Top             浮世絵文献資料館             浮世絵年表
           「画幅千枚かき」(天保五年(1834)八月十六日書画会の引き札)      ※「日本経済新聞」2011年2月1日・夕刊「夕刊文化」欄記事      原文に送り仮名および濁点・句読点を適宜補った     〝【席上揮筆】画幅千枚かき    八月十六日、晴雨を論ぜす両国柳橋、河内屋半二郎方ニおいて相催し申し候。御光駕の程希ひ奉り候          補助 香蝶楼国貞             一勇斎国芳             渓斎 英泉             歌川 豊国             前北斎為一    今年春、祝融氏に千巻余りの書籍を奪ハれ、且つ病の為に百日ちかき閑を費せし、其の窮を救ハんとて    旧知の人々、各々絵筆を働して、一臂の労を助んとの芳志なり。仰ぎ願ふは好事の諸君、御光駕あらん    ことを、ねぎたてまつるとまうす                       会主 花笠文京    〈「祝融」は火災〉      拙画多く板刻するゆゑに、頗る名をしらるゝに似たり。かねて吾役者の似顔は其真にせまるをもて、速    に写す事かたしとす。近比発明せる宗ありて、彼の耳鳥斎にはあらねど、一筆にて役者衆中を写す事を    得たり。されば三都の立者役者ハ更なり、中以下の者とても又しかり、今度席上の好にまかせて、いさ    ゝか興をそへんと思ふのみ                            歌川国貞      予、をさなきより画を好ミ、七十余年の今に至るまで、いまだ其の奥を極る事能はず、年々書画会に出    る事、凡そ百千度、自ら其の戯にあき、今其の会格をのがれて、吾が徒両三輩、千枚がきといふ事を催    して、席上に曲筆、逆画の賤技を披露し、不学百芸と秀句して、花笠氏が臂力を励まさんとするも、老    の腕たていかゞあらん                        七十五翁 前北斎為一     〈「不学百芸」は「富嶽百景」の秀句(語呂合わせ)〉      〈被災したうえに病まで患った戯作者・花笠文京の窮状を救おうと、画幅千枚の席画に協力したのが、国貞・国芳・英     泉・二代目豊国・北斎。当時浮世絵師の一流どころである。国貞は役者絵、しかし通常の画きかただと時間がかかる     ので、この日は上方の耳鳥斎ばりに一筆で画こうという意気込み。北斎、席画はこれまで何度となくやってきたので     うんざりしているが、今回は文京のために曲筆・逆画を披露しようという。具体的にどんな絵を画くつもりなのか、     書いていないが、かなり曲芸がかったパフォーマンスをしたのではないだろうか。これはその引札(チラシ)である〉