◯『浮世絵年表』(漆山天童著・昭和九年(1934)刊)
◇「享保一五年 庚戌」(1730) p84
〝二月、小川破笠と英一蜂の挿画に成れる元祖市川団十郎追善の書『父の恩』二巻出版。本書彩色摺にし
て珍しきものなり。世に彩色摺の絵本の嚆矢は延享三年の大岡春卜の摹になれる『明朝紫硯』なりなど
といふ説あれば、該説を破するに好料材といふべし〟
〈漆山天童は『父の恩』を彩色摺り出版の嚆矢とする。これについて鈴木重三氏は「図形を彫りこなす技術はある水準に
達していたが、これに色面を加えて版画美を形成する技法は、まだ会得されていなかったとみられるのである」として
否定的である。(「『父の恩』と『わかな』の版画技法 ―彩色摺りの問題を中心に―」(『絵入俳書集』「日本古典
文学影印叢刊31・昭和61年刊」)所収)〉
◯『市川栢莚舎事録』巻之五〔続大成〕⑨327(池須賀散人著・明和六年(1769)序)
〝柏延いたつて親に孝心のもの也。親才牛古人となりて追善の折から、父の恩といへる集を作れり。此集
誹心の輩は能しれる所なり。然るに此集本高何程と板行摺上ヶ集出来せし折、三芝居の人々はいふに不
及、才牛迫善に預りし御方へ不残右之集を配りけり。跡則絶板にして板行の板不残火中せりとなん。殊
の外大金の掛りし集也。此集絵入にて色絵摺に工夫仕出しけり。今江戸絵に錦絵杯と工夫して出しけれ
ども、元来栢莚集に色絵摺といふ事仕出せし発端元祖也〟
〈『父の恩』は初代団十郎の二十七回忌追善集。二代目市川団十郎(才牛・栢莚)編・英一蜂、小川破笠画。享保十五
(1730)年刊〉