◯『月露草』〔南畝〕⑱11(安永八年(1779)八月十三日詠)
「外山晴嵐」 〝霧おかぬ松の嵐や君がため〟 蓼太 「早稲田落雁」〝町と田の空に分れて落る雁〟吐月
「馬場下夜雨」〝夜もすがら雨の往来や轡虫〟 阿人 「江戸川帰帆」〝笠を帆に魦釣かへる夕かな〟連丈
「目白晩鐘」 〝晩鐘やこれから月の水車〟 牛飲 「穴八幡秋月」〝騎射笠に月弓照や神の秋〟 魚文
「新富士暮雪」〝夕暮のはじめて涼し不二の雪〟米汁 「姿覧橋夕照」〝橋に日のかへる燕や水鏡〟 文母
◯『万紫千紅』〔南畝〕①285(蜀山人詠・文化十五年(1818)正月刊)
〝東豊山十五景
鶉山桜花 昔みし田鼠うづらの山ざくらけしての後は花もちらほら
城門緑樹 鯱の魚木にのぼる青葉やまわたりやぐらの牛込の門
渓邊流蛍 何がしの大あたまにも似たるかなかまくら道に出戸(デド)の蛍は
稑田落月 しら露のむすべる霜のをくてよりわせ田にはやく落る月影
平田香稲 平(タヒラ)かな水田もことし代がよくてふねにほにほがさくかとぞみる
寺前紅楓 てらまへで酒のませんともみぢ見の地口まじりの顔を夕ばへ
江村飛雪 酒かひにゆきの中里ひとすぢにおもひ入江の江戸川の末
長谷梵宇 明王のふるきもつてあたらしきゐはせの寺の法師たるべし
赤城霞色 朝夕の霞の色も赤城山そなたのかたにむかでしらるゝ
高田叢祠 みあかしの高田のかたにひかりまつ穴八幡歟水いなりかも
済松鐘磬 済松寺祖心の尼の若かりしむかしつけたるかねの声々
田間一路 横にゆく蟹川こえて真直に通る門田の中ぜきの道
巌畔酒壚 杉のはのたてる門辺に目白おし羽觴(ウシヤウ)を飛す岸の上の茶や
堰口水碓 水車くる/\めぐりあふことは人目につゝみのせき口もなし〟
〈『六々集抄』に「東豊山十五景」あり、文化十一年の詠と推定される〉
◯『椎の実筆』〔百花苑〕⑪138(蜂屋椎園著・天保十二年(1841)記)
〝雑司谷八景
星跡清水 御嶽雪(ママ夜雪?) 三島神木 池谷月(ママ池箇?) 絃巻河蛍 姿見橋鷺 鼠山木玉 威光山花
目白十景
戸山霞 早稲田雁 赤城花雲 済松夕蛍 白馬台鐘
龍興晩鐘 椿山郭公 関口吐月 胸突坂雨 駒留橋雪
高田十二景
神穴瑞雲 守宮池水 高田調馬 戸山長松 大鏡古梅 犀淵名月
玄国藤蔓 棣棠村雨 東山薇蕨 影橋蛍 鼠山白露 芙蓉嶽雪
豊山十五詠
鶉山桜花 城門緑樹 渓邊流蛍 稑田落月 平田香稲 前林紅樹 月中望嶽 江村飛雪
長谷梵宇 赤城霞色 高田叢祠 済松鐘磬 田間一路 巌畔酒壚 堰口水碓〟