※「ちや」「けふ」「たつて」のような拗音・長音・促音は、それぞれ「ちゃ」「きょう」「たって」と現代表記にした。
◎は表示不能あるいは難読文字
◯『家内安全集』(十返舎一九作 春川英笑画 表紙 歌川国安画 西村屋与八板 文政十二年(1829)刊)
家内安全集(国立国会図書館デジタルコレクション本)(国書データベース)
(前編)
△隠居祖父(いんきょぢゝ)
老ぬれば子に従ふのならひにて 家につえつく齢めでたき
△隠居祖母(いんきょばゝ)
手の届く丈は稼て今は世の 世話をも棚へ上し気楽さ
△主人(ていしゅ)
繁昌は親の光りぞ今となりて 頭(つぶり)の兀(はげ)し身にぞしらるゝ
△妻(つま)
何事も操(みさほ)正してつとめなば 宝の山の神といはれん
△嫡子(そうりょう)
孝行を商売としてかせぎなば すゑは黄金(こがね)のかまど将軍
△次男(じなん)
出る杭となりてうたれぬ直なる身にはいたゞく大黒のつち
△三男(さんなん)
柔和なる心を持つが奥の手ぞ負けるをかちと身の修行せよ
△末子(ばっし)
尻軽に働けめし食次第 人から膳を末のたのしみ
△姉(あね)
あはれみのあるこそ人の鏡とて 其の身の徳をてらす愛敬(あいきょう)
△妹(いもと)
夜目遠目笠のうちこそゆかしけれ うへ見ぬ心艶(やさ)しかりせば
△妾(しょう)
舞登るとても其の身をつゝしまば 鳶が鷹産むすえのはんじょう
△嫁(よめ)
難所をも凌がば末はよかるべし 女の道の峠こすまで
△隠居番頭(いんきょばんとう)
主の◎(すね)かぢりし恩ぞ今にしる 入歯をしてもくひかねぬ身は
△支配人(しはいにん)
石の上に三年どこか辛抱は 只一念にいまの番頭
△帳場手代(ちょうばてだい)
奉公と主(しう)の恩義とさしひけば我身に残るすえの福(さいは)ひ
△掛方(かけかた)
金銀もほうこうにんは見たばかり 辛抱をして見せる身となれ
△売方(うりかた)
売れやうれその身に徳ははかねとも 損にはならぬすえのりっ身
△腰元(こしもと)
青柳のもしもとなれば 其の家のかぜになびきて奉公をせよ
△賄女(まかなひ)
身に曇り霞なければ親方の 目鏡(めがね)ちがはず出世をやせん
△丁稚(でっち)
しからるゝたけは其の身の薬にて 今に効能有は請け合い
△乳母(うば)
持つ手からこぼるのたとへ 金持の子を大切にすれば損なし
△子守(こもり)
人の子を守するゆへに己(おの)が身も 米の直(ね)しらず育つ生長(おいさき)
△中働(なかばたらき)
わが若きうちはものにうかるゝならひなれ 目をさましてよ茶の間奉公
△物縫(おはり)
いとふなよ身のため肩の針しごと 人にもまるゝうちの辛抱
△下女(げじょ)
傍輩(ほうばい)の猫も杓子もへだてなく 笑顔見するがおた福の神
△下男(げなん)
両足を摺子木(するこぎ)としてはたらかば 角(かど)のなきとて主人愛敬(あいきょう)
△料理人(りょうににん)
庖丁(ほうちょう)も気をもきかしてつとめなば 頓(やが)てそのみも仕出しりょうりで
△掛人(かゝりど)
闇雲にはたらけいつか人の目に掛人の身の喰らいつぶしは
△按广(あんま)
正直をつえとたのみて身過ぎせば よくに目のなき人に勝(まさ)らん
△髪結(かみゆひ)
一筋に稼業つとめよ元結(もとゆひ)の しまりよければ末は安楽
△米舂(こめつき)
ゆくすへは出世おもはゞから臼の 身を粉(こ)にはたくばかり勤めよ
△日雇(ひよう)
日やとひのわづかの銭もつもりなば 太平楽な節季物前