◯『古代浮世絵買入必携』p21(酒井松之助編・明治二十六年(1893)刊)
(送り仮名、句読点、ルビを適宜補った)
「図柄」
一 錦絵、絵本、及び肉筆物とも、婦人の図最も高価にして、其の中にも半身又は一人立よりは数人に
て遊戯、或いは花見等をなし居る凡(スベ)て面白く賑やかなる図を良しとす。次は男女入り交じり
の風俗画なり。
一 美人其の他の風俗画にても人物の余り小さきものは却って廉価なり。
一 花鳥及び景色は凡て美人其の他の風俗画に比して凡(オヨ)そ半額くらい廉価なり。又広重、国芳、英
泉、及び国貞の如きは風景、花鳥の方却って高価なり。
一 半紙二つ切り又は奉書四つ切り等に画きたる小さき景色絵は価(アタイ)甚だ廉なり。
一 生花の図は凡て不向きなれば、成るべく買い入れざるを良しとす。
一 墨絵にて豊広、豊丸等、凡て百年以後のものは買い入れざるを良しとす。最も菱川師宣、奥村政信、
鳥居清信等の百四五十年前後のものは墨摺にても高価なり。
一 役者の似顔絵は百年以前の第八図より以上の物は宜しくも、第九図より以下の物は其の価甚だ廉な
り。又画工によりては価に係はらず買い入れざるもの多し。尤も第八図以上の役者絵にても美人画
の殆ど半額くらいなり。
一 角力及び武者の図は最も不向きにて画工によりては買い入れざるもの多し。
一 竜宮、唐土、和蘭陀(オランダ)、其の他外国の図は凡て廉価なり。
一 鍾馗、天神、七福神、唐人物、其の他神仏の図は凡て不向きなり。
「豊国の初代と二代の区別」
初代豊国の髪の結ひ方は第七図、八図、九図及び十二図の如し。尤も初めの図の物ほど高価にて、第十
図、十一図の物は甚だ廉なり。又二代豊国の髪の結ひ方は第十二図及び十三図の如し。
〈ここに言う二代目豊国とは前名国貞、これは国貞自身の自称で、現在は三代目豊国とされる〉
「歌麿の初代と二代の区別」
初代哥麿は画の出来宜しく、髪の結ひ方は第八図、九図、又十図の三種にして、二代哥麿は初代に比す
れば筆拙く、髪の結ひ方は第十図、十一図、及び十二図の三種なり。尤も第十図は初代及び二代とも同
様なるも、初代は髪の毛の書き方細く、二代は粗なり。
「錦絵の取扱方」
一 凡て錦絵には裏打ちを成すべからず。もし裏打ちをなすときは、品により二割乃至(ナイシ)五割方、
価を落とすことあり。
一 キズ、モメ、手ズレ等ある錦絵に手入をなすべからず、価を増さんとして却って廉価となることあ
り。
一 何ほどススケ甚だしき錦絵にても之れを洗わずして、其の侭(ママ)になし置くべし。洗ひし物は廉価
なり。
一 日本にては古来よりの習慣にて、絵画を巻くには、必ず絵の表を内に巻込むも、是れは絵の表面に
小皺を生じ、宜しからず。故に、錦絵類を送るには、絵の表を外へ巻き、一番上へ白紙を巻て送る
を良しとす。