◯「初代と二代と三代との豊国に関連する種々の疑問に就いて(承前、其九)」坪内逍遥著
(『錦絵』第十九号所収 大正七年十月刊)
(「助六由縁江戸桜」四枚組 署名「豊国伜豊重画」西村屋与八板)について
配役:助六 市川団十郎 伊久 松本幸四郎・揚巻 岩井粂三郎・白酒売り 尾上菊五郎)
〝(第十二号の口絵に挙げた「助六由縁江戸桜」市川団十郎の助六。松本幸四郎の伊久)見立絵であるら
しく推定されて来たので、(中略)不足分を、最近に手に入れて、組み合わせて見ると、都合四枚で、
揚巻は岩井粂三郎、白酒売りは尾上菊五郎となるのだが、さういふ役割での『江戸桜』は、(小生の査
べた限りでは)文政初期なぞには嘗て興行されてゐない。但し、文政二年三月の玉川座(意久 幸四郎、
助六 団十郎、揚巻 菊之丞)と同年同月に中村座で粂三郎の揚巻、菊五郎の助六、芝翫の意久といふ
同狂言が演ぜられてゐる。(中略)あの絵は文政六七年以後に、最も理想的らしい役々を取り合はせて、
画いたものと想像される〟
〈坪内逍遙の言う役者絵における「見立絵」とは実際に演じられた芝居に基づいて描いたものではなく、「最も理想的
らしい役々を取り合はせて、画いたもの」を言う〉