです」
チョッと間をおきながら更に話を続ける
「彼らの言うオムニの影の部分はホントの事でしょう、もし彼らが姑息な手段を使わず正々堂々来たならば私も思想があった側に付いていたかもしれません、しかし、考えてみてください分割統治で幸せになった国は無いのです、北と南で戦った国が多くあった事を思い出してください、地球とカシアスが同時歩調の時はいいのです、だが一旦火が付けば、オムニを完全二分して最大の戦争になります、だから一つの国家がいいのです、しかし選択権は貴方方に有ります国民の総意が総てです、私の話は此れだけです、では皆さんの懸命なる選択を・・」
テイが一言言った
「おれは、オムニがいい!核を躊躇せず使うような奴らの国家では二分して戦う時が恐ろしい!」
此れも禾人の作戦である、一流スターの意見は結構聞く物である
ブバイがポツリと呟いた
「欲しかったな奴は最高の軍師だ・・」
更に火災現場に着いた取材班の映像が届くと諦めにも近い声が上がる
「此処までやられるとは、兄を超えられないだろう雪人」
「奴を始末すればいいんだ!この俺の手で!」
「あの輸送機に突っ込め後部格納タラップが開いているから!」
「軍のじゃないですよ!」
「大枚叩いてチャーターしたんだ!」
「了解」
禾人達を積み込むと一気に上空へと上昇した
「何処へ行くのです?」
「オムニシティエアーズマンだ」
「なぜ?」
「面白いショーがある」
「ブバイ少将、先程此れを渡されたのですが・・」
ナギサがメモを見せる
『宜しかったらエアーズマンホテルへどうぞ、チャーター機をナキスト空港に用意しています、オムニシティ空港にはリムジンを用意わからないようにお運びします』
「此れは、罠に決まっている!」
雪人が声を荒げた
「行ってみるのも余興として面白い」
ブバイが禾人の遊び心を察したのだ、戦争をしたくないのが奴の考え
「ナギサ行ってみるか?」
「はい、あの時私が誰かと判っていて逃したのですから、今回も大丈夫だと思います」
「雪人はどうする」
「俺をよんでいるのは確かだ行かねばならない」
三人は空港へと向かっていった
続く
続く