◯『浮世絵と板画の研究』樋口二葉著 日本書誌学大系35 青裳堂書店 昭和五十八年刊
※ 初出は『日本及日本人』229号-247号(昭和六年七月~七年四月)
△「第二部 浮世絵師」「四 独立して後」p81
(際物師)
〝(玩具絵)すら成し能はぬ者は際物師に脱線する。際物師とは其の季節/\で種々の絵を描き、紙蔦の
仕込ごろには紙鳶絵を切々と描ぎ、祭礼があると大行灯を描いたり、刺子の絵を描いたり、羽子板の役
者似顔を描いたり、諸興行物の看板を引受けたり、或は招牌絵を描いたりするのである。斯ういふやう
に脱線して種々の方面に活路を開き、世渡りの綱を蜘手に引き廻して、太夫身支度出来仕つりますれば
綱の下まで出られますの口上も、是れからが七分三分のかね合とございの吹聴も、皆一人で切つて廻す
もあれぱ、又その専門家と成ると妙なもので弟子もつき、手伝ひに寄つて来る不具画工も出来て、却て
玩具絵などをコツ/\描いて燻つて居るより、派手な生活なして居た者もあつた〟