◯『絵本風俗往来』中編 菊池貴一郎(四世広重)著 東陽堂 明治三十八年(1905)十二月刊
(国立国会図書館デジタルコレクション)(19/133コマ)
〝自身番屋
町内の公法を取り扱ふ処を自身番屋と唱へて其の町入口の木戸際にあり、此の自身番屋公法の取り扱
ふ其間空児(ひま)なる時は、町役人乃ち大屋達相寄りて、世間の噂さ噺し等をなす、況(ま)して十四
日、年越の如きは、何兵衛何右衛門相会し、例の雑談会を初むる中に、京伝・馬琴・種彦の合巻好き
は本を持ち行き、余念なく読める、傍らに黒白の争ひ将棊の始まる、下町の自身番なぞは、往来通行
烈しき熱閙の中に閑を占めて、他人の来たる気遣ひなく、他念絶へて一日を以と長く、夕飯は蕎麦に
せんか、鰻飯隠れ酒のしのび呑み、半鐘のヂャンと鳴らざる上は、外に用なき連中とて、又夜に入り
て又始む、恰も老人の慰み場、是も乃ち大平の楽な世界と知れたり〟