※【雑】は『雑俳語辞典』鈴木勝忠編 東京堂出版・注は編者の注
【川柳】は『川柳大辞典』粕谷宏紀編 東京堂出版・注は編者の注
【岩波(1-5)】は岩波文庫本『誹風柳多留』(一-五)山沢秀雄校訂
【岩波拾遺(上下)】は岩波文庫本『誹風柳多留拾遺』(上下)山沢秀雄校訂
※「注」とは上記出典にある句の注釈。例「柳多留2-15」とは「柳多留二15」〈~〉は本HPの注釈
1 取りちらし・武具虫ぼしに出す組絵「小倉山」享保8【雑】注「春画」
〈梅雨明け、武具の虫干し光景。箱の中で一緒だった組絵(組絵)も路上バラバラに曝される。武具箱に春画は
必須アイテムらしい〉
2 色草紙老木の閨のかへり花「行脚の笠」享保17【雑】注「春本」
〈「返り花」には狂い咲きの意もあり〉
3 からぞめき・菱川が絵を見る清僧「大花笠」享保中【雑】注「春画」
〈品行方正な僧たちに師宣画を見せたらさぞ大騒ぎになるだろうという穿ち〉
4 浮世絵も先巻頭は帯とかず「揚梅」元禄15【雑】注「春画」
〈まさか発端もなしというわけにはいくまいと……〉
5 笑ひをふくむ浮世絵のつや「村雀」元禄16【雑】
〈「笑ひをふくむ」とあるから春画であろう〉
6 色本を見ては女房を折檻し「雲鼓評万句合」宝暦中【雑】注「好色本(春本)」
〈女房には迷惑だろうと〉
7 枕絵を持って炬燵を追ひ出され おし合ひにけり/\「柳多留1-23」宝暦12【岩波文庫(一)】
〈枕絵が枕本となっている句もあるという〉
8 ねんごろにみな西川は瞽女に書「柳多留拾遺上」明和1【岩浪文庫(上)】
〈この西川絵は春画〉
9 枕絵は添てもしち屋直にふまず 釣り合にけり/\「柳多留5-8」明和4【岩波文庫(一)】
〈武具だけでなく付きものの枕絵まで添えたのに、質屋は目もくれず。下掲11参照〉
10 まくら絵をのぞひて下女はけしからや うつり社すれ/\「柳多留拾遺3-2」明和4【岩波文庫(上)】
〈盗み見した下女を評したのだろうが「けしからや」の意味がよく分からない〉
11 枕絵を高らかによみしかられる きびしかりけり/\「柳多留10-30」安永1【岩波文庫(二)】
〈見るものであって読むものではない〉
12 かりっこはなしと高絵を明ける也「柳多留9-13」安永3【川柳】注「高笑いの意で笑絵をいう」
〈春画である〉
13 まくら絵を出してしちやへしよつて行「柳多留12-7」安永6刊【岩波文庫(三)】
〈武具箱から枕絵を取り出して武具のみ質屋へ〉
14 枕絵を美服の影でこそとみる「川傍柳1-50」安永9【岩波文庫『初代川柳選句集』上】
〈虫干しの光景か。武具箱の中の枕絵を取り出し美服に隠れてこっそりと見る〉
15 まくら絵とさでんのならぶ古本屋「柳多留20-7」天明1【岩波文庫(四)】
〈漢籍の『左伝』と枕絵、まさに硬軟の同居する古本屋〉
16 枕絵のうら打をする前九年 あくや事かな/\「柳多留拾遺5-21」天明1【岩波文庫(上)】
〈前九年は前九年絵巻と思われるが、枕絵の裏打ちとの関係が不明〉
17 あたり見廻し絵のとこをむすめあけ「柳多留21-21」天明2【岩波文庫(五)】
18 まくらぞうしもならぬぞと始皇いひ「柳多留22-18」天明4【川柳】注「書を焼く」
〈焚書坑儒。医学・占い・農業の書に加えて春画も焼くなと、始皇帝なら云ったはずだと〉
19 楊枝見世枕絵の序を額にかけ「川柳評万句合 智4」天明5【岡田甫編『誹風末摘花』4-13】
〈「浮世絵も先巻頭は帯とかず」だから額にかけた序のところはあぶな絵のようなもの、客引きのためか〉
20 笑ひとはそら言よがる道具也「川柳評万句合 松5」天明5【岡田甫編『誹風末摘花』4-15】
21 春の雨・手よりは太い画空事「五色種」寛政5【雑】注「虚飾誇大」「春画」
〈針小棒大とも〉
22 菱川西川湯具のさらし場「ちへ袋」寛政8【雑】注「師宣に始まる浮世絵」
〈師宣や祐信の春画はまるで腰巻きの曝し場のようだと〉
23 だんだんに声をひそめる笑本 「柳多留34-34」文化3【川柳】
24 枕絵はけだし息子の秘書にして「柳多留36-43」文化4【川柳】
〈隠れ見するもの〉
25 じんきょして取り上げられる笑本「柳多留46-12」文化6【川柳】
〈腎虚は精力減退〉
26 絵そらごと腕余程ふとく書き「柳多留68-23」【柳多留】
27 春画に見入る面皰出た㒵(かお)「紀玉川1」文政2【雑】
〈面皰はにきび、まさに思春期真っ盛り〉
28 絵そらごと足より太いいゝ道ぐ「柳多留76-1」文政6【柳多留】
29 不意をうつ絵図をも入れる具足櫃「柳多留74」文政5【柳多留】
30 笑ひ本見る奥女中沖の石「柳樽77-7」文政6【柳多留】
〈わが袖は潮干に見えぬ沖の石の人こそ知らね乾く間もなし〉
31 干し見世にぬれてゐる絵が二三冊「柳多留81」文政7【長友千代治著『江戸時代の図書流通』】
〈干し見世は露店。濡れ絵(春画)も交じって売られていた。下掲『梵雲庵雑話』参照〉
32 袋法師を世話で行く新五郎「柳多留88-39」文政8【川柳】
注「これは長持ちに忍ぶ」「土佐光信『袋法師絵詞』の略称」
〈絵島が生島新五郎を大奥に入れるため、長持ちに潜ませて連れ込んだという巷説を踏まえる〉
33 ぬれて居る絵をほし見せのかげで売「柳多留96」文政10【長友千代治著『江戸時代の図書流通』】
〈半ば公然とはいえ建前上は禁制品であるから憚る必要はあった〉
34 春画書く日は遠く居る絵師の母 「俳諧けい30」天保2【雑】
〈この日身の置き所に窮した絵師の母はこうだろうという穿ち〉
35 七遍摺を年礼の笑い始め「柳樽119」天保3【続雑】注「錦絵の春画」
〈正月の縁起物としてのイメージも春画にはあったようだ〉
36 枕双紙は曲取りの仕様帳「柳多留122別-15」天保4【川柳】
〈手足の曲芸図だと〉
37 春画彫いつか悴も覗いて居「柳多留130-6」天保5【柳多留】
38 笑ひ絵といへど大概イ泣いて居る 「柳多留138-11」天保6【川柳】
39 娵(よめ)の秘書極彩色の春曙抄 「柳多留150-」天保9【柳多留】
〈極彩色とあっては『枕草子』にあらず〉
40 絵草紙のやうに仕たいと下女ぬかし「新編柳樽6」天保12【雑】注「枕草紙」
41 妹背絵の中をへだてゝ吉野紙「柳の眉」明治6【続雑】注「春画」
〈吉野紙の別名は「やわやわ」女性の懐中紙として愛用される〉
早川聞多著『春信の春、江戸の春』所収の句
西川絵を手本にかきならひ
有るもので本屋の女房気を浮かし
馬鹿夫婦春画を真似て手をくじき
無理に春画の真似をして筋違