出典:『雑俳語辞典』 (鈴木勝忠編 東京堂出版 昭和四十三年刊)【雑】 (2017年1月収録)
『続雑俳語辞典』(鈴木勝忠編 明治書院 昭和五十七年刊)【続雑】 (2017年3月収録)
『川柳大事典』 (粕谷宏紀編 東京堂出版 平成七年刊) 【川柳】 (2017年4月収録開始)
『誹風柳多留全集』索引篇(岡田甫校訂 三省堂 1984年刊) 【柳多留】(2017年7月収録開始)
『誹風柳多留(一~五)』(山沢英雄校訂 岩波文庫 三十一年刊)【岩波文庫(一~五)】
『川柳江戸名物』(西原柳雨著 春陽堂 大正十五年刊) 【江戸名物】(2021年1月収録)
※「注」とは上掲出典の注釈。「柳多留2-15」とは「柳多留 二編 句番号15」〈 〉は本HPの注釈
☆ あかえ 赤絵
1 筋のいゝお疱瘡赤絵がたんと付「柳樽110-20」文政13【続雑】注「疱瘡除けの呪絵」
〈達磨・鎮西為朝・鍾馗等沢山の赤絵のお陰で症状が軽くて済んだ〉
☆ あかほん 赤本
1 赤本に有るをまことゝかんるいし「雲鼓評万句合」元文2【雑】
2 善にそまれば赤本も目の薬 「柳の丈競」 安政3【雑】注「子供用草双紙」
〈子供衆を目で善導する絵主体の草双紙〉
3 赤本で見ても啼せる雲雀山 「柳多留119-18」天保1【川柳】
〈雲雀山は中将姫が継母に虐められて捨てられたところ〉
☆ いいつ 為一
1 為一は大きな馬で名をひろめ「柳樽96-14」文政10【続雑】注「百二十畳の紙に馬の絵」
2 為一が馬のきん玉八畳じき 「柳樽96-14」文政10【続雑】
〈北斎は百二十畳の紙に馬の絵を画いたとされる。2はさもありなんと穿った句。なお【続雑】は「ためいち」
と呼んでいる〉
☆ いせや 伊勢屋(地本問屋)
1 うらの戸を明て伊勢屋は蓮を見せ「柳樽76」文政6【続雑】注「池の端地本問屋利兵衛」
〈夏、花が咲くと錦絵ごしの蓮見もまた一興だと〉
☆ いちまいえ 一枚絵
1 一枚絵草双紙売春の声 「五万才4」文化1【雑】注「浮世絵一枚摺」
〈錦絵と黄表紙の売り声は江戸正月の風物詩〉
2 母の目に涙娘も一まい絵「柳樽74」文政4【続雑】注「遊女の似顔絵」
〈我が娘、錦絵に画かれるほどの遊女になったとはいえ……〉
3 一枚絵天窓(あたま)の方で綱渡り「柳樽153-1」天保9-11【川柳】
〈絵草紙屋の店頭光景、錦絵は上から糸で吊り下げて売っていた〉
4 壱まひ絵かいどりを着た人だかり「明元義3」明和1【川柳】注「御殿女中」
〈外出した御殿女中たちを惹きつける一枚絵は役者絵か〉
5 壱まひ絵はつて座敷をやすくする「天5智3」天明5【川柳】注「破れの補修に」
〈客を迎え入れる座敷も破れに一枚絵を貼っては安く見られる〉
6 壱まひ絵へがしてもらふ子供客 「明2義3」【川柳】注「土産に」
〈その座敷の一枚絵を剥がして子供客の土産にしたのである〉
☆ いっちょう 一蝶
1 一蝶と其角が中は貸し借りも「五万才3」 文化1【雑】注「英一蝶」
〈英一蝶と俳人其角はかくのごとくに親しい仲〉
2 一蝶寺と菜の花の頃尋ね 「亀戸奉額狂句合」嘉永6【雑】
注「一蝶寺(デラ)、一蝶の墓所。二本榎の承敬寺願乗院」
〈句意不明〉
3 虫干しに出す一蝶の八瀬の牛「柳多留114-35」天保2【川柳】
〈一蝶画、牛を牽く八瀬の黒木売り〉
4 朝妻の麁相一蝶船に乗り 「柳多留111-11」天保1【川柳】
〈「朝妻船」は一蝶作の小唄の題であるとともに、舞装束の女が船上で鼓を打つ一蝶画の題でもあった。加えて
一蝶は将軍綱吉寵愛のお伝の方を、船中鼓打つ姿に描いたために流罪に処せられたという浮説があった〉
5 一蝶の帰島墨絵のやうな形(な)り「柳多留143-4」天保7?【川柳】
〈三宅島から帰ったのちの一蝶は以前の幇間のような振る舞いから品行が改まったというのだろう〉
6 英もしほれて島に一つ蝶 「柳多留147-18」天保9-11【川柳】
〈実際のところ、英一蝶の呼称は帰島からのちのものだが〉
7 一蝶が落ち度我が身も船に乗り「柳多留148-19」天保9-11【川柳】
〈朝妻船を画いた落ち度で自身も流人船に乗るはめに〉
8 島便り哀れ名画の蝶一つ 「柳多留151-36」天保9-11【川柳】
〈一蝶は江戸の老母を養うため島から絵を送っていたという〉
9 蝶も来て吸ふ英の硯水 「柳風雅会狂句合」明治26【続雑】注「画家一蝶」
☆ いもせえ 妹背絵
1 妹背絵の中をへだてゝ吉野紙「柳の眉」明治6【続雑】注「春画」
〈吉野紙の別名は「やわやわ」女性の懐中紙として愛用される〉
☆ いろぞうし 色草紙
1 色草紙老木の閨のかへり花「行脚の笠」享保17【雑】注「春本」
〈「返り花」には狂い咲きの意もあり〉
☆ いろほん 色本
1 色本を見ては女房を折檻し「雲鼓評万句合」宝暦中【雑】注「好色本(春本)」
〈女房には迷惑だろうと〉
☆ うきえ 浮絵
1 公輪子が巧みもかくや浮絵書き 「菊丈評万句合」延享中【雑】
2 浮絵のやうに高輪の雨 「規矩の信折」 安永8 【雑】
3 向うざしき・うきゑのやうに開放す「伊勢冠附」 文化中【雑】注「遠近法を用いた風景画」
〈開け放った向こう座敷の光景〉
4 一ッ家中へちをまくるをうき絵にし「拾遺5-27」寛政8-9【川柳】注「吉良討ち入り」
〈「へちをまくる」は慌てふためくの意味。この頃の忠臣蔵十一段目の浮絵としては、可候(後の北斎)のものが
知られている。ただ柳多留拾遺の句は寛政八、九年のものとされ、北斎が可候を名乗るのは寛政十年とされる
ので、この句の浮絵が可候のものかどうかは微妙である。岩波文庫本『柳多留拾遺(上)』5-27の同句には「川
柳明八義6」とあり、明和八年の句とされる〉
☆ うきよえ 浮世絵
1 浮世絵も先巻頭は帯とかず「揚梅」元禄15【雑】注「春画」
〈まさか発端もなしというわけにはいくまいと……〉
2 笑ひをふくむ浮世絵のつや「村雀」元禄16【雑】〈「笑ひをふくむ」とあるから春画〉
3 浮世絵の男福引く長つぼね「勇気みどり」享保5【雑】注「風俗美人図」
〈男子禁制の長局、女房たちが興ずる福引きの目当ては「浮世絵の男」つまり役者絵〉
4 浮世絵にこのごろ着せた黒小袖 「口よせ草」元文1【雑】
〈黒子袖それ自体に意味がありそうだが判然としない〉
5 浮世絵が来ては墨絵をそゝなかし「狂ひ咲」宝暦5【雑】注「美人の比喩」
〈品行方正な男も美女の誘惑にかかっては〉
6 浮世絵の中に墨絵の奥家老「柳多留63-13」文化10【川柳】
〈美女の比喩。謹厳実直な奥家老、男ひとりで大奥を取り仕切る〉
◯『林若樹集』(林若樹著『日本書誌学大系』28 青裳堂書店 昭和五八年刊)
※全角カッコ(~)は原文のもの。半角カッコ(~)は本HPの補注
◇「川柳」林若樹(『日本及日本人』所収)
1「川柳天の声」(大正四年六月~同年十二月号所載)
光琳に成金様の御ン名前 光琳にも色々あるもんだネエ
洋書からヤレ春信の歌麿の 浮世絵は儲かりますともちかける
浮世絵にゲオシャ・ハラキリ・リキシャメン 浮世絵を青い眼玉で買ひかぶり
2「川柳天の声(二)」(大正五年間号所載)
広重忌まうける顔があつまりて 浮世絵に鑑定の要る馬鹿らしさ
3「川柳天の声」(昭和九年六月~十年五月号所載)
下ぶくれ美人であれば又兵衛さ よつく聴け写楽元来下手絵かき
浮世絵にばかり偽物があるがごと 惜しい事バレねば美術貴重品
☆ うきよまたべえ 浮世又兵衛
1 美女の絵も浮世の風にや又兵衛「若恵比須」享保17【続雑】〈句意不明〉
☆ うたまろ 歌麿
1 俗な絵合せ歌麻呂や栄之なり「柳多留26-30」 寛政8【柳多留】
〈歌麿と栄之の美人画で絵合せ、堂上ならぬ地下の絵合わせならこの組み合わせだろうと〉
2 歌麿の美人ふすまで年が寄り「柳多留130-34」天保5【柳多留】
〈襖に貼られた歌麿の美人画をいうか〉
☆ うちわうり 団扇売り
1 うちは売風を荷にして汗をかき「川柳評智1」宝暦11【雑】注「若衆姿が多かった」
〈売り物の団扇で飾った天秤棒を肩に、汗をかきつつ売り歩くのである〉
2 団扇売少し煽いで出して見せ 「柳多留2-32」明和4【川柳】
☆ うちわえ 団扇絵
1 反古張やにづらで蛍追つかける「柳多留28-26」寛政11【川柳】
〈渋うちわや似顔絵のうちわで蛍狩り〉
2 堀江町春狂言を夏みせる 「柳多留35-24」文化3【川柳】
〈堀江町は団扇問屋が集まるところ。これは正月狂言の役者の団扇絵〉
3 千両と三分が堀江丁に見へ「柳多留56-16」文化8【川柳】
〈千両役者と昼三女郎。役者絵と遊女絵の団扇絵〉
4 しつとりと似顔のしめる蛍狩 「柳多留57-20」文化8【川柳】
5 涼台似顔の邪魔にしぶ団扇 「柳多留65-15」文化11【川柳】注「娘達の中へ梅干婆」
〈役者の似顔絵が娘の譬喩〉
6 いゝ役者団扇にしてもあをがれる「柳多留70-11」文政1【川柳】注「舞台だけでなく」
〈日常つかう団扇絵でも仰ぎ見られている〉
7 ひいきの沙汰として団扇娵はかひ「柳多留25-27」寛政6【川柳】注「ひいき役者の」
〈似顔の錦絵を贔屓のあかしとして買うのである〉
☆ うろこがたや 鱗形屋
1 数万艘うろこがたやは暮にすり「柳多留22-6」天明8【川柳】注「宝船を」
〈鱗形屋は江戸の地本問屋の老舗。正月二日の初夢に向け、鱗形屋は縁起ものの宝船の絵を年
の瀬に数万枚も摺るのだと〉
2 板元も鱗形屋も北条記 「柳多留166-4」天保9-11【川柳】注「三つ鱗の紋に掛ける」
〈鱗形屋も北条家も紋は同じで三つ鱗〉
☆ えいし 栄之
1 俗な絵合せ歌麻呂や栄之なり「柳多留26-30」 寛政8【柳多留】
〈歌麿と栄之の美人画で絵合せ、堂上ならぬ地下の絵合わせならこの組み合わせだろうと〉
☆ えかんばん 絵看板
1 出来て来て役者のたかる絵看板「唐子おどり」正徳中【雑】注「芝居看板」
〈今度興行する芝居の看板が出来てきたので、役者衆が集まってその出来映えを品評しているのだろう〉
☆ えぞうし 絵草紙
1 絵双紙を売声聞え泣く女 「高天鴬」元禄9【雑】注「心中題の絵入本」
〈この絵双紙は黄表紙のような草双紙ではなく心中ものの読売。売り声を聞いただけで切なくなるのであろう。
本HP浮世絵事典の「絵草紙売り」参照〉
2 絵草紙の見台にする釜の肩「たみの笠」元禄13【雑】注「下女の読物」
〈釜の肩を見台がわりにして読む下女〉
3 何ぞかぞ・きくがさいごの絵ざうしやい「軽口頓作」宝永9【雑】
〈句意不明〉
4 いかに春だつてとせつく草紙売「傍1-6」安永9刊【川柳】注「気長にうる」
5 絵草紙を見い/\嫁は餅を焼き「筥1-9」天明3【川柳】注「後禁ぜらる」
〈行儀が悪いと〉
6 絵草紙であふぐ側から取ってくひ 「玉28」天明7【川柳】
〈4と同様、煽いでは食い/\、夢中なのである〉
7 絵草紙を娵と娘がまたせとく「柳多留27-15」寛政10【川柳】注「絵草紙屋。せり売りか」
〈娵と娘の好みが合わず決断が遅れて行商をつい待たせるのであろう〉
8 絵草紙へ引札を書く仙女香 「柳多留134-14」天保5 【川柳】注「広告」
〈南伝馬町三丁目、坂本氏の美顔化粧品。合巻に付き物の広告。本HP「浮世絵用語」の「仙女香」
(せんじょこう)参照〉
9 絵草紙のやうに仕たいと下女ぬかし「新編柳樽6」天保12【雑】注「枕草紙」
☆ えぞうしや 絵草紙屋
1 孝行を袋へいれる画草紙屋 「柳多留68-30」文化12【川柳】注「孝行物の内容の本」
〈袋に入れるとあるから合巻と思われる〉
2 当り狂言絵見世迄群集する 「柳多留107-1」文政12【川柳】注「役者絵を買う人で」
3 呼出に見世を張らせる絵草紙屋「柳多留151-24」天保9-11【川柳】注「見世先に遊女の絵姿を陳列」
〈呼出しは吉原の最高位の遊女で、格下の遊女が行う張り見世をしない。しかし絵草紙屋では店頭で絵姿が売
られているから、ここでは張り見世をさせられていると〉
☆ えそらごと 絵空事
1 春の雨・手よりは太い画空事「五色種」寛政5【雑】注「虚飾誇大」「春画」
〈針小棒大とも〉
☆ えどえ 江戸絵
1 久しぶり・ゆり起きた子に江戸絵見せ「若木賊」 寛政2 【雑】
〈江戸絵が子をあやす〉
2 妓の母親・江戸絵のヨナとうれしがる「伊勢冠付」文化中【雑】
〈我が子を遊女絵に見る母親〉
3 江戸絵には乗らぬ風俗也歌修行 「紀玉川」 文政2 【雑】注「浮世絵。錦絵」
☆ えどにしき 江戸錦
1 浮世なれ蝦夷にもまさる江戸錦「柳樽121」天保4【続雑】
〈「蝦夷」とは蝦夷錦。竜などの紋様を金糸銀糸で刺繍した豪華絢爛な絹織物。江戸の錦絵はそれに勝ると〉
☆ えみせ 絵見世(絵屋ともいう)
1 当たり狂言絵見世迄群集する「柳多留107-1」文政12【川柳】注「役者絵を買う人で」
〈贔屓役者の似顔絵を先を競って買い求め〉
☆ おいわけえ 追分絵
1 座頭のふどしを犬が追分絵 「花紋日」享保14【雑】
〈座頭の褌を咥える犬は代表的な大津絵の題材〉
2 うれしがる・おぢに貰ふた甥わけ絵「都どり」元文6 【雑】注「大津絵」
〈叔父(おじ)のお土産追(おい)分絵。叔父と甥の駄洒落〉
☆ おうぎや 扇屋(吉原)
1 あふぎやへ行くので唐詩せんならい「天5春2」天明5【柳多留】
〈唐詩選のような漢籍にも通じていなければ扇屋では恥をかかされる〉
1 見世売りはせぬ扇屋の扇なり「柳多留45-4」文化5【柳多留】
〈扇屋の花扇のような高級な遊女は張り見世はしない〉
☆ おおつえ 大津絵
1 大津絵は奴の部屋の女房共「たみの笠」 元禄13【雑】
2 馬と鹿大津絵さへ書分る 「へらず口」 享保19【雑】
〈1・2の槍持ち奴と馬は大津絵の代表的は画題だが句意は不明〉
3 大津絵のよく出来たのはうれ残り「川柳万句合仁5」宝暦13【雑】
〈素人画のようなもののほうがよく売れるだろうという穿ち〉
4 殿よりも奴を誉る大津絵師 「早苗歌」元文4【雑】注「画題」
〈大津絵師にとって画題の奴は「さまさま」である〉
5 大津絵のやうに王昭君を書き「柳多留11-22」安永5【川柳】注「醜く」
〈前漢の絶世の美女。彼女から賄賂が無かったため、宮廷画家・毛延寿はさなから大津絵のように彼女を醜く画
いたのだろうと穿ったのである〉
6 大津絵は上手か下手か知れぬ也「柳多留50-2」文化8【川柳】
7 大津絵は百鬼夜行で思い付 「柳多留93-27」文政10【川柳】
8 大津から道連れ鬼と福禄寿 「柳多留141-20」天保6【川柳】
〈鬼と福禄寿の大津絵を土産として持ち帰ったのである〉
9 鬼の年仏の功もなく母夜泣き「成之居士追善絵」明治23【続雑】注「夜泣きの呪い」
〈大津絵の「鬼の念仏」は子供の夜泣き止めの護符〉
☆ おおにしき 大錦
1 大錦嫁と娘の絵難坊「柳樽92-11」文政14【川柳】注「大型の錦絵の異称」
〈絵難坊は絵の欠点をあげつらう人。大判の役者似顔絵を巡って嫁と娘の品評がもめるのであろう〉
2 身替りの首古板の大錦「柳多留118-1」天保3【柳多留】
☆ おしえ 押絵
1 篦で押絵のふり付けを嫁 「もゝ手」文化2 【雑】注「綿をふくませた貼絵」
2 ふつくりと押絵の裾の綿加減「から衣」天保11【雑】
〈1・2は篦と使って絵柄を整える嫁の様子やふっくらとした感触を表現したか〉
3 押絵の小町傾城に似る 「種卸」安政8 【雑】
〈絶世の小野小町も浮世絵師が画くと傾城(遊女)似になるということか〉
☆ おせん(笠森お仙)
1 美しい顔で近所の茶が売れず「明8義3」明和8【川柳】注「客をとられる」
〈春信の錦絵で人気はいやがうえにも〉
☆ おどりこ 踊り子
1 おどり子のかくし芸迄してかへり 「柳多留1-14」宝暦10【岩波文庫(一)】
2 おどり子をよろよろ足でおつかける「明5天2」 明和5【川柳】
〈おそらく老人の留守居役か〉
3 踊り子のまたぐら迄は度々の事 「柳多留6-7」明和8【川柳】
4 踊子におどれと留守居むりをいゝ 「柳多留17-41」天明2【川柳】注「芸なし」
〈事情を知らぬとは着任したばかりの江戸留守居役であろうか〉
☆ おのの こまち 小野 小町
1 穴もないくせに小町は恋哥也 「末摘花2-9」 安永5 【『誹風末摘花』岡田甫編】
2 穴なしにかよつたがきつい深くさ「末摘花3-19」寛政3刊【『誹風末摘花』岡田甫編】
〈百夜通いの深草少将、あと一日というところで亡くなってしまったが、成就しても……〉
3 押絵の小町傾城に似る「種卸」安政8 【雑】
〈絶世の小野小町も浮世絵師が画くと傾城(遊女)似になるということか〉
☆ かげえ 影絵
1 目ばたきのやうに影絵の花が咲き「柳多留133-16」天保5【川柳】
注「座敷遊戯のひとつ。その絵はかなり猥雑なものだったらしい」「蕾が見る間に開く」
〈障子や壁に浮かび上がらせるのであろう〉
☆ かしほんや 貸本屋
1 炬燵へは声のとゞかぬ借(ママ)本屋「桜狩」 寛保3 【雑】
2 借本屋ひだるいやうな歩行様 「折句袋」安永8 【雑】
3 情出して・のらついてゐる貸本屋「名付親」文化11【雑】
〈三句とも上方の句。うずたかい本の積み荷を背負って家々を回る貸本屋。1の句意不明〉
4 貸本屋秘書三通もって来る「筥柳4-1」 天明4【川柳】注「艶本は三巻一組」〈春本〉
5 かしほんや何をみせたかどうづかれ「柳多留37-」文化4【川柳】注「艶本を見せたか」
6 かしほんや唐と日本を背負てくる 「柳多留48-30」文化6【川柳】注「中国の物語をも」
☆ かなぞうし 仮名草子
1 かな双紙妾の膝を見台に 「風車」享保20【雑】
〈旦那が妾の膝を書見台に見立てて読む様子〉
2 薄やうの昔感ずる仮名草紙「誹諧けい6」天明1【雑】
〈「薄やう」とは薄く漉いた雁皮紙をいうようだが、句意不明〉
☆ きよのぶ とりい 鳥居 清信
1 しらぬ田舎の目にも清信 「湖丸評万句合」延享中【雑】
〈芝居を知らぬ田舎住まいでも清信の絵は知っているということか〉
2 清信と名を打ちたき伊達娘「苔翁万句合」 宝暦中【雑】注「鳥居。芝居浮世絵師」
〈派手な娘を清信画そっくりだと表現したものか。いずれにせよ清信の名は市中のみならず近郊にまで及んでい
たようである。なお、この鳥居清信は延享~宝暦とあるから二代目であろう〉
☆ きんぱろう 金波楼
1 其むまさ酒池肉林の金波楼「夏柳」文化11【続雑】
2 真白な一の字を見る金波楼「柳樽114」天保5【続雑】
☆ きんぴらえ 金平絵
1 あんまりじや・人一倍に公平絵「西国船」元禄15【雑】注「主人公を大きく書いた古浄瑠璃の挿絵」
〈人一倍怪力無双の金平、その誇張した画きぶりを「あんまりじゃ」というのであろうか〉
☆ くさぞうし 草双紙
1 五月雨の寝間に萌出る草双紙 「媒口」元禄16【雑】
〈梅雨時になると、つれづれを慰めるためであろうか、草双紙が寝間に目に付くようになると〉
2 寝て居つて・つい草双紙夢になる「西国船」元禄15【雑】注「浮世草子」
〈読みながらウトウトしているとそれがそのまま夢の世界になると。編者はこの草双紙を浮世草子とする〉
3 論語より手巡しはやし草双紙「裏若葉」享保17【雑】
〈廻し読みの回転、草双紙が『論語』より断然速いというのである〉
4 草双紙あうばつぶさに申上 「柳多留10-6」安永4【川柳】注「絵解する」
〈「あうば」は阿姥か。老女が読み聞かせている光景のようだ〉
5 表紙まで真っ赤な啌(ママうそ)の草双紙「宝の帖」安永6【続雑】
〈安永六年の頃、草双紙といえば恋川春町以来の所謂黄表紙をいうのだが、この句は表紙が赤、すると赤本を
さすのだろう〉
6 大詰めに仙女も出づる草双紙「柳多留116-26」天保3【川柳】
〈仙女は仙女香という化粧水の広告、合巻の巻末等に頻出する〉
7 草双紙時平が顔は墨だらけ 「柳多留145-22」天保9【川柳】注「みな菅公贔屓」
〈合巻に藤原時平が登場するやその顔に墨をぬる。菅原道真を流罪に追いやった時平はそれほど嫌われていた〉
6 取かへて後前に見る草双紙 「から衣」天保12【雑】注「絵入本」
〈何巻にも及ぶ合巻を何人かで順番構わず廻し読みしている光景か〉
☆ ぐそくびつ 具足櫃
1 色武者は一寸/\と明ける具足櫃「宝13鶴2」宝暦13【川柳】注「見るのが楽しみ」
「戦国時代にこの中に春画を入れておく風習が生まれ、武人は出陣前、この春画を見て笑うと、その日の戦に
勝利するという俗信があった」
2 具足櫃紙びなひとつまぎれこみ 「柳多留22-10」天明8【川柳】注「虫干しをして」
〈紙雛、仕舞うところを取り違えたか〉
3 不意をうつ絵図をも入れる具足櫃「柳多留74-24」文政5【柳多留】
〈やはり具足櫃に春画は必須なのである〉
☆ くにさだ 国貞
1 国貞も下女が面には筆を捨て 「柳多留101-5」文政11【川柳】注「あまりのひどさに」
〈絵にも描けない美しさとは真逆〉
2 国貞の名画ひゐきの評(ママ)具物「柳多留102-6」文政11【川柳】
3 似顔画き羅漢の横つらに住み 「柳多留108-11」文政12【川柳】
〈羅漢寺は本所五ツ目。亀戸に転居するまえの国貞である〉
2 狙仙にまさる国貞が書いた猿 「柳多留163-7」天保9-11【川柳】注「狙仙の猿は有名」
〈名手森狙仙に勝ると〉
☆ くによし 国芳
1 国芳の狸板元金が延び 「新編柳樽24」弘化3【続雑】
〈国芳の狸の戯画。「金が延び」には売れ行きが伸びたの意味もあるのだろう〉
☆ くみえ 組絵
1 取りちらし・武具虫ぼしに出す組絵 「小倉山」享保8【雑】注「春画」
〈梅雨明け、武具の虫干し光景。箱の中で一緒だった組絵(組絵)も路上バラバラに曝される。武具箱に春画は
必須アイテムらしい〉
☆ ごうかん 合巻
1 合巻の辻/\にある仙女香「柳樽97」文政10【続雑】
〈美艶仙女香。南伝馬町三丁目、坂本氏の美顔化粧品。合巻に付き物の広告。本HP「浮世絵用語」の「仙女香」
(せんじょこう)参照〉
☆ こほん 小本
1 増した灯心・子を寝せて出す小本「から衣7」天保12【続雑】注「洒落本、人情本の類」
〈子を寝かしつけ灯心を掻き立てて人情本を読もうと〉
☆ こうりん 光琳
1 千種の中へ居はる光琳「高点部類」安永4【雑】注「尾形」〈句意不明〉
☆ こまげた 駒下駄
1 こま下駄が通るとあれもころぶやつ「川柳評明和6仁4」【続雑】注「芸者の比喩」
〈駒下駄は芸者が好んだ。「ころぶやつ」はいわゆる「転び芸者」〉
☆ ごようまつ 五葉松
1 五葉の松を手に持て素見なり 「柳樽72」文政2【続雑】注「蔦重版の吉原細見」
〈素見はひやかし、店先の遊女を見るだけ〉
☆ こわいろ 声色
1 声色の扇ハ指をはねて持ち「安六415」安永6【川柳】注「気取ったさま」
〈声色師には扇が必要不可欠のようだ〉
☆ さやえ 鞘絵
1 鞘絵のやうに理屈有るなり「狐の茶袋」安政4【雑】
注「鞘にうつして見る細長い絵」「そのまま見ても分からず」
〈鞘絵は説明が無いと何の絵やら不可解なもの〉
☆ しちへんずり 七遍摺
1 七遍摺を年礼の笑い始め 「柳樽119」天保3【続雑】注「錦絵の春画」
〈正月の縁起物としてのイメージも春画にはあったようだ〉
☆ しながわ 品川
1 品川は膳の向こふに安房上総 「柳多留34-20」文化3【川柳】注「房総を望む」
〈二階座敷からの光景〉
2 品川の遊びはどこやら毛がたらず「柳多留44-38」文化5【川柳】注「客は僧侶が多い」
☆ しにえ 死絵
1 ざら銭の中へしに絵はむぐりこみ「柳多留19-4」 天明4【川柳】注「余りにうれて」
2 庚辰で死絵を書いたことがしれ 「柳多留19-17」天明4【川柳】
〈庚辰講だろうが死絵との関係未詳〉
☆ しゃしんえ 写真絵
1 息子へ嫁は写真絵の止め薬「八王子社奉額会」明治14【続雑】注「廓の店先に貼り出した遊女の写真」
〈嫁は息子の女郎買いを止めさせる薬だと〉
☆ しゃれぼん 洒落本
1 しゃれ本は狐の穴を掘って書き「柳樽109」文政12【続雑】注「遊里が主題」
〈遊女を「狐」と呼んでいたようだ。穴は内情や欠点を云う。洒落本とはそれらを暴露する本だと〉
☆ しゅんが 春画
春画(川柳・雑俳上の春画)
☆ しゅんすい 春水
1 いろも香もある春水の梅暦「青葉の友4」明治41【続雑】
〈為永春水の人情本代表作『春色梅児誉美』は天保三・四年刊。明治の末年にして、天保当時の深川情緒のみ
ならず、丹次郎・米八・お長のような人情もまた漂っていたのであろう〉
☆ すりもの 摺物
1 北斎だねと摺物を撥で寄せ「柳多留52-34」文化8【川柳】
〈三味線の稽古中に披露宴の案内(北斎画の摺物)が届いたところか〉
☆ せんじょこう 仙女香
1 合巻の辻々にある仙女香 「柳樽97」文政10【続雑】
2 大詰に仙女も出づる草双紙「柳多留116-26」天保3【柳多留】
〈合巻の巻末に坂本氏製の「美艶仙女香」の広告〉
3 絵草紙へ引札を書く仙女香「柳多留134-14」天保5【柳多留】
〈引き札は広告〉
4 なんにでもよくつらを出す仙女香「柳多留154-32」【柳多留】
〈本HP「浮世絵事典」の「仙女香」参照〉
☆ そせん 祖仙
1 嫁応挙姑祖仙で内がもめ「柳樽92-4」文政10【続雑】注「猿の洒落」「犬猿の仲」
〈応挙と狙仙共に猿の絵は著名。どちらが上手かでもめるのであろう〉
☆ そとおりひめ 衣通姫
1 暮れかゝる軒端見て居る美しさ「柳多留26-5」寛政8【川柳】注「蜘蛛の糸」
〈美貌で知られる衣通姫は、軒端から垂れさがる蜘蛛の糸を見て、今宵はきっと夫(允恭天皇)が訪ねてくる
にちがいないと察したのである「わがせこが来べき宵なりさゝがにの蜘蛛のふるまひかねてしるしも」〉
☆ たいがどう 大雅堂
1 だゞくさに・妙を残した大雅の画「あらひよね」文化6【雑】
〈一見無造作に見えるところに妙味があるというのだろうか〉
2 大雅堂夫婦喧𠵅も書画の論 「柳樽128」天保4【続雑】
〈妻の玉瀾も画家〉
☆ たかえ 高絵
1 かりっこはなしと高絵を明ける也 「柳多留9-13」安永3【川柳】注「高笑いの笑い絵」
〈春画である〉
☆ たつみや 辰巳屋
1 辰巳屋もいわば日本の老萊子 「柳樽75」文政5【続雑】注「小石川の神楽名人」
〈道化や狂言神楽で有名な小石川伝通院前の辰巳屋惣兵衛。中国でいえば、七〇歳にしてなお幼児の真似をし
て親を楽しませたという春秋時代の隠士・老萊子であろうと〉
☆ たにぶんちょう 谷文晁
1 文晁は荘子が夢に骨を折り「柳多留87-15」 文政8 【川柳】注「荘子の夢は蝶」
〈いわゆる「蝴蝶之夢」〉
2 文晁は屏風長屋の近所なり「柳多留104-24」文政11【川柳】
〈文晁の住居は下谷二長町。屏風長屋は屏風坂近くの長屋であろうか。すると二長町はその近くとなるが〉
☆ たんゆう 探幽
1 探幽の贋をつかんで吝うなる「ちへ袋」寛政8【雑】
〈これに懲りたか、以来ますます財布のひもを固くしたと……〉
☆ つたやじゅうざぶろう 蔦屋重三郎(地本問屋)
1 鶴に蔦こたつの上に二三さつ 「柳多留25-30」寛政6【川柳】
〈黄表紙は初春を飾る江戸の風物詩。鶴屋板と蔦屋板の新刊がこたつに上に二三冊〉
2 吉原は重三茂兵衛は丸の内 「柳樽27」寛政9【続雑】
〈歌麿・写楽を世に出した蔦屋重三郎は遊女の名鑑『吉原細見』の板元でもあった。また須原屋茂兵衛は武家
の名鑑『武鑑』の板元。ともに地本問屋と書物問屋を代表する板元である〉
3 五葉の松を手に持て素見なり 「柳樽72」文政2【続雑】注「蔦重版の吉原細見」
〈素見はひやかし、店先の遊女を見るだけ〉
4 蔦重は五葉の松を細く見せ 「柳多留114-36」天保2【川柳】注「吉原細見」
〈「五葉の松」は蔦屋版細見の書名〉
5 五葉の松にからまるは蔦の株(天保年間【江戸名物】)
〈吉原細見『五葉の松』の出版は蔦屋の特権〉
☆ つるやきえもん 鶴屋喜右衛門(地本問屋)
1 鶴に蔦こたつの上に二三さつ「柳多留25-30」寛政6【川柳】
〈黄表紙は初春を飾る風物詩。鶴屋板と蔦屋板の新刊がこたつに上に二三冊〉
2 鶴屋から娘鶉へ飛んで行き 「柳多留107-12」文政12【川柳】注「芝居小屋へ」
〈「鶉」は芝居小屋の一階桟敷席。鶴屋板の役者似顔を見て娘たちはたまらず芝居へ〉
3 巡り合ふ春を鶴屋で蔵で待ち(文化年間【江戸名物】)
注「曽我の錦絵を摺置き春狂言の時を待つて売出すとの義かと思はる」
4 母親は夜の鶴屋へ迷ひ来る(文化年間【江戸名物】)
注「母親が自分の娘の婀娜(あで)やかな姿絵を草紙屋に見に行くと云ふ嬉しい様は悲しい様な句である」
5 道中は早し鶴屋で八文字(文政年間【江戸名物】)
注「花魁道中の錦絵が直に一枚絵となつて店頭に飾られること」
〈八文字は遊女の歩き方をいう〉
☆ とうりん 等琳
1 頼政の隣の筆もかんしんし「柳多留75-18」文政5 【川柳】注「頼政鵺退治の画」
〈浅草寺本堂の扁額、高嵩谷の「源三位頼政 鵺退治」と三世堤等琳の「韓信股くぐり」共に感心する出来映えだと〉
2 韓信は小田原町の脇に這ひ「柳多留97-5」文政11【川柳】注「小田原町より寄進の大提灯」
〈本堂を見上げると日本橋小田原町寄進の大提灯に等琳の韓信の絵〉
☆ とうこうりゅう 東江流
1 三歩金東江流の扇なり「柳樽49」文化7【続雑】注「沢田東江の書風」
〈吉原扇屋の墨河、同抱え遊女花扇も門人〉
☆ とばえ 鳥羽絵
1 にんげんをこはして書くがとばゑ也「明元満1」明和1【川柳】注「戯画化して」
☆ とりい 鳥居
1 大明神様鳥居の筆で出来 「柳多留55-6」文化8【川柳】注「浜村屋大明神路考」
〈三世瀬川菊之丞。文化七年没。芝居の絵看板、この鳥居は清長であろうか〉
2 稲荷から出世鳥居の筆にのり「柳多留75-17」文政5【川柳】注「稲荷は下級役者」
〈今や出世をして鳥居清満の絵看板に画かれるようになったと〉
☆ にしかわ 西川
1 いろいろに寝る西川が妻「前句寄」明和中【続雑】注「モデル」
〈西川祐信の春画の裏事情を穿ったのである〉
2 ねんごろに皆西川は瞽女にかき「柳多留拾遺3-6」明和1【川柳】
〈これも春画〉
☆ にしきえ 錦絵
1 出しかけた錦絵を買ふ浅黄うら「明7義6」明和7【川柳】
〈江戸参勤の田舎侍が江戸土産に買うのであろうが、出しかけたの意味がよく分からない〉
2 錦絵は鳥居をこした書て出る「安1智3」安永1【川柳】
〈明和二年に誕生した錦絵は鳥居派を凌駕〉
3 錦絵と墨絵と行者持て出る 「柳樽23-3」寛政1【川柳】
〈「錦絵と墨絵」には俗と雅のイメージがあるが修行者との関係未詳〉
4 錦絵をはって屏風を安くする「天8-12・5」天明8【川柳】
〈屏風の破れを錦絵を貼って安く仕上げたということか〉
5 錦絵と並ぶ女房の美しさ 「柳多留50-12」文化8【柳多留】
〈この錦絵は遊女の喩え〉
6 錦絵の姿は母の癪の種 「柳多留65-27」文化11【柳多留】
7 大錦娵と娘の絵難坊 「柳多留92-11」文政10【川柳】
〈絵難坊は絵の欠点をあげつらう人。娵と娘が役者絵の役者でひと揉めするのであろう〉
8 錦絵の跡へ墨絵の奥家老 「柳多留96-5」文政10【柳多留】
〈この錦絵は美人の奥女中たちか〉
9 錦絵は寐ぼけた色でお茶を引「柳多留111-36」天保1【柳多留】
〈客のない遊女〉
10 身替りの首古板の大錦 「柳多留118-1」天保3 【柳多留】
11 錦絵をびっしょり濡らす花の雨「柳多留121丙17」天保4【柳多留】
12 錦絵を見て涙ぐむ越の母 「柳多留122-27」 天保4【柳多留】
〈やむを得ぬ事情で娘を吉原に出した越後の母〉
13 錦絵の女房鳥羽絵に成る亭主 「柳多留164-5」天保9-11【柳多留】
〈美人の女房を持つと、亭主は手足の細長い鳥羽絵のような体になると〉
14 江戸土産車長持などへ張り(明和年間【江戸名物】)
注「車長持とは事変に際して引き出すに便利な様に底に車を附けてある長持ちである」
〈明和年間の句だが、江戸からの帰りに長持に貼ったのは錦絵か、紅摺絵か……〉
15 錦絵は故郷へ飾る江戸土産(天保年間【江戸名物】)
〈文字通り錦絵を持参しての帰郷である〉
☆ にがおえ 似顔絵(にずらえ 似面絵)
1 反古張やにづらで蛍追つかける「柳多留28-26」寛政11【川柳】
〈渋うちわや似顔絵のうちわで蛍狩り〉
2 似面絵の論は団扇のけんくわ也「柳樽57-12」文化8【柳多留】
〈贔屓役者の優劣論、似顔の団扇を煽って喧嘩沙汰に〉
3 しつとりと似顔のしめる蛍狩 「柳多留57-20」文化8【川柳】
4 涼台似顔の邪魔にしぶ団扇 「柳多留65-15」文化11【川柳】注「娘達の中へ梅干婆」
〈役者の似顔絵が娘の譬喩〉
5 似顔画き羅漢の横つらに住み「柳多留108-11」文政12【川柳】
〈羅漢寺は本所五ツ目。亀戸に転居するまえの国貞である〉
6 似面絵を引張凧の奥女中 「柳多留134-15」天保5【柳多留】
〈男子禁制の大奥に役者似顔を持ち込むとこの騒ぎ〉
7 出目に彫せた海老蔵の似顔面「柳多留141-6」天保6【柳多留】
〈七代目市川団十郎、天保三年、海老蔵を襲名〉
☆ はせがわ せったん 長谷川 雪旦
1 江戸名所図会長谷川の大仕掛「柳多留163-4」天保9-11刊【柳多留】
〈斎藤月岑著・長谷川雪旦画。天保五年一~三巻・同七年四~七巻、全七巻二十冊の大出版であった〉
☆ はんぎや 版木屋
1 板木屋がこれは下手じゃと彫る名乗「卯花かつら」 正徳1【続雑】
〈腕自慢の彫師〉
2 こまかにうごく版木屋の腮(あご) 「松のしらべ4」寛政5【続雑】注「彫工」
☆ ひしかわ 菱川
1 色好めとや菱川が筆 「あるが中」元禄6 【雑】
〈菱川絵は色好みになれと勧めているのではないかと〉
2 此やうに・菱川が絵の生ほしや 「塗笠」 元禄10【雑】
3 からぞめき・菱川が絵を見る清僧「大花笠」 享保中【雑】注「春画」
〈品行方正な僧たちに師宣画を見せたらさぞ大騒ぎになるだろうといううがち〉
4 菱川西川湯具のさらし場 「ちへ袋」 寛政8【雑】注「師宣に初る浮世絵」
〈師宣や祐信の春画はまるで腰巻きの曝し場のようだと〉
☆ ひらせい 平清
1 百歩楼うしほの平に帆が移り 「柳多留77-8」文政6【柳多留】
2 百歩楼から見へそふな九十九里「柳多留120-3」天保3【柳多留】
〈深川土橋にあった高級会席料亭〉
☆ べいせん 米僊
1 米僊の訃音画界に秋の声「三霊追福会」明治39【続雑】
2 辞世に稲妻米僊の雲隠れ(同上)
〈久保田米僊、明治三十九年(1906)没、五十五歳。辞世「ほととぎすそのあかつきの沙羅双樹、天地寂寞、是
空是真、有耶無耶、明日一輪稲妻の雫、土器(かわらけ)の別れかな」〉
☆ べにえ 紅絵
1 悟得て今は達磨も紅絵にて「収月評」延享2【続雑】注「疱瘡見舞に贈った赤絵」
☆ ほくさい 北斎
1 北斎だねと摺物を撥で寄せ 「柳樽52-34」文化8【続雑】
〈三味線の稽古中に披露宴の案内(北斎画の摺物)が届いたところか〉
2 北斎が美女は三歩が大にしき 「柳多留96-14」文政10【柳多留】
〈北斎の画く錦絵の美女は、揚げ代金三歩の吉原最高級の遊女のようだと〉
3 漫画とは言へどみだりで無手本「柳多留96-14」文政10【柳多留】
〈十編が文政2年(1819)、十一編が刊年未詳、十二編が天保5年(1834)刊〉
☆ まくらえ 枕絵
1 枕絵を持って巨燵を追ひ出され 「柳多留1-23」明和2【柳多留】
2 枕絵を添てもしち屋直をふまず 「柳多留5-8」明和7【柳多留】
〈4参照、その枕絵も添えたのだが効き目もなく〉
3 枕絵をたからかによみしかられる「柳多留10-30」安永4【川柳】
〈叱られたのは手習い始めた子供であろうか〉
4 枕絵を出してしちやへしよつて行「柳多留12-7」安永6【川柳】
〈武具箱にいつも入っている枕絵を取り出していざ質屋へ〉
5 枕絵のうら打をする前九年 あくや事かな/\「柳多留拾遺5-21」天明1【岩波文庫(上)】
〈前九年は前九年絵巻と思われるが、枕絵の裏打ちとの関係が不明〉
6 まくらぞうしもならぬぞと始皇いひ「柳多留22-18」天明4【川柳】注「書を焼く」
〈焚書坑儒。医学・占い・農業の書に加えて春画も焼くなと、始皇帝なら云ったはずだと〉
7 枕草子はかまはぬと始皇いひ 猪牙「やない筥2-28」天明4刊【岩波文庫『初代川柳選句集(下)】
〈上句と同じで春画はお咎めなしだと〉
8 楊枝見世枕絵の序を額にかけ「川柳評万句合 智4」天明5【岡田甫編『誹風末摘花』4-13】
〈「浮世絵も先巻頭は帯とかず」だから額にかけた序のところはあぶな絵のようなもの、客引きのためか〉
9 枕絵とさでんのならぶ古本屋 「柳多留20-7」天明5【柳多留】
〈「さでん」は『春秋左氏伝』。枕絵が漢籍と同居する古本屋〉
10 枕さうしの間違ひではぢをかき 「柳多留33-42」文化3【柳多留】
〈清少納言の方をしらず〉
11 枕絵はけだし息子の秘書にして 「柳多留36-43」文化4【川柳】
〈隠れ見するもの〉
12 不意をうつ絵図をも入れる具足櫃「柳多留74」文政5【柳多留】
13 枕双紙は曲取りの仕様帳 「柳多留122別-15」天保4【柳多留】
〈「曲取り」は曲芸〉
14 娵(よめ)の秘書極彩色の春曙抄 「柳多留150-」天保9【柳多留】
〈極彩色とあっては『枕草子』にあらず〉
☆ またへい 又平
1 又平が下手は名物大津絵師 「続頭陀袋」宝暦中【続雑】注「大津絵の祖」
2 大津絵の心を悟る又びょうへ「四海浪」宝暦中【続雑】 注「大津又平」
3 又平と知ってたしなむ古団扇「たねふくべ」天明2【続雑】
〈1・2句は大津の又平(又兵衛)。3の又平は未詳〉
4 手習子又平程はどれも画き 「柳多留165-4」【川柳】
〈又平の腕前は寺子屋の子供ほどだと〉
☆ まんねんばし 万年橋
1 万年橋に釣られてる放し亀「柳多留86-35」文政8【柳多留】
〈広重画『名所江戸百景』「深川萬年橋」〉
2 馬鹿律儀万年橋へ放し亀 「船狂句合」安政1【続雑】注「小名木川」
〈万年橋は小名木川に架かる第一橋。「亀は万年」の縁で放生会用の亀を売っていた〉
☆ めつけえ 目付絵
1 目付絵をねから遣手は飲み込まず「拾遺8-2」【川柳】
〈遊び方を理解できない吉原の遣手〉
☆ やくしゃえ 役者絵
1 ひやうぐ屋へ役者絵の来る長つぼね「柳多留9-12」安永3【川柳】
〈大奥の女中から役者絵を掛幅にするよう注文が入るのである〉
☆ やまもと じゅうごろう 山本 重五郎
1 狂言の筋を教へる重五郎(天保年間【江戸名物】)
注「葺屋町河岸山本十郎は市村座番付の発売店」
☆ ゆうじょ 遊女
1 身替りのちっとも似ぬは女郎也「柳多留61」【柳多留】
☆ よしとし 芳年
1 芳年も画ぬは月の百首浦「成之居士追善会」明治23【続雑】注「月岡氏」
☆ よみほん 読本
1 絵の所が出てよみ本子にとられ「柳多留19-14」【柳多留】
☆ りゅうほ 立圃
1 句の反故で立圃は雛をつゝむなり「柳樽32-2」文化2【川柳】
〈立圃は俳諧の他に書画も能くした。また雛人形の細工・販売を家業としたので雛屋と称した〉
☆ ろくへんずり 六片摺り
1 六片ずりの女郎だけ美しい「柳樽27」寛政9【続雑】注「六色の錦絵」「二朱六片で昼三」
〈昼三は吉原最高位の遊女、揚代が金三分。金1両=4分=16朱。2朱6片の12朱は3分に相当〉
☆ わらいえ 笑い絵
1 だんだんに声をひそめる笑本 「柳多留34-34」文化3【川柳】
2 じんきょして取り上げられる笑本「柳多留46-12」文化6【川柳】
〈腎虚は精力減退〉
3 笑ひ本見る奥女中沖の石 「柳多留77-7」文政6【柳多留】
〈わが袖は潮干に見えぬ沖の石の人こそ知らね乾く間もなし〉
4 笑ひ絵といへど大概イ泣いて居る「柳多留138-11」天保6【川柳】