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☆ おおぐもひゃっきやこう 大蜘蛛百鬼夜行浮世絵事典
 ☆ 嘉永四年(1851)<七月>      筆禍「大蜘蛛百鬼夜行」絵番付 画工不明       処分内容 ◎板元 太田屋左吉 板木及び商品没収       処分理由 浮説流布か    ◯『藤岡屋日記』第四巻 ④429(藤岡屋由蔵・嘉永四年七月記)   〝七月廿五日取上ゲ、大蜘蛛百鬼夜行絵之番付之事     神田鍛冶町二丁目太田屋左吉板元ニて売出し、盆前ニ配り候処、今日御手入ニて残らず御取上ゲ也。       こりもせず又蜘蛛の巣に引かゝり         取揚られるめには太田や      右番附は、袋ニ上ニ蜘蛛が巣を懸ケし処を書、正面ニ碁盤ニ大将の刀掛、紫のふくさをかけ在、燭     台を立、碁もならべ有之、化物評判記ニ在。      番附ハ、      昔々在た土佐絵の巻物ニ碁、今ハ野暮百気夜興、化物評判記さへ箱根の先ニもなき。       中ニ百鬼の絵五十計有之、正面ニハ奢と書し玉の人物、鼠色の着物着しふんまたがり、大勢の百      鬼ニ手をとられ、是をとらへ又は喰付、或ハ八方より鑓ニて突懸ん(ママ)候図也、上下ニは右之外題      書有之、左之通り也      実と見へる       忠と見せる      善と見へる       虚の化物        不忠の化物      悪の化もの      倹約と見へる      金持と見へる     貧客と見せる       驕奢之化物       乏(ママ)人の化物    金持の化物      利口と見せる      としまと見せる    新造と見せる       馬鹿の化物       娘の化もの      年増の化物      医者と見へる      女房と見せる     革と見せる       坊主(の脱)化物    妾の化もの      紙烟草入の化物      親父と見せる      米と見せる      若く見せる       息子の化物       さつま芋の化物    親父の化もの      おしやう様と見せる   冬瓜と見せる     鉄瓶と見せて       摺子木の化物      白瓜の化物      土瓶の化物      殿と見せて       山谷と見せる     ふとんと見せる       手玉の化物       色男の化物      ふんどしの化物      火縄と見せる      鴨と見せる      鮒と見せる       麦わらの化物      あひるの化物     こんぶ巻の化物      鰻と見せる       武士と見せる     物識と見せる       あなごの化物      神道者(の脱)化物  生聞の化物      銀と見へる       血汐と見せる     佐兵衛と見せる       鉛の化物        赤綿の化物      猿の化物      お為ごかしニ見せる   不思議ニ見せる           欲の化物        造化の化物    一 右は七月廿五日、板木・絵共不残御取上ゲニ相成候処ニ、直ニ重板出来也。                            八丁堀鍛冶町                                品川屋久助                            本郷四丁目                               丹波屋半兵衛      右二板出来ニて安売致ス也。        生ケ取て丹波やからハいでる筈品川からもいでる化もの〟    〈「大蜘蛛百鬼夜行」という絵番付である。摘発理由が明確に記されてないが、「こりもせず又蜘蛛の巣に引かゝり取揚られ     るめには太田や」の落首からすると、明らかに国芳の「源頼光公館土蜘作妖怪図」を念頭に置いた評だと思われるので、こ     の化物絵に浮説が立ったものと考えられる。正面の「箸」とある「玉の人物」などに、これは将軍を擬えているなどといっ     た噂が流れたのであろうか。盆前(七月十三日以前)に配り同月二十五日没収とある。改(アラタメ)の段階では問題視されず、     発売後に浮説が立って処分に及んだのであろう。なお、重板(無断複製)を出した品川屋と丹波屋については処分等の言及     がないが、重板は重大な違犯であるから、やはり板木・商品とも没収になったものと思われる。ただしこれらは絵草紙掛(カ     カリ)名主の裁量による規制なのか、町奉行の正式処分なのか、判然としない〉