☆ 嘉永六年(1851)<二月>
筆禍「見立三幅対」歌川豊国画(三代目)
処分内容 ◎版元 三名 手鎖
◎画工 記載なし(絵師三代豊国は不問)
処分理由 明確に記されていないが、禁制の金使用と高額華美および無断出版が咎められたか
◯『藤岡屋日記』第五巻 ⑤237(藤岡屋由蔵・嘉永六年二月記)
〝二月廿五日
昼過より南風出、曇り、大南風ニ成、夜ニ入益々大風烈、四ッ時拍子木廻候也
錦絵板元 浅草地内雷神門内左り角 とんだりや羽根助
今日売出しにて、鬼神お松、石川五右衛門・児来也、三人の賊を画、三幅対と題号し、三板(枚)続ニ
て金入ニ致し、代料壱匁五分ヅゝにて四匁五分ニて売出し候処、大評判にて、懸り名主福島三郎右衛門
より察斗ニ而、廿八日ニ板木取上ゲ也。
三賊で唯取様に思ひしが 飛んだりやでも羽根がもげ助
右羽根助ハ板摺の職人ニ而、名前計出し、実の板元は三軒有之。
浅草並木町 湊屋小兵衛 長谷川町新道 住吉屋政五郎 日本橋品川町 魚屋金治郎
右三人、三月廿日手鎖也〟
〈前年の嘉永五年十一月、板元湊屋小兵衛から「【見立】三幅対」三代目歌川豊国画・彫竹・摺松宗、「雪・石川五右衛門」
「月・児雷也」「花・鬼神於松」の三枚続が出版されている(下出画像参照)ところが、嘉永六年二月二十五日、今度は
とんだりや羽根助から「三幅対」と題した「鬼神お松、石川五右衛門・児来也」の三枚続が売りに出された。だがこれは
江戸では使用を禁じられていた金摺の豪華版であった。売値も高額で三枚一組四匁五分。ネット上の「江戸時代貨幣年表」
によると、嘉永五年当時の銭相場は1両=約63~64匁=6264文であるから、いま仮に64匁で換算すると、三枚続約440文
で一枚が147文に相当する。十年前の天保の改革では「彩色七八扁摺限り、値段一枚十六文以上之品無用」と定められた
が、今やどこ吹く風、金入とはいえ実にその九倍である。前項「本朝振袖之始 素盞烏尊妖怪降伏之図」の一枚36文に
比べてもべらぼうな売値であった。それでもこれが評判を得て大変売れた。しかし発売して僅か三日目の二月二十八日、
絵草紙改係りの名主福島三郎右衛門が早速これを咎め(察斗)て板木を没収した。調べたところ、とんだりや羽根助は名
目上の板元で、実際の板元は湊屋小兵衛・住吉屋政五郎・魚屋金治郎であった。結局、彼等は吟味のあと手鎖の刑に処せ
られたとある。罪状に関する記載はないが、金の使用とそれにともなう高額出版が咎められたか。また、改(アラタメ)の段階
で金を使用することはない筈だから、通ったあとで金摺にしたものと思われる。そうすると無断出版ということになる。
参考までに嘉永五年十一月刊・豊国画・湊屋小兵衛板「【見立】三幅対」を引いておく。2014/06/05〉
「見立三幅対 雪」「石川五右衛門」(四世市川小団次) 豊国画
「見立三幅対 月」「児雷也」 (八世市川団十郎) 豊国画
「見立三幅対 花」「鬼神於松」 (坂東しうか) 豊国画
(以上、早稲田大学・演劇博物館浮世絵閲覧システム)