Top            「土蜘蛛」解釈全文            浮世絵文献資料館
      「源頼光公館土蜘作妖怪図」 一勇斎国芳画       (早稲田大学図書館「古典籍総合データベース」)
      
      土蜘蛛その他資料 (上掲以外の文献資料)
      著作 -読む浮世絵「判じ物」- 一勇斎国芳画「「源頼光公館土蜘作妖怪図」 加藤好夫著     A「土蜘妖怪図解 錦絵聞書」『天保雑記』p340(藤川整斎著・天保十四年(1843)記)   (『内閣文庫所藏史籍叢刊』汲古書院・1983年刊)
  〝土蜘妖怪図解 錦絵聞書    一 四天王居所畳故、富士の裾にて青く、世界半分黒暗故、種々の妖怪出る。絵の大意、上が闇き故に      下は真青で居ると云意なり    一 土蜘額の梅鉢、筒井伊賀守。巣が矢筈にして富士の形にて矢部駿河守なり。顔に賽の目有り、      真中一、眼二、鼻山にて三、両口脇四と六、額五也    一 頼光公、夜着に葵の唐花、水に巻れて世界を知らぬ躰故眠る形也    一 鼻紙台、兎、林播磨守、金山より之石、澤潟公より献上し、下の紙は美濃紙にて水野美濃守、下の      梨子地桔梗丸は太田公を梨地にしたるなり    一 黒き牡丹は劉訓が故事にて、牛の異名を黒牡丹と云とや    一 沢潟が季武定紋なり    一 綱の三ッ星に一の字は真中より割六文銭の形なり。模様の亀甲は水に這と云理なり    一 金時、黒地にしつほふは金の字の似合なり。着物の模様桜の花に蕨手、桜炭の小口切を水に巻れて      有なり    一 碁盤横に有て盤の目を見れば横邪なり。又十里四方引替地、考も無仕事故、碁に地取なし、黒大き      く其上二十ニ白十七なり    一 貞光源氏車定紋なれど、着物の車水車に間似合なり、此人十里四方引替を、碁向助云いたし候得共      聞入なし、仍て一人脇に寄、茶を呑、世界の有様を考える処、化物悉く見ゆる    一 四天王四人共中年に見へ候得共、不残白髪なり。能く御覧之事             化物    一 轆轤首【娘子供なり】    一 同骸骨    一 鬼瓦が泥鏝を捧るハ【塗屋/植】    一 生海鼠    一 雀 【躍の類なり】    一 同骸骨    一 九ッの骸骨の馬印ハ【苦界ニて女郎屋也】    一 福禄寿・三ッ目【株主、地主、金貸】    一 亀に棒ハ 【鼈甲屋、鼈屋】    一 河太郎  【姣者ニ芝居者】    一 木魚ハ  【講中なり】    一 蟹 【権門ニて這といふ儀なり】    一 貂狼の形ハ【龍野侯、芝居者】    一 西瓜【初物なり】    一 同刷牙ハ 【寺の幡、質屋、小呉服】    一 鯰の蓮の花持し【池の端取払なり】    一 馬上の大将ハ【眼徳と云しヲカッ引故、指の采配持模様、茶台は此者常に浄瑠璃を好て指の采配ハ      多くの人の思ひなり。一ニ奥州医師某と云】    一 筆を持ハ【奥御右筆組頭大沢弥三郎、道顔のほち/\は皺のくひ出来形、藤の丸は大沢定紋なり】    一 幟の上茶釜ハ【水茶屋也】    一 馬ハ【高金不相成三十両留りなり】    一 口を明たるハ【鳶上の釼に町内にて】    一 桃灯ハ【四ッ手駕籠なり】    一 釼は 成田山    一 蓮の葉を冠ハ【子をろをし、寺の大黒】    一 眼の丸きハ【成田屋、下ニ具足少々見ゆる】    一 坊主頭、鰻の頭巻ハ【杓子を持ハ宿屋の子故、長の字杓子ニ付候ハ飯盛売女中山智泉院】    一 魚ハ 料理茶屋    一 緋衣【払子ハ中山法花寺、大達磨大鴟鵂当時相不成】    一 歯のなきハ【おはなし売】 一 三ッ目ハ神子 一 象【南蔵院増上寺】    一 上ヲ向口を明たるハ金物    一 蛸 大凧なり    一 青龍刀    一 蔦ハ 棚倉侯なり    一 貧僧の福耳ハ御城坊主衆    一 下達磨【御趣意掛、名主熊井利七郎】    一 腹雀【中野石翁鳥溜をふくれて居る】    一 婆々    一 大天狗ハ【天狗長と云鳶、子天狗と合、諸々大小の金毘羅】     一 同しきハ松平伯耆守殿    一 蟇 姥が池    一 凹鼻児髪【印旛沼弁才天おみよの方、下駄屋天鵞絨のはな緒雛】    一 閻魔ハ 地獄    一 官女の下ハ 土岐なり    一 三途川婆々 手引    一 女の首二ッ【田部加賀守、女髪結 結し人を結たる人見ゆる】    一 大将の貂    一 具足着【牧野侯、鳥屋、尾上菊五郎】    一 丸のハ 揚弓    一 顔の逆ハ【陰陽師取払】    一 狐ハ 稲荷    一 蝸牛【一名てゝ虫、見世物類】    一 幟ハ 神屋上輪散、銭半分    一 分銅【天秤、銀座】    一 桃灯 切見世、古金坐    一 官女【中田新太郎吟味与力】    一 一ッ目【祭礼并ニ天王、一ッ目の検校】    一 髪の丸ハ【唐物屋手に持し珊瑚樹】    一 猫の竹を持しハ【竹本浄瑠璃かたり并ニ男女芸者風】     B「一勇斎の錦画」『浮世の有様』p851(著者不詳・天保十四年(1843)十月記)   (『日本庶民生活史料集成』第十一巻「世相」)
  〝江府に於て、一勇斎国芳といへる画人、前太平記にいへる処の源頼光が瘧を病臥し、土蜘蛛といへる賊    の忍び入りしこと有、こは文を異やうに書記せしものにして、真の蜘蛛には非れども、これをこと/\    しくいゝたてゝ専ら児女をなぐさねぬる昔物語となしぬ、其有様といへる頼光病臥して眠りし後へ、大    なる法師に化けし蜘蛛の糸を以て頼光を縛せんとせる趣なるを、乍目を覚し、膝丸の太刀にて、これに    手疵を負せぬ【この時よりして太刀の名をくも切丸と改む】彼の四天王と唱へぬる四人の外に藤原の保    昌等次の間にて、其物音を聞きつけ、直に寐処へ出来、血の跡をしたひ行て北野にて生捕しと云、其図    を画きぬるは昔より有ふれし図なり、然るに此度国芳が画しは、紙三枚の続にして、筋違に大なる富士    山を画き、其内に頼光長髪にてふとんに巻れうつむきて眠ふり、其前に兎の香炉あり、側らに太刀を掛    て有り、これは彼蜘蛛切なるべし、其前に大紋を着してこれを季武と記るす、素袍の紋をおもだかとす、    これ水野越前守なりとぞ、其次に綱と金時と碁を打て居る図なり、金時は白石にて綱先をなし、石配り    を見るに、綱が勝と見ゆ、綱は真田信濃守にて、金時は堀田相模守也と云、堀田は溜の間へふとん投げ    にて、御役御免となり、真田は歴然として御役を勤めぬるさまを見せしものなりと云、これに並びて車    の紋付し素袍を着し、茶碗を持て向を詠めぬるが、定光と記せり、これは土井大炊頭なりと云、頼光が    後に怪げなる蜘蛛を画き、眠(*ママ)の瞳を巴への形になし、右の手に富士山の絶頂を(手偏+必)み、    大に怒れる有様也、矢部駿河守が紋三つ巴なるゆへ、眼と富士山を(手偏+必)めるとにて、それと知    らしめしものなりと云、頼光の着せしふとんの模やうに青海浪を画く、この心は水野に巻かれて目が見    へずといへる心也と云、蜘蛛の外に種々様々の化け物あり、こは何れも水野が為に産を破られ命を失ひ    し者共のおん念なりと云こと也、先高入道の晒頭の馬印を建て、人の指を以て作れる采配を以て多の夭    怪を指揮する有り、これ一方の大将と見ゆ。【種々さま/\の噂あれ共中野関翁なるべしと思はれる】    又達磨如きもの朱衣を着し、象に乗、蛸魚の馬印を持たせしあり、こは感応寺ならんと云こと也、其外    奥女中生洲料理屋鳥屋八百や呉服屋【呉服屋は織の乳をこと/\くに物さしの如く書て之を悟らしむ】    かいるは百姓なるべし、天窓の上にのぼり着て髪乱せしは女の髪なるべし、鼻高く画きしは芝居役者市    川団十郎なるべし、其外種々の化物あれ共悉くは解しがたし。四天王が側らに三つ引の紋斗を画けり、    これは間部下総守の紋なるゆへ、これを記せしものにして其欠けたるをしらせしものなるべし、其絵京    大坂へ二千枚づゝ登せしと云、絵を売れる店毎にこれを出す、江戸にても同様の事なりしが、始の程は    人も心付かざりしが、後には何れも心付、此絵を大に買はやらせ心々思ひ/\にこれを評し、はんじ物    の絵と称して種々さま/\の風説をなすにぞ、上にもやう/\と心付、板元を召捕吟味有りしに、其作    者といへるは麾下に有てこれをしらべぬる時は、大変に及びぬるやうすなるにぞ、板木并にこれまで仕    込有し絵をば悉く御取上にて焼捨となり、板元居町払にて手軽く相済しと云、京摂にてもこれを商へる    事厳しく御停止となる。予は早く心付しゆへにこれを求め置ぬ、其絵を見てこれを弁ふべし、開闢已来    幾度となく乱れぬる世もありぬれども、かゝることを板に彫刻し、上をはづかしめぬることなし、こは    たれがあやまちにてかゝることに至りぬるや、怪むべし恐るべし〟     C「浜御殿拝観の記」『浮世の有様』p854(著者不詳・天保十四年(1843)十月記)   (『日本庶民生活史料集成』第十一巻「世相」)
  〝前に記しぬる一勇斎が画きたる錦画の訳を或人の方へ申来りしとて、予に見せしかば、こゝに書記し置    ぬ、画と引合てこれを見るべし。    頼光は【将軍也、水野に巻れ余念なき姿のよし】    兎の置物【水戸侯也、此度の如き天下の大変なるに、小ひさくなりて何事をも得云はず、色にふけりて         本国に斗引込て居らるゝと云へる事也とぞ】    季武【水野越前守也、家の定紋沢潟を付けて、これを知らしむ、将軍の御側をはなれずして、我意を放       (恣?)にする有様也とぞ】    綱 【真田信濃守】公時【堀田相模守】【この両人御老中にて有ながら、何れも智恵なき愚人なるゆへ、       水野が為にて、下は申に及ばず、肝心なる将軍の御膝元の騒動すらをも知らず、水野が種々こび       へつらへるのみにて、碁盤面のことく、筋違いの事のみくづ/\いたして、其職分の勤められぬ       る人に非ずといへる程の愚人共也と云ことを書記せしもの也とぞ、又真田先をなしていれども石       配りにては同人が勝のやうすを見せぬ、これは真田は其儘御役を勤めぬれども、堀田は今度ふと       んなげにせられて溜の間詰となり、御役召上られしやうすを書顕せしもの也と云】    定光【土井大炊頭也、かゝる天下の有様なれども、水野が姦悪なる事をば夢にもしらずして、太平なる       心持にて、うか/\茶を飲え平気にて居ると云事也、愚人に非れば、小人にして家柄と云ひ御老       中の上席に居る身分にして、水野が姦悪を取挫く事克はず、紀州公其外諸侯の力を以て水野がし       くじれるやうになりて、太平に納るやうになりぬ、匹夫匹婦の為に馬鹿者と噂せらるゝも其理な       きにしもあらず】   (丸に三つ引きの紋)【是は間部下総守が紋なり、詰処に於て水野を取挫しかども、御役御免となりし様       を書記るせしもの也と云、将軍を始め四人の面体を生写しにせしもの也といへり、堀田は色赤く       恐ろしき人相にて、せ間にて赤鬼と異名せる人なりと云】    上黒くして下青く画しは【上の政道くらやみにして諸人困窮甚しく、下は一統に青くなると云事也とぞ】    土蜘蛛【美濃部筑前守、御側御用にて権勢強く大御所に仕へて、勢ひ振ひしが、薨御後直に仕くじりし       人也、富士山は矢部駿河守にて、美のべが引立にて立身せしと云、夫故富士山の頂を(手偏+必)       で引上しさまを画きしと云】    ろくろ首【歯なく口を明きて下に亀あり、江戸の咄しゝの師家喜蝶といへるもの也、御改革に付て厳敷       御咎蒙りしとなり】    鬼のこて持てるは【御改革にて江戸市中の鬼瓦取払にて悉丸瓦となりし故也】    木魚【念仏講を俗家にて勤る事を御停止となりし故也】    晒首馬印【菱垣十組問屋共】    山伏【悉天目が原へ引越被仰付し故也、したひに一目を画てこれをしらしむ】    鼻高親父【堺丁名主大塚屋といへる人】    指采配【米相場也】    大入道は【浅草道茶店親子共流罪と成る、あたまの上に子のしやり首あり】    馬は【博奕】    白織は【白木屋といへる呉服屋戸〆被仰付、此卯織類すべて呉服屋共なり】    猫 【竹本女太夫】    柏の紋付し鳥は【勝負鳥】    目玉上につきて口の上に有るは【さか口といへる所の楊弓矢なり】    天上眉有女は【大御所の御愛妾おみのゝ方と云、中山法華寺の隠し子にて中野関翁が養女也、越前の御           養子、川越の御養子、加賀の奥方等の御腹にて悪女なり】    てうちんは【弔なき御趣意なり】    天窓の上にて乱髪の女【これは女髪結なり、この者に突かれて虎の如くなるは内分にてかみを結ひしこ               とを訴人せし何虎とやらんいへる者なりとぞ】    闇(ママ)魔王は【地獄茶屋といへる処取払となりしゆへなり】    蝸牛は【角細工】    蛸は【凧御取あげとなりしゆへなり】   (顔の図あり)【この図は鳥目相場上げられしゆへなりとぞ】    幟 【二品切さき怖と幣とかきたるは二割下げと云事也、後藤の紋なり】    達磨の象に乗【海老蔵と云事也、其後にあるとらなどは、砂村の化物なるよし】    百まなと【可山といへるものなり】    蛙 【惣嫁のきゆう】    獅々義の化物坊主杓子を持うなぎを鉢巻なせしは【下谷極楽寺和尚飯盛お長といへる女になじみ生洲に                           て召捕られ、さらし物となりしなり】    西瓜は【水くわしやの化物】    幟 【かず多し、浅草前の茶店又ちりめんなどにて、乳をば何れも物さしの如くなして呉服屋の困れる       様を顕はせしなり】    河童【かつぱ頭長の人】    うちはを持て都鳥に乗りしは【中野関翁】    筆を持たるは【屋代太郎と云御祐筆水野がためにしくじらされて閉門をなす】    鼻なき女【大御所の御愛妾瘡毒にてはな落しなり、押込となる、髪はびろうと下た草りの鼻緒なり】    一眼にして頭上に鳥を頂き指三本なのは【当年より三ヶ年祭礼やめになりしゆへなりとぞ】    天上眉ある女【大御所を自由にせし中山法華寺の女にて、中野石翁の養女押込となりし人なりとぞ】〟     D「浜御殿拝観の記」〔頭書 錦画の註釈〕p854『浮世の有様』(著者不詳・天保十四年(1843)十月記)   (『日本庶民生活史料集成』第十一巻「世相」)
  〝頼光は親玉と見る、卜部季武は水野とみる、紋は沢潟、渡辺綱は真田と見る、たんご三つを合せて、六    文銭にかたとる、坂田金時を堀田と見る、紋は(◇の中に+)是をかたどる、定光を土井とみる、土車    をかたどる、頼光の夜具は青海浪のもやうは水野にまかれて居るとみる、ご盤に向きて筋違と云事、土    蜘の㒵(一字分模様あり)もやうは美濃辺筑前守とみる、蜘の巣の不二山の形是は矢部駿河守のゆうれ    の(ママ)と見る、兎の置物は水戸様とみる、但し卯の御年ゆへ是は御趣意を少くなりて見て居る故置物と    見立る。碁打て両人は下の事を知らぬ故、只夢中になりて碁を打て居る、土井はよく知るゆへ、化物を    見届て居る、頼光は一切の事を知らぬ故、うまくねぶりて居る、薄墨の画は上は真黒といふ事、蝋燭は    中のあかひといふ事、下の青き画具は下は青く成居ると云事。     イ、所々家々におひて、念仏の寄せ集る事停止故、木魚の化もの     ロ、よき屋つくり普しん停止ゆへ鬼瓦左官の化物     ハ、高直の飼鳥停止     ニ、江戸中の山伏皆浅艸天門原へ引越町住に成る     ホ、晒首まとい草故十組問屋など     ヘ、白髪の鼻高きは堺丁名主大塚親父     ト、馬に乗て居る入道は浅草辺切店座頭あたまの上の事、首は親父一所に傍曬になりし化物     チ、蓮葉をかむりしは子のおろしや     リ、西瓜は八百屋化物     ヌ、なまずは印幡沼の主     ル、杓子以て居る坊主は下谷辺の和尚、飯盛女お栄に深く馴染、或時うなぎやにお長と二人居て酒を       呑ている所を召捕られし故あたまにうなぎを巻て居る     ヲ、金を以て居る惣髪は上の学者成島水野に叱られし故こゝに出す     ワ、茶釜の堀水茶や也     カ、かは太郎はよし丁湯島のかげま也     ヨ、称録或は向島中野関翁也、屋敷は隅田川故、都鳥に乗て居る、あまたにでんほ有     タ、鼻の黒く女は大御所の妾也、疾にて鼻落て押込になりし女也     レ、あたまに鳥の有は山王様の家根の鳥、天王様は今年より三年休ゆへ指を三本出して居る也     ソ、とら猫は猫と云女義太夫也、竹本右竹を吹ている     ツ、柏のもやうあるは鶏の㒵也、これは金銀をかけて鶏をけ合し御召捕     ネ、灯燈は野送お御趣意又富も止む     ナ、此女は大御所様の妾也、お弓の方と云、弓を以ている押込也     ラ、御幣はおどりのかたち、後藤也     ム、眼一つは本庄一つ目弁天と云女郎也     ウ、達磨は鼠山の坊主疱瘡の祈祷致候故也、天盃のみゝつくは疱瘡の印、達磨の目は市川海老蔵の目、       赤衣小象に乗る故、海老蔵と云なぞ也     ヰ、蛸は手の込し凧法度     ノ、南きんはかの砂村の化物     ヲ、あたまをくゝられて居るは、女髪結の法度也     ク、ゑんまは地ごくと云女郎也     ヤ、かいるは夜たかのぎゆうの化物     マ、分銅は銀座の化物    右の外皆因縁あれど、決て不知    此註解も或人の方へ、江戸より来りしと云、下に記しぬると大同小異あり、故に此処へ是を書添置ぬ〟      「流行錦絵の聞書」(絵草紙掛り・天保十五年三月記)『開版指針』(国立国会図書館蔵)所収
  〝天保十二丑年五月中、御改革被仰出、諸向問屋仲間組合と申名目御停止ニ相成、其外高価の商人并身分    不相応驕奢のもの、又は不届成もの御咎被仰付、或ハ市中端々売女の類女医師の堕胎(ダタイ)【俗に子    をろしと云】御制禁ニ相成、都て風俗等享保寛政度の古風ニ立戻り候様被仰渡候処、其後同十四卯年八    九月の比、堀江町壱丁目絵草(ママ)屋伊波屋専次郎板元、田所町治兵衛店孫三郎事画名歌川国芳【国芳ハ    歌川豊国の弟子也】画ニて、頼光(ヨリミツ)公御不例(レイ)四天王直宿(トノヒ)種々成不取留異形の妖怪    (ヨウカイ)出居候図出板いたし候、然る処、右絵ニ市中ニて評到候は、四天王は其比四人の御老中【水野    越前守様、真田信濃守様、堀田備中守様、土井大炊頭様】にて、公時(キントキ)渡辺両人打居候碁盤は横    ニ成居、盤面の目嶋なれば、此両人心邪(ヨコシマ)に有之べし、扨妖怪の内土蜘は先達て南町御奉行所御    役御免ニ相成候矢部駿河守様の【但定紋三ツ巴也】由、蜘の眼巴ニ相成居候、又引立居候小夜着は冨士    の形を、冨士は駿河の名山なれば駿河守と云判事物の由、飛頭蛮(ヒトウバン/ロクロクビ)は御暇ニ相成候中    野関翁【播磨守◎隠居なり】にて、其比世上見越したると申事の由、天狗は市中住居不相成鼠山渋谷豊    沢村え引移被仰付候修験、鼻の黒きは夜鷹と【市中明地又は原抔え出候辻売女也】申売女也、長ノ字の    付候杓子を持、鱣(ママ鰻?)にて鉢巻いたし候坊主は芝邊寺号失念日蓮宗にて鱣屋の娘を囲妾ニいたし、    其上品川宿にてお長と申飯売と女犯ニて御遠島に相成候ものゝ由、筆を持居候は御役御免ニ相成候奥御    祐筆の由、頭に剱の有るは先達て江戸十里四方御構に相成候歌舞妓者市川海老蔵、成田不動の剱より存    付候由、頭に赤子の乗居候は子おろし、常に字付候提灯は当百銭の由、纏に相成居候鮹は足の先きより    存付高利貸、分銅は両替屋、象に乗候達磨は先達て貪欲一件ニて遠島に相成候牛込御箪笥町真言宗ニて    歓喜天守護いたし候南蔵院の由、其外家業御差留御咎等ニ相成候者に付、市中好事の者調度、絵草屋    (ヱソウシ)屋え、日々弐三人宛尋候得共、絵草紙屋にても、最早売々不仕候、右は全下説ニ程能附会(コ    ジツケ)風評致候共恐入候事ニ有之候、乍併諺にいふ天ニ口なし人をもつて云わしむると申事あれバ、若    自然右を案じ、又乍承夫を紛敷画候ハ不とゞき至極のもの共也〟
        Top    著作 -読む浮世絵「判じ物」-                   一勇斎国芳画「源頼光公館土蜘作妖怪図」 加藤 好夫著