Top 浮世絵文献資料館 浮世絵師総覧
☆ ゆき 雪 浮世絵事典
◯『江戸名物百題狂歌集』文々舎蟹子丸撰 岳亭画(江戸後期刊)
(ARC古典籍ポータルデータベース画像)〈選者葛飾蟹子丸は天保八年(1837)没〉
〝雪
いかでかは水にはなさじ降つもる雪に訪ひ来る人のこゝろを
するが町ふもとのやうなこゝちして不二へ詠めもつゝく大ゆき
あんかうは価高しと雪の日に鰒くふ人のはらわたぞなき
つむ雪に師走女はおはぐろのまへ歯もしろくはけるぬり下駄
淵明が手なれの琴が降つみて風に音せぬゆきのまつがえ
降つもる木よりしらみてつく鐘も上野のむつの花の明ほの
ころぶ時松かえ折て後悔のさきへたゝざる雪うちの庭
此雪に竹馬の友のやくそくもねてしまひけん音沙汰のなし
客をよぶこの見はらしの一けしき枝にもたする雪のかさ松
つむ音をかゝす詠むる一趣向鍬からゆきの鴨の手料理
人あしのしげくて花の大江戸はみになるほどもふらぬしら雪
漁の舟出もならでふりつもる雪に寝てゐる竹芝のうら
作りたる雪の達磨の白うなり我もしらねどかの僧に似ん
つれ/\の文よむ窓も白妙にふれ/\こゆきつもるさふけさ
うた人のこゝろをくめるさまみえて雪にうつぶく窓のくれ竹
ふりむけばわがあとさへも埋れてはてしれかぬる雪のむさし野
鬼瓦かくるゝ雪のあしたにはつらゝの角も軒にをれたつ
松がえのすねたすがたにくらぶれば笑ふこゑある雪のなよ竹
家根舟の足あとならんすみだ川一すぢ黒き雪のゆふ暮
玉川の水に茶のあふ山吹はみのなき下戸のめづる雪の日
ふりつもるしるしの竹のいき杖は雪に道しる駒かたの駕
裙広く不二をそだてゝけさははやむさし野となる大江戸の雪
竹につもる雪を硯のすみにすりて腰をれ哥からんとぞおもふ
どつさりと降つむ雪の松屋町軒のうて木の枝をれのこえ
かよひ路も名はとまる日かげ町寒さやこゝにつもる大ゆき〟
〈達磨 窓の呉竹 冨士 鬼瓦隠るゝ雪のあした 松屋町 日蔭町〉
◯『絵本風俗往来』菊池貴一郎(四世広重)著 東陽堂 明治三十八年(1905)十二月刊
(国立国会図書館デジタルコレクション)
◇上編 十一月 雪見(70/98コマ)
〝雪見は文人墨士か又は武家に限りたりしも、時によりては何れの粋士か障子船に棹さゝせて、障子の内
には置き炬燵、絶品の女子声静かにさゝやきて、隅田川両岸の雪景を賞し、船を山谷の岸につなぎ、客
は八百善にあらざれば有名楼にて盃を傾くあり、又は簑笠被りて足踏みしめつゝ墨堤を徘徊し、真乳山
山谷橋あたりの景色に吟脳(ぎんのふ)を催すなどなり〟
◇中編 十一月 雪 (76/133コマ)
〝東都は雪の尺に満つるを大雪としたり(中略)(雪見の)その地は隅田川の堤、三囲・長命寺の辺、真
崎・上野東叡山・不忍池・湯島台・神田明神宮社内・王子辺・日暮里諏訪社・道灌山・目白不動境内・
牛天神社地・大森八景坂・吉原等とす、此れ等の雪を見るに、彼の障子船に棹さゝせ、隅田川へ漕ぎ出
すあり、又雪を踏みつゝ翁の「ころぶ処まで」と杖によるあり、障子船は通客、帰りは船を竹屋の渡し
辺へつなぎ、有明楼扨(さて)は八百善又は三谷堀へ漕ぎいれ、吉原の夜雪をめづるか、杖によるは隠士
墨客、知己友人の庵(いほ)をたゝく、夜に入るや、さしも白色を止めぬ大通り辺も、次第に通行の減じ
けるに随ひ、路上白布を敷きし如く、追々静かに物音絶へて、何地(いづく)へ通ふか、駕丁(かご)の客
を乗せて、駕籠かき飛ゆくかけ声の聞こゆると、夜蕎麦うる風鈴の響き、犬の吠ゆると、赤児の啼き声、
遠近静かなるより聞へたり、夜明くるや、道傍(みちばた)に雪団の大きなるに目玉に炭団を用ゐたる大
達磨の一夜作の見ゆるなど、此の月より来陽迄数度に及びしありさまなりし〟