ダンス・ダンス・ダンス講談社文庫 1991年

音楽引用のオン・パレードです。結果的にジャズ作品も多くなっています。

ジャック・ルーシェ「プレイ・バッハ」(上)78ページ

ブルーグレーの壁には抽象画がかかり、BGMに小さくジャック・ルーシェのプレイ・バッハがかかっていた。そんな床屋に入ったのは生まれて初めてだった。

The Best Of Play Bach

Jacques Loussier

The Best Of Play Bach

Jacques Loussier (p), Pierre Michelot, Benoit Dunoyer De Segonzac (b), Christian Garros, Andre Arpino (ds)

60年代当時のオリジナルに、2001年に新しく録音し車のCMに使われた1曲を追加して編集されたベスト盤。題名からも分かるとおり、非常にクラシックな演奏。BGMとしてはよいですが、私にはどうにも眠すぎる。

1960年代、2001年6月録音

ジェリー・マリガン、チェット・ベイカー、ボブ・ブルックマイヤー(上)83・84ページ

五階建てのビルの地下にあるこぢんまりとしたバーで、ドアを開けると程よい音量でジェリー・マリガンの古いレコードがかかっていた。マリガンがまだクルー・カットで、ボタンダウン・シャツを着てチェット・ベイカーとかボブ・ブルックマイヤーが入っていた頃のバンド。

僕はカウンターに座って、ジェリー・マリガンの品の良いソロを聞きながら、J&Bの水割りを時間をかけてゆっくりと飲んだ。

Gerry Mulligan Quartet

Gerry Mulligan

Gerry Mulligan Quartet

Gerry Mulligan (bs), Chet Baker (tp), Bob Whitlock (b), Chico Hamilton (ds), Carson Smith (b), Larry Bunker (ds)

Mulligan のソロって、たしかに品はいいんだけど、なんか計算されつくしたような感じがして、つまりアドリブぽくなくって、ひところはあまり好きではなかった。このアルバムでは Chico Hamilton のブラッシュ・ワークがいい。Brookmeyer の入った演奏では "California Concerts" が好き。

1952-1953録音

ボブ・クーパー(上)271・272ページ

彼はB&Oのプレイヤーにレコードを乗せて、針を降ろした。スピーカーは懐かしいJBLのP88だった。JBLが神経症的なスタディオ・モニターを世界にばらまく前の時代、まだスピーカーがまともな音で鳴っていた時代の素敵な製品だった。彼のかけたのはボブ・クーパーの古いLPだった。

そして僕らはクールで清潔なウェスト・コースト・ジャズを聴きながらレモンをきかせたウォッカ・トニックを飲んだ。

Coop!

Bob Cooper

Coop!

Bob Cooper (ts), Franck Rosolino (tb), Victor Feldman (vib), Lou Levy (p), Max Bennett (b), Mel Lewis (ds)

手持ちのCDでは Bob Cooper のアルバムはこの1枚だけ。いかにも Contemporary な洒落たジャケットに一目ぼれして買った。演奏は、編曲バリバリの典型的なウェスト。Feldman のヴァイヴがとても耳につくけど、それは私の使っているスピーカーがJBLによってばらまかれた神経症的なスタディオ・モニターだからでしょうか(泣)。ちなみにJBLのP88ってのは見たことも聞いたこともない。

1957.8.26-27録音

カウント・ベイシー(上)291ページ

そうこうするうちにエリオットの詩とカウント・ベイシーの演奏で有名な四月がやってきた。

April In Paris

Count Basie

April In Paris

Count Basie (p), and others

有名な演奏。One more time!! がカッコいい。コンサートでも実際にやるんだとか。

1955-1956録音

ウェザー・リポート(上)320ページ

換気の悪い部屋の中には、まるでウェザー・リポートのステージみたいに部屋じゅうに白い煙がたちこめていた。

8:30

Weather Report

8:30

Joe Zawinul (key), Wayne Shorter (ts, ss), Jaco Pastorius (b), Peter Erskine (ds), and others

有名なライブ盤。やっぱジャコパスすんばらしいです。いわゆるフュージョンだが、今聴くとポップな感じもして結構いい。私はもちろん Weather Report のライブには行ったことはないけど、そんなに煙すごいんでしょうか。

1978-1979録音

アーサー・プライソック、カウント・ベイシー(上)337ページ

風呂を出ると僕はカリフラワーを茹で、それを食べながらビールを飲み、アーサー・プライソックがカウント・ベイシー・オーケストラをバックに唄うレコードを聴いた。無反省にゴージャスなレコード。十六年前に買った。1967年。十六年間聴いている。飽きない。

Arthur Prysock / Count Basie

Arthur Prysock, Count Basie

Arthur Prysock / Count Basie

Arthur Prysock (vo), Count Basie (p), and others

この小説を読んでから、店で偶然見つけて買ったもの。たしかにゴージャス感はすごいものがあり、そのためBGMにはまったく不向き。面と向かってきちんと聴かなくては。そういう意味で非常に疲れるアルバム。

1965.12録音

アート・ファーマー(上)338ページ

都市の騒音さえもがアート・ファーマーのフリューゲル・ホーンみたいに優しく聞こえた。

The Summer Knows

Art Farmer

The Summer Knows

Art Farmer (flh), Cedar Walton (p), Sam Jones (b), Billy Higgins (ds)

文章を読んですぐ思い浮かんだのがこのアルバム。でも小説では4月だからこれじゃあ季違いか。メロウなバラードが多く、とにかく優しい音色で、Farmer だけじゃなくて Cedar Walton も優しい。とても落ち着ける癒し系アルバム。

1976.5.12-13録音

ジョン・コルトレーン「バラード」(下)14ページ

僕はためしにジョン・コルトレーンの「バラード」のテープをかけてみたが、彼女はとくに文句は言わなかった。何が鳴っているのか気づきもしないようだった。僕はコルトレーンのソロにあわせて小さな声でハミングしながら車を走らせた。

Ballads

John Coltrane

Ballads

John Coltrane (ts, ss), McCoy Tyner (p), Jimmy Garrison (b), Elvin Jones (ds)

超有名盤。1曲目の "Say It" は、テレビドラマのお洒落なバーのシーンなんかで頻繁に使われる。こういう静かな曲を吹いている Coltrane は大好き。夜中にとっておきのバーボンとか赤ワインとか飲みながら小さな音で聴きたい。最初のソロは McCoy なんで、「僕」は相当長い間ユキの様子をうかがっていたということなんだろう。

1961.12-1962.11録音

フレディ・ハバード「レッド・クレイ」(下)15・20ページ

そしてフレディー・ハバードの「レッド・クレイ」をハミングしながら家に帰った。

僕はその無力感をかきわけるようにして浴室に行き、「レッド・クレイ」を口笛で吹きながらシャワーを浴び、台所に立って缶ビールを飲んだ。

Red Clay

Freddie Hubbard

Red Clay

Freddie Hubbard (tp), Herbie Hancock (p), Ron Carter (b), Lenny White (ds), Joe Henderson (sax)

この小説を読んで知ったアルバムで、いまや超愛聴盤。イントロで、シンバルが入るところがカッコよすぎ。Herbie がいい(アルバムにはピアノでクレジットされてるが、エレピ)。

1970.1.27-29録音

ある種のジャズ(下)79・80ページ

私が聞ける音楽というのはすごく限られてるの。バロック音楽とか、ある種のジャズとか。民族音楽とか。心を落ち着けてくれる音楽。

「フレネシ」、アーティー・ショー、「ムーン・グロウ」(下)103・104ページ

プールサイドではフル・サイズのダンス・バンドが「フレネシ」を演奏していた。年をとったクラリネット奏者が途中で長いソロを取った。アーティー・ショーを思わせるような品の良いソロだった。そしてそれにあわせて正装した十組ほどの老夫婦が踊っていた。

曲がムーン・グロウになると彼らはそっと頬を寄せあった。

Frenesi

Artie Shaw

Frenesi

Artie Shaw (cl), and others

このアルバムには "Frenesi" "Moonglow" ともに収録されている。どちらも曲じたいが典型的なダンス音楽で上品。小説のシチュエーションにどんぴしゃだと思う。

1938.7.24-1941.1.23録音

「スターダスト」、「バット・ノット・フォー・ミー」、「ヴァーモントの月」(下)140ページ

セルゲイ・ラフマニノフみたいな深刻な顔をした髪の薄い中年のピアニストが、グランド・ピアノに向かって黙々とスタンダード・ナンバーを弾いていた。客はまだ僕ら二人だけだった。彼は「スターダスト」を弾き、「バット・ノット・フォー・ミー」を弾き、「ヴァーモントの月」を弾いた。

Clifford Brown With Strings

Clifford Brown

Clifford Brown With Strings

Clifford Brown (tp), Max Roach (ds), George Morrow (b), Richie Powell (p), Barry Galbraith (g), Neal Hefti (cond)

この3曲の、ピアノの演奏が手持ちにはない。ピアノで演奏するのが難しい曲なのだろうか。特に "Stardust" なんてホーン向きだと思う。ということで、その有名盤を挙げてみた。艶やかなトランペットの音色が美しく響く、とても大好きな演奏。

1955.1.20録音

コールマン・ホーキンス、リー・モーガン、「スタッフィー」、「サイドワインダー」(下)151・152ページ

僕はジャズのFM局にラジオをあわせ、コールマン・ホーキンスだのリー・モーガンだのを聴きながら空港までのんびりと運転した。

僕は頭を空っぽにして運転に神経を集中し、「スタッフィー」や「サイドワインダー」にあわせて口笛と隙間風の中間くらいの音色の口笛を吹いた。

The Sidewinder

Lee Morgan

The Sidewinder

Lee Morgan (tp), Joe Henderson (ts), Barry Harris (p), Bob Cranshaw (b), Billy Higgins (ds)

いわゆるジャズ・ロック。テーマは結構好きなんだけど、演奏自体はかなり退屈。それはこの単調なリズムのせいだろうか。でも車のCMにも使われた Turtle Island String Quartet の演奏は面白いんだけどなあ。"Stuffy" は Hawkins の曲だが、私はまだ聴いたことがありません。

1963.12.21録音

ビル・エヴァンス(下)230ページ

五反田君はビデオ・デッキのスイッチを切り、新しい酒を作り、ビル・エヴァンスのレコードをかけた。

Waltz For Debby

Bill Evans

Waltz For Debby

Bill Evans (p), Scott LaFaro (b), Paul Motian (ds)

特にアルバム名が明記されているわけではないが、これを挙げたのは五反田君のイメージに合うような気がするから。また、ノルウェイの森にも同じように夜の場面で登場するから。村上作品には同じ音楽が登場する傾向がある。「国境の南」とか、「ビリー・ジーン」とか。

1961.6.25録音

「タイガー・ラグ」(下)285ページ

バンド・スタンドがあって、そこで揃いのストライプのシャツを着たディキシーランド・ジャズのバンドが「タイガー・ラグ」を演奏し、ビールを飲みすぎたらしい学生の団体がそれに負けじと声を張り上げていた。

New Orleans - Vol.1

Preservation Hall Jazz Band

New Orleans - Vol.1

Willie Humphrey (cl), Percy G. Humphrey (tr), Narvin Kimball (banjo), Frank Demond (tb), Allan P. Jaffe (tuba), James Edward "Sing" miller (p), Josiah "Cie" Frazier (ds)

有名なスタンダード。自分はこの曲を聴くと、なんとなくアメリカ軍のマーチング・バンドをイメージしてしまう。なんかの映画とかドラマとかでそんなシーンを見たのかもしれない。
手持ちの CD にはこの比較的新しい録音しかないのだが、初録音は1917年というのには驚いた。tiger なだけに、ゴァァァという吠え声も聞こえる、明るく楽しいニューオーリンズらしい演奏だ。

1977年録音

「ハロー・ドーリー」(下)288ページ

ディキシーランドのバンドは「ハロー・ドーリー」を演奏していた。僕と五反田君はしばらくそれに耳を傾けていた。

ハロー・ドーリーはサッチモ>の大ヒット曲で、一番搾りのCMでも使われていた。手持ちCDにはありません。

この小説中に出てくる他の音楽・ミュージシャンなど
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