◯『賤のをだ巻』〔燕石〕①256(森山孝盛著・享和二年(1802)序)
〝其頃、松井屋源左衞門と云ふもの有、歯磨売なり、真鍮の金物打たる黒ぬりの箱を重ねたる高荷を、両
掛にして、小者にもたせ、赤坂見付下の広小路に出て場を取、彼高荷を両方へかまへ、居合刀【尤刃引
にてよくみがきたるなり】三尺計なるを第一として、夫より段々寸劣りの刀を品々掛て、居合を抜くな
り、手練目をおどろかしたる事なりけり、小者は相太刀をうつ、後は足駄をはきてぬき、又は三方の上
に登りてぬきたり、彼三尺計の刀を自由に取廻して、様様の形をぬきたり、今はみえず〟
〈天明頃までの記事〉