◯「淡島屋のかるやき袋」p122(『梵雲庵雑記』淡島寒月著・岩波文庫)
〝何故昔はかるやき屋が多かったかというに、疱瘡(ホウソウ)、痲疹(ハシカ)の見舞には必ずこの軽焼(カルヤキ)と達
磨(ダルマ)と紅摺画(ベニズリエ)を持って行ったものである。このかるやきを入れる袋がやはり紅摺、疱瘡神
を退治る鎮西八郎為朝(チンゼイハチロウタメトモ)や、達磨、木菟(ミミズク)等を英泉や国芳(クニヨシ)等が画いているが、
袋へ署名したのはあまり見かけない。他の家では一遍摺(イッペンズリ)であったが、私の家だけは、紅、藍(ア
イ)、黄、草など七、八遍摺で、紙も、柾(マサ)の佳(ヨ)いのを使用してある。図柄も為朝に金太郎に熊がい
たのや、だるまに風車(カザグルマ)、木菟等の御手遊(オモチヤ)絵式のものや、五版ばかり出来ている〟