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浮世絵文献資料館
浮世絵師総覧
☆ うきよえ 浮世絵の相場(明治期<
古版画
・
肉筆古画
>)
浮世絵事典
参考資料
※絵柄・出来映え・保存状態等によって値段は大きく変わりますので、おおよその目安としてください
古版画浮世絵の値段の推移
☆ 文久元年(1861)
<肉筆古画>
◯「書画価格録」文久元年(1861)
(『美術番付集成』瀬木慎一著・異文出版・平成12年刊)
〝
一蝶
六十匁 文晁 三十匁 崋山 四十五匁
嵩谷
十匁 武清 五匁 椿年 五匁
北斎
十匁 雪旦 三匁 鄰松 二匁
一舟
二匁
祐信
十五匁(他略)〟
〈ネット上の「江戸時代貨幣年表」によると、文久元年当時の金銀相場は1両74匁位の由〉
☆ 明治初年(1868~)
<古版画>
◯『梵雲庵雑話』(淡島寒月著) ◇「幕末時代の錦絵」p121(大正六年(1917)二月『浮世絵』第二十一号) 〝(御維新当時) 新版の錦絵を刷出(スリダ)しますと、必ずそれを糸に吊るし竹で挟(ハサ)み、店頭に陳列してみせたもので す。大道などで新らしい錦絵を売るという事はありませんでした。その頃はもう写楽だとか、歌麿だと かいう錦絵は、余り歓迎されませんで、蔵前の須原屋の前に夜になると店を出す坊主という古本屋が、 一枚一銭位で売っていたものです。それでも余り買う人もなくって、それよりも国芳とか芳年などの新 らしいものが歓迎されたのです〟
◇「古版画趣味の昔話」p127(大正七年(1920)一月『浮世絵』第三十二号) 〝(明治維新当時の錦絵・古書の閑却、排斥ぶりから、大正期の錦絵価格の暴騰や古版画趣味の隆盛へと 変遷する世相について) 明治初年頃には、浅草見附の辺などの路傍に出た露店の店頭に、つまらぬ黄表紙類を並べた傍へ、尺余 の高さに積んだ錦絵を、選(ヨ)り取(ド)り一枚金一銭位で売っていたのである。この中には、素(モト)よ り下らぬ絵もあったが、今から考えれば、嘘のようだが、写楽の雲母摺(キラズリ)なども確かに交ってお った。一枚一銭の絵が、僅か四、五十年の間に、幾百円に騰(アガ)るとは、如何(イカ)に時世の変遷とは いいながら、夢のような話である、此の時代に、馬喰町に住む鼠取薬売を本業とする吉兵衛といふのが、 此の方で名が売れて居つて、黄表紙類の露店を張つてゐたのである 此の一例に徴しても、当時錦絵古 書などが、如何程世人から冷淡に扱はれて居つたかが明かに知られる、然るに明治も十年近くになつて からは、社会の秩序もやゝ整ひ、世間の人心にも少しは余裕が生じて来たらしく、幾分か趣味の方面に 注意を払ふ人をも見られるやうになった〟
<古版画>
◯『明治世相百話』p244(山本笑月著・昭和十一年(1936)刊・第一書房・底本は中公文庫) 〝(幸堂得知談)明治の初年出入りの書籍屋が持って来た錦絵の中に写楽が十枚ばかりあった。一枚ただ の一銭だったが、私は写楽が嫌いだから五厘ならついでに買っておこうといって、とうとう五厘で置い て行きました〟 ☆ 明治二年(1869)
<古版画>
◯「明治以降浮世絵界年譜稿(其一)」吉田瑛二著・『浮世絵草紙』所収・1946年刊 〝当時浅草見付附近の路傍にて露店にて
黄表紙
や尺余に積んだ
錦絵
を売る。その価一枚一銭位なり。露店 にては、鼠取薬を売るを本業とせる吉兵衛と云ふ男知らる〟
〈西洋における古版画評価の高まりが日本に伝わる以前の値段である〉
☆ 明治十二年(1879)
<古版画>
◯『梵雲庵雑話』(淡島寒月著) ◇「私の幼かりし頃」p390(大正六年(1917)五月『錦絵』第二号) 〝今では
錦絵
で大騒ぎであるが、その頃歌麿や写楽のような古い物は、大道の露店で売っていたが誰れも 顧みなかった。私は浅草茅町の須原屋と砂糖屋の間に夜るばかり店を出していた、俗に坊主と呼んだ男か ら
写楽
や
歌麿
などのものを唯の一枚一銭で沢山買って来て、私が明治十二年に馬喰町(バクロチョウ)の家を廃 業した時くずやへ二束三文で売ったことがある。それが今日非常の高価なものになったとは実に変れば変 るものだと思っている〟 ☆ 明治十七年(1884)
<古版画>
◯「明治以降浮世絵界年譜稿(其一)」(吉田暎二著『浮世絵草紙』所収・1945年刊) 〝当時の浮世絵の価格は
懐月堂
十枚一円六十五銭。
清信
の細漆絵七枚で五十銭五厘。
「絵本舞台扇」
は一 円にて高価なりと云はる〟
〈当時の古版画の値段、単純計算すると、懐月堂は10枚1円65銭であるから、一枚は16銭5厘、同様に清信の漆 絵は一枚7銭2厘。勝川春章と一筆斎文調の『絵本舞台扇』(明和7年刊・1770)が一円銀貨一枚で百銭という。参 考までに朝日新聞社刊『値段史年表』によると、当時の物価は以下の通り
うな重 20銭 明治10年 大工手間賃 50銭 明治12年 巡査初任給 6円 明治14年 総理大臣年俸 9600円 明治19年 コーヒー 3銭 明治19年 食パン一斤 5銭 明治20年 白米10キロ 46銭 明治20年 クリーニング背広上下 30銭 明治20年 そば 1銭 明治20年 国会議員年俸 800円 明治22年 ビール一本 14銭 明治25年 歌舞妓桟敷席 4円70銭 明治22年
〉
<古版画>
◯『浮世絵』第四号 (酒井庄吉編 浮世絵社 大正四年九月刊)
(国立国会図書館デジタルコレクション)
◇「浮世絵雑記 春信の座敷八景」柏原古玩氏談(19/24コマ) 〝そうですな明治十七年頃でしたろう、其頃の
錦絵の相場
と云つたら 丸で嘘見たような噺で、まアあの 細絵がね漆絵、紅絵一つ括(くるめ)で一枚一銭宛(ぱ)、
歌麿
が五銭から十銭どまり、其時分でしたよ 私がね大槻(如電翁)さんの御宅から
写楽
の雲母(きら)絵を三枚一両三分で頂戴しましたが、今それ があると一人立(いちにんだち)で二百円、二人立で三百円位ひと云ふんですからねへ。ダガネ貴君(あ なた) 中で偉らいのは
春信
です、その一銭だの五銭だのと云つた相場の時代でも、此絵ばかりは一枚 二十銭と云ふ価(ね)がありました それが直(ぢ)き四十銭になつて、それが明治廿年頃だから僅か三年 の間でした〟 ☆ 明治十八年(1885)
<古版画>
◯「明治以降浮世絵界年譜稿(其一)」(吉田暎二著『浮世絵草紙』所収・1945年刊) 〝一月三十日、反古庵第一回開かる。会場は呉服町柳屋にして、集まる人々は、鈴木我楽堂、村上、清水 晴風、仮名垣魯文、三久、三宅彦次郎等十余名にして、古版画の持寄入札会なり。
懐月堂
一枚七十銭位 で十枚も揃つて出たと云ふ。以後この会盛会にて暫く続く。当時浅草元禄茶屋にて乾什会ありたるも永 続せず〟
〈ここでは懐月堂一枚70銭とある。前年の記事では懐月堂「十枚一円六十五銭」つまり一枚16銭5厘とあるから、その 四倍にもなっている。この時代、古版画の値段はあっという間に急騰したようだ〉
☆ 明治十九年(1886)
<古版画>
◯「明治以降浮世絵界年譜稿(其一)」(吉田暎二著『浮世絵草紙』所収・1945年刊) 〝五月中旬に新聞記事あり。即ち「錦絵の古物古きを温ね新しきを知る了簡か。此節東京にて外国人が頻 りと我錦絵を好み買入る故非常に捌方よく其代価一枚絵にて二円位から二円八九十銭位迄の高価に騰貴 せしかば、是は面白き儲け事なりとて、該営業者は田舎までへも立越し其古物を買入れる由」とあり。 当時
歌麿、春信
を一枚二三円で外国へ売却せし時代なり〟
〈新聞記事のいう一枚2円から2円8,90銭もする錦絵を、吉田暎二は歌麿・春信とする〉
☆ 明治十年代
<古版画>
◯『本之話』(三村竹清著・昭和五年(1930)十月刊) (『三村竹清集一』日本書誌学大系23-(2)・青裳堂・昭和57年刊) 〝はやり初の錦絵 これも今はむかし、田貫の蛭根翁の話。根岸の岸沢式部に歌麿の錦絵沢山あり、これを大林君七さんに 話したるに、君七見て二十五銭にしか付けず、初めに三十銭位にはなるといひたる故売らず、偶(タマタマ) 和泉橋を通りて、あの通の東側に半分銅版職工をして居たる芳錦に話し、遂に三十銭宛に売つてしまひ ぬ、君七はあとの役者絵だけを買ひたり、どこの旧家でも、大層錦絵がいゝ値になるとて大抵此の三十 銭代に売つてしまはれたり、私もサ写楽を三銭パで大坪嗜好さんから買つて少しの口銭で内藤鶴芝さん に無理に持つて行かれた事があつたつけと〟
〈岸沢式部は常磐津三味線の6代目式佐(明治31年没)。式左が5代目古式部を襲名するのは明治25年(1892年)。この挿話が 式左時代のものか式部になってからのことか判然としないが、話題は写樂が「三銭パ」とあるから明治10年代のものと思 われる。なお三銭パの「パ」は「宛(ずつ)」の意味〉
☆ 明治二十一年(1888)
<古版画>
◯『読売新聞』(明治21年8月30日) 〝錦絵の買入 横浜居留地の米国人ヘンケー氏は 文化文政頃迄の我国の錦絵一万枚を 本国の依頼にて 買い集めんとて 昨今頻りに奔走し 其道の者をして 買ひ入るゝ由なるが その価(あたひ)は一枚五 十銭より一円五十銭位にて 歌麿・豊国等の風俗絵を好むといふ〟 ☆ 明治二十二年(1889)
<古版画>
◯「明治以降浮世絵界年譜稿(其二)」(吉田暎二著『浮世絵草紙』所収・1945年刊) 〝この頃、古書蒟蒻本一冊二銭乃至五銭が商人の買入価なり〟
〈「蒟蒻本」とは洒落本のこと、2~5銭という〉
☆ 明治二十四年(1891)
<古版画>
◯「春章の細絵が五厘づゝ」研堂(『錦絵』第十五号所収 大正七年六月刊) 〝先年亡くなられた幸堂得知(鈴木利平)翁の話しに、「明治維新後、旧物打破、西洋崇拝熱の盛んな頃、 神田明神下の露店に、春章や春英春巧(ママ)などの細絵ばかりを、四五寸高さ出して居る道具屋が有つた、 性来芝居好きの僕は、一枚五厘づゝで、この中から撰りぬき、毎夜のやうに往つて買つたが、少し過ぎ ると、一枚八厘づゝに値上げし、次で一銭五厘まで上げたので、僕はそれきり買ふのをよしたことがあ る、後年錦絵に直が出て来た明治二十四五年ころでもあつたが、身内の者の本屋が一枚三十銭つゝにな るから、売つてくれ/\といふので、全部売り払つて仕舞つたが、其の露店の様は、今でも目にちらつ いて見えて居る」と語られたことがあつた〟 ☆ 明治二十五年(1892)
<古版画>
◯「読売新聞」(明治25年2月11日付) 〝絵画流行の変動 近頃歌川派の古画頻りに流行し 歌麿の筆に成れるものは略画・板刻ものとも売れ足よく 続々再板を 目論むものさへ多かりしが 其流行の根元を尋ぬれば 昨年一昨年の頃に当りて 仏国巴里の美術家が 日本美術の参考品として 歌麿の画(ゑ)を出板したるが為めなりと云ふ 然れ共我国の画工は其実(じ つ)歌麿が画体の野卑に傾くを厭ひて 却って石川豊信、歌川春山若しくは鳥居清長等(ら)の墨跡を賞 翫して 歌麿の上に尚ほ高雅の絵画ある事を知らしめんなど言ふ者さへあればにや 何時の間にか世の 嗜好変はり 古画家のまには此の豊信、春山、清長等の絵画に価値(ねうち)を置きて売買する事となり 宝暦板の如きは一枚二十五銭の相場を有(たも)ちて 客への売値は五十銭以上に及ぶと云ふ されば此 先歌麿に次で世に出でんものは 此三人の墨跡にて大いに絵画好尚の進歩を来したりと云ふべけれ〟
<古版画>
◯『早稲田文学』(明治25年10月15日刊)
※句読点は本HPのもの
〝吉沢の輸出 神田なる吉沢某、屡々新聞紙に広告して、頻に古錦絵古絵本の類を買求む。三四の新聞紙は伝ふらく、 本所辺の一貧民、屑屋の五銭に買はんといひし古錦絵二百余枚と古絵本二冊とを吉沢の許に持ち行きて、 四百余円を得たりと。蓋し吉沢は斯くして買集めたるを何も海外へ輸出すといふ。因りて思ふに、今五 六十年を経ば、黄表紙蒟蒻本はいふに及ぱず、柳亭以下の艸ざうしの如きも、大に騰貴する時あらん、 必竟我が古画の欧米にてもてはやさるゝは、例のジャバニース、クレーズの影響なるべし。 附記 吉沢商店は神田紺屋町五番地にあり。今同店にて錦絵類を買求むる直段を聞くに、古錦絵(江戸絵又は 絵がみ)は古きほど高価にて、一枚二円より最高は三円を出だし。古絵本は一冊八円より最高は二十円 に及び、浮世給即ち美人画の掛物巻物等はもとより俳諧名びろめ等のすり物も画の美麗なるほど価高し といふ〟
〈この吉沢商店は、翌明治26年『古代浮世絵買入必携』(酒井松之助編)を出版した浮世絵商。蒟蒻本とは洒落本。柳亭 は柳亭種彦。「艸ざうし」はここでは合巻を指す。この時点では古錦絵1枚が2-3円の由である〉
<古版画>
◯「読売新聞」(明治25年10月16日記事) 〝掘出し物(四百廿六円) (かつては五百石以上も領せし元旗本の森川某、今は零落して日々の生活もままならぬ身の上) 去る六月頃より中風症に罹り いと難儀に陥りし折から小遣ひの足しにもと 妻のお何が曾て亡き母の 記念(かたみ)として保存し置きたる 百年以前の古(ふる)
錦絵
二百余枚と絵本二冊を屑屋に売らんとせ しに 屑屋は之を見て五銭に買はんと云ふを 今一銭買ひてよとて 値段の押問答を為し居る所へ 近 所の者が来合せ 古錦絵は此頃神田の吉沢といふ家で高く買ふとの広告が新聞に見たれば 其処に遣っ て御覧なさいとの話を聞き 右の絵本類を持参して見せたるに 錦絵二百廿枚と絵本二冊 四百廿六円 に買取るとの事に 妻は夢かとばかり打喜び宙を飛んで家に帰り 病み臥す良人にも其事を話して 直 様(すぐさま)之を売払ひ 医療の手当も充分にする事を得て 一家愁眉を開きたると〟
〈この森川某の話は上掲『早稲田文学』の本所辺の一貧民と全く同じ記事。巷間ではよほど話題になったものと見える〉
<古版画>
◯「明治以降浮世絵界年譜稿(其二)」(吉田暎二著『浮世絵草紙』所収・1945年刊) 〝当時
春信
の中判十円位〟
〈明治十九年の春信が一枚2,3円であったのが、明治二十五年で10円である〉
<古版画>
◯『明治世相百話』p244(山本笑月著・昭和十一年(1936)刊・第一書房・底本は中公文庫) 〝(内田魯庵談)二十五年頃、写楽を一枚一円ずつで五、六枚買いましたが、友人が売ってくれというの で二円ずつで譲ってしまったら、間もなくだんだん高くなったので惜しいことをしたと思います〟
<古版画>
◯『浮世絵』第弐拾一(21)号 (酒井庄吉編 浮世絵社 大正六年(1917)二月刊)
(国立国会図書館デジタルコレクション)
◇「錦絵の買集めと其苦心」浮世絵子 〝錦絵の流行出したのは、明治十六七年の頃が始まりで、それからぽつ/\と値が出まして、
二十五年の 頃になりますと、春信の中錦絵一枚が、十円位になりました
。すると利に早い商人連中は我先にと こ れが蒐集に取りかゝり、東京は云ふに及ばず、京阪のものまで漁り尽し 大正の今日に至つては、日本 六十余州の津々浦々までも、手を拡げて大々的の広告文を配付して、田舎に残存してゐる品をば買ひ取 らうと、あつちこつちを苦心して探がしてあるく人物が各県をおしまはつてゐます(中略) この人達が、錦絵を買入れる方法は、なか/\振つたもので、例へば歌麿とか北斎とか広重とかの、再 版絵を見本に携帯し、村々を軒別に廻つて、「お宅には、こんな絵紙はありませんか、有りましたら高 価(たかく)頂きますが」などと誘ひをかけて、さがし歩き、そのうち逸品でも見附やうものなら、さあ 大変、手を変え品を変え、何遍も何遍も出掛けては、それを狙つて、目的を達しないまでは、如何して も動かない、丸で耶蘇教の宣教師が、信者でも作るやうな熱心さでせめかけるので、とう/\その目的 を達します(以下略)〟 ☆ 明治二十九年(1896)
<古版画>
◯『読売新聞』(明治29年8月2日) 〝錦絵画本 古き絵本又は古き郵便切手等を新橋南金六町河岸の吉沢商店へ持参せば 高価に買入るゝ由 にて 古錦絵も百年前後のものは下等にて一枚二三十銭より 上等ものは六七円以上のものあり 絵本 は美人画の彩色物などは一冊十円乃至六七十円に買入るゝ由〟 ☆ 明治三十年(1897)
<肉筆古画>
◯『新撰日本美術書画予価一覧』大阪(赤志忠雅堂 明治三十年一月刊)
(国立国会図書館デジタルコレクション)
屏風 絹幅 〝応挙 円山氏 京師人 寛政中 3000円 300円 一蝶 英氏 江戸人 享保中 1500円 150円 光琳 尾形氏 京師人 享保中 1700円 200円 一蜩 英氏 200円 20円 容斎 菊池氏 東京人 明治中 1500円 150円 一舟 英氏 明和中 150円 15円 一川 英氏 100円 10円 抱一 酒井氏 江戸人 文政中 1500円 150円 崋山 渡辺氏 三河人 天保中 1500円 100円 文晁 谷氏 江戸人 天保中 1500円 150円 一蕙 浮田氏 西京人 安政中 400円 50円 保国 橘氏 寛延中 50円 5円 若冲 伊藤氏 西京人 寛政中 1000円 50円 北斎 葛飾氏 江戸人 文政中 2000円 150円 暁斎 河辺氏 東京人 明治中 500円 20円 孔寅 長山氏 大坂人 文化中 100円 150円 真虎 大石氏 江戸人 文化中 200円 10円 一蜂 英氏 江戸人 元文中 100円 10円 嵩之 佐脇氏 江戸人 明和中 100円 10円 嵩谷 高氏 江戸人 文化中 100円 10円 守国 橘氏 大坂人 寛延中 100円 5円 楠亭 西村氏 西京人 天保中 100円 10円 蕪村 与謝氏 大坂人 天明中 画 1000円 画 100円 書 500円 書 35円 大雅 池野氏 京師人 安永中 画 1000円 画 100円 書 500円 書 30円 凌岱 建部氏 南部人 安永中 60円 5円 関月 蔀氏 大坂人 寛政中 80円 4円 訥言 田中氏 石州人 文政中 100円 10円 蕙斎 鍬形氏 江戸人 文政中 100円 5円 武清 喜多氏 江戸人 安政中 60円 5円 江漢 司馬氏 江戸人 文化中 200円 20円 半山 松川氏 大坂人 200円 12円 是真 柴田氏 江戸人 300円 15円 一九 十返舎 江戸人 150円 8円 友禅 元禄中 200円 10円 又兵衛 岩佐氏 摂津人 寛永中 2500円 200円 勝以 未詳 西京人 慶長中 200円 10円 又平 未詳 大津人 享保中 30円 長春 宮川氏 江戸人 元禄中 550円 30円 師宣 菱川氏 房州人 元禄中 500円 45円 師房 菱川氏 房州人 元禄中 200円 15円(師宣 男) 師永 菱川氏 房州人 元禄中 150円 15円(師宣 二男) 政信 菱川氏 125円 10円 友房 菱川氏 70円 5円 春水 宮川氏 江戸人 元文中 250円 20円 薪水 勝川氏 江戸人 寛保中 200円 20円 春章 勝川氏 江戸人 明和中 100円 6円
〈春章は下掲にもある。明和中の作品と安永中のものでは価値が違うというのだろうか〉
春好 勝川氏 江戸人 安永中 70円 6円 師重 古山氏 江戸人 元禄中 70円 5円 師政 古山氏 江戸人 享保中 50円 2円 清信 鳥井氏 江戸人 元禄中 100円 8円
〈鳥井はママ〉
清満 鳥井氏 江戸人 80円 5円 清長 関氏 江戸人 60円 3円 重長 西村氏 江戸人 45円 2円 清信 鳥居氏 江戸人 50円 2円 春潮 竹原氏 平安人 150円 7円
〈竹原春潮斎〉
春泉 竹原氏 平安人 100円 6円
〈竹原春泉斎〉
栄之 細田氏 120円 6円 祐信 西川氏 平安人 正徳中 500円 40円 政信 奥村氏 江戸人 享保中 200円 10円 利信 奥村氏 江戸人 享保中 100円 6円 清春 近藤氏 享保中 60円 4円 豊広 哥川氏 江戸人 寛政中 100円 4円 国政 哥川氏 江戸人 寛政中 80円 3円 豊信 石川氏 天明中 70円 4円 春章 勝川氏 江戸人 安永中 130円 5円
〈上掲参照〉
春町 恋川氏 江戸人 130円 5円 白亀 小松屋 江戸人 100円 5円
〈百亀が正しい〉
重政 北尾氏 江戸人 100円 4円 湖竜斎 磯田氏 江戸人 文化中 100円 4円
〈文化中は不審〉
京伝 山東氏 江戸人 文化中 150円 6円 哥麻呂 北川氏 江戸人 文化中 200円 10円 俊満 窪氏 江戸人 80円 5円 宗理 俵屋二代 80円 5円 宗理 俵屋三代 65円 3円 拾水 下河辺 平安人 80円 3円 春湖ママ 吉左堂 80円 3円 沖信 羽川氏 江戸人 60円 2円 豊信 枝川氏 平安人 65円 2円 豊春 哥川氏 江戸人 100円 3円 豊国 倉橋氏 江戸人 文政中 200円 10円 英泉 池田氏 江戸人 嘉永中 120円 6円 広重 安藤氏 江戸人 安政中 130円 8円 国貞 角田氏 江戸人 元治中 200円 10円 国政 角田氏 江戸人 元治中 100円 6円 国芳 井草氏 江戸人 文久中 150円 10円 千春 高島氏 大坂人 安政中 65円 5円 魚彦 楫取氏 下総人 書 60円 書 3円 画 75円 画 3円
<肉筆古画>
◯『全国古今書画定位鏡』番付(三宅彦次郎編集・出版 明治三十年三月刊)
(東京文化財研究所・明治大正期書画家番付データベース)
〝古人書画部
〈原典の金額は漢数字だが算用数字に改めた〉
画書 渡辺華山 弘化 金130円 池野大雅 天明 金130円 巨勢金岡 元慶 金100円 狩野探幽 宝永 金 50円 谷文晁 弘化 金 40円 緒方光琳 享保 金 30円 抱逸上人 天保 金 25円
〈酒井抱一〉
書画 謝長寅 文化 金120円
〈与謝蕪村〉
画 岩佐又兵衛 寛永 金 50円 奇書 伊藤若冲 寛保 金 30円 能画 柴田是真 明治 金 30円 画文 雛屋立圃 元禄 金 20円 画家 円山応挙 寛政 金100円 英一蝶 元禄 金 30円 葛飾北斎 嘉永 金 30円 菊地容斎 明治 金 30円
〈菊地は菊池の誤植〉
浮田一蕙 文久 金 20円 河鍋暁斎 明治 金 30円 大蘇芳年 明治 金 10円 浮世画 菱川師宣 元禄 金 50円 宮川長春 宝永 金 40円 鳥居清信 元禄 金 30円 羽川珍重 宝永 金 30円 西川祐信 享保 金 30円 奥村正信 享保 金 30円
〈正信は政信〉
勝川春章 享保 金 30円 喜多川歌麿 天明 金 30円 西村重長 享保 金 25円 歌川豊春 文化 金 25円 鈴木春信 明和 金 25円 勝川春英 文政 金 20円 二代豊国 天保 金 20円 一勇斎国芳 天保 金 20円 一立斎広重 天保 金 20円 北尾重政 文化 金 20円
〈初代豊国が見つからないのは不審である〉
参考
文学 井原西鶴 元禄 金50円 文学 曲亭馬琴 文化 金50円 奇画 伊藤若冲 寛保 金30円 狂画 太田蜀山 文化 金20円
〈太田は大田の誤植〉
戯作 為水春水 天保 金20円
〈為水は為永の誤植〉
戯作画 山東京伝 文化 金20円 狂言作者 河竹黙阿弥 明治 金10円 戯文筆耕 梅素玄魚 明治 金10円
<古版画>
◯「明治以降浮世絵界年譜稿(其二)」(吉田暎二著『浮世絵草紙』所収・1945年刊) 〝此以前より小林文七は、米国へ
奥村・鳥居
の
漆絵
大判、<
歌麿、写楽、清長、春信
等の作品を流出せしむ。 当時秋田の本庄より大判
丹絵
十二枚が五百円で堀出さる。しかし、米人研究家ハツパーも、美術商山中 商会も、四千円でこれを買入こと能はず、小林文七が三千円にて買ふ〟
〈秋田の本庄から、大判の丹絵12枚を500円(一枚当たり約42円)で掘り出した者がいる。これを最終的には小林文七 が3000円で入手したという。しかしよく分からないのは、「ハツパーも山中商会も、四千円でこれを買入こと能はず」 の意味。この千円も低い小林文七の入手。はたしてどんな事情があってのことなのであろうか〉
☆ 明治三十四年(1901)
<古版画>
◯『明治東京逸聞史』②p32(明治三十四年記事)
〝
写楽<
>の錦絵〈読売新聞三四・二・一五〉 居外閑人こと飯島虚心が「写楽の雲母絵(キラエ)」という一文を寄せている。 日本の錦絵も、西洋人が欲しがるのは主として美人画で、役者の似顔絵の方は気がなかったのであるが、 写楽だけは例外で、争うて購うものだから、以前は一二円だったその絵が、今では十四五円にもなって 居り、それでも入手が困難とせられる、などとしてある。ドイツ人のクルトが写楽の最初の発見者だっ たのではない。写楽の錦絵は、それ以前から値が出ていたのである。 なお局外閑人は、亡友楢崎海運氏が、嘗て五世白猿の似顔を画いた狂歌の摺物を蔵したことなどをも 書いている。写楽にも、錦絵以外に、そうしたものなどもあったのである〟 ☆ 明治三十五~六年頃(1902-3)
<古版画>
◯『読売新聞』(明治35年10月19日記事) 〝古代の浮世絵(昨今の相場) 欧米の各国にて我が浮世絵錦絵等を蒐集して愛翫するは、早や久しき以前より始まりし事なるが、今も 引続きて浮世又兵衛、菱川師宣、魚屋北渓等の画は常に高値を保ちて、年々の輸出極めて多く、年毎に 品物は減少して、益す高価となるのみなれば、其輸出店鋪数件は皆其買入に困難を来し、今は注文あり ても輸出する品なきに至れる程にて 先頃新潟県人某といへるが、神田の某店鋪へ奥村政信、鳥居清信、 懐月堂安慶の美人画三葉を持来りて売却せしが、其取引値段は三葉にて金二百なりしが、これに依つて も如何に其代価の騰貴せしかは想像するに難からず、尚目下弘く浮世絵を蒐集して所蔵せるは、末松 男等最も熱心家と聞え、同男の所蔵中には肉筆の画も多く、文学上の参考に屈強の品々もありとぞ〟 ◯『明治世相百話』p244(山本笑月著・昭和十一年(1936)刊・第一書房・底本は中公文庫) 〝(古書店主・村田幸吉老の談)私も写楽では失敗した。三十五、六年頃のことですが、出物で二十余枚、 一枚三十円で買った翌日、仲買の対人が来て五十円ずつに買うという、こんなうまい話はないとすぐに 売りましたが、今では一枚三百円以上ですから結局大損をしたわけですと、これは明治四十年頃の話〟 ☆ 明治四十年頃(1907)
<古版画>
◯『明治世相百話』p244(山本笑月著・昭和十一年(1936)刊・第一書房・底本は中公文庫) 〝(古錦絵写楽の値段、明治初年五厘から一銭、明治二十五年一円から二円、明治三十五六年頃三十円~ 五十円)今では一枚三百円以上です、これは明治四十年頃の話〟
<古版画>
◯『明治東京逸聞史』②p247 明治四十年(1907)記事 〝
錦絵
〈太平洋四〇・一〉 「古錦絵の相場」という、無署名の記事が出ている。 江戸時代の錦絵が、新しく珍重せられるようになったのは、明治十四五年からで、今では一枚の錦絵 に千円、二千円を擲つ西洋人も出て来て、大景気を呈している。 それで品不足となったので、評判のいい絵には、偽造品を拵える。といって沢山作り過ぎては分かっ てしまうものだから、三十枚か、せいぜい四十枚で、板木焼棄てる。しかし偽造品はやはり偽造品で、 正のものと較べると、色がどきつく、紙がこわく、画面に味いを欠いた結果を来している〟 ☆ 明治四十二年(1909)
<肉筆古画>
◯『日本書画評価表(一~二)』番付 大阪(石塚猪男蔵編集・出版 明治四十二年十月刊)
(東京文化財研究所・明治大正期書画家番付データベース)
(編者の「例言」に「本表ノ評価ハ絹本大作ノ軸物ヲ標準トシテ掲出ス。若シ屏風ノ如キハ其ノ価之ニ十倍 スベシ、猶ホ疎画ニ於テハ価自ラ下ルベシ」とあり、
評価は絹本の掛け軸に対するもの
)
〈原典の金額は漢数字、また絵師名はイロハ順だが、本HPはそれを算用数字に改め、また金額順に並びかえた〉
〝名家逸品 巨勢金岡 南都 金700円 円山応挙 京都 金600円
〈巨勢金岡が筆頭〉
狩野探幽 京都 金500円 伊藤若冲 京都 金400円 尾形光琳 京都 金500円 渡辺華山 三河 金500円 谷文晁 東京 金300円 池野大雅 京都 金300円
岩佐又兵衛
京都 金400円
浮世絵又兵衛
京都 金350円
葛飾北斎
東京 金350円
菱川師宣
安房 金300円
菊池容斎
東京 金300円 野々村宗達 加賀 金250円
〈俵屋宗達〉
英一蝶
東京 金250円 与謝蕪村 京都 金250円
酒井抱一
東京 金250円
河鍋暁斎
東京 金200円
宮川長春
東京 金200円
歌川豊春
東京 金180円
歌川豊国
東京 金180円
西川祐信
京都 金120円〟 〝宋紫石 東京 金150円
月岡雪鼎
近江 金150円
大石真虎
尾張 金130円
細田鳥文斎
東京 金110円
〈この鳥文斎と下掲細田栄之の関係不明〉
山東京伝
東京 金110円 長谷川長春 京都 金100円
勝川春章
東京 金100円
英一蝶
東京 金100円
〈「名家逸品」の一蝶との関係不明〉
月岡雪斎 大阪 金100円
月岡芳年
東京 金100円
〈この芳年と下掲大蘇芳年の関係不明〉
西村楠亭 京都 金 90円
友禅
京都 金 90円
鳥井(ママ)清信
京都 金 90円
岡田玉山
大阪 金 90円
〈鳥井は鳥居の誤記であろうが、京都と下掲の江戸の鳥井清信、どのような根拠から併記したのであろうか〉
尾形月耕
東京 金 90円
加藤文麗
伊予 金 90円
橘守国
大阪 金 90円
田中訥言
尾張 金 90円
高嵩谷
東京 金 90円
小林永濯
京都 金 90円
司馬江漢
東京 金 90円
恋川春助
(ママ) 東京 金 90円
〈恋川春町の誤植か〉
羽川珍重
東京 金 80円
英一舟
東京 金 80円
西村中和
大和 金 80円
富岡永洗
東京 金 80円
勝川薪水
東京 金 80円
大蘇芳年
東京 金 80円
俵屋宗理
(二代)東京 金 80円
柴田是真
東京 金 80円
英一川
東京 金 70円
英一蜂
東京 金 70円
羽川冲信
東京 金 70円
西村重長
東京 金 70円
勝川春好
東京 金 70円
勝川春亭
京都 金 70円
花月斎春政
京都 金 70円
十返舎一九
東京 金 70円
浮田一蕙
京都 金 70円
松川半山
大阪 金 70円
松本楓湖
東京 金 70円
蔀関月
大阪 金 70円
菱川師房
東京 金 70円
菱川友房
東京 金 70円
勝川春泉
京都 金 60円
俵屋宗二
東京 金 60円
鳥井(ママ)清信
江戸 金 60円
角田国貞
東京 金 60円
〈初代国貞〉
北尾重政
東京 金 60円
歌川国政
東京 金 60円
〈初代国政だろうか〉
北川歌麿
東京 金 60円
合川珉和
京都 金 60円
菱川師永
東京 金 60円
菱川政信
東京 金 60円
鍬形蕙斎
東京 金 55円
石川豊信
東京 金 50円
細田栄之
東京 金 50円
石川俊之
東京 金 50円
〈石川俊之は石川流宣(とものぶ)〉
楠本雪渓 東京 金 50円
高崎(ママ)千春
大阪 金 50円
〈高島千春〉
西川照信
京都 金 50円
筒井年峯
東京 金 50円
小林永興
東京 金 50円
宮川春水
京都 金 45円
歌川国麿
東京 金 45円
勝間龍水
東京 金 40円
楫 (ママ)魚彦
下総 金 40円
〈楫取魚彦〉
橘保国
大阪 金 40円
上田公長
京都 金 40円
小林清親
東京 金 40円
安藤廣重
京都 金 40円
〈初代広重〉
高田敬甫
近江 金 40円
〈「高田甫敬 近江 金40円」ともある〉
桜井雪館
東京 金 35円
柳川重信
東京 金 35円
吉左堂春湖
(ママ)東京 金 35円
三島蕉窓
東京 金 35円
鈴木春信
東京 金 35円
月岡雪渓
大阪 金 30円
久保田米僊
加賀 金 30円
渓斎英泉
東京 金 30円
井草国芳
東京 金 30円 桜井山興 東京 金 30円
古山師重
東京 金 25円
古山師政
東京 金 25円
長山孔寅
大阪 金 20円
中井芳瀧
大阪 金 20円
野々村信武
美濃 金 20円
関清長
東京 金 20円
窪俊満
東京 金 15円
近藤清春
京都 金 15円
佐脇嵩之
東京 金 15円
喜多武清
東京 金 10円〟
参考
太(ママ)田南畝 金90円
〈現在の評価とは大分異なる。主立った絵師を抽出してみると以下の通り。 岩佐又兵衛 400円 葛飾北斎 350円 菱川師宣 300円 河鍋暁斎 200円 宮川長春 200円 歌川豊春 180円〉 歌川豊国 180円 西川祐信 120円 勝川春章 100円 月岡芳年 100円 高嵩谷 90円 羽川珍重 80円 西村重長 70円 勝川春好 70円 勝川春亭 70円 菱川師房 70円 鳥居清信 60円 歌川国貞 60円 喜多川歌麿 60円 北尾重政 60円 鍬形蕙斎 55円 鳥文斎栄之 50円 歌川国麿 45円 歌川広重 40円 柳川重信 35円 鈴木春信 35円 渓斎英泉 30円 歌川国芳 30円 鳥居清長 20円 窪俊満 15円 いわゆる六大浮世絵師と称される絵師の中で突出しているのは北斎。これらの評価が「絹本大作ノ軸物」に対するもので、 版画ではないとはいえ、歌麿・広重・春信・清長が重政・国貞と同じかそれ以下だというのは実に意外な感じがする。ま た、軸物のない写楽がここにないのは当然のこととして、奥村政信の名がないのも不思議である〉
☆ 明治四十三年(1910)
<古版画>
◯「明治以降浮世絵界年譜稿(其三)」(吉田暎二著『浮世絵草紙』所収・1945年刊) 〝この頃美術倶楽部の入札で、写楽、二百円位、清長の保存良好なる三枚続を岩崎家が四千円にて落札す〟
〈前出のように、明治十九年頃、歌麿や春信の錦絵一枚が2~3円であった。それが写楽200円、清長三枚続4000円であ る。凄まじい上昇率だ。ただ、大正四年の価格と比較すると、清長の三枚続が4000円というのは、かなりの高値〉
☆ 大正元年(明治四十五年・1912)
<古版画>
◯「明治以降浮世絵界年譜稿(其三)」(吉田暎二著『浮世絵草紙』所収・1945年刊) 〝雑誌『日本及日本人』に於て、内田魯庵曰く「我々の眼からは十銭か十五銭の価しかない錦絵が欧羅巴 では何十円、何百円もしてゐる。欧羅巴人が讃賞する日本人は、伊藤博文公でも東郷大将でもない。夫 より以上に歌麿が称美され、春信が詠歎され、写楽が驚歎されてゐる。ド級型の戦闘艦何隻を有する海 軍国としてより、浮世絵の本家本元としての日本の方が広く知られてゐる。専門の美学者でも鑑賞家で もないから斯様の錦絵の讃美されてゐる理由は解らない。しかし此の如き浅薄野卑な江戸趣味の錦絵が、 日本文明を代表してゐると思つて有頂天になつてゐる日本国民は腑甲斐ない話だ」〟
〈国内では10~15銭でしかない錦絵がヨーロッパでは何十円の何百円もしているという。これだけの価値の差がどうし て生ずるのか、内田魯庵に限らず当時の日本人の多くが納得できなかったようだ。しかし、現実には外国人がどんど ん高値で買い求めてゆく。それも、国内の10~15銭が国外に移すだけでその百倍にも千倍以上にもなるのである。商 売上からすればこんな魅力的なものもないであろう。だから腑には落ちないが商売はする。外国人から見れば美術品 でも、日本人からすれば単なる商品、こうした意識がどこかにあったのではないだろうか。それが流出を助長したの かもしれない。これは浮世絵に限らず、江戸の細工物全般にいえるのだろうが。それにしても、内田魯庵と西洋人と の間に存する浮世絵に対するズレは現在でもあるような気もするのだが、どうだろうか〉
☆ 大正二年(1913)
<古版画>
◯「明治以降浮世絵界年譜稿(其三)」(吉田暎二著『浮世絵草紙』所収・1945年刊) 〝光琳、燕子花屛風十万五千円にて売却さる。 建築家ライト第一回来朝。スポールデイングの依嘱で浮世絵を蒐集。百日間に二十五万円を買集める〟
<古今肉筆画>
<古版画>
◯『日本書画評価一覧』番付(二枚続)大阪(石塚猪男蔵編集・出版 大正二年十月刊)
(東京文化財研究所・明治大正期書画家番付データベース)
(編者の「例言」に「本表ノ評価ハ絹本精秀ノ軸物ヲ標準トシテ掲出ス。猶ホ屏風又ハ疎画ニ至リテハ 自ラ価ノ高下アルベキハ固ヨリナリ」とあり、
評価は絹本の掛け軸に対するもの
)
※この大正2年版と明治42年版は同じ編集者で大阪出版、明治30年版(『全国古今書画定位鏡』)は編者は別で東京出版
〈原典の金額は漢数字、また絵師名はイロハ順だが、本HPはそれを算用数字に改め、また金額順に並びかえた〉
<参考>
大正2年版 明治42年版 明治30年版
〝巨勢金岡 京都 金1200円 (700円) (100円) 狩野探幽 京都 金1000円 (500円) ( 50円) 池野大雅 京都 金 900円 (300円) (130円) 尾形光琳 京都 金 900円 (500円) ( 30円) 円山応挙 京都 金 900円 (600円) (100円) 与謝蕪村 丹後 金 750円 (250円 (120円) 伊藤若冲 東京 金 700円 (400円) ( 30円) 渡辺華(ママ)山 東京 金 700円 (500円) (130円)
〈崋山〉
俵屋宗達 加賀 金 500円 (250円) (記載なし)
〈明治42年版は野々村宗達名〉
谷文晁 東京 金 500円 (300円) ( 40円) 酒井抱一 東京 金 500円 (250円) ( 20円) 菊池容斎 東京 金 400円 (300円) ( 30円) 宋紫石 東京 金 350円 (150円) (記載なし) 太(ママ)田南畝 東京 金 120円 ( 90円) (記載なし)
〈書家としての評価〉
曲亭馬琴 東京 金 80円 (記載なし) ( 30円)
〈書家としての評価〉
<浮世絵師関係>
岩佐又兵衛
京都 金 750円 (400円) ( 50円)
葛飾北斎
東京 金 700円 (350円) ( 30円)
菱川師宣
安房 金 600円 (300円) ( 50円)
歌川豊国
東京 金 500円 (180円) (記載なし)
英一蝶
東京 金 450円 (250円) ( 30円)
〈明治42年版にはこの「名家逸品」の250円ほかに100円の評価もある〉
歌川豊春
東京 金 380円 (180円) ( 25円)
鳥山石燕
東京 金 350円 (記載なし) (記載なし)
菱川師房
東京 金 350円 ( 70円) (記載なし)
鳥居清信
東京 金 300円 ( 60円) ( 30円)
清信
京都 ( 90円)
勝川春章
東京 金 300円 (100円) ( 30円)
月岡雪鼎
近江 金 300円 (150円) (記載なし)
北川歌麿
東京 金 300円 ( 60円) ( 30円)
宮川長春
東京 金 300円 (200円) ( 40円)
北尾重政
東京 金 260円 ( 60円) ( 20円)
等琳
東京 金 250円 (記載なし) (記載なし)
恋川春町
東京 金 250円 ( 90円)
〈明治42年版では「恋川春助」とある。春町の誤植とみた〉
英一蜩
東京 金 250円 (記載なし) (記載なし)
勝川薪水
東京 金 240円 ( 80円) (記載なし)
等琳
二代 東京 金 230円 (記載なし) (記載なし)
菱川師永
東京 金 220円 ( 60円) (記載なし)
菱川政信
東京 金 220円 ( 60円) (記載なし)
司馬江漢
東京 金 210円 ( 90円) (記載なし)
等琳
三代 東京 金 200円 (記載なし) (記載なし)
鳥居清信
二代 東京 金 200円 (記載なし) (記載なし)
鳥居清信
三代 東京 金 200円 (記載なし) (記載なし)
勝川春英
東京 金 200円 ( 20円) (記載なし)
月岡雪斎
大阪 金 200円 (100円) (記載なし)
月岡芳年
東京 金 200円 (100円) ( 10円)(20円)M18
長山孔寅
秋田 金 200円 ( 20円) (記載なし)
歌川豊広
東京 金 200円 (記載なし) (記載なし)
菱川友房
東京 金 200円 ( 70円) (記載なし)
大正2年版 明治42年版 明治30年版
細田栄之
東京 金 190円 ( 50円) (記載なし) 細田鳥文斎 東京 (110円)
〈前出栄之との関係不明〉
橘守国
大阪 金 190円 ( 90円) (記載なし)
勝川春好
東京 金 180円 ( 70円) (記載なし)
俵屋宗理
東京 金 180円 ( 80円) (記載なし)
〈明治42年版は二代目とする〉
歌川豊国
二代 東京 金 180円 (記載なし) ( 20円)
〈この二代豊国、上出に歌川豊国そして下出に角田国貞の名があることから、初代の養子となった豊国か〉
柳文朝
大阪 金 180円 (記載なし) (記載なし)
西川祐信
京都 金 180円 (120円) (30円)
英一蜂
東京 金 170円 ( 70円)
長谷川雪旦
京都 金 170円 (記載なし) (記載なし)
大石真虎
尾張 金 170円 (130円)
岡田玉山
大阪 金 170円 ( 90円)
福王雪岑
東京 金 170円 (記載なし)
雛屋立圃
丹波 金 170円 (記載なし) (20円)
勝川春好
二代 東京 金 160円 ( 70円)
田中訥言
尾張 金 160円 ( 90円)
英一舟
東京 金 150円 ( 80円) 羽田(ママ)
珍重
東京 金 150円 ( 80円) (30円)
〈羽川〉
西村楠亭
京都 金 150円 ( 90円)
西村重長
京都 金 150円 ( 70円) (25円)
鳥居清満
東京 金 150円 (記載なし)
楫取魚彦
下総 金 150円 ( 40円)
俵屋宗理
二代 東京 金 150円 ( 80円)
角田国貞
東京 金 150円 ( 60円)
〈初代国貞・三代豊国〉
歌川国芳
東京 金 150円 ( 30円) (20円)
宮川春童
東京 金 150円 (記載なし)
竹原信繁
大阪 金 140円 (記載なし)
鳥居清長
東京 金 140円 ( 20円)
松本楓湖
東京 金 140円 ( 70円) (2円)M19(5円)M18(4円)M17 (1円)M12
鳥居清忠
東京 金 135円 (記載なし)
〈評価金120円の鳥居清忠との関係不明〉
石川豊信
東京 金 130円 ( 50円)
高嵩谷
東京 金 130円 ( 90円)
勝川春琳
東京 金 130円 (記載なし)
河鍋暁斎
東京 金 130円 (200円) (30円)(7円)M19(20円)M18(7円)M17
近藤清春
東京 金 130円 (記載なし)
英一川
東京 金 120年 ( 70円)
西川祐尹
京都 金 120円 (記載なし)
北渓
東京 金 120円 (記載なし)
鳥居清峰
東京 金 120円 (記載なし)
豊原国周
東京 金 120円 (記載なし) (2円)M19 (20円)M18
歌川豊年
東京 金 120円 (記載なし)
魚屋北渓
京都 金 120円 (記載なし)
懐月堂安度
京都 金 120円 (記載なし)
柳川重信
大阪 金 120円 ( 30円)
寺崎廣業
東京 金 120円 (記載なし)
柴田是真
京都 金 120円 ( 80円) (30円)(10円)M19(20円)M18 (7円)M17(1円)M12
鈴木春信
京都 金 120円 ( 35円) (25円)
大正2年版 明治42年版 明治30年版
一立斎広重
東京 金 110円 ( 40円) (20円)
〈初代広重〉
鳥居清村
東京 金 110円 (記載なし)
鳥居清忠
東京 金 110円 (記載なし)
〈評価金100円の鳥居清忠との関係不明〉
渡辺省亭
東京 金 110円 (記載なし)
勝川春亭
東京 金 110円 ( 70円) (3円)M18
歌川国政
東京 金 110円 ( 60円)
〈この国政は初代か〉
鍬形蕙斎
東京 金 110円 ( 55円)
福地自(ママ)瑛
京都 金 110円 (記載なし)
〈白瑛の誤記か〉
蔀関月
大阪 金 110円 ( 70円)
蔀関牛
大阪 金 100円 (記載なし)
一筆斎文調
東京 金 100円 (記載なし)
速水恒章
京都 金 100円 (記載なし)
細田栄理
東京 金 100円 (記載なし)
北斎
二世 東京 金 100円 (記載なし) 鳥居巽甫 東京 金 100円 (記載なし)
鳥居清経
東京 金 100円 (記載なし)
尾形月耕
東京 金 100円 ( 90円)
勝川春潮
東京 金 100円 ( 35円)
〈明治44年版は吉左堂春湖(ママ)〉
歌川国麿
東京 金 100円 ( 45円)
歌川国長
東京 金 100円 (記載なし)
柳川重春
大阪 金 100円 (記載なし)
池田英泉
東京 金 95円 ( 30円)
磯田湖龍斎
東京 金 90円 (記載なし)
細田栄昌
東京 金 90円 (記載なし)
豊国
三世 東京 金 90円 (記載なし)
奥村利信
東京 金 90円 (記載なし)
勝川春扇
東京 金 90円 (記載なし)
月岡雪渓
大阪 金 90円 ( 30円)
竹原春朝
京都 金 90円 (記載なし)
歌川国直
信濃 金 90円 (記載なし)
浮田一蕙
京都 金 90円 ( 70円) (30円)
貞升
大阪 金 90円 (記載なし)
桜井雪館
東京 金 90円 ( 35円)
北川菊麿
京都 金 90円 (記載なし)
北尾政美
京都 金 90円 (記載なし)
水野年方
東京 金 90円 (記載なし)
高田敬甫
近江 金 85円 ( 40円)
建部凌岱
東京 金 85円 (記載なし)
歌川国政
東京 金 85円 (記載なし)
歌川国貞
東京 金 85円 (記載なし)
〈この国貞は二代か〉
久保田米僊
東京 金 85円 ( 30円)
浅山蘆国
大阪 金 85円 (記載なし)
山東京伝
東京 金 85円 (110円)
佐脇嵩之
東京 金 85円 ( 15円)
吉左堂春潮
東京 金 85円 (記載なし)
佐脇嵩雪
東京 金 80円 (記載なし)
鳥居清定
東京 金 80円 (記載なし)
鳥居清重
東京 金 80円 (記載なし)
奥村政信
東京 金 80円 (記載なし) (30円)
勝川春玉
東京 金 80円 (記載なし)
岳亭丘山
東京 金 80円 (記載なし)
橘保国
大阪 金 80円 ( 40円)
歌川豊久
東京 金 80円 (記載なし)
古山師重
東京 金 80円 ( 25円)
桜井秋山
東京 金 80円 (記載なし)
春暁斎
東京 金 80円 (記載なし)
丹羽嘉言
尾張 金 75円 (記載なし)
奥村政房
東京 金 75円 (記載なし)
歌川豊丸
東京 金 75円 (記載なし)
楠本雪渓
東京 金 75円 ( 50円)
窪俊満
東京 金 75円 ( 15円) 近(ママ)藤
広重
東京 金 75円
〈安藤の誤植か。上欄に一立斎広重があるから三代目広重か〉
小林永濯
東京 金 75円 ( 90円) (15円)M18
暁鐘成
大阪 金 75円 (記載なし)
喜多武清
東京 金 75円 ( 10円)
北野恒富
加賀 金 75円 (記載なし)
西村中和
大和 金 70円 ( 80円)
鳥居済(ママ)久
東京 金 70円 (記載なし)
〈清久の誤植か〉
奥村利房
東京 金 70円 (記載なし)
小川笠翁
東京 金 70円 (記載なし)
川枝豊信
東京 金 70円 (記載なし)
竹原春泉
京都 金 70円 (記載なし)
筒井年峰
東京 金 70円 ( 50円)
古山師政
東京 金 70円 ( 25円)
六花亭富雪
東京 金 65円 (記載なし)
上田公長
京都 金 65円 ( 40円)
池田蕉園
東京 金 60円 (記載なし)
英信三
東京 金 60円 (記載なし)
建部綾足
京都 金 60円 (記載なし)
歌川芳柳
東京 金 60円 (記載なし)
歌川国重
東京 金 60円 (記載なし)
枝川豊信
京都 金 60円 (記載なし)
鈴木華邨
東京 金 60円 (記載なし)
長谷川雪堤
京都 金 55円 (記載なし)
鏑木清方
東京 金 50円 (記載なし)
月岡耕漁
東京 金 50円 (記載なし)
歌川国松
大阪 金 50円 (記載なし)
歌川国峰
大阪 金 50円 (記載なし)
右田年英
豊後 金 50円 (記載なし)
※ 明治42年(1909)版には登場するが、この大正2年(1914)版には登場しない絵師(画家) 友禅・羽川冲信・花月斎春政・十返舎一九・松川半山・勝川春泉・俵屋宗二・合川珉和・石川(流宣)俊之・楠本雪渓 高島千春・西川照信・小林永興・宮川春水・勝間龍水・小林清親・三島蕉窓・中井芳瀧・野々村信武・近藤清春 新たに登場した絵師(画家) 福地白瑛・安藤広重三世・歌川豊広
☆ 大正四年(1915)
<古版画>
◯『浮世絵』第二号 (酒井庄吉編 浮世絵社 大正四年(1915)七月刊)
(国立国会図書館デジタルコレクション)
◇「浮世絵版画価格の今昔」(22/24コマ) 〝 此処に示すものは明治二十八年、同三十八年及び大正四年との各十年間に於ける優等品としての概価 表である (M28年) (M38年) (T4年)
鳥居清信
竪大判絵 二十円 百円 三百円
鈴木春信
中 錦絵 十円 五十円 二百円
鳥居清長
大 錦絵 十円 五十円 百円
東州斎写樂
雲母摺大錦 十五円 七十円 三百円
北斎
富士卅六景横絵 五十円 二百円 四百円 卅六枚揃
初代広重
東海道横絵 十円 廿五円 六十円 五十五枚揃
同
甲州猿橋 五円 五十円 三百円 竪二枚継掛物絵
国貞・英泉
竪二枚継ぎ 十銭 三十銭 三十銭
国貞
役者 大錦 五厘 一銭 五銭 但し 之は東京に於て売買された価格であるが、如何に浮世絵の価格に変化が来たかを窺ひ知る事が 出来る〟
〈明治28年=1895、明治38年=1905、大正4年=1915 明治後半から二十年間の価格の推移である、広重の猿橋は六十 倍で格別であるが、富岳三十六景や東海道五十三次のような揃物は別として、一枚絵は軒並み十倍から二十倍である。 日本国中虱潰しに探し回ってでも、手に入れようという雰囲気があったのではないか。参考までに朝日新聞社刊『値 段史年表』によると、当時の物価・俸給は以下の通り
歌舞妓桟敷席 約4円(明治26年) 約6円(明治36年) 約8円(大正10年) 銀行初任給 35円(明治31年) 35円(明治39年) 40円(大正5年) 高等官初任給 50円(明治27年) 50円(明治40年) 70円(大正7年 国会議員年俸 800円(明治22年) 2000円(明治32年)3000円(大正9年) 都知事年俸 4000円(明治24年) 3600円(明治36年)6000円(大正9年) 巡査初任給 8円(明治24年) 12円(明治39年) 18円(大正7年) 背広注文服 20円(明治28年) 15円(明治34年) 25円(大正4年) 帝国ホテル一泊 5円(明治31年) 6円(明治37年) 8円(大正12年) 上級酒一升 21銭(明治28年) 32銭(明治35年) 2円(大正5年) 理髪料金 4銭(明治27年) 15銭(明治38年) 20銭(大正3年) 入浴料金 2銭(明治29年) 3銭(明治40年) 4銭(大正6年)
◯『浮世絵』第五号 (酒井庄吉編 浮世絵社 大正四年(1915)十月刊)
(国立国会図書館デジタルコレクション)
◇「浮世絵手引草(一)」(19/25コマ) ・錦絵にしてハガキ判大のものに価値あるもの稀なり〟 ・国芳、国貞、国員、芳虎、芳幾、芳艶、芳年時代の源氏、武者、役者絵類に高価なるものは至て少なし ・菱川鳥居時代より近代に至る無名の門葉派が手になれる肉筆の浮世絵は大方価値なし ・菊川英山の版画に一枚五円以上のものなし ☆ 大正六年(1917)
<古今肉筆画>
<古版画>
◯『新撰懐中書画便覧』(木田寛栗編 大日本絵画講習会 大正四年六月刊)
(国立国会図書館デジタルコレクション)
〝画幅価格一覧 〔一蝶派〕 (人名) (別号) (師名)(没年) (享年)(価格・円)
英一蝶
北窓翁 安信 享保九 七三 100
二世一蝶
信勝 一蝶 元文元 四七 25
英一蜂
春窓翁 一蝶 宝暦十 七〇 20
英一舟
信種 一蝶 明和五 七一 20
英一川
信祐 一舟 安永七 (空欄) 15
英一珪
信重 一川 天保十四 九六 15
福王雪岑
白鳳軒 一蝶 天明五 八五 25
佐脇嵩之
子嶽 一蝶 明和九 六六 25
佐脇嵩雪
中岳斎 嵩之 文化元 六九 20
高嵩谷
屠龍翁 嵩之 文化元 七五 30
観嵩月
景納 嵩谷 天保元 七二 10 〔各派〕 (人名) (別号) (師名)(没年) (享年)(価格・円)
月岡雪鼎
昌信 敬甫 天保六 七七 70
蔀関月
子温 雪鼎 寛政九 五一 40
宮崎友禅
(空欄) (空欄) 元禄中 (空欄) 75
田中訥言
章甫 一派 天明六 四五 70
浮田一蕙
可為 訥言 安政六 六五 85 〔南蘋派〕 (人名) (別号) (師名)(没年) (享年)(価格・円)
宋紫石
君赫 熊斐 天明六 七五 100
建部凌岱
寒派斎 熊斐 安永三 五六 50
楫取魚彦
景良 凌岱 天明二 六〇 50 〔四條派〕 (人名) (別号) (師名)(没年) (享年)(価格・円)
長山孔寅
子亮 呉春 嘉永二 八五 40
柴田是真
対柳居 豊彦 明治廿四 八五 100
久保田桃水
(空欄) 清暉 明治四四 七一 45
久保田米仙
寛 百年 明治卅九 五五 60 〔容斎派〕 (人名) (別号) (師名)(没年) (享年)(価格・円)
菊池容斎
武保 円乗 明治十一 九一 150 〔浮世派〕 (人名) (別号) (師名) (没年) (享年)(価格・円)
岩佐又兵衛
勝重 光則 慶安三 七三 200
菱川師宣
友竹 一派 元禄八 七〇 150
菱川師房
吉兵衛 師宣 正徳頃 (空欄) 60
菱川師永
造酒之丞 師宣 宝暦中 (空欄) 50
古山師重
太郎兵衛 師宣 元禄中 (空欄) 40
古山師政
文志 師重 享保中 (空欄) 40
西川祐信
自得斎 永納 宝暦元 七四 100
西川祐尹
得祐斎 祐信 宝暦十二 五七 40
宮川長春
春旭堂 一派 宝暦二 七一 100
宮川春水
藤四郎 長春 元久頃 (空欄) 30
鳥居清信
庄兵衛 菱川派 享保十四 六六 70
鳥居清忠
(空欄) 清信 享保中 (空欄) 30
西村重長
仙花堂 清信 宝暦六 六〇余 30
奥村政信
丹取斎 清信 明和五 七九 70
鳥居清倍
庄助 清信 宝暦十三 五八 50
羽川珍重
冲信 清信 宝暦四 七〇 35
鳥居清満
半三 清倍 天明五 五一 30
鳥居清長
新助 清満 文化十 (空欄) 40
北尾重政
紅翠斎 鳥居風 文政二 八一 35
鳥山石燕
豊房 周信 天明八 七九 40
喜多川歌麿
信美 石燕 文化二 五三 75
二代歌麿
梅雅堂 歌麿 天保頃 (空欄) 30
恋川春町
寿平 石燕 寛政元 四六 30
鈴木春信
長栄軒 重長 明和七 五三 60
石川豊信
秀葩 重長 天明五 七〇 40
北尾重政
紅翠斎 春信 文政三 八一 35
〈ママ〉
北尾政演
京伝 重政 文化十三 五六 40
鍬形蕙斎
紹真 重政 文政七 六四 35
窪俊満
安兵衛 重政 文政三 六四 30
堤等琳
孫二 (空欄) 元禄中 (空欄) 30
大岡春卜
愛翼 狩野 宝暦十三 八四 35
竹原春朝
信繁 春卜 安永中 (空欄) 20
岡田玉山
子徳 (不明) 文化九 七六 30
石田玉山
子秀 岡田玉山 寛政中 (空欄) 30
大石真虎
太郎 月樵 天保四 四〇 35
磯田湖龍斎
庄兵衛 (空欄) 安永頃 (空欄) 35
懐月堂
安慶 (空欄) 享保中 (空欄) 85
司馬江漢
春波楼 春信 文政元 七二 75
一筆斎文調
頭光 (空欄) 寛政八 (空欄) 25
柳文調
(空欄) 一筆斎文調 享和中 (空欄) 25
細田栄之
鳥文斎 栄川 文政十二 (空欄) 60
勝川春章
旭朗軒 嵩谷 寛政四 六七 60
勝川春英
九徳斎 春章 文政二 五八 25
勝川春扇
登龍斎 春英 文化頃 (空欄) 25
葛飾北斎
戴斗 春章 嘉永二 九〇 125
有坂北馬
蹄斎 北斎 弘化元 七四 30
柳川重信
雷斗 北斎 天保三 四六 20
魚屋北渓
葵園 北斎 嘉永三 七〇 15
菊川英山
俊信 北渓 文化元 (空欄) 25
池田英泉
渓斎 英山 嘉永元 五七 15
歌川豊春
一龍斎 重長 文化十 八〇 30
歌川豊国
一陽斎 豊春 文政八 五七 30
二代豊国
一雄斎 豊国 元治元 七九 25
安藤広重
一立斎 豊広 安政五 六二 30
歌川国芳
一勇斎 豊国 文久元 六五 25
月岡芳年
大蘇 国芳 明治廿四 五四 25
水野年方
(空欄) 芳年 明治四一 四三 20
小林永濯
永真 鮮斎 明治廿三 四八 15
富岡永洗
(空欄) 永濯 明治卅八 四二 20
河鍋暁斎
洞郁 洞白 明治廿二 六二 70 〝現今大家 ※年齢は大正四年の年齢 (姓名) (本名) (別号) (師名) (年齢)(価格・円)
渡辺省亭
政吉 復 容斎 六五 100
寺崎広業
広業 宗山 穂庵 五〇 85
松本楓湖
敬忠 (空欄) 容斎 七三 30
鈴木華村
宗太郎 (空欄) 亨斎 五六 30
小堀鞆音
鞆音 弦乃舎 千虎 五二 30
尾形月耕
田井正之助(空欄) 無師 五七 20
尾竹竹坡
染吉 (空欄) 鞆音・玉章 三八 20
尾竹国観
亀吉 (空欄) 鞆音 三六 20
池田蕉園
ゆり子 (空欄) 年方 二八 25
鏑木清方
健一 渓水 年方 三八 20
梶田半古
錠次郞 (空欄) 玉英 四六 20
北野恒富
富太郎 夜雨庵 年恒 三六 20〟 ☆ 大正七年(1918)
<古版画>
◯「明治以降浮世絵界年譜稿(其四)」(吉田暎二著『浮世絵草紙』所収・1945年刊) 〝市価の高騰も目覚ましく、十月の入札に於て広重の猿橋は五千五百円となる。京橋畳町諏訪商店に於て 数度即売展が行はれ、春信大判五千五百円、歌麿大首絵三百七十五円等の高値となる〟
〈広重の「猿橋」三年前には300円、それが今や5500円、また春信は中判200円から大判5500円(判の相違が気にはな るが)である〉
<古版画>
◯『明治世相百話』p244(山本笑月著・昭和十一年(1936)刊・第一書房・底本は中公文庫) 〝(古錦絵写楽の値段、明治初年・五厘から一銭、明治二十五年・一円から二円、明治三十五六年頃・三 十円~五十円、明治四十年頃・三百円以上)その後は鰻上りに上る一方、それがまた大正七、八年の成 金相場で一躍数千円乃至一万円という騒ぎ、昭和の今日では少し下火になったが、ともかくも五厘から ここまで漕ぎつけた写楽先生一代の出世物語〟 ☆ 大正八年(1919)
<古版画>
◯「明治以降浮世絵界年譜稿(其四)」(吉田暎二著『浮世絵草紙』所収・1945年刊) 〝四月七日、岡山池田侯の売立あり。売高八十五万円の内、錦絵は十七万五千円なり。これ帝国ホテル設 計技師ライトの一手買入にして、前来朝の時の二十五万円と共に、ライトの錦絵買入、五十一万円以上 に上る〟
〈スポールデングは大正二年のこの年で合計51万円の浮世絵を買い付けた。このコレクションは、後に一般公開不可、 照明不可という厳しい条件を付けてボストン美術館寄贈されることになる。さて、この当時の1万円は現在どれくら いに相当するのか、ネット上では当時の1円が現在の1万円とするのが多いので、それ参考にすると、1万円は1億円、 つまり51万円は51億円に相当する〉
<古今肉筆画>
<古版画>
◯『大正八年度 帝国絵画番附』番付 東京(吉岡斑嶺編 帝国絵画協会 大正八年刊) 『大正拾年度 帝国絵画番附』番付 東京(吉岡斑嶺編 帝国絵画協会 大正十年刊)
(東京文化財研究所・明治大正期書画家番付データベース)
※「掲載作家 本番付には文部省美術展覧会創設以来入選又は受賞の経歴ある者に限り掲載す 【 】内は流師氏名又は出身学校 ( )は長所にして「山」は山水「花」は花鳥「人」は人物 「凡」は山水花鳥人物に長ずる者」
〈流派【浮世】の画家はすべて収録。それ以外は比較参考になる画家を選んで収録。また、原本は漢数字だが すべて算用数字に直した〉
〝
古人之部
【流派】(長所)没年
(大正八年ヨリ)
享年
価格
〈価格は円〉
(価格は尺五絹本画を標準とす)
大正八年版 大正十年版
岩佐又兵衛
【浮世】(風俗)慶安3没
(269年前)
73 500 4200
鳥居清信
【浮世】(人物)元禄6没
(226年前)
66 100 130
菱川師宣
【浮世】(人物)正徳4没
(205年前)
70 500 1670
英 一蝶
【一蝶】(人物)享保9没
(195年前)
73 750 6500
鳥居清信
【浮世】(人物)享保14没
(190年前)
68 100 90
英 一蜂
【一蝶】(人物)元文2没
(182年前)
47 150 750
宮川長春
【土佐】(人物)元文4没
(180年前)
不詳 300 1900
小川笠翁
【一蝶】(人物)延享4没
(172年前)
85 70 3500
橘 守国
【狩野】(人物)寛延1没
(171年前)
80 100 100
西川祐信
【狩野】(人物)宝暦1没
(168年前)
74 300 245
羽川珍重
【浮世】(人物)宝暦4没
(165年前)
不詳 70 150
高田敬輔
【狩野】(人物)宝暦5没
(164年前)
82 70 160
鈴木春信
【浮世】(人物)明和7没
(149年前)
53 70 220
佐伯(ママ)嵩之
【一蝶】(人物)安永1没
(146年前)
66 150 120
〈佐脇の誤記〉
建部凌岱
【南蘋】(花鳥)安永3没
(145年前)
56 100 100
加藤文麗
【狩野】(山人)天明2没
(137年前)
77 150 130
月岡雪鼎
【狩野】(美人)天明6没
(133年前)
77 100 750
宋 紫石
【南蘋】(花鳥)天明6没
(133年前)
75 150 1250
堤 等琳
【狩野】(山人)天明7没
(132年前)
不詳 100 135
倉橋春町
【浮世】(人物)寛政1没
(130年前)
46 70 60
〈恋川春町〉
勝川春章
【浮世】(人物)寛政4没
(127年前)
67 350 300 円山応挙 【円山】(花山)寛政7没
(124年前)
63 1000 3200
蔀 関月
【狩野】(山水)寛政9没
(122年前)
46 100 130 伊藤若冲 【狩光】(鶏) 寛政12没
(119年前)
85 1000 1550
喜多川歌麿
【浮世】(人物)文化1没
(115年前)
52 1000 790
高 嵩谷
【一蝶】(人物)文化2没
(114年前)
75 150 200
岡田玉山
【狩野】(山人)文化9没
(107年前)
76 70 59
関 清長
【浮世】(美武)文化10没
(106年前)
不詳 70 110
歌川豊春
【浮世】(人物)文化11没
(105年前)
78 300 329
司馬江漢
【洋画】(人山)文政1没
(101年前)
72 500 610
北尾重政
【浮世】(人物)文政2没
(100年前)
81 90 53 永田田善 【洋画】(人物)文政5没
(97年前)
52 70 48
田中訥言
【円山】(人物)文政6没
(96年前)
不詳 100 280
速見春暁斎
【浮世】(人物)文政6没
(96年前)
不詳 70 70
〈速水春暁斎〉
高 嵩渓
【浮世】(人物)文政7没
(95年前)
58 100 150
北尾政美
【南宗】(山水)文政7没
(95年前)
不詳 70 70
〈【南宗】は鍬形紹真時代の流派。政美時代のが【浮世】〉
歌川豊国
【浮世】(似顔)文政8没
(94年前)
57 150 150
酒井抱一
【光琳】(花鳥)文政11没
(91年前)
68 500 7500
柳川重信
【浮世】(人物)天保3没
(87年前)
不詳 100 120
大石真虎
【土佐】(人物)天保4没
(86年前)
40 100 100 渡辺崋山 【南宗】(山人)天保12没
(78年前)
49 1500 23109 谷文晁 【南宗】(山水)天保12没
(78年前)
78 1000 8000
池田英泉
【浮世】(武者)嘉永1没
(71年前)
57 70 60
長山孔寅
【四條】(花人)嘉永2没
(70年前)
85 70 90
葛飾北斎
【浮世】(人物)嘉永2没
(70年前)
90 500 450
岩窪北渓
【浮世】(似顔)嘉永2没
(70年前)
90 500 90
喜多武清
【南宗】(山水)安政3没
(63年前)
不詳 100 210
歌川広重
【浮世】(人山)安政5没
(61年前)
62 750 650
浮田一蕙
【四條】(人物)安政6没
(60年前)
65 100 300
歌川国芳
【浮世】(錦画)文久1没
(58年前)
65 100 80 二世
歌川豊国
【浮世】(錦画)文久3没
(56年前)
85 150 87 三世
歌川豊国
【浮世】(似顔)元治1没
(55年前)
79 100 80
河鍋暁斎
【四條】(人物)明治22没
(30年前)
59 200 1000(大正10年番付【浮世】(狂画))
小林永濯
【狩野】(人物)明治23没
(29年前)
59 70 100
柴田是真
【四條】(花鳥)明治24没
(28年前)
85 300 3250
月岡芳年
【浮世】(人物)明治25没
(27年前)
54 70 80
久保田米僊
【鈴木】(山人)明治39没
(13年前)
55 100 250
水野年方
【浮世】(人物)明治41没
(11年前)
43 100 135
池田蕉園
【浮世】(美人)大正6没
(2年前)
32 70 (大正十年初出)【流派】(長所)没年
(大正十年ヨリ)
享年
大正十年版
奥村政信
【浮世】(人物)明和5没
(133年前)
79 430
鈴木華邨
【容斎】(花鳥)大正8没
(2年前)
60 3200
渡辺省亭
【容斎】(花鳥)大正8没
(2年前)
69 1520
寺崎廣業
【狩野】(山人)大正8没
(2年前)
54 9560
尾形月耕
【浮世】(人物)大正9没
(1年前)
62 300 ☆ 大正九年(1920)
<古版画>
◯『芝居絵と豊国及其門下』「緒論」(坪内逍遥著・大正九年刊) 〝写楽が一枚千円で飛ぼうとも、政信の漆絵や春章、清長らの細絵一葉が何百円に跳ね上らうとも、それ は只の版画、只の浮世絵としての相場である。吾々劇史研究者の目的や利害とは全く没交渉の事実であ る〟
〈この「緒論」の他の行に「一昨々年(大正五年)」とあるから、この相場は大正八年頃のものである〉
☆ 昭和三年(1928)
<古版画>
◯『浮世絵志』第一号p44「浮世絵多與里」 〝(昭和三年十月、尚美社の版画売立) 鈴木春信画 見立小町に少将 間錦 800円 五渡亭国貞画 当世美人身じまい芸者 大錦 150円 (昭和三年十月、松浦家の蔵品売立) 鳥文斎栄之画 朝顔美人図 肉筆 2500円 (昭和三年十一月、中村築比地両氏の蔵品売立) 勝川春潮画 日本橋風俗三枚続 2000円 五渡亭国貞画 母衣蚊帳美人 200円 ☆ 昭和五年(1930)
<肉筆古画>
◯「日本古画評価見立便覧」(日本絵画研究会編 昭和5年刊)
(『美術番付集成』瀬木慎一著・異文出版・平成12年刊)
岩佐又兵衛 8000円 寺崎広業 5000円 菱川師宣 2500円 喜多川歌麿 3000円 宮川長春 2500円 細田栄之 1500円 鏑木清方 1100円 葛飾北斎 1000円 柴田是真 1000円 西川祐信 800円 菊池容斎 800円 尾形月耕 800円 安藤広重 700円 司馬江漢 700円 浮田一恵 700円 鈴木春信 550円 河鍋暁斎 500円 鳥居清長 350円 歌川豊国 300円 渡辺省亭 300円 久保田米僊 300円 水野年方 300円 鈴木華邨 300円 富岡永洗 250円 田中訥言 250円 池田蕉園 250円 池田輝方 250円 石川豊信 200円 俵屋宗理 200円 月岡芳年 200円 梶田半古 200円 歌川国芳 120円
参考
俵屋宗達 10000円 雪舟 10000円 渡辺崋山 5000円 与謝蕪村 5000円 上村松園 5000円 酒井抱一 5000円 伊藤若冲 3000円 横山大観 3000円 円山応挙 800円 ☆ 明治四年(1929)
<古版画>
◯「涼台漫語」有山麓園 11/36コマ(『江戸文化』第三巻十一号 昭和四年(1929)十一月刊)
(かな)は原文のルビ。(カナ)は本HPの読み
◇「歌麿の錦絵が一枚十銭」 〝 今では一枚何百円、何千円とも言はれる歌麿の浮世絵も明治初年の頃までは、実に廉いものであつた。 今日から考へればトテモお話にならぬ法外な安価であつたのだ。夫からズツと後迄も未だソレ程高くは ならなかつた、一日浅草松山町の染谷といふ古本屋の老人が、浮世絵を何十枚か持つて来て お買ひに なりませんかと云ふて見せて呉た、夫は歌麿の美人画や写楽の大首などの錦絵で、然も初版もので保存 がよかつたのであろう。キビ/\した美麗(きれい)なもの計りであつた。価はと問へばドレでも一枚十 銭づゝでよいとのことで、その内何枚か選抜いて買つたが、まだその頃まで写楽の大首などは一向に好 かれぬものであつたから、自分の買つたものも歌麿だけであつた。夫から僅か半年経かたゝぬかに染谷 老人が又やつて来て、前に願つた歌麿の絵を一枚一円づゝで譲り受けたいと言ふ人がありますが、ナン とエライ貴くなりましたではありませんか、いつそお譲りなすつてはどうです、また其うちにはよい出 ものが見つかりませうと、強て懇望されたのでツイその気になり、夫じや又何か珍しい本でも出たら買 ふことにしませうと、先に求めた分を悉皆(そつくり)譲つてしまつた。然しまだ/\その頃は急に価格 (ねだん)の昂騰なるやうすも見えなかつたので、別段惜いことをしたとも思はあかつた。夫はたしか明 治十四五年のことであつたらう。……当時山谷吉野町髪洗橋際に黒川といふ大きな貸本屋があつた。書 庫には三万巻といふ和漢の古書が充実(つまつ)てゐて珍本奇書も尠なくなかつた。この黒川が私どもへ も出入して居つたので、自分は年中引かへ/\いつも二三百冊の書籍は借受け通しになつて在つた。一 度歌麿の吉原年中行事を借りて一旦返した、その後半年程経過て何の必要であつたか、見たいことが出 来て再び借受んとしたところ、中の挿絵は悉く切取られてあつた。黒川の店員もオヤ/\是は何処ぞで 悪戯をされたのでせうと言つて、今更仕方がない位に思つて居つた様子だつたが、モーソロ/\此時分 から浮世絵の木版画に目を附る者が出来たのであらう 然しその値段がトン/\拍子に騰貴(たかく)な つて来たのは兎も角日清戦争後からのことであらう。前に述た私ともが深く意を留めなかつた写楽の雲 母絵(きらゑ)などが驚く勿れ 今日では一枚数千円も為るさうである〟