◯『絵本風俗往来』中編 菊池貴一郎(四世広重)著 東陽堂 明治三十八年(1905)十二月刊
(国立国会図書館デジタルコレクション)
〝六月 虫干(33/133コマ)
虫干は六月中暑の真盛りになす諸商業中、商品によりては、梅雨の湿気をやう/\凌ぎて、初めて其の
湿気を払ふより、諸所にて始む、総て土蔵中にあるもの何品の別なく皆水気を含む故に、虫干土用干と
いふをなすなり、されば寺社の宝物、武家の武器より書画骨董の秘蔵品、蔵書等を風入れなすに忙し、
其の中毎戸なすは衣類にて、箪笥・長持・葛籠・行李を開きて取り出すは、天保以前より只今新調の男
女衣類、子供物より大人ものと、くすみしあり、又はでなるありて、座敷の隅から縁鼻まで、縄張り渡
して掛けし様は、谷川に紅葉のしがらみしたる如く、昔の花見もかくやと知られ、家の女房・女子(む
すめ)・下婢(げぢょ)と詠めては出だし、出だしては詠む、模様の縫ひの御殿着より、今当世のしま小
紋、よく似合ひたる身の上と、余処の見る目も憚りさまなり〟