Top 『日本随筆大成 第三期』浮世絵文献資料館 日本随筆大成 第三期 あ行☆ いっちょう はなぶさ 英 一蝶 ◯『凌雨漫録』⑧148(著者未詳・文化文政期成立) (「榎本其角」の項) 〝詩を大巓和尚に学び、書は佐々木玄竜に学び、画は一蝶に学ぶ〟 ◯『愚雑俎』⑨266(田宮仲宣著・天保四年刊) (「英一蝶辞世」の項) 〝画工英一蝶の事は、畸人伝に委しく出せればこゝに略す。志し奇特のおのこにて、終焉に辞世を吐。是 にていよ/\其雅機をおぼゆ。 紛らはす浮世の隈の一刷毛も有とや月に薄墨の空〟〈「畸人伝」は『近世畸人伝』(伴高蹊著・寛政二年刊)〉 ◯『古今雑談思出草紙』(東随舎著・天保十一年序) ◇「画難坊、絵を論ずる事」の項 ④91 〝庵主問て曰く、英一蝶ははじめ多賀長湖とて、永真安信が門人にて、狂画を専要にして、一家をなした るものにて候が、其末流に及んでは、浮世絵と混じたるよふなる義も是ある様に聞及びたるが、いかゞ の事にや候ぞ。画難坊答へけるは、英流の末流に至っては、猶さら心得違ひの義も出来申べき義なり。 其故は狩野家の様に、画家連綿して相続致せば、数代伝来の絵本多く、古き弟子家も随身いたして、始 祖の規矩準縄を守り、画法乱るゝ事なけれども、又平、雪舟、一蝶がごときは、子孫相続も是なき故、 定まつたる画法と絵本も伝来是なく、何となく規矩を取失ひたる義と見へたり。庵主が曰く、何故、正 風を捨て狂画を用ひ候ぞ。其趣意うけたまわりたし。画難坊がいわく、狂画は和歌の道にたとはゞ狂題 なり。一蝶は弟子家の事なれば、所詮、筆法抜群たり共、狩野家の右に出べきよふなきを計つて、正風 体を捨て狂画の一風を書出して、世上に賞翫せられたり。譬へば歌の道しらぬ人も、狂歌の可笑は俗事 にもとけ安く、又たとへ筆意のつたなきも、狂画を書は絵の巧拙をしらぬ児女子の目にも、其画を持は やすなり。況んや、一蝶が画才の筆力にて書したれば、今に至りても専ら好む人多し。前にいへる如く、 雅を好む人は少なく、俗人は多き世なれば、狂画はことわざに切落し落ちといへる所、見込で心を用ひ たるは一蝶が極意、唯此事にて候ぞ〟〈「庵主」は東随舎なる人物。「画難坊」も同人であろうか〉 ◇同上 ④96 〝庵主いわく、一蝶が筆にて、名護屋山三郎と傾城かつらぎが事を書たる一巻は、全く浮世絵のよふに候 が、此義いかゞ、画難坊いわく、成程浮世絵なり。右のかつらぎが始終のごとき、女郎買のたてひき事、 国中の形勢、道行の風情、其頃の浮世絵に書なし、不破伴右衛門は芝居の敵きやくの絵に、月代を百目 かづらとやらんものに書し、名護屋山三郎は角前髪の色事師といふものに書しは、風俗あしき義にて、 浮世絵に一蝶が筆力を以て、浮世絵を書く人々を悦ばしむるは、一蝶が本意なり。一蝶が絵巻物の跋を 自筆にて書たるものに、娼婦の姿を写して、浮世絵の右りに出んことを思ひ、自負の言葉を顕わして、 浮世絵書く事を隠さず。又朝比奈三郎の画に、鶴の紋付たるは、其頃の芝居役者の紋所なるを、児女子 は朝比奈義秀が定紋なりと思へり。是らは絵師のすべき事にあらず。一蝶は鎌倉時代の古き事をも当風 に書なし、直垂、水干、又は小素袍ばなるべきものをも、上下長袴に画、下郎はしりまくりたるすりさ げやつこの書たるもの有。其故に画を好む人、一蝶を此道の異論なりと忌嫌ふは、此謂れにて候ぞ〟〈「一蝶が絵巻物の跋」とは「四季絵跋」か。大田南畝の『浮世絵考証』に全文あり〉 参照 『古今雑談思出草紙』 ☆ うたまろ 歌麿 ◯『古今雑談思出草紙』④98(東随舎著・天保十一年序) (「浮世絵、昔しに替る事」の項) 〝今は浮世絵さかんにして、金岡にまさりて芝居役者の似顔生写しに書る者多し。勝川(ママ)春信おなじく 春章が類とし、風流なる傾城の写し絵、当世の姿、貴賤男女の遊興の気しき、四季ともに歌麿、北斎な ど筆意を争ふ〟参照 『古今雑談思出草紙』 ◯『傍廂』(斎藤彦麿著・嘉永六年) ◇「似顔絵」の項 ①36 〝似顔絵は、いと古きよりあり。文徳実録(記事、略)。源氏物語末摘花巻に、髪長き女をかき給ひて、 鼻に紅をつけて見給ふに云々。是は常陸宮の似顔をかき給ひしなり。後世にいたりて、菱川師宣、西川 祐信など名人なり。其のち勝川春章、鳥居清長、また近来歌麿(ウタマロのルビ)、豊国などもよくかけり〟 ◇「俗画」の項 ①99 〝むかしは西川祐信、菱川師宣ともに、一家を起したり。其後は鳥居清長、勝川春章、これら我若かりし 頃世に鳴りたり。又其後は歌麿、豊国ともに用ひられたり〟 ◯『傍廂糾繆』①142(岡本保孝著・明治五年序) (斎藤彦麿著『傍廂』の「似顔絵」(①36)記事に対する論駁) 〝似顔絵 末摘花巻(中略)これを似顔絵など事々しくいふは、源氏物語の趣をしらぬ也。こゝは、たゞ 紫上に戯にかきすさびたるまで也。歌麻呂、豊国などの似顔と、ひとしなみにいふはわろし〟☆ えいし ちょうぶんさい 鳥文斎 栄之 ◯『古今雑談思出草紙』④98(東随舎著・天保十一年序) 〝(編者注、豊国と国貞)何れも当世の流行情にいたらざる事なく、素人には栄之、永梨など、何れも浮 世絵に其名を上て、美わしく書なしたる浮世絵を(以下略)〟参照 『古今雑談思出草紙』 ☆ えいせん けいさい 渓斎 英泉 ◯『松亭漫筆』⑨294(松亭金水(中村定保)編・嘉永三年序) (挿絵。諺「群盲象を撫ず」を説く挿絵に〝无名翁〟の署名)☆ えいり 永梨 ◯『古今雑談思出草紙』④98(東随舎著・天保十一年序) 〝(編者注、豊国と国貞)何れも当世の流行情にいたらざる事なく、素人には栄之、永梨など、何れも浮 世絵に其名を上て、美わしく書なしたる浮世絵を(以下略)〟参照 『古今雑談思出草紙』