◯『女教小倉色紙』西川祐信画 中村三近子・藤皷溪作 銭屋庄兵衛版 寛保三年(1743)刊
〝閨中道具八景
台子夜雨(だいすのよるのあめ)
たぎる湯の音はしきりにさよ更けてふるとぞ雨の板間にやもる
鏡台秋月(きやうだいのあきのつき)
秋のよの雲間の月と見るまでにうてなにのぼる秋のよの月
時計晩鐘(とけいのばんしやう)
隙もなく時をはかりのかねの声聞にさびしき夕間ぐれかな
扇子晴嵐(あふきのせいらん)
吹からに絵がける雲も消ぬべしあふぎにたたむ山の春かぜ
琴柱落雁(ことぢのらくがん)
琴の音に引とゞめけん初雁の天の空よりつれて落くる
塗桶暮雪(ぬりおけのぼせつ)
冨士の山ふもとはくらきゆふぐれの空さりげなき雪をみるかな
行燈夕照(あんどうのせきせう)
山のはに入り日の影はほのぐらく光をゆずる宿のともしび
手拭掛帰帆(てぬぐひかけのきはん)
真帆かけて浦によりくる舟なれや入とは見えて出るとはなし〟
〈鈴木春信の『座敷八景』の種本はこれであろう〉
閨中道具八景 西川祐信画