◯『寐ものがたり』〔続大成〕⑪69(鼠渓著・安政三年(1856)序)
〝酒の上のこけ丸とて、ちとたらわぬ男あり【西丸御馬乗市川七郎兵衛】浅草市に行、買物して返り見れ
ば、つとの内に海老なし。いづくへか落せしならん。こけ丸とりあへず
伊勢海老もいつかつとからぬけ参り道も賑ふたい/\とかや
年始に出しとき、ある所にて、市川さんあがれ/\といわれ、
市川は奴凧とや見られけん風もないのにあかれ/\と
書画の会席にて、久保町辺より来りし狂哥師のよしにて南堤といふ画師に、なにかとつけもなき物をか
きて呉よといふ。南堤、弐ッ三ッ規を画き、かたわらへ塞をかきければ、彼男いつ迄もながめてばかり
居てなともいわず。我らかたわらより
双六の塞はみやこへのほるのに吾妻へくたる業平蜆〟