◯「日本橋旧観」菊池広重著(『此花』第七号 大正二年刊)
(国立国会図書館デジタルコレクション)
〝日本橋は西に江戸城の御矢倉聳えて富嶽の遠望あり、日和長閑なる時には、江城の空に白鶴羽をのして
舞ひ遊び、東には魚河岸の勇しきより、小舟町の鰹節商店、小網町の河岸土蔵立並び、此方は四日市の
土手蔵、川には総房より漕ぎ寄する押送船は、魚河岸に絶間なく、橋の北は室町の繁昌、東は通一丁目
の賑ひあり、全く江戸随一の自慢場所なりしなれ〟
◯『江戸名物百題狂歌集』文々舎蟹子丸撰 岳亭画(江戸後期刊)
(ARC古典籍ポータルデータベース画像)〈選者葛飾蟹子丸は天保八年(1837)没〉
〝日本橋
春うらゝ不二を南に日本ばし山なす人のしげく鳴沢
唐めかすてんぷら売も日の本のはしの袂にすがるめでたさ
魚へんに雪をつみても日の本のはしのほとりはきゆる朝市
日本ばし子等が遊びのはつ登城御鑓ごめんのこむ(ママ)奴凧
松の魚ひさくころには日本ばしみどり色めく青ものゝ市
不二はれて裙にかゝれる日本ばしかすみをわたるやうな朝市
日の本の名にあやかりていくよろづとしをへの字のはしぞ久しき
青ものゝいつもたえざる日本ばしとなりにもやす室町あれば
春雨に山もわからぬ日本ばし下に不二見る河岸の苫ふね
日本橋不二もかすみの横たえてむらさきみする春ののり売
するが町近くすまひて日本橋めもとに不二の山をみるかな
日本ばし旭に雪のきゆることうれるもはやき不尽の白魚
日本ばし不二もかけにやなりぬらん多くの人の山をなす時
武士の多かる江戸は大小の往来たえせぬ二本はしかな
けさ春のわたるかすみの日本橋むらさき海苔もひさぐ商人
哥よまぬうぐひす菜うる日本はし守りの鬼やひしぎかぬらん
雲の袖すりあふ市も日本ばしくらげの月にはた星かれい
大江戸の要なりけり日本ばし扇の形のふじをながめて
おそろしき人の山ぞと駿河から不二ものぞいて見る日本ばし(画賛)
〈富士 霞 朝市 河岸 苫舟 駿河町 青物市〉
〝魚市
橋番の鬼も笑はんことしから売る来年のなつの青もの
日千金落るところは半台も小判形なす魚のあさ市
ゑみす講にはほど遠き朝市に鯛をならべて売る西のみや
かざり松たてたる門の魚市に木のはかれいのうら白もあり
めぐりつるとしの新場の車ゑびあたり近所もはねる初売
年の灘こしては春の鳴門鯛うづまく市のうりそめの人
魚市に買ひし鮑を人の波くゝりてもつて出るあま店
このあたり梅はなか/\あき人の袖なまぐさき魚のうつり香
春にあふ魚商人はうれしさを何につゝむぞ袖のせばさに
〈鯛 海老 鮑 新場 尼店〉