◯『甲子夜話2』巻之四十二 p144(松浦静山著・文政六年(1823)記)
〝今の奥右筆組頭、布施蔵之丞〔胤毅〕の父は、弥二郎と云て、留役に終りしとなり。繁劇なる吏務の中
にて和歌を好み、冷泉家の門人たり。没せし年は春より病悩なりしが、七月の比殆ど危篤に迫しとき、
辞世とて、
なき魂の数にはいりて中々にうき秋風の身にぞしみぬる
とよみしが、又暫く快く、遂に八月に至り没しぬ。
其時戯の狂歌に
乾坤の外とよりこれをうちみれば火打箱にもたらぬ天つち
何(イ)かにも豪励の気象なりけり〟
〈幕府勘定留役・布施弥二郎胤致は狂名山手白人。天明七年八月七日、五十一才没。元木阿弥・智恵内子・朱楽・唐衣
橘洲・四方赤良(大田南畝)などと共に狂歌六歌仙の一人と称される〉