仁義なき闘い

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裏銀座・三俣山荘にて -- おばはん軍団 VS バイトの女の子

アルプス銀座通りの山小屋は、個性ある名物を持っているところが多い。三俣山荘はサイフォンで淹れた本格コーヒーとケーキが有名だ。ここで幕営することになったかつりんと相棒Kはテントを設営するとすぐに小屋の2階にある「展望レストラン」に向かった。時刻は15:00少し前であった。
店に入って早速ケーキセットを注文すると、アルバイトと思われる20歳前後の女性が「すみません、もうすぐ食事の準備に入るんです」と申し訳なさそうに言った。展望レストランは小屋の食堂でもあるのだ。今日は海の日を含んだ連休中で小屋は大混雑、そのため食事は交代制で、トップバッターは16:00からという。その支度を始めるというのだ。ただ、ケーキは外で食べて、食べ終わったら食器を返しに来てくれればよいというので、かつりんたちはそうすることにして、とりあえず店内でコーヒーの出来あがりを待つことにした。
そこにおばはんが3人も入ってきた。う、イヤな予感
「ねーねー、○○さん、このケーキがいーわよー」
「あのう、すみません、もうすぐ閉店なんです」
「あら、何時?」
「3時です」
「あら、じゃー10分あるじゃない」「だいじょーぶ、ケーキなんてすぐよ、10分で食べればいいんでしょ」「あたしこのレアチーズにしよ」
言いながらどかどかとかつりんたちの隣のテーブルについた。予感は的中した。この連中は手ごわいぞ。

少しして、
「あーどっこいしょ」の声とともに、さらにおばはんが2人もやってきた。
「○○さん、遅いじゃなーい、なんにする」「「あたしコーヒーだけでいーわー」
なんとこいつらは仲間で、軍団は5人にふくれあがった。
コーヒーは一回ずつサイフォンで淹れるから意外と時間がかかるんだよなー、などと思っているうちにバイトの彼女がかつりんたちのケーキセットを運んできた。先ほど言われたとおり、外で食べようと思い席を立とうとすると
「中で(食べて)結構ですよ」という。
「え、でも、準備するんでしょ」
「ええ、準備と言ってもまずはテーブルを片付けるだけですし・・・」
彼女はそう言ってから声をひそめ、
「それに、たぶんこの方たちが・・・」 と言っておばはん軍団の方を らっと見た。 かつりんたちも思わず苦笑し、「じゃあ、遠慮なく」といただくことにした。おそらく彼女は 「たぶん」 のところは 「どうせ」 と言いたかったのだろう。 「この方たち」 のところは 「#◎※%&$」 に違いない。
かつりんたちがケーキを食べ終わったころ、予想通り、おばはんたちは談笑の最中であった。

食後、小屋前を少し散歩したあと、相棒Kがトイレに行くというので、レストラン入り口の階段の下で待つことにした。すると、さきほどのおばはん軍団5人組が降りてきたずいぶん長居したもんだなあと思っていると・・・
「あらー、○○さーん」「あらー、どうおー、おいしかった?」
わ、また3人増えた!まだ仲間がいたのか!
「もうごはんの支度するから終わりなんだって」「でもまだ大丈夫かもよ」「そうそう、行ってみたら?」
ちっとも大丈夫なんかじゃない。
おばはん追加分3人は意気揚々と階段を上がっていったが、さすがに追い出されたらしく、あっという間に引き返してきた。まあ、当然だ。そしてすぐあとで今度はバイトの彼女がすごい勢いで飛び出してきた。どうしたんだろう、と思って見ていると、階段下にホワイトボードがあってメニューが書いてあったのだが、それを「準備中」と書き替えたのだった。
この勝負、「どうせ」と思ったあたりではバイトが優勢だったが、「準備中」にするのを忘れていたため、引き分け

蝦夷征伐 -- かつりん VS 北の荒くれ者たち

北海道の山の魅力はその大らかさである。が、そのため登山者自身も大らかになってしまうようであり、せせこましい性格の私との争いは絶えない。
以下は私の数度にわたる大雪山行において展開された、いくつかの激闘の記録である。

1回戦・トムラウシ山頂にて

念願かなってようやく憧れのトムラウシ山頂に立ったかつりん。山頂に着いたときには他には登山者は中年夫婦一組だけで、静かな山頂に感慨もひとしおである。さて、よく見ればこの夫婦のダンナの方は職場の大先輩・S田さんにそっくりだ。ずいぶん似た人がいるもんだ、と思っていると、突然足元にシマリスがやってきた。
夫「おや?リスがいるぞ、リス」
妻「あら〜かわいいわねえ〜」
夫「エサやってみよう。なんかないか?」
妻「ほら、これ」
とザックからピーナツを取り出してあたりに撒き散らし始めた。シマリスはそーっと寄って、食べ始めた。
夫「おっ、食べた、食べた」
妻「まーかわいー」
見かねたかつりんは、意を決して声をかけた。
「あのう、野生の生き物に、エサはやらないほうがいいんじゃ・・・
するとS田さんは
「ん?いや、なに、たまには、やらないとね」と、意味不明の言い訳をしながらなおもピーナツを撒き散らす
「クマにあげるわけじゃないしね」
かつりんは唖然としたが、他に登山者がいない現状では、S田さん夫婦以外に登頂記念写真のシャッターを押してもらう人がいないので、関係悪化は得策でないと判断し、それ以上の忠告は差し控えた。S田さんは快くシャッターボタンを押してくれた
それから、日差しが強いので日陰に陣取ってブランデーケーキでお茶していると、たぶん先ほどのと同じシマリスが我々の元にやってきて、しきりに愛嬌をふりまいている。
エサはあげないよ。自分でさがすことだね。それが君のためでもあるんだ
そう語りかけたがリスにわかるはずもない。リスは我々がエサを与えないと見るや、我々のケーキに飛びかかろうとザックに前足を乗せて身構えた。実力行使か、では、勝負だ! ケーキを手でさえぎるようにして食べていると、リスは今度はゴミ袋を窺いはじめた。むう、おぬし、なかなかやるのう!
そうこうしながら無事にティータイムは終了し、なんとかリスとの闘いには勝利をおさめたのだった。リスは後からやってきた登山者の元に転戦していった。
帰宅して写真をプリントしてみると、S田さんに撮ってもらったトムラウシ山頂記念写真は、バックが真っ白で、ただ標識と人間だけしか写っていない、センス0のどーしよーもない写真であった。旭岳を背にしてキメたはずなのに、一体どこをどうすればこんな背景にできるのか、全く不思議な出来映えに、完膚なきまでに叩きのめされたかつりんであった。
トムラウシの山頂は今もリスの食べ残したピーナツが散らかっているに違いない。

2回戦・黒岳にて

大雪山黒岳はロープウェイ・リフトと乗り継げば楽に7合目まで上がれ、道も歩きやすく、山登りの初心者でも歩けるたいへんポピュラーな山だ。そんなわけで団体が多く、登山道はしばしば渋滞となる。
この日、やはりかつりんたちも10人くらいのグループに巻き込まれた。われわれは足が速い方ではないし、また特に先を急いでいたというわけではない。しかし、数歩歩いては前がつかえる状態。先行者も分かっているはずなのに道を譲る気配もない。まあ初心者グループじゃあ仕方ないか。しかしどうにもイライラする。リーダーとかいるんだろ、しっかり周り見てくれよ。
いい加減うんざりしてきて、これは精神衛生上よろしくないと思い、ついに声をかけた。
「すいません、道あけてもらえませんか」
するとみんな顔を見合わせている。ん?・・・ややあって、伝言ゲームが始まった。
「道空けてくださいって」「道あけろだって」「道を・・・」
伝言は進み、先頭のおっさんを含む3人が道端に避けた。すると他の7人は3人を追い越して進んでいくではないか。

・・・・・・!!!

そうだったのか。この10人は1グループじゃなかったのだ。みんな我慢していたのか、3人を抜き去ると先へと散っていった。
みんなよく黙ってついてたなー、と思いながら件の3人を抜き去ろうとしたそのとき、先頭のおっさんが
「はいはい、ウサギさん、がんばってー」
かつりんは呆然として言葉を失った。いくらなんでもそりゃあねえだろ。誰のせいで渋滞したと思ってんだよ。普通は無言か、逆に「すみません」とか一声かける人もいるくれーだぞ。んなろー、ぜってえてめーみてーな亀ジジイなんかに抜かれねーぞ。
この勝負、ここから急にピッチを上げて先に登頂し、おかげでその後の行程も楽になったかつりんの勝利である。

3回戦・裾合平にて

7月中旬、旭岳のふもとに広がる裾合平ではチングルマの大群落が盛りであった。この見事な花畑は、ロープウェイ姿見駅からも2時間ほどと手ごろな距離で、人々がたくさんやってくるのである。
道には木道が敷いてあるが、もともとえぐれている道に敷いたものなので、木道の周りは土が露出している部分がかなりある。
かつりんたちの目の前を歩いていたおばさん2人が「ほらここから見るときれいよ」「すんごいわねえ」と突如、木道から土の部分に降りた。木道の存在理由を知らないのだ。
あまりにも目の前だったので思わずかつりんは
「木道から降りるとグリーンパトロールに叱られますよ」
「あ、そうなの」
おばさんは木道に戻った。すると向かいからやってきた人が
「木道から降りないでくださいねー」
「はーい」
腕章を見ると、なんと偶然にもパークボランティアの人だった。
「でしょ」「はい。すみませんでした」「いや僕にあやまられても」
かつりんはなんだか可笑しくなったのだった。

しかし木道を平気で降りる人がやけに多いような気がする。すれ違う人の10人に1人くらいは平気で地面に降りている感じだ。みんな、木道の存在理由を知らないのだ。まあ見たところ、ちょっと降りてもすぐに戻るし、自分はパトロールでもなんでもないので黙っていた。しかし、そのうちひとりのおぢさんが木道を降りて自由気ままに闊歩し始めた。右にうろうろ、木道をまたいでまた左をうろうろ。いくらなんでも目に余る。そこでかつりんは一計を案じた。
「はーい、そこ、木道から降りないでくださーい」
と、パトロールのふりして注意すると、おぢさんはきょとんとした顔をしていた。かつりんは腕章などしていないので、何者だろうと思ったに違いない。「お前はいったい何の権利でそんなこと言うんだ」と逆ギレされたら「グリーンパトロールです。今日は休暇中です」と言い返してやろうとどきどきしながら待っていたが、おぢさんはやがて、大物政治家が『ああ、すまんすまん』というときのように無言のまま右手をかざして木道に帰り、素直に木道を歩いて去っていった。ちょっと肩透かしをくらったように思った。
この勝負、おぢさんに勝ったような気がするが、考えてみれば「木道は、歩きやすさのためではなく、自然を保護するために存在するのだ」という大事なことを伝えそこなったので、引き分けである。

4回戦・トムラウシ下山路にて

2度目のトムラウシ山登頂を終えたかつりんは感激に浸りながら頂上を後にして、下山の最中であった。
頂上直下のガレ場で、下から6人のパーティが登ってくるのが見えた。おばさん4人とおぢさん2人だ。いやに軽装なのはヒサゴ沼にでもザックを置いてきたからだろうか。なにやらしきりに喚きながら登ってくる。そんなにしゃべりながら歩いてよく疲れないなー、と感心したその瞬間、6人のうちおばさん3人が突如、山頂部の一帯で一番美しいエゾツガザクラの花畑に腰を下ろし始めた。そこら中に岩がたくさんあるのに、なんでまたよりによって花の上に。
残りの3人はそのまま登ってきてかつりんの傍まで来て
「はぁ、はぁ、あの、山頂は、もう少しですか」
かつりんはそれには答えず
「山頂とかなんとか言う前に、あんたら花の上に座っちゃだめでしょーが
と、思わず怒った口調で言うと、ぱっと振り返って、
「こぉらぁ。花の上に座ってんのだぁれだ」
と仲間を注意。すると、普通は「あっ、ごめんなさい」とか言ってバツが悪そうにするもんだが、なんとこいつらは
「いんやいや。座ってないよー。腰浮かしてるよー」
「お尻が細くなったのー、だからだいじょうぶー」
「・・・」(←無言)
としぶしぶ立ち上がった。しかもこいつら登ってきてすれ違いざまに
「こんにちはー」 「こんにちはー」 「こんにちはー」
かつりんは、ほんとうに、文字通り、開いた口がふさがらなかった。やはり自覚はゼロのようだ。挨拶は当然無視してやった。というより、口が開いたままだったので挨拶など返せるはずもなかった。
んな、挨拶なんかに気ィ遣う余裕があるんなら、山に気ィ遣ってくれ。
と思いつつ、目の前にナキウサギが佇んでいたのを教えてやらずに、自分たちだけでそのかわいい姿を楽しんだかつりんの勝利である。