◯『絵そらごと』〔燕石〕⑥268(石野広通著・寛政十二年以前稿成る)
〝草紙をたらひで洗ふ小野の小町の絵、口びるをうごかして、わらはが事を七小町とて、もとよりよみも
せず、其頃聞た事もない歌、其中にも、まかなくに何をたねとてうき草の波のうね/\生しげるらん、
とよめる歌、万葉集にありと難ぜられ、其草紙を洗ひたれば、其歌水に洗落て、入筆のむじつをのがれ
たるとの事、さらさらおぼへのない事〟
〈小町をはずかしめるため万葉集の草紙に入筆をしたのが大伴黒主。黒主は小町より一世代前の人物だから「さらさら
おぼへない事」と小町に言わせたのもっともなことであるが、能に演じられて以来、こうとさだまったものを今更ど
うすることもできまい〉