仁義なき闘い

南アルプス・椹島にて -- おばはんトリオ VS かつりん

椹島からバスに乗る前に一風呂浴びようと、赤石小屋を早朝出発することになり、4時頃カイコ棚から暗闇の中をそーっと脱出しようと試みたとき、かつりんとの間に5人ほど人をはさんで出口方面に陣取るおばはん3人組がどうも同じことを目論んでいるらしく、がさごそやりだした。
おばはん甲「ちょっと暗いわねぇ」
おばはん乙「電気ちょっとつければ?」
突然枕もとの明かりがついた。懐中電灯ではない。まだ皆寝ているのに煌煌と明かりをつけて作業開始。とんでもないやつがいるもんだと思いながらも、まわりの人が目を覚ましてしまった今がチャンスとばかり、かつりんは自分がひんしゅくを買うことなく小屋の外に出ることに成功した。小屋内の冷たい視線を一身に集めたおばはんトリオとの勝負は、この時点ではかつりんが優勢。この後の小屋内がどのような情況になったのかはかつりんは知らない。
無事椹島に到着。椹島ロッジの朝風呂は普段はシャワーしか使えないのだが、この日は団体客がやってくるとかで、特別に風呂に湯が張ってあった。しかも彼らの到着前だったため、湯はきれい。普段は邪魔としか思えないツアー登山ご一行様がこの日ばかりはありがたかった
バスが出発するまでにはだいぶ時間がある。風呂からあがって生ビールを飲みながら、大成功だった今回の山行について、相棒と感想を話し合っていた。悪沢からの大パノラマ。きつかった赤石の登り。かわいい雷鳥の親子。そう、かつりんたちは今回初めて雷鳥に出会ったのだった。その雷鳥を発見した現場にはかつりんたちを含めて2パーティー&単独行者がいたのだが、皆初めてだったらしい。そんなようなことを話していたら、
「雷鳥なんて、めずらしくないわよねぇ」
と聞こえよがしにのたまうその声は、右手にビールジョッキを握りしめた、おばはん3人組の乙ではないか!!
生ビールを美味そうにぐびぐびと飲みながらきっぱりと天然記念物を否定したおばはん乙(別名・無法者)の大勝利。かつりんは呆然として逆転ノックアウト負け。

西丹沢・畦が丸にて -- かつりん VS 20人パーティー

畦が丸から西丹沢自然教室方面に下山途中のこと。ひたすらジグザグを切って下る斜面があるが、そこを下ってゆくと、下のほうがなにやら騒がしい
見れば、20人はくだらない中高年の大パーティーが休憩中。小休止かと思いきや、なんと、この大人数が道で食事しているではないか。 山側に腰を下ろしてザックを道に置いている。ふつうは道で休憩するにしても、ちょっと広いところを選ぶものだが、ここは斜面についている道なので、すれ違うにも片方が待たねばならないくらいの道幅。
果たして、手前のおばさんと目が合い、道をあけてくれるものとばかり思ったかつりんはそのまま進んだのだが、おばさんは動く気配なし。道に置いたおばさんのザックに足が引っかかってしまった。ザックが谷に転落しそうになったおばさん、「あら、ザック!!」とつぶやいてかつりんを睨みつけたが、おめえがわりいんだろうと思ったかつりんは無視してすたこらと歩きつづける。が、他のおじさんおばさんもザックを動かさないし、誰も注意を促すものもなく、今度はちゃんと足上げてよけたかつりんの負け。

芦安村営バス車内にて -- オヤジ VS 相棒K

仙丈岳の帰り、北沢峠から広河原行きのバスに乗りこんだ。私と相棒K(女性・当時30歳)は離れて、私は後方の、Kは前方のそれぞれ空いていた席に着いた。Kのとなりの席にはオヤジが陣取っていた。私の席からはKが何か話し掛けられていたのが確認できたが、バスはすぐに出発、話の内容までは聞き取れなかった。以下はバスを降りた後、Kが私に語った話を総合したものである。

オヤジ「おねえちゃん、どこ登ってきたの〜。甲斐駒かい」
相棒K「仙丈岳です」
オヤジ「おじさんは今回は甲斐駒登ったんだけどね、いやあ、甲斐駒はきつかったよ。」
相棒K(また自慢話かな...だったら家族にでもすればいいのに...)
と、Kがしぶしぶ聞いていると、
オヤジ「仙丈ねえ。ま、甲斐駒に比べるとあんなの山じゃないねえ
相棒K(な、なんだって!!!!!!!!!!!)ぶちぶちぶちっっ
オヤジ「仙丈は去年登ったんだけどね。道が......」

展望こそ得られなかったものの、色とりどりの高山植物を見ることができ、無事に下山できてバスにも間に合い満足していたKは自分の登ってきたばかりの山をいきなり否定された怒りに震え、この直後からの記憶がまったくなく、気がついたら広河原に到着していたということである。この間、Kがどのような攻撃を受けていたのかを想像すると、私は涙を禁じえない。この勝負、記憶喪失に陥ったKの負け。

中央本線車内にて -- 加トちゃんオヤジ vs かつりん

休日の中央線。夕方の上り電車は山帰りの人々で混み合う。その日も四方津から中高年ハイカーの軍団が乗りこんできて、座席で眠りこけていたかつりんは混雑の気配で目が覚めた。顔をあげると、目の前にべろんべろんに酔っ払っているオヤジがいる。オヤジは、へヴィ・メタルのコンサートの客をスローモーションで見ているかのように頭を上下にふりまくり、仲間内だけでなく、辺りの乗客にもしきりに話し掛けて、まさに加トちゃん状態だ。手にはステンレス製のカップを持っていて、混雑した車内で立ちながらなお飲みつづけるつもりらしい。仲間も「○○さんは、しょうがないねえ」といった感じで、手のつけようもない。
そんな加トちゃんもはしゃぎすぎて疲れたのか、つり革につかまって、立ったままこっくりこっくりとやり始めた。ようやく車内は平穏を取り戻したが、そのとき、加トちゃんの手にはステンレスカップがいまだ握られていた。首の傾きとともに、水平だったカップも徐々に下に向いてくる。そして、よく見るとまだ酒が入っているではないか。このままではかつりんの膝が加トちゃんの酒で濡れてしまう。危険を感じたかつりんはとっさに加トちゃんのカップを水平位置まで押し戻した。すると加トちゃん目が覚めて、
←もうへろへろ
とつぶやいて、2度ほど頭を下げ、残りの酒を飲み干し、再び瞑想の世界へと旅立っていった。おそらく「どうもありがとうございます」と言いたかったのだろうと思われる。加トちゃんはその後二度と目覚めることはなく、電車は秋のさわやかな空気の中を淡々とすすみ、かつりんは無事家にたどり着くことができた。
この勝負は自分の膝を守り抜き、なおかつ、どういうわけかお礼まで言われたかつりんの勝利である。