◯『絵そらごと』〔燕石〕⑥270(石野広通著・寛政十二年以前稿成る)
〝最明寺殿例の通雪中の姿にて(曰く)かの鉢の木のうたひに、梅、桜、松の事ありて、菅原伝授といふ
上るりには、梅王、松王、桜丸と三人兄弟をつくれるも、梅はとび桜はかるゝ世の中に何とて松はつれ
なかるらん、とい神詠あるよし〟
〈能の「鉢の木」。零落した佐野源左衛門常世が、雪中一夜の宿りを求めた最明寺時頼に、秘蔵の鉢の木を焚いて暖を
もてなす場面が有名。「梅はとび~」は「菅原伝習手習鑑」の「寺子屋の段」、菅丞相の詠。菅丞相を九州太宰府に
流した藤原時平方に立場上従っている松王丸を嘆いたもの。実際は違うのだが……。この芝居では松竹梅ではなく梅
桜松になっている。しかし竹も隠れて登場している。菅丞相の一子・菅秀才を匿って守り抜いた武部源蔵の名に(竹
=武)が隠されていた。鈴木春信の見立て絵に「鉢木」二枚組みがある。「菅原伝授手習鑑」の趣向を取り入れたか
どうかは分からないが、そこには雪を被った笹竹が背景に描かれている〉