仁義なき闘い ・ 鳳凰キャンプ場にて

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1 疾風怒涛焼き鳥編 -- ようこちゃん VS かつりん

鳳凰テント場
その日のテント場の様子でございます・・・
あれは10月10日、キャンプ場はたいへんな混雑でございました。びっちりと隙間なく張られたテント。人々のざわめきと、響き渡るオカリナの音。今日は眠れない夜になる、そんな不吉な予感がしたものでございます。
みなが夕食をとりはじめたころ、奥でオカリナを吹いていた女の子3人組も「こんにちはー」ときゃぴきゃぴ笑顔を振りまきながら自分達のテントに帰っていきました。わたくしたちの2つ隣、キャンプ場入り口そばの8人用くらいの大テントでした。今日は眠れない夜になる、そんな予感が確信へと変わったのはこのときでございました。しかも、それは見事に的中することになるのでございます。しかしまさか、あれほどの凄まじい闘いになろうとは、神ならぬわたくしがどうして知り得ましょうか?ああ、思い出すだに恐ろしい!! 山には、神も仏もマナーもないのでしょうか!!!
4時をまわるとあちこちで夕食の準備が始まった。かつりんたちの隣のテントの夫婦の夕食はなんと金網持参で焼き鳥だ。香ばしい煙の匂いに周囲の注目が集まる。かつりんも負けじとシャンパンを出した。すると焼き鳥オヤジがすかさず
「おおっ、しゃんぺーんだねぇ、いいねえ」
オヤジの口調はすでに酔っている。そのときかつりんは思った。
しまった。獲られる!!!
シャンパンはハーフボトル、人にくれてやるほど量はない。いくら焼きたてでも焼き鳥と交換じゃ割りにあわない。しかしここでオヤジにスケベ心が出たのか、焼き鳥は向う隣の単独行の女性の手にわたり、その隙にテントの中に逃げ込んだかつりんはほっと一安心した。
外では焼き鳥オヤジが
「あれー、しゃんぺーんがないぞう」
とぶつぶつ言っているのを聞いて、(だれがてめえなんかにやるもんか)と勝利の美酒に酔うかつりん。しかし、ここで勝負は決したわけではなかったのだ。

かつりんたちは寝るのが早い。いつも日が沈む前には寝てしまう。この日も、シャンパンの酔いもあって、6時前にはすうっと眠りについたのだが......

「ようこちゃーん
突然の叫びに目が覚めた。(あんだよ、目ぇ覚めちまったよ)
「ようこちゃーん
(この酔っ払い、小屋でおとなしくしてろ)時計を見ると、7時だ。まわりもかなり静かになっている。
「ようこちゃーん
(あ、あれ、だんだん近づいてくるぞ?)
なんと、かつりんたちのテントの前に人影が!!(のわあああ、目の前で止まったぞ!?)
「ここかな?」
(な、なんだと?)

入ってきたらぶん殴ってやろうとかつりんが身構えたそのとき、隣の焼き鳥テントから

「ちょおっと、うるさいじゃないの、静かにしなさいよ」
(おおっ、焼き鳥夫人だ、助かった.....)
「まわりみんな寝てるのよ」
(そうだそうだ、言ってやれ、言ってやれ)

しかし、頼もしい助っ人を得たと思ったその直後、かつりんは打ちのめされるのだった。

2 人外魔境不死鳥編 -- ようこちゃん VS かつりん

賢明なる読者諸氏にはすでにお気づきのことと思うが、しかし、この後に及んでまだかつりんは気付いていなかったのだ。



えっ???
この酔っ払いは隣の焼き鳥オヤジだったのか!!!!

そう、かつりんには良識ある(はずの)キャンプ愛好者がこんなに酔っ払うとは考えられなかったのだ。「どうせこの酔っぱらいも、小屋内部が狭いので周辺のキャンプ場が混んでいるにもかかわらず本来テントを張るべき敷地を占領して宴会を始めるような○○新聞主催のお気楽お手軽登山ツアーの一味に違いない」と思っていたのである。

夫「なあんで返事してくれなかったのう」
妻「・・・・・・」
夫「真っ暗でなんにもみえないねえ」
妻「静かにしてよ」
夫「懐中電灯がつかないんだよう」
がさがさがさ。
妻「電池が反対じゃないのよ、もう」
夫「そんなに夫を邪険にするもんじゃありませんよ
妻「・・・・・・」
夫「おれは酔っぱらってるぞう
妻「・・・・・・」

今日のキャンプ場はたいへんな混みようだ。薄い布きれがフライも含めて都合4枚、かつりんたちと焼き鳥オヤジたちの間に存在するだけである。会話は目前で行われているのも同然なのだ。
しかし、歴戦の勇者かつりんはへこたれない。敵はこれだけへべれけに酔っているのだ、すぐに寝てしまうに違いない
かつりんは闘争の展開をすばやく予測して、焼き鳥オヤジが寝入った瞬間に自らも寝るべく準備を整えた。

夫「真っ暗だけどちゃんとテントまでたどり着けたぞう」
妻「・・・・・・」
夫「えらいでしょう」
妻「・・・・・・」
夫「あれえ、この寝袋、あかないなあ」
妻「なによ、もう」
夫「チャックがあかないんだよう、寒いんだよお」

くああああ、このクソジジイ!!!てめえシュラフの使い方くらい知ってんじゃねえのかよお。 酔っぱらいはすぐに寝るもんだ、とっとと寝やがれ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

妻「だからー、そっちを向いてー・・・・・・・」
夫「がさごそがさごそがさがさごそがさごそ あれれえ がさごそがさごそがさごそ あれえ? がさごそがさごそ」
妻「だからー、もう、しっかりしてよ」
夫「今日はマイナス10度だからあったかくしなきゃあねえ」

わかってんじゃんよ。そんだったら酒であったまってるうちに早く寝なよ。

夫「みーんなさあ、談話室にいたんだよう。ようこちゃんも来ればよかったのにい」
妻「・・・・・・」
夫「夫をそんなに邪険にするもんじゃありません
妻「いいから早く寝てよ、もう」
夫「そうだ、隣の若いの呼んでこよう、しゃんぺーーんがあったなあ」

へっ!?凍りつくかつりんたち。

妻「なに言ってんのよ、もう寝なさい」
夫「夫をそんなに邪険にするもんじゃありませんよお
妻「いいかげんにしてよ、もう。なんでそんなに飲むのよ」

そうだよ、ようこちゃんのいうこときけよ。

夫「だってさ、みんな談話室でさ」
妻「・・・・・・」
夫「今日はマイナス20度だから寒いよう」
妻「・・・・・・」


ん? おおっ、やっと寝たか。
時刻は8時少し前。ほっとして、眠りにつこうとするかつりん。
今度こそ勝負は決したかに見えた。
しかし。行く手には新たなる敵が待ちうけていたのである。鼾ではない

3 大噴出魑魅魍魎編 -- かつりん VS 魔物軍団

焼き鳥オヤジはついに眠った。激しい鼾であったが、今までの騒ぎに比べれば静謐の極みといえた
ついに焼き鳥をノックアウトした。思えば、激しい戦闘であった。寝入りばなをたたき起こされ、頭が痛いと言って頭痛薬を飲んだ相棒Kは戦線離脱、薬が効いて眠りの淵へと往った。相棒Kはこれより後の更に過酷で熾烈な闘いを知らない。(←幸せ者)

徐々に、あたりは静かになってきた。しかし、1グループだけがまだ話し込んでいるようだった。
静かな中に少しだけ声が聞こえるのも、かえって気になってうるさく感じるものである。
声の様子からすると、どうやら若者らしい。

「うふふふ」「くすくすくすくす」

はっ。もしや。
かつりんには思い当たる節があった。
あの女の子達...... そう、オカリナ3人組だ。さては、2つ隣の大テントに違いない。声もそちらから聞こえてくる。

「○○くんがさーあー」「えー、あのときいー」「明日は5時起きねー」

さては大学の登山部かワンゲルに違いない。 大学または高校の6人以上の混合パーティーは総じて夜騒々しい。あの、かわいらしかった彼女達の笑顔が、急に憎らしく思えてきた。そう、あのオカリナはぬえの吹く悪魔の笛だったのだ。
一難さってまた一難。しかし、焼き鳥オヤジの洗礼を浴びた今はかつりんの方が一枚上手である。まあ、うるさいけど、8時過ぎたら寝るだろう。
と、かつりんがそう思った矢先の出来事だ。

「じゃあ、そろそろ始めよっか」「うん」「オッケー」「せんぱーい」「んん?」
♪はっぴばあすでえつうゆう、はっぴばあすでえつうゆう、はっぴばあすでえ、でぃあ○○せんぱい...
(筆者注:名前忘れた)

時刻は8時を少し過ぎたところだ。

「せんぱーい、お誕生日おめでとーう」「イエーイ」「えーなにこれ?」「ボッカしてきたんですよう」「ローソク消してくださーい」「ていうかあ、ホント?」「おい、ちょっと電気電気」「あーん、ちょっとくずれてるうー」「まー、いっかあー」

なんと、ケーキまでボッカしてきたらしい。すばらしい企画ではないか。いやいや、うるさいだけだ。しかしかつりんの心からはこの言葉がどうしても離れなかった。「敵ながら天晴れ」

ていうかあ、オレ、時間が気になるんだけど」

おお、この声は、先程から場を仕切っている男だ。きっと部長に違いない。話の流れからすると、どうやらオカリナ鵺軍団ら下級生がこの誕生パーティーを企画したらしい。「ていうかあ」が口癖の部長もこの下級生の乱行は知らなかったらしい。祝福されている○○せんぱいは「ていうかあ」部長と同級のようだ。ようし部長、たのんだぞ。きちんとメンバーをまとめてくれ。

しかし、キャンプ場のすべての生きとし生けるものの願いもむなしく、魔物たちのお誕生会はヒートアップするばかりである。「ていうかあ」部長は態度を一変、しっかり場を盛り上げている。
うるさい。あまりにうるさいのだ。かつりんは注意をしたかった。しかし、すぐ隣や前のテントからも苦情がでないのに、ひとつ離れたかつりんが注意していいものだろうか? かつりんが逡巡していたそのとき、ついにキャンプ場のすべての生きとし生けるものが待ち焦がれていた一人のヒーローが現れた

「すみません、もう周りも寝ているので、静かにしてもらえませんか?」

どちらのテントの方かは存じませんが、ありがとうございます。よくぞ言ってくださいました。バカどもに対するにしては少し低姿勢にすぎるきらいはあるが、キャンプ場のすべての生きとし生けるものは心の中で快哉を叫んだ。そして固唾を飲んでことの成り行きを見守った。
一瞬静まる大テントの魔物たち。しかし、「ていうかあ」部長の口をついて出たのは次の一言であった。

ていうかあ、普通8時半くらいで文句言われるぅ?」

逆ギレ。まさかこんな攻撃があろうとは。「ていうかあ」部長の一撃で英雄ペルセウスは粉砕、一言も返せず敗北した。しかも魔物たちは総攻撃に出てきた。
ていうかあ、信じられないよな」「まーまーいいじゃない」「いろんな考えの人いるから仕方ないよね」
かつりんは思った。これらは普通、彼らに浴びせられるべき、我々の言葉ではないのだろうか? しかし、そのような論理はもとより通用しない。このようにして、キャンプ場のすべての生きとし生けるものは魔物の逆鱗にふれぬように恐れおののきながら一夜を過ごさねばならなくなったのである。

さらに、魔物たちはついにテントを出て徘徊をはじめた。

「ねえねえ、見てえ。星がすっごいいっぱいだよ」「わー、ホントだ、きれーい」

星を見てこの騒ぎとは、鵺の中にはキャンプが初めての者もいるのだろうか。そういえば、昼間追い越したとき、やたらとノロかった。おまえらホントに明日5時に起きられるのか? ちゃんと歩けるのか? まあ、いいや。かつりんは明日は下山するだけだ。バスの時間から逆算して、朝8時に出発すればよいのだ。こんな連中のことなんか知ったこっちゃあねえや。ああ、明日がメインの日じゃなくて良かった。
鵺たちの星空鑑賞会はしばらく続いていた。外に出れば周りのテントが全て暗くなっていることはわかりそうなものだが、彼女達は今、上を見上げている。テントは見えない。悪循環だ。全てが悪い方向に向かっている。

そして、その最たる出来事が起ころうとしていた。

「んぐううううう」

「はっ」嫌な予感に震えおののくかつりん。もしや......

「ぐはああああああ」

!!

。」

地獄の大魔王・焼き鳥、復活。

4 決戦百鬼夜行編 -- 三つ巴の闘い

焼き鳥は用を済ませて帰ってきた。このため、かつりんは二大勢力に挟まれる格好になってしまった。前門の虎、後門の狼。織田と毛利に挟まれた尼子状態だ。
「うふふふ」「くすくすくす」「やあやあ、君たち、どうしたのう」「ふふふふ」

笛吹きぬえたちに笑われている。

群雄割拠戦国地図
「君たち、こっちへ来なさいよ」

オヤジは鵺たちを自陣へ強引に引き寄せる。おかげで、両巨頭の決戦はかつりんのテントの目の前となってしまった。

「うふふふ」「くすくすくす」「君たち、どっから来たのう」「ほっかいどう」「ふうん、おじさんは愛知なんだよう」「えー、くすくす」「うふふふ」「ねえ、ようこちゃん、このこたち、北海道から来たんだってよう」「あははは」「なにしてたのう」「えー、ほしー」「星見てたのう、きれいだよねえ」「きゃははは」「だははは」「一緒に飲もうよう」「えー」「やだー」「やだーだってよ、ようこちゃあん」「もう寝なさい」「そんなこと言わないでようこちゃんも出て見なさいよ、きれいだよう」

焼き鳥がテントにもぐったそのすきに鵺たちは笑いさんざめきながら大テントへと帰っていった。

「あれ、いなくなっちゃった」
「もういい加減に寝てよ」
「はいはい」がさごそがさごそ「ようこちゃあん、この寝袋開かないよう」
「さかさまなのよ」
「おれは酔っぱらってるぞおう」
「静かにしてよ」
「明日はマイナス10度だから、あったかくしなくちゃいけないよう」
「・・・・・・」

ついに焼き鳥は眠った。巨星、落つ。焼き鳥の大音声が止むと、あたりは思いのほか静かになった。しかし、魔物たちの宴は続いていたようだ。
「なんなの、あれ」「よっぱらいみたい」ていうかあ、迷惑だよな」
それはおまえらだろ。すでに時計は9時をまわっている。いったいいつまで続くのだろう。しかし、周りへの迷惑を考えたのだろうか、声はいくぶん小さくなっていた。「ひそひそ声」というには大きな声だったが。しかし、繰り返すが、静かな中に小さな声は余計に気になるものなのだ。かつりんの眠りたいという意志とは裏腹に、耳は魔物達の会話を聴き取ろうとしている。まんまと魔物の術中にはまってしまったのだ。

しかも、よく聞くと、魔物たちのひそひそ声がなんだかおかしい。艶めいているのだ。

ていうかあ、オレのって結構固いんだよ」「ふうん」

かつりんの意識は冴えてきた。こ、これはまさか? 耳はすっかりダンボ状態だ。

「大きさはそんなでもないけど♪」「私のも柔らかくていいみたい♪」

キャンプ場一面をピンクの霧が包み込んだ。 しかし、破廉恥魔物の声は一段とひそやかになり、なかなか聞き取れなくなっていった。

ていうかあ…誰にでも触らせちゃう…」「…私もすぐ…」 おい、肝心なところだろ、もっと大きな声でいいんだぞ!! あれほど迷惑だった魔物の声が今は聞きたくてしかたないかつりん。

「…ええー、うふふふ…♪」「…どう?…♪」「…くすくすくす…もっとさあ…♪」

しかし破廉恥魔物たちの睦言は徐々にボリュームを下げ、いつのまにかフェイド・アウトしたのだった。あたりは静まりかえった。焼き鳥の鼾を残して。かつりんの妄想はその後も続いたが、次第に意識は遠のいていった。最後に時計を見たとき、時刻は10時だった。長い闘いは終わりを告げたのである。
翌朝はさわやかだった。5時ごろから、山頂を目指す人たちの出発が相次いだ。その喧騒の中でかつりんはうつらうつらとしていた。が、鵺の吹く笛の音(ラジオ体操の音楽)で目が覚めた。かつりんたちは下るだけ、バスは御座石温泉を昼頃出る予定である。したがって8時までに下山を開始すればいいだろうということで、もう一眠りだ。すると次に隣のテントでは焼き鳥が鳴き出した。

「きのうの夜、ぜんっぜん覚えてないんだよ」

どうせそんなことだろうとは思ったが、それでも涙を禁じえないかつりん。古の唐の詩人が詠んだ五言絶句が頭に浮かんだのだった。

天場不覚暁テント場暁を覚えず
処処聞焼鳥処処に焼き鳥を聞く
夜来学生声夜来、学生の声
涙落知多少涙落つること知る多少


涙にくれながら、再び眠りについたのだった。
群雄割拠戦国地図
7時ごろでしょうか、目を覚ましてテントから出ましたところ、残ったテントはわずかに6張りほどでございました。しかし、その6張りの中にあの大テントがあったときの驚き!! さてはこいつら彼らも下山するのに違いない、そう思ったのでございました。バカども彼らは輪になって準備体操をすると、一列になって御座石方面に下山していきました。私どもの真正面のテント(図中A)の女性たちがテントを撤収しながら、「昨日は騒々しかったわねえ」「あの若い子たちと『ようこちゃん』がすごかったのよ」などと噂していたのを聞いて、思わず笑みがこぼれてしまったものでした。
このたびの闘い、勝者は焼き鳥オヤジでしょうか、それとも破廉恥まもの学生でしょうか。甲乙つけがたい両者の大決戦、あなたさまは軍配をどちらにおあげになるでしょう?
勝者は、そのどちらでもございませんでした。そう、真の勝者は、騒ぎが大きければ大きいほどホームページのネタにうってつけという広い心を培うことができたかつりんなのでございます。尼子は毛利にも織田にも屈しなかったのです!!

それにしても不思議なのは私達の隣のテントの2人組でした。この史上最大の闘いを振り返って思うのは、今一方の勝者は彼ら2人組だったのかもしれない、ということでございます。翌朝、すでにテントはありませんでしたが、あれだけの騒ぎの中、文句ひとつ言わずにキャンプ場を風のように去っていった彼ら。私は思ったのでございます。おそらく彼らは最高級の耳栓を使っていたのに違いない、と。