◯『絵本風俗往来』上編 菊池貴一郎(四世広重)著 東陽堂 明治三十八年(1905)十二月刊
(国立国会図書館デジタルコレクション)(23/98コマ)
〝十軒店(だな)雛人形市
十軒店市は往還左右へ床店(とこみせ)を出来(しつら)ふこと、一丁余の間なり、是を中店といふ、され
れば、両側の常の店並(なみ)、同じく中店と都合四側の店並となり、其の中間を公道とす、五月端午の
幟・兜・人形市も同じ店並なり、雛は毎年二月廿五日より始め、三月二日に終る、端午幟は四月廿五日
始め、五月四日に終る、此の市場中の混雑昼夜夥しく、随つて喧嘩も起こり、懐中物を覗(ねら)ふ盗人
も多く、偖(さ)て人形商人は人形の価(あたひ)に、格外なる掛値を吹き出すこと実に巧みなり、客も兼
ねて承知の先をくゞる、双方の懸引は当所の名物といふべし、程よく折り合ひ、金子を渡さんとして、
懐中を探るに金嚢(さいふ)はいつしか盗まるゝ所となるなど、又漸く買ひ取りし人形を喧嘩のために傷
(そこ)ねるなど、田舎客の目の廻る混雑なりし〟