1 疾風怒涛焼き鳥編 -- ようこちゃん VS かつりん

みなが夕食をとりはじめたころ、奥でオカリナを吹いていた女の子3人組も「こんにちはー」ときゃぴきゃぴ笑顔を振りまきながら自分達のテントに帰っていきました。わたくしたちの2つ隣、キャンプ場入り口そばの8人用くらいの大テントでした。今日は眠れない夜になる、そんな予感が確信へと変わったのはこのときでございました。しかも、それは見事に的中することになるのでございます。しかしまさか、あれほどの凄まじい闘いになろうとは、神ならぬわたくしがどうして知り得ましょうか?ああ、思い出すだに恐ろしい!! 山には、神も仏もマナーもないのでしょうか!!!
4時をまわるとあちこちで夕食の準備が始まった。かつりんたちの隣のテントの夫婦の夕食はなんと金網持参で焼き鳥だ。香ばしい煙の匂いに周囲の注目が集まる。かつりんも負けじとシャンパンを出した。すると焼き鳥オヤジがすかさず
「おおっ、しゃんぺーんだねぇ、いいねえ」
オヤジの口調はすでに酔っている。そのときかつりんは思った。
(しまった。獲られる!!!)
シャンパンはハーフボトル、人にくれてやるほど量はない。いくら焼きたてでも焼き鳥と交換じゃ割りにあわない。しかしここでオヤジにスケベ心が出たのか、焼き鳥は向う隣の単独行の女性の手にわたり、その隙にテントの中に逃げ込んだかつりんはほっと一安心した。
外では焼き鳥オヤジが
「あれー、しゃんぺーんがないぞう」
とぶつぶつ言っているのを聞いて、(だれがてめえなんかにやるもんか)と勝利の美酒に酔うかつりん。しかし、ここで勝負は決したわけではなかったのだ。
かつりんたちは寝るのが早い。いつも日が沈む前には寝てしまう。この日も、シャンパンの酔いもあって、6時前にはすうっと眠りについたのだが......
「ようこちゃーんんん」
突然の叫びに目が覚めた。(あんだよ、目ぇ覚めちまったよ)
「ようこちゃーんんんん」(この酔っ払い、小屋でおとなしくしてろ)時計を見ると、7時だ。まわりもかなり静かになっている。
「ようこちゃーんんんんん」
(あ、あれ、だんだん近づいてくるぞ?)
「おーい、愛知県のようこちゃーん、どこだよーう」
なんと、かつりんたちのテントの前に人影が!!(のわあああ、目の前で止まったぞ!?)
「ここかな?」
(な、なんだと?)
入ってきたらぶん殴ってやろうとかつりんが身構えたそのとき、隣の焼き鳥テントから
「ちょおっと、うるさいじゃないの、静かにしなさいよ」
(おおっ、焼き鳥夫人だ、助かった.....)
「まわりみんな寝てるのよ」
(そうだそうだ、言ってやれ、言ってやれ)
しかし、頼もしい助っ人を得たと思ったその直後、かつりんは打ちのめされるのだった。