7月19日 霧のち晴のち曇
目覚ましは3時にしていたが、隣の大パーティがご来光を見るとかで大騒ぎになり2時に目が覚めた。外を見ると昨夕とまったく変わらず強い風が吹き、濃いガスが立ち込めているようだった。がっかりした。再び眠りについた。ご来光部隊は5時すぎに帰って来て、またその騒ぎで目が覚めた。なんと山頂だけは雲の上で、真っ赤なご来光が見えたという。ホントかな。
テント内の温度は2時も5時も13℃くらいだった。Tシャツ1枚でいたせいか、かなり寒く感じた。
6:00 晴れ間

大パーティは6時前には下りていった。縦走ではなく、羅臼岳が目的だったのだ。そしてその少しあと、ついに待ち焦がれていた羅臼岳が見えた。雲がかかっては流れ、刻一刻と姿を変える。全体的に荒々しい印象を受ける山だが、流れる雲から山頂部だけが見えている姿は幽玄な感じもする。
大パーティも下りてしまった今、この景色は我々ふたりだけのものであった。それがまた嬉しく、パンだけの食事も一段と美味しく感じる。
7:00 南の雪渓

朝食を終えて、デポする分の食料と生ゴミをフードロッカーに入れに行った。そのついでに、一昨日迷いそうになった雪渓に行ってみた。雪渓はかなり長く続いており、やはり下らなかったのは正解だった。周辺の花はガスの中で見た方がきれいだったと思った。雪渓の向こうに太平洋をはさんで国後島が長い胴体を横たえていた。
7:29 羅臼平発(高度計:1300m, 温度計:21.4℃)

三ツ峰への道は素晴らしい花畑に囲まれていた。まず、ウコンウツギ。続いて大輪のキンバイ。そしてチングルマとエゾツガザクラの混生群落。キバナシャクナゲもちらほら見えるが、もう花期が終わりのようだ。道はザレて歩きにくいが、楽しくてそんなことはまったく気にならなかった。ぐんぐん登り、ふと後ろを振り返ると、思いもよらない高いところに羅臼岳が頭だけをにょきっと出し、我々を見下ろしていた。その気高い姿を見てまた歓声をあげた。
7:49 三ツ峰(1410m, 25.7℃)


三ツ峰の3つの頂にはそれぞれ道がついているが、寄らずに先へと進む。斜面には、チングルマ、エゾコザクラ、エゾツガザクラ、ハクサンチドリ、フウロソウなどが群落を作っていた。
8:26 三ツ峰テント場(1350m, 34.5℃)

テント場周辺はチングルマの群落が美しかった。また、雪田からの流れに沿って大ぶりのキンバイがたくさん咲いていた。
一息ついてからサシルイ岳の登りにとりかかった。1時間ほどの登りなのでカッパの上着を脱いだ。
登り

雪田で90度左に曲がり、右に大きくカーブを描くようにしてザレた道を登って行く。振り返ると、三ツ峰の二つのピークの間から羅臼岳がひょっこりと頭を見せていた。登るにつれて風が出てきて心地よい。
上から3人パーティが降りてきた。見ると、一昨日羅臼平にキャンプしていた人たちだった。話を聞くと、昨日の雨の中を二ツ池まで進んだということだった。今日は岩尾別温泉に下山するらしい。二ツ池はぬかるみがすごかったという話だった。
9:14 サシルイ岳着(1535m, 33.7℃)

三ツ峰を従え、左右を太平洋とオホーツク海にはさまれた羅臼岳がすばらしい。この眺めを見たかったのだ。反対側には目指していた硫黄山が見えた。ここまで来ると奇岩コケシ岩や、第一火口の水源となる大雪渓もはっきりとわかる。
今日はもう下るだけなので、ここで行動食の処分市を始めた。ゼリーやらケーキやらクッキーやらで盛大に催した。眺めもいいし、実にいい気分だ。縦走の雰囲気もちょっぴり味わえたし、ここまで足を伸ばしてよかったと思った。
9:58 サシルイ岳発(1510m, 27.0℃)

ザレた道を慎重にゆっくりと、花を見ながら下っていった。斜面のハイマツの途切れたところは、チシマツガザクラの群落に覆われていた。雪田の周りも石がごろごろしていて歩きにくい。雪解け跡に多い浮石に気をつける。一昨日痛めた左ひざがまたちょっと痛くなってきた。
10:44 三ツ峰テント場(1325m, 27.0℃)


往きと同じ花畑でまたまた感動しながら、写真をバシバシ撮りつつ歩いた。三ツ峰鞍部まで登りきると、これから縦走する人に会った。サシルイを下り始めたときにかかっていた雲はとれ、羅臼岳は再び姿を見せていた。しかし太陽が逆光気味の位置にあるので、朝ほど美しく感じられなかった。
11:44 羅臼平着(1330m, 29.2℃)

さらに行動食を減らし、弥三吉水まで行けば新鮮な水が得られるので、1リットルばかりを残して水を捨てたら、ずいぶんと軽い感じがした。
12:54 羅臼平発(1335m, 30.1℃)

いきなり雪渓の下りとなるが、途中で岩場をはさむことを考えるとアイゼンを使うのがどうしても億劫になり、ここでも使わなかった。キックステップで慎重に下りれば問題はない。
見下ろすと雪渓はオホーツク海までずっと続いているような感じに見えた。雪渓の先には知床五湖が見えた。
13:33 銀冷水(1030m, 27.1℃)
30分ちょっとしか経っていないが、なんと言っても標高差1100mを一気に下るので、意識的に休憩をとる。各ポイントの標高差は300m弱ずつなので、平均的に下りていく感じだ。昨日あれだけ雨が降ったのに登山道はほとんどぬかるんでいない。登りのときにも思ったが、いい道だ。時間的に日が真上に近いので、日陰スペースが少ないように思った。
14:21 弥三吉水(780m, 27.1℃)
銀冷水を出てからというもの、頭の中では弥三吉コールの繰り返しだった。極楽平の看板に到達してから思いのほか時間がかかり焦らされたが、その分到着したときの喜びは大きかった。ザックを下ろして水をがぶがぶ飲む。水筒の水を全て捨て、汲みなおした。ここの水といい、テント場の大岩といい、弥三吉氏にはずいぶん助けてもらった。下山後について考える。当初はウトロの国設野営場でキャンプするつもりでいたが、明日は天気が崩れる予想で、早いところでは今晩のうちから雨が降り出すという。せっかく乾いたテントをまた雨で濡らすことになるかもしれない。それは避けたいので、どこか空いている宿に泊まることにした。3連休は今日で終わりだし、どこか民宿なら空いているだろう。
あと2時間ほどで下界だ。登りのときは蒸し蒸しだったが、今日はそれほど蒸さない。
15:11 オホーツク展望(500m, 27.5℃)
ここが最後の休憩地点となるだろう。念のため携帯を取り出してみると、なんと棒が3本立っている。よっしゃ、早速宿の予約だ。事前にホテルの電話番号を何軒かメモしてきていたのだが、1軒目ですぐに予約がとれた。15時を過ぎたところだったが、ちゃんと夕食も出してくれるとのことだった。これで安心できた。しかしまだ気は抜けない。あと250mばかりくだらなければならないのだ。15:58 岩尾別温泉着(245m, 27.5℃)

木下小屋で靴を洗わせてもらってから、ホテル地の涯でジュースを買って飲んだ。ホテル前の芝生でストレッチなどをしながらのんびりバスを待った。ここからバスに乗ったのは我々だけだった。
バスからは知床連山がきれいに見えた。今日縦走している人は気持ちいいだろうなあと思った。
ウトロ

食事もきちんとしていて感動。刺身・ホタテ・キンメダイなど、知床の海の幸を美味しくいただいた。いつもそうだが、山から下りてくると食べ物のありがたさが身に沁みる。刺身のつまも1本も残さず平らげた。
食事のあとにはネイチャーガイドによる知床ビデオ解説を聞いた。斜里町はクマの目撃件数がダントツで多く(年間400件超!!)、道内でもちょっと特殊なところだという話が印象に残った。中途半端にクマに慣れている道内他地域の人たちの方が、始終びくびくしている我々内地の者よりも危険なんじゃないかと思った。