◯『寐ものがたり』〔続大成〕⑪12(鼠渓著・安政三年(1856)序)
〝江漢の唱しに、平賀源内はおもしろき男なり、或時儒者来り、源内ニ対し、われら学文にては中々足下
には負まじと思へども、人足下を知りてわれを知らず、如何なる事ならんと云、源内答へて、名を高ふ
せんには著述をするがよし、貴所の学力にて著述せられなば暫時に名はあがるべきと云、彼儒者、著述
せんにも金子無くては叶わずといへば、それは人に借るがよしとと云、借りても返す事難しといへば、
返ず時分になりなば、外より又借りて返すがよし、又其金返す期にならば、ヌかりて返すべしと云、夫
にては始終借金になり、埋方なるまじといへば、源内面を正し、其内には貴所が死るか、借たる人が死
かして仕舞へしと云〟