◯「近世錦絵製作法(四)」石井研堂著(『錦絵』第廿五号所収 大正八年四月刊)
(国立国会図書館デジタルコレクション)
〝 墨板色板
一枚の錦絵版を彫り上げるに、最も精緻細密の彫刻のあるのは、全画の骨となる所の墨ずりの板であ
る、彩色用の版の彫は、之に反して極めて粗大なるものである、で、同じ版板でも、墨摺用には良質の
材を要し、色摺用は、夫れ程やかましく言ふに及ばない、之を代金で言へば、墨板材一枚一円のものな
らば、板材は七拾銭位のものである。墨摺は、板の一面を用ひるに止るが、色摺板は両面とも用ひる、
たとへば、錦絵一枚の所用として、板七枚を注文するとすれば、板屋は墨板一枚色板六枚をよこすを常
とする、この色板六枚中に、潰し用として、質のやわらかなる板を一枚交ぜて、よこすことになつて居
つた、摺の方から言へば、潰しの摺は至難の仕事なので、其の用材に吟味を要するのである、――潰し
とは、無地一色に地を色つぶしにすること〟