◯『甲子夜話1』巻之十五 p262(松浦静山著・文政五年(1822)記)
〝先年浪華にて蒹葭堂を訪しとき、版刻の一小紙を見る。主人曰、これは大阪御陣のとき御陣場の辺を売
あるき、従軍の卒買求しものよと云ふ。今山王神社の祭礼に市陌を売あるく、番付と云ふものゝ類なり。
僅歳月二百年余にて、時風の違ふこと此版本を以ても想べし。これは平野、堺などを専ら売歩(ウリアルキ)
しと云ふ。もと大小二幅ありと聞く。今印出のものは小幅の方なり。大なるは久世三四郎の家に伝(ツタフ)
と云ふ。先年其人に問たれど、答も無て過ぬ。
この図は予曾て蒹葭の所蔵を摸し置たりしを失(ウシナヒ)たり。今年或人より其小幅を獲たり。絵様始に異
ならず。但二所に黒版のものあり。原本には一は大御所様とあり。一は将軍様と書きたり。神祖と台廟
とを申すゆゑ、摸刻にはこれを避たるなるべし。(「大坂安部之合戦之図」摸造図あり)〟
〈この「大坂安部之合戦之図」は現存する最古の瓦版とされている〉