◯『川柳江戸名物』(西原柳雨著 春陽堂 大正十五(1926)年刊)
(国立国会図書館デジタルコレクション)
〝浅草の酒中花 159/162
浅草寺内に散点してゐた例の楊枝見世、或はふし見世と称し美人を囮に客を釣込んだ茶見世などにて売
りたるものにて、春潮の画いた楊枝見世の絵などにも酒中花の看板が掛けられ、兎も角多くの本に浅草
名物の一に数へられてゐる。水に投ずれは見る間に開いて花などに形になるので、粋人の酒席などに侍
べる雛妓共が、盃や盃洗などへ入れ喜び笑ふ様は又矯容愛すべきものであつたと聞く
酒中花を飲んだを瞽女(ごぜ)はくやしがり(安永)
酒中花も花柚も鉢の水すまし (安永)
酒中花のやうに水桶たがゞはね(安永)
酒中花の猪口に興ある蓮華草 (文政)
酒中花のやうにほぐれる嫁の口(文政)
などの諸句から推想すれば大凡の様が首肯(うなづか)れるであらう
黒文字で解く酒中花のもやひ綱
黒文字は妻楊枝、此句一寸浮世絵師の題材にでも成りさうな艶な場面が彷彿してゐる〟