◯『江戸名物百題狂歌集』文々舎蟹子丸撰 岳亭画(江戸後期刊)
(ARC古典籍ポータルデータベース画像)〈刊年未詳。選者葛飾蟹子丸は天保八年(1837)没〉
〝年礼
はつ日さすあけぼの鞘に小からすの黒八丈もめだつ年礼
梅がゝに酔ふうぐひすや江戸の春舌のまはらぬ年礼の客
あけぼのゝさやも目だちて小烏の黒羽二重を着たる年礼
年玉は不二にゆかりの扇にて末ひろがりにくばる年礼
年礼にまつきく屠蘇の匂ひ鳥声は預けて帰りかねけり
いそがしき去年にかはれど年礼のあしなみはやき大江戸の町
雪解(ゆきげ)する門口よりもたう/\と言ばをながす女年礼
礼者をばとそ酒よりも花の香に酔せてかへす梅のやのをち
屠蘇酒に酔はまはれど上下は行義あられにひだも崩さず〈行儀霰・江戸小紋〉
年玉は不二にゆかりの扇にて末ひろがりにくばる年礼
やり梅の二本道具にはこ柳大名日(だいみょうにち)にいでし年礼
とそ酒に酔ても間なく上下のさめこもんきて廻る年礼〈鮫小紋〉
春の日の長上下に年礼の袖ものしめのかすみたなびく
星ひとつかめにみするはつ日の出扇にのせてくばる年礼
板ひさしいためつけたる上下のあられも袖に寒からぬ春〈霰小紋〉
上下にあられ小紋はみすれども戸をばたゝかぬ今朝の年礼
化粧せし女礼者の顔までも土蔵つくりと見ゆる大江戸〟
〈裃・黒羽二重の年始参り〉